会社売却後の従業員・社員・役員への影響は?買収されたら待遇はどうなる?
M&Aで会社売却をした後、いままで働いてくれていた従業員・社員にはどのような影響があるか不安に感じる経営者は多いのではないでしょうか。
従業員と長年の間に築き上げた信頼関係を壊すことなく売却を完了させたいと考える方は多いです。
他にも、役員や社長自身の待遇や影響に関しても興味がある方が多いのではないでしょうか。
結論からお伝えすると、M&Aの手法や進め方次第で大きく異なるといえるでしょう。
そのため、M&Aを検討する初期の段階において正しい知識を身に着け、適切な相手に相談する必要があります。
本記事では、具体的に会社売却後の従業員、社員、役員への影響について詳しく解説します。
この記事を読むことで、会社売却後の従業員や役員の待遇についての理解が深まり、安心してM&Aによる売却を進められるでしょう。
記事だけでは解決できない不安や疑問は、経験豊富なアドバイザーがご相談を承っております。
目次
M&Aの主な売却手段について
中小企業のM&Aでは、主に「株式譲渡」と「事業譲渡」という2種類があります。
株式譲渡とは、会社の経営権と所有権をすべて移譲するために、売手オーナーが自社株式の100%、もしくは過半数を第三者に売却するものです。
中小企業においては、社長がオーナー(100%株主)であることが多いため「社長が持っている株式を第三者にすべて売却する」と考えていただくとわかりやすいでしょう。
一方、事業譲渡とは、売手オーナー企業が事業の選択と集中を行うため、特定の事業を第三者企業に売却するものです。
たとえば、ある会社がアパレルショップと飲食店の事業を営んでおり、アパレル事業に集中するために飲食店事業のみを手放す、といったケースが当てはまります。
それぞれの手法における、メリット・デメリットについては、下記の記事をご参考ください。
事業譲渡とは?M&Aの手法を誰でもわかるよう...
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中小企業のM&Aでは、上述した「株式譲渡」による会社売却がほとんどです。
なので、本記事では、株式譲渡を行うことによって、譲渡される企業の社内にもたらす影響についてご紹介したいと思います。
従業員・社員への影響について
従業員・社員のみなさんがまず気にするポイントは大きく以下の2つがあります。
- 「今後も働き続けるけることができるのか?」
- 「労働条件の待遇が”良くなるのか?” or “悪くなるのか?” or “何も変わらないのか?”」
労働条件が良くなる、というのは、わかりやすい例で言うと「給与が上がる」などです。
逆に労働条件が悪くなる典型的な例は「勤務地が変更されて、会社への通勤時間が増えた」などがあげられます。
こういった従業員・社員の行く末は、最終的には買収先の意向で決まります。
ただ、中小企業におけるM&Aの多くは、従業員・社員の雇用は維持されます。
さらに、給与が上がったり、譲受企業先でよりよい処遇を受けるケースも多々あります。
M&A後の従業員・社員の待遇が良くなる理由
なぜ、維持されることが一般的なのか。その理由としては、主に2つあげられます。
買い手企業の規模の影響
1つ目は、買手企業は基本的に売手オーナーよりも会社の規模が大きいことによる要因です。規模の大きい会社のほうが、給与水準が高いことと、売手オーナー企業にいた従業員・社員の給与形態は、買手企業の給与形態に合わせることが多いため、結果給与が良くなるケースが中小企業のM&Aではとても多いです。
スペシャリストの優遇
2つ目は、ノウハウ・スキルを持っている従業員・社員は、スペシャリストとして優遇されることが多いからです。
これは買手企業の買収戦略に大きく左右されますが、買手企業が業務ノウハウやスキルを持った人材も同時に獲得することも目的にしていれば、即戦力として雇用が継続され、優遇されます。
そもそも、中小企業のM&Aが成約するケースで考えると、以下の理由が考えられるため、買手企業側も売手企業の従業員・社員に対し、しっかりとした雇用を維持することが多いです。
- 売手企業の従業員・社員が不利な状況になるM&Aを、売手オーナーが望まないため、M&A自体が成立しない
- 買手が買収する「事業」や「会社」は、働く人に依存する確率が高く、従業員を失うと買収後の目的が達成されなくなる。
- 買手側が売手側の従業員数に不満を感じても、日本の労働法から考えて解雇が難しい。トラブルを避けるためにも、リスクを避ける買手が多い。
M&A後の従業員・社員に対するリスク
次に考えなければいけないことは、たとえ買手側に従業員の雇用の確約を取り付けたとしても、従業員のモチベーションが損なわれてしまえば、意味がありません。
従業員のモチベーションが下がってしまうと、それは「会社を去っていく」ことにもつながる可能性があります。
そのような事態を避けるためにも、会社を売却することを従業員・社員に公開する前と後に分けて準備をすることが大切です。以下重要なポイントを整理してみます。
譲渡を公開する前
従業員に不安を感じさせることのないよう、以下のような配慮が必要です。
- 機密保持の徹底
- 適切な手順を踏んだ交渉
- 譲渡することを共有するタイミングの精査
- 最適な譲渡先の選定
- 契約条件の詳しい確認
譲渡を公開した後
発表後に従業員がマイナスの印象を受けないよう、以下のような配慮が必要です。
- 従業員を納得させられるだけの譲渡理由の説明
- 譲渡後の指針や雇用状況の適切な説明
- 新たなオーナーの元で働くことに関するメリットの明示
従業員・社員に公開するタイミングは以下にまとめているので、ご興味があればご覧ください。
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経営オーナーへの影響について
代表者の引き継ぎについて
一般的には、株式譲渡によって所有権および経営権が他者に移ると、買手企業から代表者(代表取締役)が選出されます。
ただ、代表者が変わっても、現実的にはすぐ新体制として動き出せるわけではありません。まずは、事業内容の理解や従業員のスキル把握など、現状を理解した上で、ようやく新たな事業計画の設計や戦略実行に移ることができます。
よって、売手企業の代表者が引継ぎや助言の役を務めるために、しばらくの間(1~2年ほど)会社に留まる例も多くあります。
いわゆるロックアップと呼ばれるものです。
なお、代表者を始めとした会社のキーマンの処遇については、M&Aの交渉過程で交わされる「基本合意契約書」や「譲渡契約書」等による書面合意をしておくことが大変重要です。この点は従業員に対する処遇の確約とも共通しています。
売却益について
その他に代表者に対して発生するものとして、株式譲渡時の「売却益」が挙げられます。
企業の買収価格算定にはいくつかありますが、算定方法についてはこちらの記事をご覧ください。
【事業売却の相場について解説】M&Aで会社売...
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こうして算定された価格によって株式の売買が行われ、代表者には利益が生じます。
この売却益から税金が引かれた金額が、最終的に手元に残るお金となります。
(株式譲渡の税率は、株式譲渡益に対して20.315%で一定です。なお、株式の売却に要したM&A専門会社や外部アドバイザーに対する報酬は株式譲渡益の計算から控除することができます。)
詳細は「株式譲渡所得 とは – 事業承継・M&A用語集」を参考にしてみてください。
退職金について
M&Aで会社売却が行われた場合、売手オーナーへの退職金はどうなるのでしょうか。
売手オーナの退職金で注目すべきは、従業員の退職金と大きく異なる点が2点あるということです。
1. 売手オーナーの退職慰労金は契約上の絶対的な約束ではない
売手オーナーの退職慰労金は、雇用契約や任用契約上の会社との約束ではなく、株主総会で承認されて初めて支給が行われます。
つまり、役員任用契約内に退職慰労金の記載があったとしても、株主総会次第では支給されない可能性も出てくるということです。
2. 退職慰労金を有効活用することで手元に残るキャッシュを最大化させることができる
会社が売手オーナーに対して退職慰労金を支給すれば、そのぶん会社に残る現金は減少します。
そうなると、会社の企業価値も減少するため、株式譲渡時の売却価額も減ることになります。
よって、「売手オーナが退職慰労金を得る」→「その分売却益が減少」となり、M&Aによって受け取る額面上の総額は大きく変わらないのです。
ただし、金額にもよりますが退職金は株式譲渡益に比べて税務的に優遇されることがあります。
また、買手企業にとって、株式譲渡にかかるお金は「買手企業がキャッシュで用意する」必要がありますが、「役員退職慰労金 + 株式買収金」のうち役員退職金は売手企業のキャッシュから出すことができるため、買手企業のキャッシュアウトを抑えることができるのです。
つまり、役員退職慰労金をうまく活用することで、代表者にとっても買手企業にとってもメリットあるM&Aを行える可能性が出てきます。
また会社を売却し、退職金と株式譲渡所得の活用で手元に残る現金を最大化する方法は下記にまとめているので、ご興味ある方はこちらの記事をご覧ください。
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債務に対する個人保証について
オーナー経営の中小企業の場合、経営者が金融機関からの借り入れ等の債務に対して連帯保証や担保提供を行っているケースが多く見受けられます。
M&Aによる会社の譲渡となると、借り入れによる債務も丸ごと買手側企業が引き継ぐのが一般的です。
譲渡と同時に、正しく金融機関との手続きを行うことで、経営者は長年縛られてきた債務から解放されることができます。
役員への影響について
役員雇用はどうなるのか
「従業員・社員への影響について」でお伝えした通り、中小企業の経営を因数分解していくと、人材に依存する面は比較的大きくなります。
そのため、中小企業のM&Aを行う際は、役員についても一定期間の雇用継続が条件として盛り込まれたり、社名や勤務地についても一定期間はそのままにするというケースが多いです。
役員に関して問題になりやすいケース
中堅中小のオーナー企業で後継者不在を理由に会社売却を考えている場合、会社の役員も同じく引退の年齢に近づいているケースが通常です。
そこで問題となるのが、役員の「退職慰労金」です。
前述の通り、役員の退職慰労金は株主総会での決議事項となる点が、普通の従業員の退職金とは大きく異なります。
長い間ともに歩んできた役員との間の問題発生を未然に防ぐためにも事前に合意しておく必要があります。
役員退職慰労金については、以下の記事で詳細に解説しているのでご確認ください。
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取引先への影響について
M&Aを行った場合、取引先にも影響があります。
取引先から見た際の最大の関心ごとは、”取引を継続してもらえるのか?”になるでしょう。
取引関係は継続されることが多い
中小企業のM&Aにおいては、M&Aの成立後も取引関係が継続することが多いといえるでしょう。
これまでの事業の継続性を重視する観点から、むやみに取引関係を切る理由は無いといえるでしょう。
一方で、買収側の企業の取引先と重複した取引先や競合関係に当たる場合には、取引を停止する可能性もあります。
M&Aを行った後、買収側は経営の効率化を進めることが予想されるため、一定程度の取引先の見直しが起こることは想定されるといえます。
取引先との関係性には注意点がある
M&Aを行う際の取引先との関係性においては、COC条項に注意する必要があります。
COC条項とは、チェンジオブコントロール(Change Of Control)条項の略で、M&Aなどを背景とした経営権の移行があった際に契約内容に何かしらの変更が加えられるものです。
軽い場合は、M&A前もしくはM&A後の通知義務が発生するものがあります。
一方で重い内容の場合は、他方の当事者によって契約の解除ができる条項などが設定されることがあります。
M&Aにおいては、デューデリジェンスの際にCOC条項の存在が発覚し、論点になることが多いです。
重要な仕入先・卸先の会社との契約内容を確認し、M&A後も良好に取引関係を継続できるようにチェックすることが求められます。
デューデリジェンスの基礎や目的を理解した上で、事前の適切な情報開示が求められるでしょう。
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会社売却後の従業員への影響を最小限にするには
会社売却後の従業員への影響を最小限にするにはどのような対策ができるのでしょうか。
特に、会社売却後に退職者が続出してしまうリスクを防ぐという観点で見ていきます。
情報開示の進め方に注意する
会社売却に関する情報開示の進め方に注意することが最も大切なことの1つと言えるでしょう。
会社売却を検討・交渉しているタイミングではむやみに従業員に情報開示を行うことは避けるべきだといえます。
具体的な内容が定まらない中で、会社売却の情報が開示されてしまうと、従業員は不安になりM&Aの本来のメリットを活かすことができなくなります。
一方で、会社売却が成立し従業員に開示する際には、M&Aの目的や経緯などを開示することが求められます。
従業員・社員に公開するタイミングは以下にまとめているので、ご興味があればご覧ください。
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人事制度・条件の制度を整える
従業員の流出を防ぐために、人事制度や給与・福利厚生などの条件面の整備を進める必要があります。
M&A後、早期に計画を策定し従業員に対して説明の機会を設けることで、納得して働いてもらえるような環境づくりを進めていくことが重要です。
一般的なM&Aの場面においては、売り手企業よりも買い手企業の方が規模が大きい企業が多く、人事制度や条件面でも整っていることが多いでしょう。
その場合、買い手企業の従業員との条件面の差への不満や、旧制度からの移行期間に関する不安が出てくる可能性が高いです。
メリットを伝える
M&Aによって従業員にも多くのメリットがあることを伝えることで影響を最小限に抑えることができます。
適切なタイミングで、それぞれの従業員がメリットと感じてもらえるような説明を心がける必要があります。
役職を持つ従業員には、M&A後のポジションや役割を明確にすることが大事でしょう。
また、若い従業員に対しては、今後のキャリアパスのビジョンを提示することや評価制度を説明し、安心して業務に取り組んでもらえるようなコミュニケーションを取る必要があります。
会社売却後の従業員・社員・役員への影響と待遇 まとめ
この記事では、株式譲渡が売手企業の内部へ与える影響について説明しました。
M&Aでは、従業員・社員・役員・売手オーナー等各方面への配慮が不可欠ということがこの記事で伝わったかと思います。ぜひ、参考にしてM&Aを円滑に進めてください。
なお、M&Aナビは、売り手・買い手ともにM&Aにかかる手数料などを完全無料でご利用いただけます。買い手となりうる企業が数多く登録されており、成約までの期間が短いのも特徴です。ぜひご活用ください。
株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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