会社売却の価格と相場|企業価値評価3つの方法(コスト・インカム・マーケットアプローチ)

2026年06月16日

中小企業の会社売却において、価格を決める出発点となるのが「企業価値評価」です。実務ではコストアプローチ・インカムアプローチ・マーケットアプローチという3つの方法を組み合わせて評価額を算出し、最終的な売却価格は買い手との交渉で決まります。本記事では、中小企業M&Aの現場で実際に使われる3つの算定方法と、年商10億円未満の経営者が押さえるべき相場感、評価額と売却価格が乖離する理由までを実務目線で解説します。

企業価値評価とあわせて、M&Aにかかる費用・手数料の相場はM&Aの費用・手数料 完全ガイドで体系的に解説しています。

中小企業の企業価値評価|なぜ「3つの方法」が使われるのか

中小企業のM&Aで企業価値評価が必要な理由は、売り手と買い手が「妥当な価格」の共通認識を持つためです。上場企業のように株価という公開された指標がない非上場の中小企業では、評価額の算出方法そのものが交渉のスタートラインになります。

評価方法が3つに分かれているのは、企業の価値を「過去の蓄積」「将来の稼ぎ」「市場の比較」のどこから見るかで結論が変わるためです。1つの方法だけに頼ると見落としが生じるので、実務では複数の方法を併用して幅を持たせます。

  • コストアプローチ:過去に積み上げた純資産から評価
  • インカムアプローチ:将来生み出す収益から評価
  • マーケットアプローチ:市場の類似取引から評価

3つの方法は単独で使うものではなく、案件の性質に応じて軸を選び、他を参考値として並べるのが中小M&Aの実務です。価格決定の全体像については「M&Aの売却価格はどう決まる?相場・目安や売却価格の算出方法を解説」も併せてご覧ください。

コストアプローチ|純資産から積み上げる

コストアプローチは、貸借対照表(BS)の純資産をベースに企業価値を算出する方法です。「会社が今ある資産を全て売って負債を返したら、いくら残るか」という考え方で、計算がシンプルで客観性が高いのが特徴です。

中小M&Aでは、業績が安定しない企業・債務超過企業・解散価値を見たい場合の評価軸として使われます。一方で、将来の収益力やブランド価値は反映されないため、成長性のある企業の評価には不向きです。

簿価純資産法

帳簿上の純資産(資産-負債)をそのまま企業価値とする方法です。算定が最も簡単ですが、帳簿価額と実際の時価が乖離している項目(土地・有価証券・売掛金など)は調整されないため、参考値の扱いになります。

時価純資産法

簿価純資産法で算出した値を、資産・負債を時価評価し直して修正する方法です。中小M&Aの実務では最も使われるコストアプローチで、土地・株式・在庫の含み損益、退職給付債務、簿外債務などを反映して「実態純資産」を出します。

時価純資産+営業権法(年買法)

時価純資産に営業利益の2〜5年分を「のれん(営業権)」として加算する方法です。中小M&Aでは年買法と呼ばれ、簡便な相場感の指標として広く使われています。営業利益の何年分を乗せるかは業種・成長性・属人性によって変動し、属人性が低く再現可能な事業ほど年数が長くなる傾向です。

コストアプローチは「下限値」を測る方法と位置付けるのが実務的です。これに将来の収益力を加味することで、より実勢に近い評価額が見えてきます。

インカムアプローチ|将来の稼ぐ力から逆算する

インカムアプローチは、事業が将来生み出すキャッシュフローや利益を現在価値に割り戻して企業価値を算出する方法です。「会社の本質的な価値は、これから稼ぐ力にある」という考え方に基づいています。

成長性のある事業や、安定したキャッシュフローを生む事業の評価に適しています。一方で、将来予測の前提(事業計画・割引率)次第で評価額が大きく変動するため、前提の妥当性をいかに買い手に納得させるかが鍵となります。

DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)

将来5〜10年分のフリーキャッシュフローを予測し、WACC(加重平均資本コスト)で割引いた現在価値の合計を企業価値とする方法です。理論的に最も精緻で、上場企業のM&Aでも採用されますが、中小M&Aでは事業計画の信頼性が低い場合に評価額が買い手都合で動きやすいデメリットがあります。

収益還元法

将来の安定的な利益を一定の還元率で割って企業価値を算出する、DCF法を簡素化した方法です。中小M&Aで「インカムアプローチを軽く使いたい」場面で採用されます。

配当還元法

将来の配当金を割引率で割り戻す方法ですが、中小企業では配当政策が経営者の裁量で決まるため、参考値以上にはなりにくい方法です。

インカムアプローチの計算式・実例については「【企業評価】インカムアプローチとは?M&Aの価値算定の手法の計算方法を解説」で詳しく解説しています。

マーケットアプローチ|類似取引から比較する

マーケットアプローチは、類似する企業や取引の評価倍率を参考に企業価値を算出する方法です。「同じような会社がいくらで売れているか」という比較ベースで、市場の実勢を反映できるのが強みです。

中小M&Aでは、同業他社の取引事例が手に入る業種で有効です。一方で、非公開M&Aの取引価格は開示されないため、中小M&Aでは類似上場企業の倍率を中小企業向けに割り戻す手間がかかります。

類似会社比較法(マルチプル法)

類似する上場企業のEV/EBITDA倍率・PER(株価収益率)・PBR(株価純資産倍率)などを基準に、評価対象企業の利益や純資産に倍率を乗じて企業価値を算出します。中小M&Aでは「上場企業の倍率×流動性ディスカウント(30〜50%)」で調整するのが実務です。

類似取引比較法

過去のM&A取引事例の倍率を参考にする方法です。中小M&A市場では公表される取引事例が限られるため、仲介会社が持つ非公開データベースに頼る場面が多くなります。

マーケットアプローチは「市場感覚での妥当性」を確認するための軸として位置付けるのが現実的です。コストアプローチで下限、インカムアプローチで成長期待、マーケットアプローチで市場感覚、と3つの軸を併用することで評価額の妥当性が高まります。

3手法の使い分けと中小企業M&Aの相場感

3つの方法は単独で結論を出すのではなく、企業の状況に応じて主軸を選び、他を参考値として併用するのが中小M&Aの実務です。年商10億円未満の中小企業の場合、以下のような使い分けが一般的です。

企業の状況 主軸となる方法 補完する方法
業績が安定・成熟 時価純資産+営業権法(年買法) インカム(収益還元)
成長段階・将来性高い インカムアプローチ(DCF) マーケット(マルチプル)
赤字・債務超過 コストアプローチ(時価純資産) (事業価値は別途検討)
同業の取引事例豊富 マーケットアプローチ コスト+年買法

中小M&Aの実務的な相場レンジ

中小企業M&Aでの売却価格は、時価純資産+営業利益の2〜5年分が一つの目安です。例えば、時価純資産1億円・営業利益3,000万円の中小企業であれば、1.6億円〜2.5億円程度が初期評価額のレンジになります。ここに業種特性(IT系は倍率が高い、建設・運送系は低い傾向)や、買い手のシナジー期待値が加減算されて最終価格に近づきます。

価格決定の全体像と相場感の詳細は「M&Aの売却価格はどう決まる?相場・目安や売却価格の算出方法を解説」を参照してください。M&Aにかかる費用や手数料の相場感は「M&Aの相場・費用はどれぐらい?中小企業M&Aの相場をご紹介」で詳しく解説しています。

評価額と実際の売却価格が乖離する3つの理由

3つの方法で算出した評価額と、実際に成約する売却価格は必ず乖離します。理論的な評価額はあくまで交渉のスタートラインで、最終価格を動かす要因は別にあります。中小M&Aで価格を動かす主な要因は以下の3つです。

のれん代(営業権)の上乗せ

帳簿に載らないブランド・顧客基盤・ノウハウ・取引先ネットワークなどの無形資産が「のれん代」として上乗せされます。中小M&Aでは営業利益の2〜5年分が目安ですが、属人性が低く再現性のある事業ほど高く評価されます。

シナジー期待値

買い手にとって「自社事業との掛け算でどれだけ追加収益が見込めるか」という期待値が価格に反映されます。同業の規模拡大型(ロールアップ型)M&Aや、隣接業界とのクロスセル狙いの買収では、評価額に対して20〜50%のプレミアムが乗ることもあります。

当事者の事情

売り手の後継者不在・健康問題・資金繰り、買い手の戦略上の必須案件など、個別事情が価格を大きく動かします。「急いで売りたい」「絶対に獲りたい」の力学次第で、評価額から大きく外れる成約も珍しくありません。

評価額を上げるための準備(磨き上げ)の実務は「M&A売却前の企業価値向上|中小企業が「高く売る」ための磨き上げ実践ガイド」で詳しく解説しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 中小M&Aで最もよく使われる評価方法はどれですか?

中小M&Aで最も使われるのは「時価純資産+営業利益の2〜5年分」の年買法(時価純資産+営業権法)です。計算が簡便で売り手・買い手の双方が直感的に理解しやすく、業種を問わず使えるためです。DCF法やマーケットアプローチは補完的に使われることが一般的です。

Q2. コストとインカム、中小M&Aではどちらが現実的に使われていますか?

業績が安定している中小企業ではコストアプローチ(特に時価純資産+年買法)が主軸で、インカムアプローチは補完的に使われます。一方、IT系やサブスク型ビジネスなど成長期待が大きい事業では、インカムアプローチ(DCF・収益還元)が主軸になります。事業特性で使い分けるのが実務です。

Q3. のれん代はどのように決まりますか?

中小M&Aでののれん代は「営業利益の2〜5年分」が目安ですが、属人性の低さ・顧客基盤の安定性・将来の成長余地によって倍率が変動します。属人化していて経営者が抜けると事業が回らない場合は2年分以下、組織として再現可能なら4〜5年分まで伸びるイメージです。詳しくは「M&Aにおけるのれんとは?算出方法や税務上の処理について解説」をご覧ください。

Q4. 赤字でも会社は売却できますか?

赤字でも売却は可能です。コストアプローチ(時価純資産)で下限値を出し、買い手のシナジーで上乗せされるケースが多くなります。特に取引先・許認可・人材・立地などに価値がある場合は、債務超過状態でも事業譲渡や株式譲渡で買い手が見つかることがあります。

Q5. 自社の評価額を事前に知る方法はありますか?

M&Aナビでは無料で企業価値の簡易算定が可能です。財務情報を入力いただくと、コスト・インカム・マーケットの3アプローチに基づく評価額の目安が提示されます。詳しい算定は仲介会社のアドバイザーに相談するのが確実です。

Q6. 評価額と実際の売却価格はどれくらい乖離しますか?

中小M&Aでは、最終的な売却価格は初期評価額から±20〜30%程度動くのが一般的です。買い手のシナジー期待値が高ければ上振れし、当事者の事情(売り急ぎ・買い競争の不在)があれば下振れします。評価額はあくまで交渉のスタートラインと捉えるのが現実的です。

まとめ

中小企業の企業価値評価は、コスト・インカム・マーケットの3アプローチを併用して算出するのが実務です。それぞれが見ている軸が異なるため、案件の性質に応じて主軸を選び、他を参考値として併用します。年商10億円未満の中小M&Aでは「時価純資産+営業利益の2〜5年分」を起点に、業種特性とシナジー期待値で調整するのが一般的なレンジ感です。

そして、評価額はあくまで交渉のスタートラインに過ぎません。最終的な売却価格は、のれん代・シナジー期待値・当事者の事情で大きく動きます。自社の価値を正しく理解した上で、買い手選定と交渉に臨むことが、納得感のある売却につながります。

M&Aナビでは無料の企業価値簡易算定や、売却を検討する経営者向けの相談を受け付けています。「自社がいくらで売れるか知りたい」段階の方も、ぜひお問い合わせください。



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