M&Aの売却価格はどう決まる?~相場・目安や売却価格の算出方法を解説~

2024年09月18日

M&Aナビとは?

M&A取引において、売却価格はどう決まるのでしょうか?また、売却価格に相場はあるのでしょうか。

いざM&Aで会社や事業を売却するとなれば、最大の関心ごとは売却価格にあるといえるでしょう。

また、買収を考えている場合であっても、「相場よりも高い値段ではないか」「逆に安すぎて見えないリスクがないか」といった観点を持つためには、売却価格の決め方や相場を理解する必要があるでしょう。

そこで本記事では、M&A取引の売却価格決定の秘密に迫ります。
相場の有無と、価格算出に影響を与える様々な要素を解説し、中小企業が適切な価格を見極めるためのヒントを提供します。

プロの目線での売却価格の試算を希望する方はお気軽にお問い合わせください。

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M&Aの価格決定の4つの要素

中小企業のM&Aに関しては、価格を決める相場という基準は存在しないというのが結論となります。

各企業は様々な要素を検討し、独自の価格を計算しています。
ここで、売却価格を計算する際に考慮されるいくつかの要素をご紹介いたします。

売却価格の要素1:企業の純資産

純資産は、価格算出に関する最も理解しやすい要素の一つであり、財務諸表から容易に計算できます。
純資産に基づいて価格を算出する際には、貸借対照表の簿価で計算されることもあれば、時価に修正されて計算されることもあります。

ただし、中小企業においては、税務会計ベースで決算書が作成されていることが多いため、企業会計ベースへの修正や含み損益の反映、税効果を考慮する必要があります。

売却価格の要素2:M&A実施後の利益見込み

M&A後の利益見込みを踏まえて価格が計算されることがよくあります。
このケースでは、「営業権(のれん代)」という用語が登場します。
営業権(のれん代)とは、過去の営業利益に基づいて算出された、譲渡や売却後に見込まれる利益のことです。

中小企業の場合、過去3年間の営業利益の平均を基に、3~5年分の営業権(のれん代)が加算されるのが一般的です。
ただし、営業権(のれん代)は基本的に黒字企業にのみ加算されますが、技術力やブランド力が顕著な企業や、希少性が高い事業であれば、現在赤字であっても大幅な営業権(のれん代)が加算されることがあります。
さらに、将来的に期待される利益を考慮して価格が計算される場合もあります。

売却価格の要素3:企業の市場価値

売り手側の企業の市場価値を勘案して、価格が決定されることもあります。
市場価値は、同じ業種や業界に所属する上場企業の株価や、経営に関する指標を基に算出されます。

売却価格の要素4:無形資産の価値

M&Aにより継承可能な無形資産を考慮して価格が計算されることもあります。

無形資産には、取引先、従業員、技術、ノウハウ、市場シェアなどが含まれます。無形資産に対する価値は、買い手側のニーズによって異なりますが、競合他社に対して優位な状況を築ける何らかの資産がある場合、価格が高額になる可能性があります。

以上が、M&Aの際に考慮される主要な価格算出要素となります。
価格の相場が存在しないため、各企業が独自に算出した価格を比較・検討することが重要であると言えます。

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価格算出の手法について

M&Aにおいては、価格を算出するために3つのアプローチ方法があります。
この記事では、その3つの手法について解説します。なお、より具体的な計算方法については、別の記事で解説しています。

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価値算出方法1:コストアプローチによる簿価純資産法や時価純資産法

<メリット>

  1. ①純資産を反映させることで評価の平等性を担保できる
  2. ②比較的簡単に計算することができる

<デメリット>

  1. ①会社の将来的な収益を考慮していない
  2. ②価格変動を考慮していない

コストアプローチとは、「純資産」を基準に価格を算出する手法で、ストックアプローチ、ネットアセットアプローチとも呼ばれます。

コストアプローチで価格を算出する場合には、最も使われる計算方法が「時価純資産法」です。
この方法は、貸借対照表の簿価を時価に修正した上で、総資産から負債合計を差し引いて算定します。

時価純資産法で求めた価格には将来的な価値が含まれないため、売り手側が納得しにくい場合があります。
そのため、時価純資産法で算出された金額に、要素②「M&A後に見込まれる利益」である営業権(のれん代)を加算して価格を算定する場合もあります。

時価純資産法(のれん代込み)の計算式は、以下の通りです。

  • 価格=時価総資産-時価総負債+(過去3年間の営業利益の平均×3年分)

中小企業の場合、上場企業とは異なり、市場価値の算定が困難であり、また将来の事業予想もなかなか立てづらいものです。
そのため、コストアプローチは、3つのアプローチ方法の中で最もわかりやすい計算方法であり、中小企業のM&Aにおいてよく用いられる手法です。

価値算出方法2:マーケットアプローチによる市場株価法やマルチプル法

<メリット>

  1. ①実際の株価を反映させるため客観性が高い
  2. ②直近の市場動向を反映したものになる

<デメリット>

  1. ①市場の影響により評価が変わる
  2. ②類似する会社がない場合は用いることが難しい

マーケットアプローチとは、「市場価値」をベースに価格を算出する手法であり、類似会社比較法(マルチプル法)や市場株価法があります。

類似会社比較法では、売り手側の企業と同一業種、商品・サービス、事業規模が似ている上場企業をいくつかピックアップし、各企業の経営指標の倍率(EV/EBITDA)を算出します。

経営指標の倍率(EV/EBITDA)とは、企業価値が、営業キャッシュフロー(税・金利控除前)の何倍かを示す指標です。

売り手側のEBITDAに、類似企業の経営指標の倍率(EV/EBITDA)の平均をかけ、その値から純有利子負債を差し引いたものが、類似会社比較法(マルチプル法)で算出される価格となります。

類似会社比較法(マルチプル法)では、価格の妥当性に関わるため、類似企業の選定が非常に重要です。
売り手側の企業と同一業種、かつ、取り扱う商品やサービスのほか、事業規模などが似ている上場企業を複数ピックアップし、各企業の経営指標の倍率(EV/EBITDA)を算出します。

その後、売り手側のEBITDAに、類似企業の経営指標の倍率(EV/EBITDA)の平均をかけ、純有利子負債を差し引いたものが類似会社比較法(マルチプル法)で算出される価格となります。
なお、類似会社比較法(マルチプル法)は、実際の株価を反映させるため客観性が高いというメリットがありますが、市場の影響により評価が変わるというデメリットがあります。
また、類似する会社がない場合は用いることが難しいという点も注意が必要です。

M&Aにおける価格の算出方法には、コストアプローチ、市場アプローチ、所得アプローチの3つの方法があります。
中小企業のM&Aでは、コストアプローチが最もわかりやすく、一般的によく用いられる方法です。
一方、市場アプローチは実際の株価を反映させるため客観性が高く、所得アプローチは企業の将来的な収益性を考慮できるため、より妥当な価格算定が可能です。

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価値算出方法3:"インカムアプローチ"による企業評価方法として、配当還元法、収益還元法、DCF法

<メリット>

  1. ①将来性やシナジー効果を考慮して評価できる
  2. ②会社の固有性質を反映した評価が可能

<デメリット>

  1. ①将来的な収益が予測できない場合には適用できない
  2. ②主観的な評価が生じやすい

インカムアプローチは、将来的に期待される利益とリスクを考慮して、価格を算出する方法です。インカムアプローチで最も一般的に使用される方法は、DCF法です。

DCF法では、将来予測される範囲内の年間フリーキャッシュフローと割引率を設定します。
ハイリスクなM&Aの場合は高い割引率を、ローリスクな場合は低い割引率を使います。
次に、設定したフリーキャッシュフローを、割引率を使って現在価値に変換して事業価値を求めます。

事業価値を求める式は以下の通りです。

  • 事業価値 = {FCF÷(1+割引率)1}+{FCF÷(1+割引率)2}+{FCF÷(1+割引率)3}+{FCF÷(1+割引率)4}+{FCF÷(1+割引率)5}+…
  • ※ )と}の間の数字は指数を表します。

求めた事業価値から、企業価値を算出し、そこから純有利子負債を差し引いたものが、DCF法によって算出される価格となります。

価格を求める式は以下の通りです。

  • 価格 = (事業価値+非事業用資産)-純有利子負債

価値算出においてその他の留意事項

譲渡価格の算定における留意点

これまで紹介してきた3つの計算方法は、理論上の譲渡適正額(買収適正額)を算出する方法ですが、異なる要素を考慮して計算しているため、同じ企業でも価格に倍近くの差が出ることがあります。

売り手と買い手で価格に差が出るのはよくあることで、売り手は愛着や思い入れが反映されて価格を高く見積もり、買い手は投資効率やリスクを考慮して価格を低く見積もる傾向にあります。

しかし、最終的な価格は、買い手側が提示した金額と売り手側が同意した金額、つまり、交渉を踏まえて合意した金額で決まります。

中小企業のM&Aでは、「時価純資産法+営業権(3年)」を採用する場合が多く、適正価格を知り、目線感を持つことは極めて重要です。

譲渡価格を高くするには?

譲渡価格を高くするためには、自社への理解を深め、買い手に自社を魅力的に見せるように工夫しましょう。

買い手にとって魅力的な企業や価値について考え、提案書に正確かつ具体的な情報を記載しましょう。

また、競争相手を意識させることも有効です。
買い手候補者を多く募り、オークション形式にして競合他社同士で競わせることができます。買い手候補先に「いくらまで出せますか?」と質問することで、競合他社に負けないよう焦りを感じさせ、譲渡価格を引き上げることができます。

買収価格を安く抑えることは可能?

買収価格を安く抑えるための交渉は可能ですが、あまりおすすめできません。
交渉の結果、想定よりも低い金額でM&Aを成立させることができたとしても、値引き交渉が良くない印象として記憶に残り、事業の引き継ぎや残った社員のやる気などに悪影響を及ぼすことがあります。
買収後のことを考えると、買収価格を安く抑えることにこだわりすぎない方が良いでしょう。

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M&Aの仲介手数料について

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M&A取引の価格決定 まとめ

本記事では、M&A取引における価格相場の存在と、価格算出方法について解説しました。

結論として、価格相場は存在せず、企業ごとに様々な要素を考慮して独自に価格が決定されることが分かりました。

純資産、M&A後の利益、市場価値、無形資産など、多くの要素が価格算出に影響を与えます。
M&A取引を成功させるためには、これらの要素を理解し、各企業が算出した価格を比較・検討することが重要です。
今後のM&A取引に向けて、本記事が参考になることを願っています。

またM&Aナビは、売り手・買い手ともにM&Aにかかる手数料などを完全無料でご利用いただけます。買い手となりうる企業が数多く登録されており、成約までの期間が短いのも特徴です。

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