2019年の中小企業のM&A振り返りと2020年予測
M&A戦略も、いまでは経営戦略のひとつとして広く認知されるようになってきました。日々のニュースで見るのは大手企業によるものが多いですが、実は中小企業のM&Aも昨今ではとても活発に行われています。
日本の企業は99%が中小企業です。まさに中小企業が日本の経済を支えていると言えます。
そこで今回は、2019年のM&Aの状況と今後の予測を、実際の買収事例を踏まえてお伝えします。
これを読むことで、これからの経営戦略にも引き続き、M&Aがとても重要な手段になりえるということをご理解いただけるでしょう。
2分ほどで読めるので、ぜひご覧ください。
目次
2019年の中小企業のM&Aの振り返り
まずは、2019年のM&Aマーケットについて振り返ります。
2019年1月から12月までの1年間で、日本企業によって行われたM&Aは4,088件となり、過去最多でした。2018年の3,850件から大幅に上昇し、6.2%増加となりました。2012年から見ると、この数字は8年連続で増加している結果になっています。
2019年のベンチャー企業のM&Aは1,375件で、全体の33%を占める結果となりました。
全体の取引金額で見ると18兆295億円で、過去最高であった昨年の29兆3185億から38.5%と大幅な減少となっています。この結果は、2019年に行われたM&Aは、数兆円規模の大型案件がなかったためであると考えられます。
in-out案件と買収事例
in-outとは、日本国内の企業が海外企業を買収するM&Aのことです。国内のマーケットの縮小を見据えて、海外に向けて買収を進めているところも多くあります。
2019年のin-outの案件は、826件でした。2014年から6年連続で件数は増加しています。取引金額は10兆3763億円で、全体の半分以上がin-outのM&Aであることが分かります。
このうち1,000億円を超える案件は27件で、2018年より4件減少しました。
取引金額のトップはアサヒグループホールディングスによるインベブの豪州ビール・サイダー事業の買収で、M&A全体の中でも取引金額が1位です。
826件のうちアジアに関するものが303件、北米では258件、欧州は195件あり、その他の地域で70件です。件数ではアジアが4年ぶりに北米を抜いてトップに立ちました。件数の増加はアジアなどの新興地域におけるものが目立ち、マーケットへの関心の高さがうかがえます。
ただし、1件あたりの取引金額としてはヨーロッパや北米のほうが大きいのが現状です。
in-in案件と買収事例
in-inとは、国内企業同士によって行われるM&Aのことです。
in-inでの案件は全体で3,000件ありました。2017年から3年連続で記録を更新しています。このうちベンチャー企業のM&Aが3分の1を占めています。また、日本で課題となっている事業承継の案件は606件と14.6%増加しました。これが、in-in案件の総数を押し上げています。
現在、日本の中小企業は後継者不足問題が大きな課題となっております。事業承継型のM&Aは国も力を入れ、商工会議所などで支援機関を置くなど、さまざまな形で推し進めています。
事業を承継するためのM&Aは、中小企業の経営の維持と成長には必要不可欠になりつつあります。
in-in案件における取引金額のトップは、ヤフーを傘下にしているZホールディングスとLINEの経営統合によるもので、取引金額は1兆1806億円でした。また、ソフトバンクによるヤフーの買収が4,564億円、ヤフーによるZOZOの買収が4,009億円となっており、ソフトバンクグループによる案件が上位を占める結果となりました。
また、ホンダによる企業の子会社化、トヨタとスズキによる株式持ち合いなど、自動車業界における各社のM&A戦略も活発に行われておりました。
out-in案件と買収事例
out-inとは、海外企業が日本国内の企業を買収するM&Aのことです。日本は海外から見た投資先として、他の国と比べて低水準であるといわれています。それは、ビジネスコストの高さや規制の厳しさ、消費者・ユーザーの要求レベルが高いこと、人材確保が難しいことなどが要因とされています。
out-inに関する案件は262件で、2007年の309件に次ぐ高水準となりました。このうち、ベンチャー企業に対する買収が42.4%と最も高くなっています。
取引金額は1兆5298憶円で、昨年と比べると81%の減少でした。
トップはスイスの製薬・バイオテクノロジー企業であるノバルティスによるM&Aです。武田薬品工業の傘下のシャイアーからのドライアイ治療薬事業を譲り受けました。その金額は5,836億円で、武田製薬工業はさらなる子会社の売却戦略を推し進めています。
また、キリンホールディングスが豪ライオンの飲料部門を売却するなど、グローバル事業における選択と集中を行う案件が多々見受けられました。
オリンピック後にどうなる?
日本は2020年のオリンピック・パラリンピックの成功に向けて、国をあげて推進しています。ビジネスでも、さまざまな面で需要が高まる中、五輪後の経営戦略もきちんと検討しなくてはいけません。
ここでは、オリンピック・パラリンピックに向けた企業のM&A戦略の事例と、今後の方向性について考察してみたいと思います。
事例その1 警備業界
東京五輪が開催されるにあたって、警備会社は受注が増加し、業界全体で業績を伸ばしています。観光客の大幅な増加や、大規模イベントの警備など、警備需要を求められる場所はこれからも増えていくと予測されます。
セコムは東芝の100%子会社、東芝セキュリティを子会社化しました。これは、東芝による大規模施設の警備ノウハウを獲得することで、より付加価値の高いサービスの提供を実現することを目的に行われました。またカニカメラソフトウエアを開発するアロバも子会社化しています。警備と防犯のためのカメラシステムも、強化していることがこの案件から考察できます。
一方で、CSP(セントラル警備保障)によるメンテナンス企業の子会社化や、ALSOKによる訪問医療マッサージのケアプラスの子会社化といった、事業拡大のためのM&A戦略も行われていました。
各企業は、人を守るためのノウハウを新たな事業で活かすための戦略を立てています。
事例その2 文化シャッターの今後を見据えた事業展開
文化シャッターという企業は、ドアやシャッターをメインとして扱っています。
この会社はオリンピックの開催にともなう建築関係の需要が高くなり、売り上げを着実に伸ばしています。しかし、オリンピック後の反動を見越して、売上全体の1%しかない海外事業部門のテコ入れにM&Aを活用しています。
豪州は移民の受け入れなどで住宅市場が堅調なため、安定した需要が見込まれています。そこで、業態が同じであることから、高いシナジー効果を期待し、豪州の有力建材メーカーを買収し、完全子会社化しました。
海外市場に進出するには、スピードが必要です。M&Aによって地元の企業を買収することで、スムーズに事業展開を行うことが可能となります。中長期的な成長を考えるうえで、M&A戦略は外せないものとなっています。
事例3 建設業界はおおむね良好
バブル崩壊やリーマンショックによって、建設業界は大きな痛手を受けました。受注の減少で苦しみましたが、景気回復や東日本大震災の復興需要、オリンピックの特需によって、現在の業績は業界全体で好転しています。
ただし、建設企業の業績は、都心と地方では雲泥の差です。都市の大手ゼネコンが力を持っていることが多いため、大きな案件はゼネコンが受注することがほとんどで、地方の企業は受注が難しいのが現状です。
また、人手不足の問題もあります。労働条件や労働環境が厳しい、きついというイメージが強く、若い労働力が増えていません。今後も労働力の低下が見込まれています。
この問題を解決するために、中小企業でも高い管理技術やノウハウを持っている企業に目をつけ、同業によるM&Aや事業承継が増加しています。建設業界の企業は隣接している地域でのM&Aが行いやすいので、中小企業による連携がとられることもあります。また、海外展開などを見込んだM&Aも増えています。
各企業はそれぞれ、自社の生き残りをかけた戦略をさまざまに打ち出しています。
地震による影響
ここ数年、大規模震災が日本に被害をもたらしています。2019年も台風や地震などにより多くの地域が影響を受けました。結果、企業が営業停止に追い込まれることや生産活動を減少させることになっています。
ここでは、被害を受けた中小企業の動向と、今後の対策について解説いたします。
中小企業こそM&Aによる運営のリスク回避も検討
東日本大震災では、物流は停滞し、販売先や受注先も減少、さらには自粛ムードで消費が落ち込むなど、大手企業でも多くのところが業績悪化を余儀なくされました。中小企業では、よりダイレクトにその影響を受けました。生産活動を中止せざるをえず、資金繰りに困る企業も多く出ました。
大手企業であれば、工場の施設を分散させるなどの対策をとることができますが、中小企業がそれを単独で行うことは困難です。そこでM&Aによる大手・中堅企業とのグループ化を検討することも視野に入れてもよいかもしれません。
中小企業における事業承継の問題は深刻です。予期せぬ事態によって、倒産や廃業に追い込まれる可能性もあります。なので、将来のリスクにそなえて率先して対策をとるべきでしょう。
2020年もM&Aが加速する
ここまで、日本における現状を見てきましたが、大手企業だけでなく、多くの中小企業もさまざまな問題に直面しています。
今後もM&Aは増えていくと予測されます。それはなぜか。次は、AIやITの面から要因を解説していきます。
DXがM&A戦略に与える影響
DXとは、デジタルトランスフォーメーションの略語です。ITを活用することで、人の生活のさまざまな面に対して変革をもたらすという考え方です。
いま、AIやITに力を入れている企業の収益力が上昇しています。人材不測やコスト削減が叫ばれる中で、今後はそれらの導入を避けては通れないでしょう。しかし、大手企業でも5割、中小企業においては2割しかDXの導入が行われていません。
実は、これがM&Aに大きく影響します。
これからはデジタルの導入が行われて当然という時代になっていきます。そうなれば、デジタル導入に成功している企業は事業経営の効率化が図られ、サービスの向上をもたらし、業績が伸びていくでしょう。一方で、デジタル導入のされていない企業は売上や収益が下がる可能性があり、ひいては企業価値の低下につながります。つまり、それに対応できない企業は置いていかれてします。
特に中小企業は経営者の高齢化や余剰資金の不足により、大きな変革を独自で行うことが厳しいのです。
しかし、いいかえればそれらを駆使できれば生き残れるわけです。つまり、自社だけで導入が厳しいのであれば、協力していける仲間を見つけ、ともに助け合いながらお互いの技術や労働環境を高めあうことで、経営を持続させることも可能なのです。
ついていけないから終わりではありません。収益の拡大や事業を続けていくためのIT導入の開発や投資が自分ではできないとき、M&Aは有効な方法のひとつです。
大手企業・中小企業と手を組むことで、抱えている問題を乗り越えることもできるでしょう。
2020年の見通しとしては、今後も海外戦略、ベンチャー企業、事業承継に関するM&Aの案件の増加が見込まれています。
特に中小企業はDXに関する問題をチャンスとしてとらえ、さらなる成長の足がかりとするべきでしょう。
まとめ
さまざまな業界や企業のM&A戦略や買収事例を見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
いま、企業は自社をどうやって長期的に成長させていくかと必死で考えています。特に中小企業の経営者は、いまある技術やノウハウの維持はもちろん、従業員の雇用の確保をどうすればいいのかについても悩んでいます。
そこで、上述したとおり、M&Aという方法が有効な手段として考えられます。
そして、中小企業におけるM&A、特に事業承継は年々増加しています。
今後は大規模なM&Aばかりではなく、今まで以上に中小企業によるM&Aに注目していくことになるでしょう。
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