M&Aで赤字企業を買収するメリットとは?節税効果や注意点を解説!
「赤字の会社を買収する」というと、そのメリットを正確に答えることができる人は少ないでしょう。
まず、赤字企業と聞いてどのように想像されますでしょうか。
経営が不安定であると想像されがちですが、実はそうと言い切れないケースも多々あります。
赤字企業には様々なケースはありますが、本記事ではタイトルの通り、「赤字企業を買収するメリット」について解説をします。
先に、赤字企業を買収するメリットを上げると以下のようになります。
- 赤字企業の買収で節税効果が得られる
- 事業拡大の初期投資コストを大幅に抑えられる
- 既存事業とのシナジー効果が期待できる
事業拡張を考えている経営者にとって、赤字企業の買収はぜひ検討すべき選択肢といえます。
もう少し詳しく、M&Aで赤字企業を買収するメリットについてお話をしていきましょう。
目次
赤字企業の買収で節税効果が得られる理由
なぜ、節税効果が期待できるのか。
赤字企業には通常多額の繰越欠損金が計上されています。
なので、これを活用することにより法人税の負担を少なくすることが可能になります。
主なケースとしてよくあるのが、以下です。
- 赤字企業を存続させ、黒字転換させていく場合
- 赤字企業を吸収合併する場合
それぞれのケースでどのように節税効果を受けることができるのか、順を追って解説いたします。
赤字企業を存続させ、黒字転換させていく場合
文字通り、買収した赤字企業をそのまま存続させ、キャッシュを補填した上で黒字化していくケースです。
赤字企業には過去から繰り越した繰越欠損金(累積の赤字)が積み上がっている可能性が高いです。
そのため、キャッシュを補填し黒字に転換した後も、その繰越欠損金と利益を相殺することによって、法人税の課税を免れることが可能となります。
ただし、この方法(赤字企業をそのまま存続させて黒字化させる方法)を使う場合、一定の制限があることに注意が必要です。
というのも買収によって赤字企業の50%超の株主が変更となる場合には、買収から5年間は、繰越欠損金はないものとして法人税の計算を行うルールになっているからです。
買収から5年間が経過した後には、繰越欠損金を使って法人税計算を行うことは可能です。
赤字企業を吸収合併する場合
会社を吸収合併する形で買収した場合、吸収される側の会社の繰越欠損金は、買収する側の会社の繰越欠損金として引き継ぐことが可能です。
ただし、この場合にも繰越欠損金の利用にあたって一定の制限(みなし共同事業要件)があります。
具体的には、以下の3つの要件を満たすことが必要です。
- 売却する会社が買収する会社と同業種であること
- 両社の会社規模が違いすぎないこと(5倍以内)
- 買収後も、買収する会社の既存事業を継続すること
これらの要件をすべて満たす場合には、買収した赤字企業に累積されている繰越欠損金を、売却する会社の法人税計算にあたって利用することが可能となります。
このように、赤字企業の買収によって節税効果を受けるためには厳しい縛りがありますが、活用できるケースも考えられるでしょう。
適用には条件があるので、顧問の先生にまずは相談してみることをオススメします。
M&Aにおける税理士の役割に関する詳細は、以下の記事を参考にしてみてください。
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赤字企業買収で事業拡大の初期の投資コストを大幅に抑えられる理由
一般的に「会社を買収する」場合、その買収にかかる価格は、一般的にその会社が将来生み出すキャッシュがどのぐらいあるか?をもとに計算します。
重要なことは、買収する会社の市場価格は、適正価格よりも大幅に安くなる可能性があることです。
従って、利益を生み出していない赤字の企業を買収するということは、黒字の企業を買収するよりも投資総額、買収価額を抑えて実現することが可能です。
赤字企業の市場価格はなぜ安くなるのか
なぜ赤字企業の市場価格が安くなるのかというと、理由は単純で、赤字・黒字の会社がどちらも適性に評価された場合、赤字の会社は総じて黒字の会社に比べて売却価額(OR買収価額)が低くなるからです。
もう一つは、赤字企業の経営者は「できるだけ早いタイミングで会社を売却したい」と考えているケースが多いです。
つまり、売り急いでいる売手オーナー」から会社を買うことになるので、会社の本来の価値よりも大幅に安い価格で買収できる可能性が高いのです。
他の業種で例えると、土地や建物の売買をイメージするとわかりやすいかもしれません。
土地・建物は「不動産(動かない資産)」というだけあって、売ろうと思ってもすぐには売れず、現金化するのにとても時間がかかります。
なので、適正価格で売りたいと思っていたとしても、多少下がった価格で「すぐ現金で買いますよ」と言ってくれる買手が現れたときには、売却に応じるケースがある。というイメージをすると理解しやすいでしょう。
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赤字企業買収で既存事業とのシナジー効果が期待できる理由
赤字企業だから、というわけではありませんが、会社を買収することで、ゼロから事業を立ち上げるのではなく、立ち上がっている事業を自社に取り込むことができます。
自社の既存事業に、買収先の事業を組み込むことによって、相乗効果が期待できます。これがシナジー効果です。
具体的には、自社がこれまで開拓してこなかった販路を活用できることや、買収先の会社が持っていたブランド価値をそのまま引き継ぐことができることが考えられます。
シナジー効果によって既存事業の規模の拡大によるシェアの獲得、それによる売上の拡大が期待できることも、赤字企業を買収することの大きなメリットの1つです。
赤字企業を買収する際の注意点
赤字企業の買収では、検討の段階で赤字の要因をしっかり把握することが重要
中小企業のM&Aは、頭ではなく、気持ちで動く場面も多々あります。
その結果、M&A後も順調に会社を成長させているケースも多々あるので、一概にこれが正しいといった正解パターンがあるとは言えません。
ただ、会社買収では多額のキャッシュが出ていくことになりますので、買収が自社にとって、本当にメリットになるかどうかはしっかりと見極める必要があります。
買収する会社にどういった価値があるのか?を対象会社の提案資料や決算書、アドバイザーと相談し、しっかりと理解しましょう。
買収前のデューデリジェンスでは、さらに細かい各種資料を準備し、検討に活用した数値や決算書の数字は正しいかを確認をします。
ここで最終的に本当に問題ないかを確認し、買収実行へと進みます。
デューデリジェンスの結果、赤字になっている理由や問題点をきちんと把握し、それでも買収する価値があると判断したとします。
それでも、M&A後に失敗するケースはあります。会社は人が動かしているものなので、自社の従業員と買収先の従業員の関係が円滑なものになる人材配置など、M&A後も様々な事象を予測しながら準備していくことが必要です。
会社買収のデューデリジェンスは専門知識が必要となりますので、M&Aの仲介を専門で運営しているサービスや、そういったことを専門としている弁護士の支援を受けるようにしましょう。
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赤字企業の買収成功事例
赤字企業を買収することによって成功を収めた会社として有名なのが、京都に本社がある日本電産です。
日本電産は60社以上の赤字企業を買収し、自社の事業に組み込むことによって事業の拡大を図ってきました(同社CEOの永守重信氏によると、「63勝0敗」で赤字企業の買収と黒字化に成功してきたといいます)。
日本電産が赤字企業の買収によってどのように会社を拡大してきたのかは、その事業規模の拡大を見れば明らかです。
1990年3月期における日本電産の連結売上高は約500億円、営業利益は40億円の中堅企業に過ぎませんでした。
当時は創業当初からの主力事業である「超小型モーター」の販売が売上高の8割以上の状況です。
ここから会社買収を繰り返したことによって、大手企業に成長しています。
事業の内実も変貌し、超小型モーターは全体の29%、車載・家電・産業用モーターが売上高の55%を占めるようになっています。
永守氏によると、会社買収にあたっては「連邦経営(アメリカ合衆国のような連邦制国家をモデルに、グループ内の各企業に自主性を持たせる方針)」を標榜し、以下の3つの方針を打ち出してきたといいます。
- 元の会社経営者、従業員に買収後も経営に参画してもらう
- 元の会社のブランド価値を維持する
- 赤字企業の再建が終わったら、本社からの人材を引き上げさせる
具体的には、買収当初は本社から人員も出し、赤字企業の営業利益が15%を超えるまでは永守氏自身も経営会議にも参加するものの、そこを越えれば本社人員は引き上げるという方法をとります。
これだけが正解とはもちろん言いませんが、このケースから学べることは、単純に赤字企業の経営を否定し、自社に取り込むことだけを考えるのではなく、その会社が持っている能力を引き出す方向性で支援することが、赤字企業の買収を成功させるポイントと言えるかもしれません。
まとめ
今回は、赤字となっている会社を買収することによって得られるメリットとしてどのようなものがあるのか解説いたしました。
赤字企業の買収では「繰越欠損金の活用による節税効果・初期の投資コストを大幅に抑えられること・既存事業とのシナジー効果」の3つが挙げられます。
(ただし、本文でも見たように、赤字企業の繰越欠損金の使用には一定の制限があるので注意しておきましょう)
一見すると価値が感じられない赤字企業であっても、買収の仕方によっては、大きなメリットにつながる可能性があります。ぜひ選択肢として検討してみてください。
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株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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