M&Aによる会社売却の注意点・リスクを徹底解説します
M&Aには、非常に多くの業務があり、それにかかる時間も膨大です。
長い手続きの中では、予想外の問題が起こることもありますし、M&A最終契約締結の直前で破断となってしまうこともあります。
そこで、本稿では譲渡をする売手側の視点から、M&Aにおいて起こり得る問題と、それを避けるために気を付ける点について、解説します。
M&Aでの会社売却において売手が注意すべき9つのリスク
M&Aがうまく進まない、途中で頓挫してしまうといった失敗の要因を、売手の立場から考えてみましょう。
会社売却時に主観的、情緒的になってしまう
M&Aを実行する際、自身の判断や考え方が理にかなっているかという点には、注意が必要です。
どれだけ優れた経営者も一人の人間です。
M&Aにおいて、売却先や譲渡スキームなどを決定する際、自分ではそれが理にかなった判断であると思っていても、感情が先走り過ぎ、実は間違った判断となっていることも少なくはありません。
例えば、売却先選定において、「付き合いが長いから」といった感情的な理由で、既存の取引先や優良顧客を選んでしまう経営者もいます。
自社や自社事業を譲渡するにあたって本当に適した買手であるならまだしも、感情的な考えのみに頼り安易に判断を下すことは好ましくありません。
また、大手企業のブランド力のみを判断基準としている場合も、リスクがあります。
買手企業を選ぶ際は、「統合後のシナジー効果が期待できるか」、「理念や企業文化があうか」、「財務状況はどうか」など、様々な判断軸に基いて、総合的に判断することが大切です。
情報漏洩によって業績悪化や取引の中止が起きてしまう
M&Aを実行する上で、最も注意しなければいけないことが「情報の機密性」です。
売手企業にとって、自社がM&Aによる売却を考えているという情報が流出することは、様々な問題に繋がります。
1つが、社外との問題です。
意図せぬタイミングで情報漏洩が起きれば、取引先や顧客を始め、数多くの人に不安を感じさせてしまいます。
最悪の場合、取引縮小や取引停止などに繋がります。
もう1つが、社内の問題です。
本来充分な準備を経て、計画的に実行されるべき従業員たちへの情報公開が不適切な順序やタイミングで行われると、従業員全体の士気低下や離職者の発生などに繋がり、会社にとっては大きな痛手となるかもしれません。
もちろん、M&Aの交渉内では機密保持契約が締結されますが、それだけで安心することなく、情報の取り扱いには細心の注意を心掛けましょう。
従業員や社外への告知時期などは、知識のあるM&Aアドバイザーに相談して決めるのが賢明です。
会社売却時に関して株主・役員・従業員との意見不一致が起きてしまう
M&A交渉にとって大きな障害となる株主や役員との摩擦
全ての従業員に対して、いきなりM&Aについて話すのは、安全とは言えません。
一方で、株主や役員、経営陣の間で、M&Aという重要な事業戦略についての意思疎通が取れていないのも大きな問題です。
社内において重要な役割を持った人たちとの間に意見の不一致があると、スムーズな交渉ができなくなってしまいます。
また、もしその問題が買手との交渉の中で明るみに出てしまった場合、M&A交渉をストップされてしまう可能性もあります。
従業員への配慮不足による優秀な人材の流出
従業員に対しても、将来的な不安を感じさせることのないよう、環境や雇用条件、待遇などを保証することが必要です。
M&Aの発表後に反発を受けることの無いよう、十分に注意しましょう。
相手企業への尊重の姿勢を忘れてしまう
M&Aにおける交渉において、最も大切なことの一つに、お互いを大切にし、認め合う姿勢があります。
統合後のイメージや希望する条件についてのすり合わせの中で、お互いに譲れない条件や思いがあるのは当たり前です。
しかしながら、会社の将来を共に考えるパートナーに対し、誠実に向き合い、尊重する姿勢を捨ててしまえば、相手の信頼を一気に失うことになります。
統合後の事業成長どころか、M&A実行すらできずに終わってしまうかもしれません。
相手の思いや意見を真摯に聞き入れる姿勢を大切にしましょう。
買手企業や仲介会社のいいなりになってしまう
相手を尊重するのはもちろん大切です。
しかし、相手の提示する条件に言いなりになってばかりいては、不利な条件ばかりになってしまうかもしれません。
実際の企業価値と比べ著しく低い買収金額や、理不尽な譲渡条件などを提示されるケースがこれに当たります。
たとえ、できる限り早くM&Aを実行したいと思っていても、交渉は焦らず、明確な判断基準とロジックを持って冷静に交渉を進行しましょう。
アドバイザーによる仲介無しに会社売却時の直接交渉してしまう
一般的ではありませんが、一部、アドバイザーに相談することなくM&Aを行ってしまう企業や経営者が存在します。
不可能ではないのですが、それには、様々なデメリットやリスクが伴います。
M&Aの業務は煩雑で必要な知識量も膨大
M&Aは、ときに「ビジネスの総合格闘技」と呼ばれることがあります。
これは、M&Aの諸業務がただ大変なだけでなく、会計・経理・法務・税務、人事・労務など、実行に必要な知識量が非常に多岐に渡るということが理由です。
そもそも、M&Aの手続きは、一般的に短くても数か月かかると言われています。
また、M&A交渉期間中は、経営戦略や財務状況を始めとした沢山の情報について、相手と相互確認・検討することが必要です。
各ステップを正確に進めるためにも、M&Aのプロセスを熟知しているM&Aアドバイザーのサポートを受けながら、リスクの少ないM&A実行を目指しましょう。
経験の差による不利な契約発生のリスクがある
相手企業とのM&A経験の差が大きいと、知識量の差を利用され、自社に不利な条件で契約を結んでしまう可能性があります。
特に、買手企業がM&A経験の多い大手企業であり、反対に売手企業がM&A経験に乏しい場合は注意が必要です。
大手企業では、社内にM&Aの専門チームを設けていることがあります。
こうした企業を相手に、単独で話を進めるのは賢明とは言えません。
単独でM&Aを進めるのではなく、できる限りM&A経験の豊富なアドバイザーに相談するようにしましょう。
デューデリジェンス(買収監査)により、嘘や誤りが発覚してしまう
M&Aにおいて、買手から売手に対して行われる業務の中で、最も重要なのがデューデリジェンス(買収監査、DD:Due Diligence)です。
デューデリジェンスは、売手が提示した情報に事実との相違がないか、また、売手企業にM&A検討を中止せざるを得ないような要因がないかといったことを調査・確認する作業です。
(※デューデリジェンスについての詳しい情報はこちらの記事をご参照ください)
この過程で簿外債務や粉飾決済が明らかになったり、都合の悪い情報を意図的に隠していたことが発覚したりすると、買手企業からの信頼を大きく損なってしまいます。
たとえ売手側に悪意が無かったとしても、売手側から予想外のマイナス要素が見つかること自体、買手が売手に対して大きな不信感を抱くきっかけになってしまいます。
些細なことでも気になる点は全て調査し、買手に対し正確な情報提供をしましょう。
一方的な条件変更など不誠実な対応をとってしまう
複数の買手から同時に買収オファーを受け取ることがあります。
そうした時、売手側が急に強気になって買収額の引き上げや譲渡条件の変更などを申し出る場合があります。
交渉ごとにおいて、相手に臆せずに駆け引きすることはもちろん大切です。
しかし、上の例のように余りに不誠実な対応を取ってしまえば、互いの信頼関係が大きく崩れてしまいます。
交渉をスムーズに円満に進行するためには、互いを尊重し、信頼関係を構築することが欠かせません。
条件変更が必要なときや、交渉相手に対して不満があるときは、必ずM&Aアドバイザーに相談することを心掛けましょう。
M&Aの進行中に業績が悪化してしまう
上でも述べましたが、M&Aの手続きは、期間も長く負担の大きいものです。
手続や交渉を行っている最中、業績が大きく悪化してしまうなどすれば、買手側からM&A契約破棄の申し出が出されるかもしれません。
納得のいく買手に巡り合い、交渉のゴールが目前に来たとしても、引継ぎまでの間、より一層気を引き締めて会社経営に取組みましょう。
特に、季節や流行、市場のトレンドなどから影響を受けやすい業種は尚更注意が必要です。
会社経営とM&A手続きの双方を並行してこなしていくためにも、アドバイザーに相談しながら二人三脚でM&Aに取り組むことが賢明です。
M&Aにおいて売手が注意すべき4つの条件
上で述べたように、M&Aにおいて気を付けるべきことは数多くあります。
これに加え、買手との交渉の中で注意すべき諸条件について、ご紹介します。
自社売却額に関する条件
非上場中小企業におけるM&Aでは、会社の売却価格が明確に定められていないことがほとんどです。
売手側は、自社の価値や可能性を信じているため、高い金額を提示することが多く、逆に買手側は、いかにお得にその会社や事業を手に入れるかを考え、低い金額を要求することがほとんどです。
そのため、売手企業は、自社の価値を買手に最大限伝える努力が必要です。
株価額算定の一般的な手法については、以下記事をご参照ください。

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また、売却価格は、会社の業績や市場動向など、その時の状況に大きく左右されることがあります。
売却を思い立った際にポイントとなるのは、タイミングです。
承継の方法として、M&Aを少しでも視野に入れている場合、できるだけ早く、プロのアドバイザーに相談しましょう。
株式や事業の譲渡に関する条件
M&Aといっても、売手と買手双方の希望により、適した手法(スキーム)は様々です。
各手法のメリットとデメリットを比較・検討しながら、会社全体の譲渡がしたい場合は「株式譲渡」「合併」「株式交換」「株式移転」、一部のみの譲渡がしたい場合「事業譲渡」「会社分割」などから自社に適した手法を選択しましょう。
中小企業のM&Aにおいては、株式譲渡による会社全体の売却か、事業譲渡による特定事業の売却が多く用いられます。
*各手法のメリットについては、以下の記事で説明しています。

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社長や役員処遇に関する条件
株式譲渡などにより会社全体を譲渡するということは、経営権を引き渡すことを意味しています。
一般的には、買手企業側の意向により、新たな代表が選任され、役員にも新たな人材が加えられます。
しかしながら、条件の定め方によっては、売手企業のオーナーが顧問や相談役などといった特殊な役割を持ち会社に一定期間留まるケースもあります。
また、中小企業の場合は特に、オーナーが社債に対し、個人保証を行ったり、個人資産を担保としたりということもあり、そうした諸条件の今後の扱いや引き継ぎ方についても、売手と買手の間でしっかり話し合う必要があるでしょう。
従業員の雇用や処遇に関する条件
この点は、経営者である皆さまの多くが気にされていることだと思います。
自分の勤める会社が別の会社に買収されてしまうと知ったら、従業員のほとんどが今後の雇用や給与などに不安を感じます。
こうした不安を解消するためにも、従業員の今後の待遇については、交渉段階から注意して買手側と話しあいましょう。
M&Aにおいては、契約の締結は通過点でしかありません。
くれぐれも、本来の目標が統合後の会社や事業の成長であることを忘れず、従業員の士気を落とさない形での会社の引継ぎを考えることが大切です。
M&Aでの会社売却時の注意点とリスク まとめ
M&Aにおいて会社や事業を売却するにあたってどのようなことに注意すればよいのか、イメージできたでしょうか?
M&Aには、適切な準備が必要です。
細かい資料作成から、M&A全体の戦略策定まであらゆる項目について、できるだけ早く準備を始め、丁寧に正確にM&Aを実行していきましょう。
なおM&Aナビは、売り手・買い手ともにM&Aにかかる手数料などを完全無料でご利用いただけます。買い手となりうる企業が数多く登録されており、成約までの期間が短いのも特徴です。ぜひご活用ください。
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