赤字会社のM&Aで繰越欠損金は節税に使えるのか?実態に即して解説します
「赤字の会社を買収すれば繰越欠損金で節税できるのか?」
M&Aを検討する経営者の方にとって、気になるテーマの一つです。
結論を先に述べると、実は中小企業のM&Aにおいて、繰越欠損金を使った節税はほぼできないといえます。
ただ、経営者としてはその理由や実態を知っておきたいところです。そこで、この記事では繰越欠損金の概要と、M&Aにおける考え方や運用について解説します。
この記事を読めば、赤字会社のM&Aにおける繰越欠損金の扱いとその節税効果を理解し、適切な戦略を立てるための知識が得られます。
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目次
繰越欠損金とは
繰越欠損金とは、事業活動の結果として発生した税法上の赤字(欠損金)を繰り越して、翌年以降の事業年度に発生した黒字と相殺できるものです。
繰越欠損金による節税効果
繰越欠損金は、翌年以降の決算において損金算入できるので、その年に納める税金を減らす効果があります。
例えば今年度に100万円の利益が出た場合、法人税率が30%とすると、単純計算で30万円の法人税を負担することになります。
もし、前年度までの繰越欠損金が50万円あるとすると、100万円の利益から繰越欠損金50万円を相殺し、相殺後の50万円に法人税率30%がかかるため、法人税を15万円にすることができる、といったイメージです。
事業の結果として発生した欠損金を、翌事業年度以降の事業活動で得られた利益との相殺を認め、経営を立て直してもらうことを期待するのが繰越欠損金という制度です。
繰越すことができる期間は最大で9年(平成30年4月1日以後に発生した欠損金10年)です。
繰越欠損金と利益の相殺には限度あり
繰越欠損金を利益から相殺できる限度は、資本金が1億円未満の中小企業であれば制限がありません。
一方、以下に該当する企業については繰越欠損金による利益の相殺に制限があります。
- 資本金1億円を越える企業
- 資本金5億円以上の企業に完全支配されている企業
- 完全支配関係がある複数の資本金5億円以上の企業に100%保有されている企業
いわゆる大企業もしくは大企業の子会社の場合は、繰越欠損金を全額活用することはできない、ということです。
対象となる事業年度によって活用できる限度が決まっており、具体的には以下のとおりとなっています。
- 平成24年4月1日~平成27年3月31日開始事業年度・・・80%
- 平成27年4月1日~平成28年3月31日開始事業年度・・・65%
- 平成28年4月1日~平成29年3月31日開始事業年度・・・60%
- 平成29年4月1日~平成30年3月31日開始事業年度・・・55%
- 平成30年4月1日~開始事業年度・・・50%
M&Aにおける繰越欠損金の扱いについて
中小企業のM&Aにおいては、買収しようとする会社に繰越欠損金がついていることは珍しくありません。
しかし、買収した企業の繰越欠損金を活用するには次のいずれかの方法に限られています。
- 買収対象企業の業績を向上させ黒字化して、買収対象企業自身で繰越欠損金を利用すること
- 買収対象企業と買い手企業を「適格合併」させること
- 買収対象企業を「清算」させること
赤字の買収対象企業の業績を向上させ黒字化して、買収対象企業自身で繰越欠損金を利用すること
繰越欠損金がある、つまり過去に赤字決算を出したことがある企業をわざわざ買収する場合、基本的には何らかの事業シナジーや成長を期待しているはずです。
買収する時点では利益が出ていなくても、M&A後に経営をテコ入れした結果、買収対象企業の業績が回復して利益が出れば、この利益と繰越欠損金を相殺して節税ができます。
正確にいえば、買収元(親会社)自身が繰越欠損金を使えるわけではないのですが、買収先が成長したときに節税効果が生まれるといえます。
買収対象企業と買手企業(親会社)を適格合併(M&A)させること
中小企業のM&Aにおいては、対象企業の株式を買収することで子会社化することが多く、買収先の企業を消滅させて合併することはあまり多くありませんが、適格合併の場合に限り繰越欠損金を引き継ぐことが認められています。
M&Aの中でも株式譲渡や合併、分割など組織自体に変更が生じる際に発生する税金については、組織再編税制によってルールが定められています。
会社の資産や負債が組織再編によって移転する場合、原則として課税対象となります。
しかし、たとえば大企業の子会社同士を合併したり、事業部を子会社として分割したりする場合に、そのつど課税されてしまうことになると本来必要な組織再編に躊躇してしまうことになります。
そこで、組織再編の前後で経済実態に実質的な変更がないと考えられる場合には、合併等の組織再編における移転資産等の譲渡損益などの計上を繰り延べることができることとなっており、これが組織再編税制が定められている背景です。
そして、その組織再編税制で決められた要件をすべて満たした合併をおこなうことを適格合併と呼び、繰越欠損金を引き継ぐことが可能となります。
なお、組織再編税制は非常に複雑であり、M&A実務に携わっていない限り税理士でも知らない方が多いので、注意が必要です。
買収対象企業を清算させること
買収対象企業を清算させる場合、適格合併の場合と税法上の考え方や制限は似ているのですが、100%出資が要件となること、みなし共同事業要件の判定がないことに違いがあります。
そのため、100%出資の支配関係が5年超経過した後に清算すれば、全額を引き継ぐことができますが、100%未満の出資の場合や、100%の支配関係が5年以内の場合には制限がかかります。
繰越欠損金を使った節税目的のM&Aは難しい
M&Aによって繰越欠損金を引き継ぐことができるケースは、事実上、事業戦略上必要となる合併の場合のみといえます。
つまり、節税目的のM&Aは難しいということです。
もちろん、赤字企業で繰越欠損金がある会社を買収することはよくあるケースです。
一般的に買収金額は安くなるため、その会社に成長可能性を見出したならば、お得に会社を買収することも可能です。
ただし、その場合は純粋に対象会社単体で事業が成長した結果、たまたま残っている繰越欠損金を使えると捉えることが無難です。
赤字企業の買収メリットに関しては、以下の記事も参考にしてください。
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株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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