事業承継はなぜ失敗する?主な原因5つと対策、実例で解説

事業承継が失敗する原因は、突き詰めると準備の遅れに集約されます。後継者の育成、社内外への説明、税務対策のいずれも、着手が遅れるほど選べる選択肢が狭まり、承継後のトラブルにつながります。原因を早く把握し、順序立てて手を打つことが、失敗を防ぐ最も確実な方法です。
事業承継の基本的な考え方や進め方の全体像は、事業承継とはのページで整理しています。
事業承継の「失敗」は、承継そのものが実行されなかった場合だけを指すわけではありません。手続き上は代替わりが完了していても、後継者が短期間で辞任したり、社員や取引先の信頼を失って業績が落ち込んだりすれば、それも失敗のうちに入ります。承継の実行そのものより、承継後に会社が安定して事業を続けられているかどうかが問われます。経営者本人は無事に引き継いだつもりでも、現場や取引先から見れば失敗と映っているケースもあります。
承継の失敗は、後継者個人の問題にとどまりません。業績の悪化や社員の離職は、金融機関からの信用や取引先との関係にも波及し、会社の存続そのものを揺るがすことがあります。だからこそ、原因を早い段階で把握しておくことが重要です。
帝国データバンク『全国「後継者不在率」動向調査(2025年)』によると、2025年の後継者不在率は50.1%で、7年連続の改善となりました。それでも半数近くの企業が後継者未定という状況は続いており、後継者類型では非同族が41.0%で最多です。後継者不在の状態自体は珍しくありませんが、対策を先送りにするほど、承継の選択肢は狭まっていきます。
事業承継が失敗する主な原因
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事業承継が失敗する最大の要因は、後継者への準備期間が足りないまま代替わりが進むことです。準備不足は、税務や社内外への説明といった他の課題も同時に悪化させます。
後継者の育成期間が足りない
経営者としての判断力や社内外の人間関係は、短期間の引き継ぎだけでは身につきません。現経営者が権限や情報を渡さないまま形式的にバトンタッチすると、後継者は判断材料を持たないまま重要な意思決定を迫られることになります。現場経験を積む機会が少ないほど、就任後の判断に迷いが出やすくなります。育成期間は、後継者候補が決まった時点から逆算して確保する必要があります。
経営者と後継者の考え方がすれ違う
創業者は既存のやり方や取引先との関係を守ろうとする一方、後継者は業務の効率化や新しい事業領域への進出を志向する傾向があります。方向性をすり合わせないまま承継を進めると、社内の意思決定が割れ、現場が混乱します。どちらの考え方が正しいかではなく、事前にすり合わせる場があったかどうかが分かれ目になります。承継後に方針を大きく変える場合ほど、事前の説明に時間をかける必要があります。
社員や取引先の理解を得られない
後継者が社内で信頼を築く前に体制が変わると、既存社員が新しい経営者への不安を抱え、離職につながることがあります。取引先も担当者の交代を機に取引条件を見直すことがあり、売上への影響も無視できません。特に、長年の取引が担当者個人の信頼関係に支えられていた会社ほど、影響が大きくなります。社内のキーパーソンが早い段階で離れてしまうと、業務や現場の士気にも影響が及びます。
税務や資金面の準備が不足している
相続税や贈与税、株式の分散といった問題を見誤ると、後継者が納税資金を用意できず、会社の資産を売却して資金を捻出せざるを得なくなる場合があります。株式が分散すると意思決定のスピードも落ち、経営そのものが停滞します。税負担を軽くする制度もあるため、早い段階で事業承継税制の要件を確認しておくと選択肢が広がります。
経営者と後継者、双方の心理的な先送り
現経営者には事業を手放すことへのためらいが、後継者には経営を担いきれるかという不安が、それぞれ残ることがあります。どちらも自然な感情ですが、これを理由に着手を先延ばしにすると準備期間そのものが短くなり、他の原因を悪化させます。
5つの原因は互いに影響し合うため、どれか一つを対策するだけでは失敗を防げません。準備不足が税務対応の遅れを生み、税務対応の遅れが心理的な先送りを助長するという連鎖が、多くの失敗事例に共通して見られます。原因を個別に切り離すのではなく、相談の初期段階で全体像として把握しておくことが対策の第一歩になります。
事業承継の失敗パターン
事業承継の失敗は、原因が積み重なった結果として、いくつかの典型的なパターンで表面化します。M&Aナビへの相談でも、似た経緯をたどる案件がよく見られます。原因が同じでも、会社の状況によって表れ方は変わります。
準備不足のまま引き継ぎ、後継者が孤立する
経営情報も権限も渡されないまま社長交代だけが行われると、社内から実情を理解していないと見られ、後継者が孤立してしまうことがあります。相談や説明の機会がないまま就任すると、数か月で自信を失い、辞任に至るケースも珍しくありません。周囲の協力を得られないまま経営判断を重ねると、小さな失敗も孤立を深める要因になります。
経営者と後継者の方向性の違いで組織が割れる
創業者が大切にしてきたやり方と、後継者が目指す変化の間で折り合いがつかないまま承継が進むと、社内の意見が二分されます。長年会社を支えてきた幹部社員が新体制に納得していない場合、現場の協力を得られず業務が回らなくなることがあります。意見が対立したまま時間が経つほど、社内の分断は修復しにくくなります。
税負担を見誤り、会社の資産を手放す
株式や不動産の評価額を把握しないまま承継を進めると、想定以上の相続税や贈与税が発生し、納税資金の確保のために会社の資産を売却せざるを得なくなるケースがあります。資産の目減りは、金融機関や取引先からの信用にも影響します。株式が分散した状態で相続が発生すると、経営権をめぐる話し合いそのものに時間がかかることもあります。評価額の把握が遅れるほど、対策できる選択肢も限られていきます。
社員や取引先の反発で業績が落ちる
後継者の選び方や説明のタイミングによっては、社員や取引先が新体制への不安から距離を置くことがあります。キーパーソンの退職と主要取引先との関係悪化が重なると、承継直後に業績が急落する要因になります。一度離れた社員や取引先との関係は、後から取り戻すのに時間がかかります。
M&Aの相手選びを誤り、統合がうまくいかない
後継者不在でM&Aを選ぶ場合、譲渡価格だけで相手を決めると、経営方針や社風の違いから統合後に社員が離れてしまうことがあります。なかには、譲渡後に一方的な条件変更や資金の流出を招く不適切な買い手も存在します。中小企業庁も2024年8月の中小M&Aガイドライン改訂(第3版)で、こうした不適切な事業者への対応強化を打ち出しています。相手選びを誤ったときのリスクはM&Aで注意したい悪質な買い手の手口で詳しく整理しています。後継者不在でM&Aを検討する場合の基本的な流れは事業承継型M&Aで解説しています。買い手候補が複数いる場合は、価格の条件だけでなく、面談での説明内容を比較することが判断材料になります。
いずれのパターンも、承継後の結果だけを見れば「失敗」ですが、原因をたどるとほとんどが準備段階の判断に行き着きます。承継が進んでから対処するのではなく、着手する前の段階で防げるかどうかが分かれ目です。
事業承継の失敗を防ぐための対策
事業承継の失敗の多くは、後継者育成や税務対策に早く着手することで防げます。ここで挙げる対策は、いずれも承継の数年前から始められることです。特別な資格や大きな資金が必要な対策ではなく、順序と時間のかけ方の問題であるケースがほとんどです。
後継者の育成と権限移譲を早く始める
後継者候補が決まったら、できるだけ早い段階から経営会議に参加させ、実際の意思決定に関わらせることが有効です。特定のプロジェクトの責任者を任せるなど、小さな範囲から権限を渡していくと、就任時の抵抗感を減らせます。任される範囲を段階的に広げていくことで、後継者自身も経営判断への自信を積み重ねられます。
経営理念や今後の方針を言葉にして共有する
現経営者がこれまで大切にしてきた考え方を後継者が理解し、自分の言葉で語れるようにしておくと、社員や取引先からの信頼を得やすくなります。すべてを引き継ぐ必要はなく、守る部分と変える部分を早めに整理しておくことが重要です。守る部分を明確にしておくと、変える部分についても社内の理解を得やすくなります。理念の共有は一度の説明で終わるものではなく、就任後も繰り返し伝えていく必要があります。
専門家を交えて税務や資金の計画を立てる
相続税や贈与税の負担、株式の評価額は自社だけで正確に把握するのが難しい領域です。税理士や弁護士に早めに相談し、納税資金の確保や株式の分散防止といった対策を数年単位で計画しておくと、資産を手放さずに承継を進めやすくなります。相談のタイミングが早いほど、選べる対策の幅も広がります。生命保険の活用や種類株式の導入など、時間をかけて設計する対策も少なくありません。
社員や取引先への説明を後回しにしない
後継者が承継前から現場に入り、社員や主要取引先と顔を合わせる機会を作っておくと、新体制への不安を減らせます。現経営者が同行して紹介することで、信用の引き継ぎもスムーズになります。定期的な説明の場を設けておくと、承継後の疑問や不満を早い段階で拾い上げられます。
M&Aナビの成約までの期間は、平均6ヶ月ほどです(案件によって前後します)。
後継者を探す時間が限られているなら、早めに選択肢を知っておくと動きやすくなります。
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M&Aを選ぶ場合は相手の経営方針まで確認する
後継者不在でM&Aを選ぶ場合は、譲渡価格だけでなく、買い手が社員の雇用や取引先との関係をどう考えているかを面談で確認することが欠かせません。買い手候補が複数いる場合は、条件を並べるだけでなく、何を最も大切にしたいかを自分の中で整理しておくと選びやすくなります。費用の相場は事業承継の費用で、後継者不在の場合の選択肢は後継者不在の解決策で整理しています。
対策の多くは、承継の数年前から着手できるものです。早く動き始めるほど、選べる選択肢は増えます。逆に、着手が遅れるほど、後継者の育成も税務対策も駆け足で進めることになり、失敗のリスクが高まります。
実例:後継者不在で行き詰まりかけた会社がM&Aで事業を引き継いだケース
ここでは、M&Aナビが支援した実際の事例を紹介します(登場する会社名・人物名は匿名化し、特定につながる情報は一部省略しています)。後継者不在と業績の落ち込みが重なった状態から、承継先を選び成約に至った経緯です。
相談のきっかけは、日頃の融資取引を通じてK社長の経営状況を把握していた地方銀行の支店担当者でした。担当者が銀行本部に相談を持ちかけ、本部を通じてM&Aナビへの紹介につながりました。K社長が最初に希望したのは、従業員に知られないよう近くのカフェで会うことでした。秘密裏に進めたいという意向は、その後のプロセスを通じて変わりませんでした。
A社は、地方で建設関連の資材レンタル・販売を手がける、従業員10名に満たない会社でした。長年の取引で多くの継続取引先を持っていましたが、直近数期は営業赤字が続いていました。K社長が現場のディレクションを一人で担っており、新規営業に手が回らない状態が続いていたことが背景にあります。
成人した子どもたちは事業に関わっておらず、後継候補と目されていたN取締役も承継を固辞していました。ところが、そのN取締役自身が「M&Aしかないんじゃないですか」とK社長に提案したことが、承継検討のきっかけになりました。自分は継がないという選択をしながら会社の存続のために動いたことが、K社長の背中を押しました。
買い手候補として名乗りを上げた1社は、複数拠点を展開する同業のB社でした。B社の経営幹部はA社のヤードを見学しながら、この地域の拠点が全国への物流網を広げるうえで欠かせない、と事業拡大におけるA社の位置づけを説明しました。もう1社の候補は意思決定が早くデューデリジェンスの負荷が軽いという特徴を持っていましたが、規模や今後の展開という点ではB社に及びませんでした。
2社の比較はアドバイザーが整理し、「どちらが正解ということはありません。K社長が一番大切にしていることを教えてください」と問いかけました。K社長の答えは、最初から変わっていませんでした。
K社長が最終的に重視したのは、譲渡価格ではなく、従業員の雇用が守られるかどうかと、会社が今後も事業を続けていけるかどうかでした。全国展開を目指す明確な方針と採用力を持つB社であれば両方を託せると判断し、B社への譲渡を決めました。正式に依頼を受けてから成約まで、およそ半年でした。
意向表明書の受領後は独占交渉に入り、個人保証の解除、役員退職金の税務処理、リース契約の名義確認といった細部を一つずつ調整して成約に至りました。K社長は取引先への挨拶回りを終え、長年続けてきた事業に区切りをつけました。
後継者不在そのものよりも、後継者候補が固辞した段階で承継の検討を止めてしまうかどうかが分かれ目になります。N取締役が承継の選択肢としてM&Aを提案し、K社長がそれを早い段階で受け止めたことが、赤字を抱えたまま承継の準備が進まなくなる事態を防ぎました。正式な依頼から成約まで半年という期間も、K社長が従業員の雇用という判断基準を早い段階で固め、迷わず動けたことが背景にあります。
よくある質問
Q1. 事業承継が失敗する一番の原因は何ですか?
単一の原因ではなく、後継者育成の不足や税務準備の遅れなど複数の要因が重なって起こります。中でも準備期間の不足が土台になっているケースが多く、他の原因を引き起こすきっかけにもなります。
Q2. 後継者が決まらない場合、事業承継は失敗ですか?
後継者不在自体は失敗ではありません。親族や社内に後継者がいない場合でも、M&Aによる第三者承継という選択肢があります。後継者候補が承継を固辞していた場合でも、その候補者自身がM&Aを提案するケースもあります。詳しくは後継者不在の解決策で解説しています。
Q3. 事業承継の失敗を防ぐには、いつから準備を始めればよいですか?
明確な期限はありませんが、後継者の育成や税務対策には数年単位の時間がかかるため、承継を考え始めた時点で早めに動き出すことが有効です。準備が早いほど、後継者候補や承継方法の選択肢も広く残せます。経営者自身がまだ先の話だと感じている段階から動き出すことが、結果的に一番の近道になります。
Q4. M&Aによる事業承継で失敗しないためのポイントは何ですか?
譲渡価格だけでなく、買い手が社員の雇用や取引先との関係をどう考えているかを事前に確認することです。相手選びを誤ると、統合後に社員の離職や業績悪化につながります。トップ面談の場で、買い手の事業方針を具体的に確認しておくと判断材料になります。
Q5. 事業承継にかかる税金や費用はどれくらいですか?
承継方法によって発生する費用の種類が異なります。親族内承継は相続税や贈与税、M&Aは仲介・FA報酬が中心です。国の補助金を活用できる場合もあります。詳しい相場は事業承継の費用で解説しています。
Q6. 相談する専門家はどう選べばよいですか?
税理士や弁護士、M&A仲介会社など、扱う領域がそれぞれ異なります。承継の方向性が固まっていない段階では、複数の専門家に相談して選択肢を比較することをおすすめします。M&Aナビでは相談料をいただかずに承っているため、方向性を決める前の相談先としても利用できます。
事業承継の失敗の多くは、承継が始まってから慌てて対応した結果ではなく、準備段階でできることを先送りにした結果です。後継者育成、社内外への説明、税務対策のどれも、着手が早いほど選べる手段が多く残ります。後継者の有無や会社の状況に応じて、早い段階から選択肢を整理しておくことが、失敗を防ぐ一番の近道です。
M&Aナビでは、後継者不在や社内の後継者育成に悩む経営者からのご相談を、相談料や着手金がかからない完全成功報酬で承っています。後継者が決まっていない段階、M&Aと親族内承継のどちらが向いているか迷っている段階でも、お気軽にアドバイザーへご相談ください。

株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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