事業承継税制について:利用要件やメリット・デメリットを詳しく解説
「会社の経営を後継者に引き継ぐときに、贈与税や相続税の負担が出ないようにしておきたい」
こうしたお悩みをお持ちの方にぜひ利用を検討していただきたいのが「事業承継税制」です。
事業承継税制とは、オーナー経営者が後継者に会社の株を渡すとき、贈与税や相続税の納税を実質免除してもらうことができる仕組みです。
相続税や贈与税は、最大で税率が55%にもなる非常に負担の大きい税金で、遺産の価値が大きいほど税率が上がる仕組みになっています。
そのため、自社株の評価額が大きくなる優良企業ほど、事業承継税制を利用するメリットは大きいといえます。
この記事では、近い将来に経営から引退を検討しているオーナー経営者の方向けに、事業承継税制を活用するメリットやデメリットについて解説いたします。
事業承継税制の利用にあたって相談できる専門家についても紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
贈与税・相続税の基本的なルール
まずは、税金の基本的なルールについて確認しておきましょう。
贈与税や相続税は、親族などに渡す財産(遺産)の金額に応じて課税される税金です。
オーナー経営者が持っている自社株も同様で、経営権を渡す目的で別の人に渡す場合には、自社株の評価額に応じて相続税や贈与税が課せられます。
また、税金は現金で期限までに納付する必要があります。
証券取引所に上場していないオーナー株式は、多くのケースで現金化が難しい資産となりますので、自社株を引き継ぐ人のポケットマネーで納税をしなくはならないケースも考えられます。
事業承継税制を使うメリット
事業承継税制を使った場合には、後継者となる人が事業を継続することを条件に、こうした税金を実質的に免除してもらうことが可能になります。
後継者となる経営者が、経営のバトンタッチにあたって納税負担が生じることは大きな負担となる可能性がありますので、ぜひ利用すべき制度と言えます。
事業承継税制は「会社そのものは好調なのに、後継者がいないために会社を廃業せざるを得ない」という状況を改善するために、政府が中小企業支援の一環として導入したルールなのです。
事業承継税制が適用される範囲
なお、事業承継税制によって税金の実質免除を受けられるのは、後継経営者となる人に引き継ぐ自社株についてのみです。
例えば、遺産として現預金と自社株がある場合には、自社株については事業承継税制によって相続税の猶予を受けることができますが、現預金については納税負担が生じる可能性があります。
相続財産として自社株以外の財産が多くある場合には、総合的な観点から相続税対策の方法を検討する必要があるのです。
また、事業承継税制を適用してもらうためには、後継者となる人が会社の経営を継続しなくてはならないなど、各種の条件があります。
次の項目では、事業承継税制の利用要件についてくわしく見ていきましょう。
事業承継税制の利用要件
事業承継税制は平成30年に大規模な改正が行われ、利用要件が大幅に緩和されました。
事業承継税制を利用要件としては、次のようなことがあります。
- 手続き上の要件
- 会社の事業内容に関する要件
- 先代経営者の要件
- 後継者となる人の要件
以下、順番に解説していきます。
事業承継税制手続き上の要件
事業承継税制を利用するためには、「特例承継計画」という計画書を作成し、都道府県知事から認定を受けなくてはなりません。
特例承継計画には、経営上の課題とその対策を含めた5ヵ年にわたる経営計画を記載する必要があります。
特例承継計画には税理士その他の専門家による所見を記載してもらわなくてはなりません。
なお、事業承継税制によって相続税の猶予を受けるためには、相続税の申告期間中(死亡から10カ月以内)にこうした手続きを完了する必要があります。
会社の事業内容に関する要件
事業承継税制が適用される会社は、以下のいずれにも該当しない会社でなくてはいけません。
- 風俗営業の会社
- オーナーの資産を管理するためだけの会社
- 収入がない会社
- 従業員がゼロの会社
- 証券取引所に上場している会社
特に重要なのが、2つ目の「オーナーの資産を管理するためだけの会社」に該当しないことです。
これに該当してしまう会社のことを「資産管理会社」と呼んでいますが、この判断は「会社の貸借対照表上の資産のうち、7割以上が特定資産となっていないかどうか」で行われます。
特定資産とは何か
特定資産とは、簡単に言えば事業とはあまり関係ない資産のことで、投資目的の金融資産や役員に対する貸付金、賃貸不動産やゴルフ会員権のことをいいます。
事業承継税制を適用してもらえるのは、従業員の雇用の受け皿となっており、現実に社会に対して商品やサービスを供給している会社だけです。
オーナーの節税目的で設立された会社の場合、多くのケースで対象外となってしまいますので注意しておきましょう。
要件は「事業承継後」も充足し続ける必要がある
なお、これらの要件は「事業承継税制が適用され、事業承継が完了した後」においても5年間にわたって満たし続ける必要があります。
もし、事業承継後5年以内に、会社がこうした条件を満たさない状況となった場合には、その時点で相続税や贈与税の納税義務は復活してしまいます。
最悪のケースでは、会社の事業運営がままならなくなった上に、猶予されていたはずの相続税や贈与税の納税義務が課せられてしまうというケースも考えられます。
後継者となる人は、先代経営者から引き継いだ事業を安定的に運営していくことが求められます。
先代経営者の要件
事業承継を行おうとする先代経営者となる人は、会社の実質的なオーナー経営者である必要があります。
具体的には、会社の代表権を有しており、会社の議決権の過半数を持っていることが条件となります。
複数のオーナーが集まったときに初めて会社の支配権を構成するような会社においては、事業承継税制は利用できない可能性がありますので、注意が必要です。
後継者となる人の要件
後継経営者となる人は、20歳以上であり、しかも会社の代表権を持つ役員に就任してから3年以上経過していることなどが条件になります。
相続税について事業承継税制の適用を受けたい場合には、後継者となる人が、相続発生後5カ月以内に会社の代表権を取得すれば問題ありません。
後継者は1つの会社につき3名まで認められますが、後継者とその親族が持つ議決権を合計して、会社の議決権の過半数を構成する必要があります。
後継者が1人だけの場合には、自社株を引き継ぐ親族の中で、後継者となる人がもっとも多くの議決権を有していなくてはなりません。
事業承継税制を使うデメリット・注意点
オーナー経営者の贈与税対策・相続税対策として非常に大きな力を発揮する事業承継税制ですが、デメリットもあります。
具体的には、以下のようなことに注意しておく必要があるでしょう。
- 事業承継税制を利用したら後継者は事業を継続しないといけない
- 役所に対して提出する事業承継税制の書類の準備がめんどう
- 事業承継税制のルールそのものが複雑で対応できる専門家もまだ少ない
それぞれのデメリットについて、順番に解説いたします。
事業承継税制を利用したら後継者は事業を継続しないといけない
事業承継税制によって贈与税・相続税を実質免除してもらうためには、後継者として自社株を引き継ぐ人が会社の事業を継続することが要件になります。
ここでいう「事業の継続」とは、顧客を獲得して商品を販売するなどの「実業」である必要があることにも注意が必要です。
金融資産や不動産を管理するためだけの「資産管理会社」に該当する場合には、事業承継税制の利用ができなくなります。
(事後的に事業承継税制の対象でなくなった場合には、いったん猶予された贈与税・相続税について、後から納付義務を課せられることになります)
役所に対して提出する事業承継税制の書類の準備がめんどう
事業承継税制を利用するためには、「特例承継計画」という書類を作成して都道府県の認定を受けなくてはなりません。
また、事業承継が行われてから5年間は、毎年税務署と都道府県に対して「年次報告書」を提出しなくてはなりません。
もし報告書提出を怠った年が1年でもあると、その時点で猶予されていた相続税・贈与税の納付義務が復活することになります。
その際には事業承継時にさかのぼって延滞税等のペナルティが課せられますから注意が必要です。
事業承継税制のルールそのものが複雑で対応できる専門家もまだ少ない
事業承継税制は、平成30年度に大幅にルールが改正されたばかりの比較的新しい制度です。
ルールそのものについても非常に複雑になっていますから、事業者自身が自力で手続きを行うことはあまり現実的ではありません。
事業承継税制は、贈与税・相続税対策の方法として今後は利用が増えて行くことが見込まれていますが、現状では「まだ実際に事業承継税制の手続きを扱ったことがある専門家は少ない」というのが実情です。
事業承継税制 まとめ
今回は、事業承継税制の基本的な仕組みについて解説いたしました。
事業承継税制を使えば、相続税や贈与税の負担を大幅に軽減してもらえる可能性があります。
その一方で、事業承継税制を使うには複雑なルールがありますので、利用にあたっては手続き上のミスが生じないように注意が必要です。
事業承継税制の利用にあたっては相続対策や事業承継の実務にくわしい専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。
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