事業売却とは?会社売却との違い・税金・流れをわかりやすく解説

会社ごと売るのか、事業だけを売るのか。
売却を考え始めた経営者が最初にぶつかる分かれ道です。
事業売却とは、会社の中の事業を切り出して第三者に売ることです。法律上の手法としては事業譲渡にあたります。
会社そのものを売る「会社売却」とは、お金の受け取り方も税金も、売却後に手元に残るものもまったく違います。
この記事では、会社売却との違いを起点に、事業売却の価格の考え方・税金・進め方まで、どちらを選ぶか判断するために必要な材料を並べました。
目次
事業売却とは
事業売却とは、会社が営んでいる事業の全部または一部を、第三者に売却することです。
店舗1つ、工場1つ、WEBサイト1本という単位でも成立します。売っても会社そのもの(法人格)は売り手の手元に残ります。
法律上の手法としては「事業譲渡」と呼ばれ、契約で譲渡する資産・契約・従業員を1つずつ決めて移転します。
スキームとしての詳しい仕組みや手続きは事業譲渡の解説記事にまとめてあります。
中小企業のM&Aでは、事業譲渡(事業売却)と株式譲渡(会社売却)が二大手法です。中小企業庁の調査では、M&Aを実施した中小企業の41.0%が事業譲渡を、40.8%が株式譲渡を選んでいます(2018年版中小企業白書)。
参考:M&Aを中心とする事業再編・統合を通じた労働生産性の向上(2018年版中小企業白書)
「M&A売却」「事業の切り離し」もほぼ同じ意味
事業売却は法律用語ではなく、実務の呼び名です。
「M&Aで事業を売る」「不採算部門の切り離し」「カーブアウト(事業の切り出し)」と呼ばれるものも、売り手から見れば同じ検討です。呼び名の違いに惑わされず、「事業だけ売るのか、会社ごと売るのか」の一点で整理すると考えやすくなります。
事業売却と会社売却の違い
2つの違いは「何を売るか」と「誰がお金を受け取るか」に集約されます。
| 比較項目 | 事業売却(事業譲渡) | 会社売却(株式譲渡) |
|---|---|---|
| 売るもの | 事業に属する資産・契約など(選んで売る) | 会社の株式(経営権ごと) |
| お金を受け取るのは | 会社 | 株主(オーナー個人) |
| 売り手側の税金 | 譲渡益に法人税等(税率は会社の規模・所得で変わる) | 個人株主は譲渡益に20.315%(分離課税) |
| 売却後に残るもの | 会社(法人格)と、売らなかった事業・資産 | 残らない(会社ごと買い手のもの) |
| 負債・借入 | 原則、売り手の会社に残る | 会社ごと買い手に引き継がれる |
| 従業員・許認可 | 個別に同意・再取得が必要 | 原則そのまま引き継がれる |
| 手続きの負担 | 個別承継のため重い | 比較的軽い |
ざっくり言えば、オーナー個人の手取りと会社まるごとの承継を重視するなら会社売却、事業の一部だけを動かして会社を残したいなら事業売却です。
会社売却側の全体像は、会社を売りたい経営者向けの解説記事にまとめています。
事業売却を選ぶ目的とメリット
不採算事業や非中核事業を切り離し、本業に集中できる
複数の事業のうち、伸び悩んでいる事業だけを売り、回収した資金と人材を本業に振り向ける。事業売却が最も多く使われるパターンです。
会社と社名を残したまま売れる
事業を売っても法人格は残ります。
先代から受け継いだ社名を残したい場合や、売却後に残った会社で新しい事業を始めたい場合は、会社売却ではなく事業売却が選択肢になります。
会社全体に値がつかなくても、事業単位なら売れることがある
借入が大きく会社全体では買い手がつかない場合でも、採算の取れている事業や、立地・許認可・顧客基盤に価値のある事業は単体で評価されます。
廃業を考える前に事業単位の売却可能性を確かめる価値があります。廃業と借金の扱いは会社をたたむときの解説記事をご覧ください。
個人事業主でも使える
個人事業主には株式がないため、第三者への事業承継は事業売却(事業譲渡)が基本形です。
詳しくは個人事業主の事業売却の解説記事にまとめています。
事業売却のデメリットと注意点
お金は会社に入り、個人の手取りには二段目の課税がある
事業売却の対価は会社が受け取ります。オーナー個人がお金を手にするには役員報酬・配当・清算といった二段目の手続きが必要で、そこでも課税されます。
個人の手取りを最優先するなら、会社売却(株式譲渡・20.315%の分離課税)と試算を比べてから決めることをおすすめします。
同じ事業を20年間できなくなる(競業避止義務)
事業を売った会社は、会社法21条により、同一市町村と隣接市町村で同じ事業を原則20年間行えません。契約で短縮も延長(最長30年)もできるため、譲渡後の事業計画があるなら契約前に必ず条件を詰めます。
手続きが重い
資産・契約・従業員を1つずつ移す個別承継のため、従業員の転籍同意、取引先との契約の結び直し、許認可の再取得が発生します。
具体的な手順は事業譲渡の解説記事で8ステップに分けて説明しています。
事業が大きい場合は「会社分割」というやり方もある
売りたい事業の従業員や契約の数が多く、1つずつ移す事業譲渡では現実的でない場合、会社分割で事業を新会社に切り出し、その新会社の株式を譲渡する方法があります。
会社分割は包括承継のため、事業譲渡と違って契約や従業員がまとまって新会社に引き継がれます(労働契約の承継には労働契約承継法に基づく協議手続きがあります)。譲渡対価に消費税もかかりません。
一方で、債権者保護の公告手続きが必要になるなど、組織再編としての手続きが加わります。事業の規模が大きい場合や契約数が多い場合に、専門家を交えて比較検討する価値のある選択肢です。
どちらのスキームが得かは、税負担と引き継ぐ債務の範囲で変わります。
一般論の比較表では、自社の答えまでは出ません。
>>事業売却と会社売却、自社に合うのはどちらか聞いてみる
事業はいくらで売れるのか
事業売却の価格に定価はありません。
中小企業のM&A実務では、「事業に属する資産の時価」に「その事業が生む利益の数年分(のれん)」を上乗せする考え方が出発点になります。利益の掛け目は営業利益の2〜5年分程度が目安としてよく使われますが、事業の成長性や買い手との相性で大きく振れます。
価格を左右する主な要素はこの4つです。
- 事業単体の営業利益と、その再現性(特定の顧客や経営者個人に依存していないか)
- 譲渡範囲に何を含めるか(設備・在庫・人材・ブランド)
- 買い手にとってのシナジー(自社に組み込んだときの価値)
- 競合する買い手候補の数
同じ事業でも、譲渡範囲に何を含めるか、買い手の事業との相性で評価は変わります。
最終的な価格は交渉で決まるため、複数の買い手候補と比較できる状態を作ることが、価格を落とさない一番の防御になります。
価格算定の考え方は、会社売却の相場を解説した記事と企業価値評価の3つの方法を解説した記事で詳しく説明しています。
事業を高く売るための準備
同じ事業でも、準備の質で価格は変わります。売りに出す前に整えておきたいのは次の4点です。
事業単体の数字を切り分ける
複数の事業を1つの決算書で管理している会社は、売る事業だけの売上・原価・人件費を切り分けた資料を用意します。
買い手は「この事業だけを買ったらいくら稼げるのか」を見ています。数字が混ざったままだと、保守的な(低い)評価に倒れがちです。
経営者への依存を減らす
売上が経営者個人の人脈や技術に依存している事業は、引き継いだ後の再現性を疑われます。
業務の手順書化や、番頭役への権限移譲を売却前から進めておくと、評価と買い手の安心感が変わります。
契約と権利関係を整理する
店舗の賃貸借契約・仕入契約・リース・許認可・商標など、事業に必要な契約と権利を一覧にし、承継に相手方の承諾が要るものを洗い出しておきます。
交渉の途中で「実は又貸しだった」「許認可が引き継げない」が発覚すると、価格が下がるか、破談になります。
複数の買い手候補と比較できる状態を作る
1社としか話していない交渉は、価格の相場観が働きません。
マッチングサイトや仲介会社を使って複数の候補と並行して話すことが、適正価格で売る一番の近道です。
事業売却にかかる税金
| 負担する側 | 税金 | 内容 |
|---|---|---|
| 売り手(会社) | 法人税等 | 譲渡益がその期の他の損益と通算されて課税される。赤字の期なら相殺で軽くなる場合もある |
| 買い手 | 消費税 | 建物・機械・在庫・のれんなどの課税資産に原則10%。土地などは非課税 |
| (比較)会社売却の場合 | 個人株主に20.315% | 対価は株主個人が受け取り、譲渡益に分離課税。消費税はかからない |
数字のイメージはこうです。
譲渡益2,000万円が出た場合、事業売却では会社の他の損益と通算したうえで法人税等がかかり、税引き後のお金は会社に残ります。オーナー個人へ移すには、さらに役員報酬や配当への課税が重なります。
会社売却(株式譲渡)で同じ2,000万円の譲渡益が個人株主に出た場合は、20.315%=約406万円の税負担で完結します。
個人の手取りだけを見れば会社売却が有利になりやすい一方、会社に資金を残して次の事業に再投資するなら事業売却の二段課税は問題になりません。
どちらの総額が有利かは譲渡益の大きさと会社の状況で変わるため、金額が見え始めた段階で税理士に試算を依頼してください。
会社売却全般の税金は税金の解説記事にまとめています。
事業売却の流れ
事業売却は、おおむね次の流れで進みます。
| 段階 | やること |
|---|---|
| 1. 準備 | 売る事業の範囲を決め、事業の数字と資料を整理する |
| 2. 買い手探し・交渉 | マッチングサイト・仲介会社などで候補を探し、価格と条件をすり合わせる |
| 3. 基本合意・調査 | 主要条件を書面化し、買い手のデューデリジェンスを受ける |
| 4. 契約・決議 | 事業譲渡契約を結ぶ。規模により株主総会の特別決議が必要 |
| 5. 引き渡し | 対価の決済と、資産・従業員・契約・許認可の個別移転 |
期間は買い手探しから引き渡しまで半年から1年ほどかかるケースが多く、小さな事業なら数か月で終わることもあります。
株主総会の要否や個別承継の詳細は事業譲渡の解説記事をご覧ください。
事業売却で従業員はどうなるか
売り手の経営者が最も気にする論点です。
事業売却(事業譲渡)では、雇用契約は自動で買い手に移りません。
買い手企業へ移ってもらう従業員には本人の同意を得て転籍の手続きを踏み、給与や勤続年数の扱いは売り手・買い手・本人の三者で条件を確認します。逆に、売らない事業に残ってもらう従業員は、そのまま自社の社員として雇用が続きます。
「誰に転籍を打診し、誰に残ってもらうか」を設計できることは、事業売却の強みです。
一方で、キーパーソンに転籍を断られると事業の価値そのものが下がるため、伝えるタイミングと順番は買い手と綿密にすり合わせます。一般に、基本合意より前の段階で従業員に広く知らせることはしません。情報が先に広まると、不安による離職や取引先の動揺を招くためです。
会社売却の場合を含めた従業員への影響は、従業員への伝え方の解説記事に詳しくまとめています。
事業売却と会社売却、どちらを選ぶか
最後に、判断の目安を1枚にまとめます。自分に近い答えが多いほうが、検討の出発点です。
| 問い | はいなら |
|---|---|
| 売った後も、会社(法人格)を残して事業を続けたいか | 事業売却 |
| 売りたいのは複数ある事業のうちの一部か | 事業売却 |
| 残したい資産(不動産・ブランド・社名)があるか | 事業売却 |
| 後継者がおらず、会社ごと引き継いでほしいか | 会社売却 |
| 従業員・取引先・許認可をそのまま引き継いでほしいか | 会社売却 |
| オーナー個人の手取りを最大化したいか | 会社売却 |
| 引退ではなく、売却資金で次の事業を始めたいか | 事業売却 |
答えが割れる場合がむしろ普通です。
その場合は、判断材料を専門家と一緒に整理するのが近道です。迷っている段階での相談で構いません。売却の方向性が固まる前に話すほど、選べる道は増えます。
事業売却に関するよくある質問
事業売却とは何ですか?
事業売却とは、会社が営んでいる事業の全部または一部を第三者に売却することです。法律上の手法としては事業譲渡にあたります。会社そのもの(法人格)は売り手の手元に残るため、社名や残したい資産を保持したまま、事業だけを手放せます。
事業売却と会社売却はどう違いますか?
事業売却は「事業」を売って対価を会社が受け取り、会社売却は「株式」を売って対価を株主個人が受け取ります。税金も、事業売却は譲渡益に法人税等、会社売却の個人株主は20.315%の分離課税と大きく異なります。会社に残るもの、従業員や許認可の引き継ぎ方も変わります。
事業売却の相場はいくらですか?
定価はありません。実務では「事業に属する資産の時価」に「その事業が生む利益の数年分(のれん)」を上乗せする考え方が出発点になります。譲渡範囲や買い手との相性で評価が変わるため、複数の買い手候補と比較しながら交渉するのが基本です。
事業売却で従業員はどうなりますか?
雇用契約は自動では移りません。買い手企業へ移る場合は従業員本人の同意を得て転籍の手続きを踏みます。売り手の会社に残ってもらうことも選べるため、誰に転籍を打診するかは売り手と買い手の協議で決めます。
赤字の事業でも売却できますか?
可能性はあります。事業単体で見て、立地・顧客基盤・人材・許認可などに価値があれば、赤字部門でも買い手がつくことがあります。会社全体では買い手がつかない場合でも、採算事業だけを切り出して売る方法が検討できます。
事業売却にかかる期間はどれくらいですか?
買い手探しから引き渡しまで半年から1年ほどかかるケースが多いです。店舗1つ・WEBサイト1本のような小規模な売却であれば数か月で完了することもあります。引き渡し後も従業員の転籍や契約の結び直しなどの作業が続きます。
事業売却のお金は誰が受け取りますか?
会社が受け取ります。事業売却は会社の資産を売る取引のため、対価はオーナー個人ではなく会社に入ります。個人がお金を手にするには役員報酬・配当・清算といった二段目の手続きと課税が必要です。対価を株主個人が直接受け取れる会社売却(株式譲渡)との大きな違いです。
事業売却と会社分割はどう違いますか?
事業譲渡による事業売却は、資産や契約を1つずつ移す個別承継です。会社分割は事業を新会社にまとめて切り出す包括承継で、契約や従業員がまとまって引き継がれ、譲渡対価に消費税もかかりません。事業の規模が大きい場合や契約数が多い場合は、会社分割で切り出してから株式を譲渡する方法も検討されます。
まとめ
事業売却は、会社を残したまま事業だけを現金に換えられる方法です。
会社売却とはお金の流れも税金も別物なので、「どちらが自社に合うか」を先に決めることが、売却検討の実質的なスタートになります。
判断に迷ったら、譲りたい範囲・株主構成・税負担の3点を整理して専門家に相談してください。売却の方向性が固まる前の相談で構いません。
M&Aナビには買い手となりうる企業が数多く登録されており、複数の候補と比較しながら検討を進められます。売り手は手数料無料で利用できます。

株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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