M&Aにおける「案件化」とは?会社・事業売却の成功のカギを握るフェーズを徹底解説
M&Aにおける「案件化」とは、プレデューデリジェンスとも呼ばれており、M&A専門家が売手企業の実態を調べ、売手企業の概要や、財務状況、いくらで売ることができるのか?などの内容を書類に落とし込む作業です。
買収を検討する企業が売手企業を魅力的に感じ、自社とのシナジーを想起できる情報を提供することで、真剣に検討してもらう確度がグッと上がります。
今回は、M&A仲介会社による基本的な案件化の概要について詳しく紹介します。
案件化の基礎を学ぶことで、M&A仲介会社を選ぶ際の不安や疑問点が解消できるでしょう。
記事だけでは解決できない不安や疑問は、経験豊富なアドバイザーがご相談を承っております。
目次
通常のM&A案件化フロー
会社あるいは事業を売却したいと考えたとき、どのように案件化をして進めていけばいいのでしょうか。
案件化にはいろいろなフェーズがあるので、それぞれのフェーズについて見ていきましょう。
プレM&Aフェーズ
まず、売却を進めるにあたっては、売却戦略を策定して、どのように進めるのかを検討する必要があります。
特に、どのような買手にするのかは今後の会社を成長させていく上でとても重要です。
① 売却への戦略策定
売却するにあたっては、なぜ売却するのか、売却することで会社をどうするのか、どのようなタイムラインで案件を進めるのかなど、売却に向けて戦略を明確にしましょう。
このタイミングである程度、買手のイメージまでできていると、この後の案件化に向けて進みやすくなります。
売却の方向性が決まれば、ここでM&Aの仲介会社やファイナンシャル・アドバイザリーと呼ばれる専門家に相談に行くことが一般的です。
② 初期資料の収集と作成
専門家に相談に行くと、ここで初期資料の収集と「ノンネームシート」などの作成を進めていくことになります。
初期資料として、会社概要がわかる資料、財務関連資料、人事・労務関連資料、契約関連資料などの資料を集めることになります。
案件を対象となるような会社に持って行く段階では会社の概要がわかる資料を集めます。
資料が集まれば、会社の概要をまとめたノンネームシートや「企業概要書(インフォメーションメモランダム)」を作ることになります。
このタイミングで初期的バリュエーションを行い、金額目線を計算することになります。
ノンネームシートとは、会社の名前は記載されておらず、会社の概要(本社所在地域、業種、事業規模、業績、売却理由など)が記載されたものとなります。
一方、インフォメーションメモランダムは秘密保持契約書を締結したのちになるので、対象会社名を含め、会社の概要もより詳細な内容が記載されたものとなります。
あわせてスケジュールや案件の要領等を記載したプロセスレターも作成することになります。
初期資料は自社の情報であるため、自社で集めるしかないのですが、一方で、ノンネームシートやインフォメーションメモランダムなどの資料の作成は慣れないことになるので専門家などに依頼して作成する方が早く適切に対応できることもあります。
③ 買手のリストアップ
自社の情報やスケジュールをまとめることができれば、次は買手を探すことになります。
自社の情報をまとめることも大変ですが、買手を探すことはそれ以上に大変です。
自社で買手をリストアップしようとしても、なかなか買ってくれそうな会社の情報もないため、リストアップできません。
そのため、仲介会社やファイナンシャル・アドバイザリーなどの会社に買手のリストアップをしてもらうのが手っ取り早い方法となります。
買い手候補企業の探し方については、以下の記事を参考にしてみてください。
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④ 買手の選定
買手のリストが出てきたら、その中で声をかける会社を探します。
相手を絞って声をかける場合と多くの会社に声をかけて入札にする場合などがあります。
それぞれのメリット・デメリットがあります。
相手を絞って声をかける場合のメリットは、今後の自社のやりたいことを見据えた上で先方とミーティングなどを設定しやすくなります。
入札の場合は、複数企業となるため、なかなか複数回のミーティングの設定はできません。
一方、デメリットは声をかける会社はそこまで多数にはならないため、売却金額が低くなりやすいです。
入札する場合のメリットは、複数の会社が入札するため、売却金額が釣り上がりやすくなります。
デメリットは先ほどの逆で、複数回のミーティングなどは設定できず、相手との関係が築きにくい点です。
また、入札になると複数会社をコントロールすることになるため、自社で入札体制を構築することは難しいです。
こうして相手を絞って声をかける場合でも、入札の場合でも、相手にはまずノンネームシートを持って行き、興味の有無を確認します。
興味がある場合には、秘密保持契約書の締結に進みます。
秘密保持契約書は開示する情報に対して漏洩しないように締結するものとなります。
締結されれば会社名や具体的な財務数値が記載されたインフォメーション・メモランダムを提供することになります。
そこで先方も興味を持てば、エグゼキューションフェーズへと進んでいきます。
M&A業界においては、広く当たる場合はロングリスト、狭く絞ったリストをショートリストと言います。
詳細は以下でご確認ください。
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M&Aのエクセキューションフェーズ
買手企業の候補が決まると契約締結に向けて案件が進んでいきます。
契約に向けてはスキーム検討やデューデリジェンス、バリュエーションなどをすることになります。
① 初期的分析
ノンネームシートやインフォメーションメモランダムを作成するタイミングで資料は準備していますが、この後のデューデリジェンスを受けるにあたってはもう少し詳細な資料を準備することになります。
買手はインフォメーションメモランダムをもとに初期的な分析をすることになります。
このタイミングでマネジメント・インタビューが実施されます。
マネジメント・インタビューとは、対象企業の経営陣やキーマンになる人に個別インタビューをすることをいいます。
そこでは、企業概要や事業概要、財務数値の内容を確認することで会社の大枠を理解して、デューデリジェンスに進んでいくことになります。
② デューデリジェンス(DD)
デューデリジェンスとは、買収を検討している人が対象会社の問題点を調査、分析や検討する手続きをいいます。
デューデリジェンスをすることで契約をすることが問題ないか、契約の条件をどうすべきかなどを把握することを目的としています。
デューデリジェンスには、財務DD、法務DD、ビジネスDD、人事DD、システムDDなどがあります。
財務DDでは、会計、税務を中心に過去の業績を調査することで将来業績の予測のベースを確認することになります。
法務DDでは、法務リスクを抽出して最終交渉に向けた交渉材料を収集することになります。
またビジネスDDでは、対象会社の事業性を調査することになり、
人事DDでは、対象会社の人事・労務に関連するリスクを調査することになります。
さらに、システムDDでは対象会社のシステム状況を把握し、将来のシステム投資の必要性などを調査します。
それぞれのDDでは、財務DDでは会計士や税理士、法務DDでは弁護士、ビジネス、人事、システムはそれぞれのコンサルティング会社など専門家を利用することとなります。
専門家に依頼するとお金がかかるため、規模に応じて依頼する範囲を変えていきます。
また、それぞれのDDで発見された問題点は価格に織り込まれるか、最終の契約書の条件に織り込まれることとなります。
③ 企業価値算定
DDを進めていき、いよいよ価格交渉の前には企業価値算定をすることになります。
中小企業だと簡便的に純資産に3年間分の営業利益などの方法で決めることもありますが、一般的なアプローチとして、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、コスト・アプローチの3手法があります。
それぞれインカム・アプローチであればディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)、マーケット・アプローチであれば類似会社比較法、コスト・アプローチであれば修正簿価純資産法などが用いられます。
DCF法では将来収益を見通す必要があり、達成の可能性は見通すことは難しいです。
また、修正簿価純資産法では監査等を受けているわけではなないため、帳簿価額の信頼度が高くありません。
これらのことから、類似会社比較法が用いられ、その中でもEBITDA倍率が利用されます。
④ スキーム検討
案件を進めるにあたってはスキームの検討も必要になります。
一般的には会社を売却することを考えるため、株式譲渡が多いですが、そのほかにも事業譲渡や合併、株式交換・移転などさまざまな方法があります。
それぞれの方法には、税制面や手続き面のメリット・デメリットがあるので弁護士や税理士に相談しましょう。
⑤ 契約交渉・締結
デューデリジェンスが終わり、スキームも決まれば、契約書の条件交渉や価格交渉に入っていきます。
契約書は、従業員の扱い、会社の資産・負債の扱い、取引先との関係、ブランドの取り扱い、クロージング条項などの詳細な条件について詰めていくことになります。
また、価格については、お互いの将来の収益の見立ては当然異なり企業評価も異なるため、価格についても交渉で詰めていくことになります。
これらの交渉は難解な項目もありますし、お互いの思惑が入ることや条件や価格に乖離が生じていれば時間がかかります。
そのため、当事者間の交渉に第三者的な立場の人が入ることでスムーズに進みやすくなります。
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M&A案件化を進めるにあたっての問題
ここまでみてきたM&Aの流れですが、M&Aを進めるにあたっては様々な問題が生じます。それは主には以下の3つです。
M&A案件化の問題点①:売却先の選定
M&Aを進めるにあたって、まず問題になってくるのが売却先を探すということです。
自力で売却先を探そうとすると、知り合いの繋がりで探すことになるかと思います。
いくら社長の仲間のつながりを使おうとしても、地域や業界など限界があります。
M&A案件化の問題点②:専門家の利用
また、M&Aをするにあたって知識が必要となるため、多くは、FAや仲介会社、会計士、弁護士などの専門家を利用することになります。
ただし、これらの専門家を利用しようとするとコストがかかります。
M&A案件化の問題点③:価格・契約交渉
価格交渉するにあたっては、先方に自社の魅力をちゃんと伝えられているか、逆に自社の問題点などの解消ができているかなど価格交渉は難しい内容となっています。
また、契約交渉をするにしても契約内容は難解な内容となっており、その一つ一つの内容について自分たちで実施するのは並大抵のことではないのです。
M&Aの案件化まとめ
ここまで案件化に向けて全体の流れ、問題、その解決方法などについて解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
案件化に向けては、相手先の模索、専門家の利用によるコスト負担、専門的な知識など自分で進めるにあたっては難しい面も出てきますので、ぜひ専門家の力を借りましょう。
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株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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