会社を買う完全ガイド|探し方・費用・8つのステップと注意点
会社を買うとは、後継者のいない会社や個人事業を第三者が譲り受けることです。希望譲渡価格が数百万円台の案件もありますが、実際に必要な資金には成約手数料、専門家費用、当面の運転資金も含まれます。探し方から契約、統合まで実務は8つの段階に分かれます。
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会社を買うとはどういうことか
会社を買うとは、すでに事業を営んでいる会社や個人事業を、対価を払って引き継ぐことです。方法は大きく2つに分かれます。会社そのものの株式を取得する株式譲渡と、事業の一部だけを切り出して取得する事業譲渡です。株式譲渡では法人格が変わらないため、契約や許認可は原則として存続します。ただし、経営権の変更を契約解除などの条件とするチェンジ・オブ・コントロール条項や、許認可ごとの届出・承認要件があるため、個別の確認が必要です。対象会社の法人格と負債もそのまま残るため、買い手は簿外債務などを抱える会社を取得する可能性があります。事業譲渡は必要な資産や契約を選んで取得できる一方、契約の移転には相手方の同意が必要となり、許認可も原則として再取得します。法令上の承継制度がある分野もあるため、対象事業ごとに確認してください。株式譲渡と事業譲渡それぞれの手続きは、こちらの記事で詳しく解説しています。
帝国データバンクの2025年調査では、後継者が決まっていない会社の割合は50.1%、後継者が未定のまま経営を続ける会社は13.8万社にのぼります。東京商工リサーチの2025年調査では、休業や廃業、解散に至った会社は67,210件あり、赤字企業は47.2%にとどまります。黒字を保ったまま会社をたたむ企業も相当数にのぼります。後継者不在は大企業でなく中小企業に集中する問題で、会社を買うという選択肢はこの受け皿になります。ゼロから起業するのと違い、すでに顧客や取引先、従業員がいる状態から始められる点が、会社を買う最大の特徴です。
2026年8月6日時点で、M&Aナビ上で成約済みとなった案件のうち、売り手の希望譲渡価格を確認できた425件を集計すると、中央値は600万円で、48%が500万円以下でした(金額の単位を確認できなかった2件は除外)。これは掲載時の希望譲渡価格であり、実際の成約価格ではありません。また、IT・ソフトウェア案件が38%を占めるなど、スモールM&Aに偏った当社プラットフォーム内のデータです。業種別の詳しい分布はこちらの記事にまとめています。
数百万円から数千万円規模の会社や個人事業を対象にしたM&Aは、スモールM&Aと呼ばれます。上場企業同士の大型M&Aとは案件の規模も進め方の重さも異なり、個人や中小企業でも当事者になれる点が特徴です。この記事で扱う「会社を買う」も、主にこのスモールM&Aの領域を指しています。
買う会社にはどんなものがあるか
M&Aと聞くと大企業同士の合併を思い浮かべるかもしれませんが、実際に売りに出ている案件の多くは、従業員数名から数十名規模の会社や、店舗、Webサービスといった個人事業です。経営者の高齢化や、後を継ぐ家族がいないことを理由に売りに出されるケースが中心で、事業そのものは黒字で健全なことも珍しくありません。業種は飲食店やエステサロンのような店舗ビジネスから、ITサービス、製造業、運送業まで幅広く、規模も価格帯も案件ごとに大きく異なります。上場企業の買収と違い、経営者本人と直接会って話ができる距離感の近さも、中小企業のM&Aの特徴です。
起業とは何が違うのか
ゼロから起業する場合は、顧客も取引先も業務の仕組みも、すべて自分で作る必要があります。会社を買う場合は、すでにある顧客、取引先、従業員、仕入れ先との関係を引き継ぐため、立ち上げにかかる期間を大きく短縮できます。買収対象の売上や利益の実績を融資審査の材料として示せる点は、実績のない新規事業との違いです。ただし、融資判断は買い手の信用状況や事業計画を含めて総合的に行われます。一方で、引き継ぐのは良い部分だけではありません。古い設備や見直しが必要な業務のやり方、既存の人間関係もそのまま引き継ぐことになります。起業がゼロから積み上げる進め方だとすれば、会社を買うのはすでにある土台を引き継ぎ、そこから手を入れていく進め方です。
なぜ健全な会社が売りに出るのか
会社を買うことに、赤字や倒産寸前の事業を安く引き取るイメージを持つ人もいますが、実際の理由はそれだけではありません。経営者の引退や体調面の事情、後を継ぐ家族がいないこと、複数事業を持つ経営者が本業に集中するために一部を手放すことなど、事業そのものの調子とは関係のない理由で売りに出る会社が数多くあります。黒字で顧客基盤も安定しているのに、後継者の問題だけで存続が難しくなっている会社は、帝国データバンクの調査結果からもわかる通り珍しくありません。売りに出ている理由を確認することは、値付けの妥当性を見極めるうえでも欠かせない作業です。
会社を買うプロセスには、売り手の経営者との信頼関係も大きく関わります。価格が近い条件の候補が複数あった場合、売り手が最終的に選ぶのは、価格だけでなく、従業員や顧客を任せられると感じた買い手であることが少なくありません。トップ面談での受け答えや質問の内容から、買い手側の準備の度合いは相手に伝わります。
会社を買う目的は何か
会社を買う理由は、買い手の立場によって違います。独立や起業を目指す個人が選ぶこともあれば、法人が事業拡大の手段として選ぶこともあります。
- 独立や起業を目指す個人が、ゼロから事業を立ち上げる代わりに、すでに顧客と売上のある事業を引き継ぐケース。未経験の業種でも、既存の仕組みごと引き継げるため始めやすくなります
- 法人が新しい事業領域に参入するために、その分野で実績のある会社を買収するケース。自社で一から立ち上げるより短い期間で市場に参入でき、既存事業との仕入れや販路の共有によるコスト削減も見込めます
- 法人が人材の確保や許認可の取得を目的に、採用や申請に時間をかけず組織ごと引き継ぐケース。人手不足が深刻な業種ほど、この目的での買収が増えています
- 投資として事業を保有し、利益を得ることを目的に会社を買うケース。複数の事業を持ち、経営は既存の体制に任せる形が中心です
目的が変われば、見るべき会社の条件も変わります。独立が目的なら自分が経営できる規模と業種か、多角化が目的なら既存事業とのシナジーがあるか、人材確保が目的なら組織がそのまま残るか。目的を先に決めてから案件を探すと、判断の軸がぶれません。
目的は1つに絞らなくてもかまいません。たとえば法人が新規事業として飲食業を買収する場合、多角化と同時に、飲食業の運営ノウハウを持つ人材の確保も目的に含まれていることがあります。複数の目的が重なっている案件ほど、買い手にとっての価値は高くなる傾向があります。逆に、目的があいまいなまま案件を探すと、条件に迷いが出て決断が遅れがちです。
自分に向いている目的をどう見つけるか
目的を決めるときは、経験と資金、時間軸の3つを自分に問いかけてみると整理しやすくなります。経験のある業種であれば、独立目的でも未経験の業種より引き継ぎがスムーズです。用意できる資金が少なければ、まずは予算500万円以下の案件から検討する独立目的が現実的で、資金に余裕があり組織を動かせる立場であれば、多角化や人材確保を目的にした買収も選択肢に入ります。すぐにでも会社を持ちたいのか、数年かけてじっくり探すのかという時間軸も、探すチャネルの選び方に影響します。
たとえば、独立を目的に会社員を辞めて個人で飲食店を買う場合と、地方の製造業がその地域の同業を買収して人材と設備をまとめて確保する場合とでは、進め方の重さがまったく違います。前者は数百万円台の自己資金と融資で完結する案件が中心になりやすく、後者は既存の組織体制を活かして交渉から統合まで進めるケースが多くなります。同じ「会社を買う」でも、目的によって準備すべきことは変わります。
いくらかかるのか
会社を買うときにかかる費用は、譲渡価格だけではありません。上記の425件では希望譲渡価格の中央値は600万円、48%が500万円以下でしたが、この数字は実際の成約価格ではありません。買収に必要な総額には、譲渡対価のほか、M&Aナビの買い手成約手数料、専門家費用、当面の運転資金などが含まれます。業種別の希望譲渡価格の分布はこちらで紹介しています。
買収にかかる費用を確認する
譲渡対価のほかに、仲介会社を使う場合の成功報酬、専門家によるデューデリジェンス費用、契約書作成の法務費用などが発生します。案件の規模が大きいほど、専門家費用の割合も上がる傾向があります。会計処理は買収手法によって異なります。株式譲渡では、買い手単体の財務諸表で、支払った金額を子会社株式などとして計上するのが一般的です。連結決算や事業譲渡では、買収額と受け入れた資産・負債との差額が「のれん」として計上される場合があります。買収に伴う費用の扱いも異なるため、具体的な処理は税理士や公認会計士に確認してください。
| 費用項目 | 内容 | 発生の目安 |
|---|---|---|
| 譲渡対価 | 会社や事業を取得する対価そのもの | 契約締結時。分割払いのケースもある |
| 仲介手数料 | 仲介会社を利用した場合の成功報酬 | 成約時。着手金が別途かかる場合もある |
| デューデリジェンス費用 | 弁護士や税理士、公認会計士による調査報酬 | 契約前の調査段階 |
| 契約書等の作成費用 | 最終契約書などの作成にかかる専門家報酬 | 契約締結の前後 |
| 登記や許認可の変更費用 | 役員変更登記や許認可の名義変更にかかる費用 | クロージング後 |
価格の目安は年買法でつかむ
中小企業のM&Aで広く使われる目安が年買法です。時価で評価し直した純資産に、営業利益の2〜5年分を上乗せして算出します。たとえば時価純資産1,000万円、営業利益300万円の会社であれば、目安は1,000万円に300万円の2〜5年分を足した1,600万円から2,500万円のあたりになります。あくまで目安の一つで、実際の価格はここから交渉によって上下します。企業価値評価の考え方や他の評価手法は、こちらの記事で詳しく解説しています。

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諸費用はいつ、どのくらい見ておくか
仲介手数料は成約時に支払うことが多く、契約前にいくらかかるかを仲介会社に確認しておくと資金計画が立てやすくなります。デューデリジェンス費用は、依頼する専門家の数や調査範囲によって変わります。案件が小さいうちは弁護士や税理士に絞って調査範囲を絞り込み、案件が大きくなるほど公認会計士も加えて調査を厚くするのが実務的な考え方です。譲渡対価だけで資金計画を立てると、契約直前になって諸費用の分だけ資金が足りない事態になりかねません。案件を探し始めた段階から、諸費用込みでいくらまで出せるかを決めておくと、契約直前に慌てずに済みます。
価格帯によって負担の中心は変わる
予算500万円以下の小さな案件では、譲渡対価に対して仲介手数料やデューデリジェンス費用の割合が相対的に大きくなりやすく、専門家に依頼する範囲を絞り込む判断が重要になります。予算が3,000万円を超えるような案件になると、諸費用の割合は相対的に小さくなる一方、譲渡対価そのものを自己資金だけで賄うのは難しくなり、金融機関融資の設計が資金計画の中心になります。案件の価格帯によって、何にお金と時間をかけるべきかの重心が変わることを踏まえて準備を進めると、無駄なコストを避けられます。
総額を試算してみる
年買法の目安と諸費用を合わせると、総額のイメージがつかみやすくなります。先ほどの例のように年買法の目安が1,600万円から2,500万円の会社であれば、そこに仲介手数料や専門家報酬、登記費用などを加えた金額が、実際に用意すべき総額の目安になります。譲渡対価だけを見て予算を決めるのではなく、この総額をベースに自己資金と融資の配分を考えると、契約の直前になって資金が足りないという事態を防げます。総額の内訳は案件ごとに異なるため、具体的な数字は仲介会社や専門家に確認しながら詰めていくことになります。
買収資金はどう用意するか
会社を買う資金は、自己資金だけで賄う必要はありません。日本政策金融公庫には事業承継・集約・活性化支援資金など、M&Aを対象にした融資制度があり、個人の買い手も要件を満たせば申し込めます。国や自治体の補助金は、買収対価そのものではなく、仲介・FA費用やデューデリジェンス費用など、対象と定められた専門家費用の一部を補助する制度が中心です。補助金によっては、M&A支援機関登録制度に登録された支援機関を利用することや、複数社から見積もりを取ること、交付決定後に契約・発注することが要件になります。対象経費や申請時期は公募回ごとに異なるため、契約前に最新の公募要領を確認してください。
自己資金は融資審査で確認される要素の1つですが、融資の可否は事業計画や返済能力などを含めた総合判断です。自己資金が少ない場合でも、審査結果によっては融資を組み合わせられることがあります。金融機関は、買収する会社の収益力も返済原資の判断材料にします。
個人はどう資金を用意できるか
個人の買い手は、自己資金に加えて日本政策金融公庫などの融資を検討できます。新たに事業を始める人向けの融資制度では、勤務経験や自己資金の割合も審査材料になります。信用保証協会の保証付き融資を利用できれば、地域の金融機関から資金を調達できる場合もあります。家族や知人からの借り入れを組み合わせる場合も、返済計画を書面で明確にしておくことが、後のトラブルを避けるうえで大切です。予算500万円以下の小規模案件でも、要件を満たせば日本政策金融公庫の融資を利用できる場合があります。
法人はどう資金を用意できるか
法人が買う場合は、自己資金と金融機関融資に加えて、株主からの追加出資や、案件によっては投資家からの出資を組み合わせる方法もあります。銀行によってはM&A専用の融資商品を用意しており、買収先の資産や将来のキャッシュフローを踏まえた融資枠を設定できる場合があります。融資を受ける際は、返済期間や据置期間の設計が資金繰りに直結します。買収直後は引き継ぎ作業に時間を取られ、想定していた利益がすぐには出ないことも多いため、余裕を持った返済計画を金融機関と相談しておくと、買収後の経営が安定しやすくなります。
融資審査では、買い手自身の信用情報や既存の借入状況も確認されます。個人であれば住宅ローンなど他の借り入れとの兼ね合い、法人であれば既存事業の借入残高や担保余力が審査に影響します。買収する会社の資産を担保に組み込めるかどうかも、融資の可否や条件を左右する要素の1つです。事前に自分や自社の信用状況を把握しておくと、金融機関との相談もスムーズに進みます。
案件はどこで探すか
会社を買う案件を探すルートは、大きく3つあります。それぞれ案件の傾向や向いている人が異なります。
| チャネル | 特徴 | 向いている人 |
|---|---|---|
| 事業承継・引継ぎ支援センター | 各都道府県に設置された公的な相談窓口。無料で利用でき、地域の中小企業の案件情報を持つ | 初めて会社を買う人、地元で会社を探したい人 |
| M&Aマッチングサイト | 売り手と買い手がオンラインで直接やり取りできる。案件数が多く、価格帯も幅広い | 自分で条件を絞り込んで探したい人 |
| M&A仲介会社 | 案件の紹介から交渉、契約までを専門家が仲介する。手数料はかかるが進めやすい | 初めての買収で伴走してほしい人 |
公的機関の事業承継・引継ぎ支援センターは、費用をかけずに相談したい人の入口になります。譲渡を考えている経営者の相談窓口も兼ねているため、地域の案件情報を持っていますが、案件数そのものは民間のルートに比べて限られます。M&Aマッチングサイトは案件数が多く、業種や価格帯で幅広く比較したい人に向いています。掲載されている案件にオンラインで直接問い合わせられるため、スピード感を持って候補を絞り込めます。M&Aナビはこのマッチングサイト型にあたり、案件の閲覧や情報収集、交渉機能を無料で利用できます。売り手は完全無料、買い手は成約時に買収対価に応じた成約手数料がかかり、案件によっては専門家費用も別途発生します。M&A仲介会社は手数料がかかる分、交渉やデューデリジェンスの調整まで伴走してもらえます。初めての買収で、進め方そのものに不安がある場合は、仲介会社を通すことで契約書の作成や専門家の手配までまとめて任せられます。実際には、複数のルートを併用して案件を集める買い手も少なくありません。
候補を絞り込む(ロングリストとスクリーニング)
探し始めは、業種や地域、予算といった条件をゆるく設定し、候補を広く集めたロングリストを作ります。そこから、自分の経験が活きる業種か、通える範囲か、用意できる資金の範囲内かといった条件で絞り込んでいきます。候補を1社に絞ってから検討を始めると、条件が合わず振り出しに戻ることが多いため、常に数社を並行して検討するのが実務的です。ノンネームの概要資料を複数比較し、条件が近い数社にNDAを結んで詳しい情報を取りにいく進め方が一般的です。
絞り込みの段階で見ておきたいのは、価格だけではありません。売上や利益の推移が安定しているか、特定の取引先や顧客に依存しすぎていないか、従業員の平均年齢や勤続年数はどうか、といった点です。これらは公開されているノンネーム資料の時点である程度読み取れます。気になる点があれば、トップ面談で直接確認する前提でリストに残しておき、無理にその段階で候補から外さないことも大切です。
案件情報はどこまで公開されているか
マッチングサイトに掲載されているのは、多くの場合ノンネームと呼ばれる匿名の概要資料です。業種、エリア、売上や利益のおおまかな規模、想定される譲渡価格帯、従業員数といった情報が中心で、会社名や具体的な所在地までは公開されません。会社名や詳しい財務情報は、NDAを結んだ後に開示されるIM(企業概要書)で初めて確認できます。気になる案件があれば、公開情報だけで判断せず、NDAを結んで詳しい資料を見るところまで進めることをおすすめします。
仲介会社を使うときは何を確認するか
仲介会社を選ぶときは、扱っている案件が自分の探している規模や業種と合っているかをまず確認します。仲介手数料の金額や発生タイミング、着手金の有無は会社によって異なるため、契約前に見積もりを取って比較しておくと安心です。また、1つの案件を売り手と買い手の双方から仲介する形態と、買い手側だけにつく形態があり、それぞれ立場や利益相反への考え方が異なります。契約を結ぶ前に、どちらの形態で進めるのかを確認しておくと、後の認識違いを防げます。
エリアを広げて探すべきか
地元で探すか、エリアを広げて探すかも、案件の見つかりやすさに影響します。地元にこだわると候補は限られますが、通える範囲での経営や引き継ぎがしやすくなります。エリアを広げれば候補は大きく増えますが、遠方の会社は現地に足を運ぶ回数が制約になり、経営に入る場合は生活拠点そのものを移す判断も必要になります。オンラインのマッチングサイトはエリアを問わず案件を探せるため、地元にこだわらない買い手にとっては候補を広げる手段として使いやすくなります。
探し始める前に何を準備しておくか
本格的に案件を探す前に、いくつか準備しておくと動きがスムーズになります。個人であれば、自己資金の額を証明できる資料や、経歴をまとめた書類です。仲介会社やマッチングサイトに登録する際、買い手としての信用を示す材料になります。法人であれば、買収の目的と予算枠を社内で合意しておくことが欠かせません。決裁のスピードが遅いと、良い案件ほど他の買い手に先を越されやすくなります。あわせて、相談できる税理士や弁護士のあてを1つでも作っておくと、契約が具体的になった段階で慌てずに済みます。
買収はどんな流れで進むか
会社を買う実務は、おおむね8つの段階に分かれます。案件によって順序が前後することもありますが、大枠はどの買収でも共通しています。案件が見つかってからクロージングまでにかかる期間は、案件の規模や交渉の状況によって数ヶ月から1年程度と幅があります。小規模な案件ほど短期間で進み、デューデリジェンスの範囲が広い案件ほど時間がかかる傾向があります。関わる専門家も段階によって変わり、初期は仲介会社の担当者、デューデリジェンス以降は弁護士や税理士、公認会計士が加わっていくのが一般的な体制です。
- 情報収集とロングリスト作成。業種や地域、予算で条件を決め、候補となる会社を広く集めます
- 秘密保持契約(NDA)の締結。詳しい情報を受け取る前に、情報を漏らさない約束として結びます
- IM(企業概要書)の確認。事業内容や財務状況、組織体制、取引先との契約状況など、売り手の詳しい情報を読み込みます。この段階で初めて会社名や実際の決算書に触れることになります
- トップ面談。経営者同士が顔を合わせ、経営方針や譲渡理由、従業員の処遇などを確認します。数字だけではわからない、事業への向き合い方を見極める場でもあります
- 意向表明書(LOI)の提出。買収の意思と、想定する価格や条件の概要を書面で伝えます。複数の買い手が候補にいる場合、ここでの提示条件が交渉の土台になります
- デューデリジェンス(DD)。財務や法務、事業の実態を専門家が調査し、リスクを洗い出します。ここで見つかった問題は、価格や契約条件の調整材料になります
- 最終契約の締結。DDの結果を踏まえ、価格や引き継ぎ条件を確定させます
- クロージングとPMI(統合)。経営権を移転し、実際の組織や業務の統合作業に入ります
クロージングの後、統合作業がどれだけうまく進むかで買収の成果は大きく変わります。契約書に押印して終わりではなく、そこから経営を軌道に乗せる作業が本番です。PMIの進め方は、こちらの記事で詳しく解説しています。
意思決定のスピードも、実務では成否を分けます。トップ面談から意向表明までの間隔が長いと、他の買い手候補に先を越されることがあります。案件を探し始める前に、誰がいつまでに判断できる体制なのかを社内や家族の間で決めておくと、良い案件に出会ったときにすぐ動けます。
8つの段階のうち、買い手が主導権を持ちやすいのはNDA締結からLOI提出までの期間です。ここで疑問点を洗い出し、必要な情報をできるだけ引き出しておくと、その後のデューデリジェンスや最終契約の交渉が進めやすくなります。逆に、この段階での確認が甘いまま話を進めると、契約直前になって条件面の認識違いが表面化することがあります。
クロージング後にまず何に取り組むか
クロージング直後は、従業員や取引先に経営者が変わったことを伝える場面が続きます。急に方針を大きく変えると、現場の混乱や離職につながりやすいため、最初の数ヶ月は既存のやり方を大きく変えずに、事業の実態を把握することに時間を使う進め方が一般的です。取引先へのあいさつ回りや、主要な従業員との個別面談を早い段階で済ませておくと、その後の変更もスムーズに受け入れられやすくなります。統合作業の進め方は、上でリンクした記事で詳しく解説しています。
買収にはどんなリスクがあるか
会社を買うときに見落とすと影響が大きいのが、簿外債務、キーマン依存、統合の失敗です。
簿外債務は、決算書に載っていない保証や未払いの債務のことです。デューデリジェンスで確認しないまま契約すると、買収後に想定していなかった支払いが発生します。キーマン依存は、特定の経営者や社員がいなくなると事業が回らなくなる状態です。譲渡後にその人物が抜けることを前提に、業務のやり方が引き継げるかを確認しておく必要があります。統合(PMI)の失敗は、契約後に組織や取引先との関係がうまくつながらず、想定していた収益が出ない状態です。買収の失敗の多くは、契約前でなく契約後のこの段階で表面化します。
これらのリスクと、契約前に確認すべきポイントは、こちらの記事にまとめています。
リスクにどう備えるか
すべてのリスクを契約前にゼロにすることはできません。現実的な備え方は、最終契約書に表明保証条項を入れ、契約後に簿外債務などが見つかった場合の対応をあらかじめ決めておくことです。デューデリジェンスの範囲は、案件の規模や価格に見合った深さに絞り込みます。数百万円台の案件に数百万円のDD費用をかけては本末転倒なので、財務と契約関係を中心に、専門家と相談しながら優先順位をつけて調査するのが実務的です。キーマン依存については、譲渡後も一定期間は前経営者に引き継ぎ役として残ってもらう契約にすることで、リスクを和らげられます。
たとえば、営業のほとんどを前経営者個人の人脈でまかなっている会社は、典型的なキーマン依存の例です。決算書の数字が良くても、譲渡後に前経営者が離れた途端に売上が落ちる可能性があります。トップ面談の段階で、売上の何割が特定の人物や取引先に集中しているかを確認しておくと、こうしたリスクに早めに気づけます。
許認可が必要な業種を買う場合は、許認可の引き継ぎ方にも注意が必要です。株式譲渡では法人格が変わらないため許認可は原則として存続しますが、経営権の変更に伴う届出や承認が必要な場合があります。事業譲渡では買い手側で許認可を取り直すのが原則ですが、法令上の承継制度が設けられている分野もあります。再取得や承継手続きに時間がかかる業種では、許認可が間に合わず、クロージング後に事業を続けられない場合があります。クロージング日と許認可の取得日を事前に調整してください。
個人で買う場合と法人で買う場合はどう違うか
個人と法人では、買収の進め方に違いが出ます。資金調達の面では、個人は自己資金と日本政策金融公庫などの融資が中心になり、法人は自己資金に加えて金融機関の融資枠を活用しやすくなります。信用力の面でも、実績のある法人のほうが融資審査は通りやすい傾向があります。
買収後の体制も違います。個人が買う場合は自らが経営者として現場に入ることが多く、法人が買う場合は既存の組織から担当者を配置して経営を引き継ぐことが一般的です。個人が経営者として入る場合、譲渡後も一定期間は前経営者に残ってもらい、引き継ぎ期間を設けるケースが多くなります。個人で会社を買う場合、後継者のいない会社を買うという選択肢も有力です。探し方や進め方はこちらの記事で詳しく解説しています。
税務上の扱いも、個人と法人で異なります。個人がそのまま買収して事業を始める場合と、新たに法人を設立してその法人で買収する場合とでは、税金の計算方法や社会保険の扱いが変わってきます。どちらが有利かは資産状況や事業計画によって変わるため、契約を進める前に税理士に相談しておくと、後から想定外の税負担に気づくことを避けられます。
個人であっても、1人で全額を用意する必要はありません。信頼できる仲間や元同僚と資金や経営を分担して1つの会社を買うケースもあります。役割を分けておけば、経営、営業、財務管理といった業務を得意な人が担当でき、1人で背負うよりも経営体制を安定させやすくなります。共同で買う場合は、意思決定の方法や、将来どちらかが抜けるときの取り決めを、契約前に書面で決めておくことが欠かせません。
初めて会社を買う人にとって、個人か法人か、単独か共同かといった選択は、どれも後戻りしにくい決断です。迷った場合は、仲介会社や公的な相談窓口に早い段階で相談し、自分の状況に合った進め方を一緒に整理してもらうと、遠回りを避けられます。1人で悩み続けるより、早い段階で第三者に状況を話すほうが、結果的に判断のスピードが上がることも少なくありません。
よくある質問
個人が会社を買うことはできますか
できます。個人でも会社の株式を取得したり、事業を譲り受けたりできます。上記の当社集計では希望譲渡価格500万円以下の案件が48%でしたが、これは実際の成約価格ではなく、手数料や専門家費用、運転資金も含みません。法人の設立や許認可の準備が必要な業種もあるため、資金調達とあわせて早めに確認してください。
会社を買うには何から始めればいいですか
まず、独立や多角化、人材確保、投資のどれを目的にするかを決めます。目的が決まったら、事業承継・引継ぎ支援センターやM&Aマッチングサイト、M&A仲介会社のいずれかで案件を探し、業種や予算でロングリストを作るところから始めます。候補が見つかったら秘密保持契約を結び、詳しい資料を確認しながら絞り込んでいきます。進め方に不安がある場合は、最初から仲介会社に相談し、案件探しから任せる方法もあります。
会社を買うのに必要な資金はいくらですか
必要な金額は、譲渡対価に買い手の成約手数料、デューデリジェンスなどの専門家費用、当面の運転資金を加えた総額です。上記集計の希望譲渡価格の中央値は600万円ですが、実際の成約価格ではありません。補助金は買収対価ではなく、要件を満たす専門家費用などの一部が補助対象となる場合があります。
会社を買うリスクは何ですか
代表的なリスクは、簿外債務、キーマン依存、統合(PMI)の失敗の3つです。契約前のデューデリジェンスで確認できるものと、契約後の統合作業で初めて表面化するものがあります。許認可が必要な業種では、許認可の引き継ぎ漏れも見落としやすいリスクの1つです。契約書に表明保証条項を入れておくと、契約後に問題が見つかった場合の対応をあらかじめ決めておけます。
まとめ
会社を買うとは、株式譲渡や事業譲渡によって、後継者のいない会社や個人事業を引き継ぐことです。当社で成約済みとなり、希望譲渡価格を確認できた425件では、掲載時の希望譲渡価格の中央値は600万円で、48%が500万円以下でした。ただし、実際の成約価格ではなく、当社プラットフォーム内のスモールM&Aに偏った集計です。必要資金には成約手数料や専門家費用、運転資金も含まれます。目的を定め、総額の見通しを立て、案件を探し、8つの段階を踏んで統合まで進める。この流れを知っているかどうかで、買収にかかる時間も、判断の質も変わります。
案件は日々入れ替わっています。目的と予算の見通しがついたら、まずは実際に売りに出ている会社を見てみるところから始めてみてください。相場感は、資料を眺めているだけでは身につきません。
会社を買うという選択肢は、後継者不在という社会全体の課題と、自分のキャリアや事業戦略を重ね合わせる場でもあります。焦って1社に決める必要はありません。複数の案件を並行して見比べながら、自分の目的に合う会社に出会うまで、じっくり探してみてください。
この記事で触れた費用の目安やプロセスは、あくまで一般的な考え方です。実際の案件では、業種や規模、交渉の経緯によって細部が変わります。気になる案件が見つかったら、詳しい条件は個別に確認しながら、自分の状況に合わせて判断を進めてください。
M&Aナビでは、案件の閲覧や情報収集、売り手との交渉機能を無料で利用できます。売り手は完全無料、買い手は成約時に買収対価に応じた成約手数料がかかります。案件によっては専門家費用も別途発生します。

株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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