簿外債務とは?M&Aにおける問題点や対応策を徹底解説
会社を売却する際に問題となることがある簿外債務ということばを聞いたことはありますか?
簿外債務とは、貸借対照表に計上されない負債のことをいいます。
簿外債務の影響で、買手と問題になり、最悪の場合は訴訟に繋がる恐れもあります。
事前に簿外債務を把握することで、会社売却時のトラブルを防ぐことが出来るため、デューデリジェンスで明らかにするようにしましょう。
この記事では、簿外債務の概要やよくある簿外債務の例を詳しく解説していきます。
簿外債務について理解し、実際のM&Aで予期せぬリスクを負わないように進めていきましょう。
目次
簿外債務とは?
簿外債務とは、言葉の通り、貸借対照表に計上されていない負債のことを言います。
馴染みのない方が聞くと、粉飾のように悪い印象を持たれるかもしれません。
しかし、税務会計の決算処理をしている多くの中小企業に簿外債務は存在します。
ここでは、いくつかの簿外債務の例を紹介します。
自社の企業に該当するものがないか確認してください。
また、類似するものがあった場合は、詳細に調査しましょう。
リース負債
中小企業の場合、リース契約の資産と負債を、貸借対照表に計上しない(オフバランス)ことができます。
設備投資の資金を、すべて銀行からの借入で調達すると、購入した設備の資産と借入金による負債で貸借対照表が膨らんでしまいます。
リース契約によりオフバランスすることで、設備投資による貸借対照表の膨らみを抑え、自己資本比率の低下を抑制できます。
銀行からの調達の関係上、多くの中小企業がリース契約による調達を利用しています。
M&Aの際は、残りのリース負債が簿外債務としてみなされますので、経営される企業のリース契約を確認してください。
手形割引・裏書手形
資金繰りの関係上、手形割引や裏書手形を利用している中小企業も多いと思います。
また、リース負債同様、手形割引はオフバランスができるため銀行対策としても利用することがあります。
手形の振出人が、手形を決済できなかった場合、割引を行った企業に支払義務(買戻し義務)が発生するため、簿外債務に該当します。
ただ、手形割引は決算書の個別注記表に一般的に記載させるため、確認しやすい項目でもあります。
(連帯)保証債務
経営している企業が、第三者(法人・個人)の保証行為をしている場合、簿外債務として取り扱われます。
取引の深い企業の保証や、関連会社の保証など、貸借対照表に表れない保証債務が該当します。
保証している企業が、債務を履行できなかった場合、保証会社が替わりに債務を支払わなければなりません。
可能性の大小に関わらず、将来的に履行義務が発生しうるものは、簿外債務として扱うことが一般的です。
仮に馴染みの深い会社と、保証契約を締結している場合は、契約を解除できないか打診することをおすすめします。
詳しくは、「連帯保証 とは – 事業承継・M&A用語集」をご確認ください。
退職給付引当金
退職金制度を導入している会社は、将来的に従業員に支払う必要のある退職金は負債と考えられます。
したがって、退職金という負債を企業は有しているため、本来であれば退職給付引当金を貸借対照表に計上すべきです。
しかし、多くの企業が退職給付引当金を計上せず、退職金支払い時に損金計上しているのが実態です。
役員退職慰労引当金
役員に対する退職金です。
退職給付引当金の役員版と考えてください。
従業員と違い、支払いの対象となる人数は限定的ですが、1人当たりの支払額が大きいため、与える影響は大きくなります。
役員ふくめた退職金の全体像について、事前に把握することは非常に大切です。
詳しくは、「役員退職慰労金 とは – 事業承継・M&A用語集」をご確認ください。
賞与引当金
賞与は年度中に支払が予想される費用の1つですが、多くの中小企業は支払いが行われた時に損金計上します。
事前に負債として賞与引当金を計上している企業は少ないのが実態です。
そのため、決算書だけでは支払う必要があるかどうかがわからないケースがあり、簿外債務の1つと捉えられています。
貸倒引当金
売掛金や未収入金などで、未回収になる可能性に基づき算出する引当金です。
中小企業では、未回収になる可能性を独自に算出していることは稀です。
何年も同じ売掛金や未収入金を計上している企業も少なくないでしょう。
回収の可能性が極めて低い債権は評価されず、実質的に簿外債務と捉えられます。
デリバティブ商品
金融派生商品によって、為替予約などをしている場合、為替の影響によって損益が変動します。
為替次第で評価が異なるため、時価評価をするのが原則的ですが、多くの中小企業が計上せずにいます。
足元では為替差益が出ていても、将来的に為替差損になれば、簿外債務に該当します。
しっかりと自社の契約内容を把握してください。
修繕引当金
本社や工場、事務所などの固定資産で、将来的に修繕が必要となる費用を事前に負債に計上します。
殆どの中小企業は、修繕の発生の都度、損金に修繕費を計上します。
しかし、買手は適切な修繕が施されているか必ず確認します。
設備の老朽化のわりに、修繕がされていない場合は、減額算定されることもあります。
修繕履歴は正確に開示できるよう保管しておくことが重要です。
未払い残業代
未払いの残業代も、簿外債務となります。
残業代の時効は2年ですので、買収後に昔の従業員が未払い残業について請求する可能性があります。
よって、未払いがある場合は売却前に支払いを完了させたり売却価格が減額されたりする可能性があるので注意が必要です。
未払い残業代がM&Aに与える影響に関しては、以下の記事で詳細を確認してみてください。
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工事補償引当金
建設業特有の引当金になります。
工事完成後、一定期間内に問題(瑕疵)があった場合は無償で補償するといった内容の契約をしている場合が該当します。
将来的に無償工事が発生し、費用負担の可能性として簿外債務となります。
自社の契約が、どのような内容になっているか確認してください。
製品保証引当金
メーカーが自社製品の不良などによる保証をしている場合、本来は製品保証引当金を計上することで、将来のリスクに備えます。
しかし、製品保証引当金を計上していなかった場合、簿外債務として取り扱われるのが一般的です。
保証範囲や想定保証金額について、事前に整理しておくと、買手にスムーズに情報が伝えられます。
簿外債務によるM&A時の問題点
簿外債務によって発生する、M&A時の問題点についてご説明します。
売却を検討している方は、自社の簿外債務の把握だけでなく、予想される問題についても理解を深めておく必要があります。
問題点を認識したうえで、最適な対処方法を考えましょう。
簿外債務が原因で売却価格の減額を要求される
簿外債務による最も代表的な弊害は、希望売却価格の引下げを要求されることです。
買手としては決算書の貸借対照表をもとにして、買収金額を査定しています。
そのため、決算書では確認できない簿外債務が見つかった場合、当然買収価格に反映させようとします。
認識している簿外債務は、事前に買手に伝えることが、後々のトラブルを防ぎます。
簿外債務が原因で交渉が決裂する
簿外債務の影響により、価格が下げられるだけでは済まず、M&A自体が白紙になることもあります。
M&Aは買手と売手による信頼関係が非常に重要であり、「企業同士の結婚式」と例えられるるほどです。
簿外債務が交渉の最終局面で発覚した場合、買手の印象が悪くなるのは明らかです。
さらに、故意に悪意をもって簿外債務を隠蔽するのは言語道断です。
誠意をもった対応をすることで、M&A成立の可能性が高まりますし、売手の企業価値を最大限に評価してもらえるのです。
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簿外債務への対応策
ここまで見ると簿外債務は非常に恐ろしいものといった印象を受けるかもしれませんが、実際にはほとんどの中小企業でなんらかの簿外債務を抱えているものです。
ですので、売却時の簿外債務の取扱いについてはひとつずつ丁寧に対応や準備を進めましょう。
簿外債務を隠さない
少しでも売却価格を高くしたい気持ちはわかりますが、悪意を持って簿外債務の存在を隠蔽するのは得策とは言えません。
買手の企業も、事前に簿外債務を知らされていれば、その情報を織り込んで企業価値の査定をします。
簿外債務があったからといって、M&Aが不成立になるとは限りません。
しかし、企業価値の査定中に、事前に伝えていない簿外債務があった場合、買手からの信頼を損なうことによってM&Aが不成立になる可能性があります。
誠実な対応によって、M&Aが成立するよう心がけることが重要です。
簿外債務に関しては専門家に協力してもらう
簿外債務を隠すつもりはなくとも、「この簿外債務がある」と売手自身が認識していなければ、その事実を買手に説明することができません。
その事実が交渉の途中で発覚した場合、たとえ売手に悪意がなかったとしても、買手が不信に感じて交渉が決裂してしまうこともあります。
後から発覚するリスクをできるだけなくすためにも、専門家の協力を仰ぐことをおすすめします。
自社の簿外債務を正確に把握することで、売却価格の妥当性についても理解が深まります。
相談先の選び方は、以下の記事を参考にしてみてください。
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簿外債務に関しては、M&Aナビに気軽にご相談ください
簿外債務の意味から具体例、対処法について解説してきました。
繰り返しになりますが、売却を検討している方はご自身の経営する会社の簿外債務を正確に把握することが重要です。
自分自身で売却交渉を進めてしまうと、最後の最後で簿外債務の存在が発覚して破談になることも珍しくありません。
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株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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