休眠会社の買取相場はいくら?価格の決まり方と買い手が注意すべきリスクを解説

東京商工リサーチの調査によると、2025年の休廃業・解散件数は67,210件で、3年連続で過去最多を更新しました。後継者が見つからないまま事業をたたむ会社が増える一方、法人格そのものを残したまま活動を止める「休眠会社」も一定数存在します。休眠会社を買い取ると、ゼロから会社を作るよりも短い期間で事業を始められる場合があります。ただし、休眠会社の買取価格がどのように決まるのか、そしてどこにリスクが潜んでいるのかを理解しないまま進めると、想定外の負債や手続きの遅れに直面しかねません。
買い手として休眠会社を検討する際は、価格の安さだけでなく、その価格が何を根拠にしているかを確認する視点が欠かせません。
休眠会社とは
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休眠会社とは、法人登記は残したまま、営業活動や商取引を止めている会社を指します。法務局への解散手続きを取っていないため、法人格は生きたままです。廃業や清算とは違い、税務署や自治体への届出をすれば、いつでも事業を再開できる状態にあります。
休眠会社の定義
会社法上、休眠会社の明確な定義はありません。実務上は、決算申告や事業活動の実態がほとんどない状態が数年続いている会社を指して使われることが多い言葉です。法人税の申告書を提出していても売上がほぼゼロの会社、逆に申告そのものを行っていない会社まで、休眠の度合いにはかなり幅があります。
休眠会社かどうかを確認する方法
買収を検討する会社が本当に休眠状態かどうかは、次のような資料で確認します。
- 法人の登記事項証明書(履歴事項全部証明書)で、役員変更や本店移転などの動きが止まっている時期を確認する
- 直近数年分の法人税申告書と決算書で、売上や利益の推移を確認する
- 社会保険や労働保険の加入状況で、従業員が実質的にいない状態かを確認する
- 取引先や金融機関との契約が残っているか、口座が凍結されていないかを確認する
これらの資料は売り手側から任意で開示してもらう必要があります。開示に消極的な相手や、資料が揃っていない相手には、買収そのものを慎重に検討したほうがよいでしょう。
休眠会社を買い取るメリット
休眠会社の買取は、新規に会社を設立するのとは違うメリットがあります。
新事業へ短期間で参入できる
会社を新規に設立する場合、定款の作成、公証役場での認証、法務局への登記申請など、事業を始めるまでに複数の手続きが必要です。休眠会社を買い取れば、これらの手続きを省略し、代表者や事業目的の変更登記を行うだけで事業を始められます。急いで法人格を必要とする案件では、この時間差が意味を持ちます。
法人の実績を引き継げる
休眠会社は、実態がなくても設立からの年数はそのまま引き継がれます。新設法人と違い、設立年数を条件に取引や入札に参加できる場合がある点は、休眠会社ならではのメリットです。金融機関の融資審査でも、設立から一定年数が経過していることが条件になっているケースがあり、法人歴の長さが選定理由になることがあります。
許認可をそのまま使える場合がある
建設業、運送業、産業廃棄物処理業など、取得に数か月から1年以上かかる許認可を必要とする業種では、休眠会社が既に許認可を保有していれば、その許認可を承継できる可能性があります。ただし、許認可の種類によっては承継が認められず、買収後にあらためて取得し直す必要がある場合もあるため、対象の許認可の承継可否は業所管庁に個別に確認が必要です。
設立コストを抑えられる
定款認証や登録免許税など、新規設立にかかる法定費用は、株式会社の場合で数十万円規模になります。休眠会社を買い取る場合、これらの費用は不要になり、代わりに買取価格と名義変更にかかる登記費用が発生します。買取価格が低く抑えられる案件であれば、新規設立より総コストを下げられる余地があります。
こうしたメリットが特に生きるのは、許認可の取得に時間がかかる業種で早期の事業開始が必要な場合や、入札条件に設立年数が含まれる場合です。単に「早く安く法人を持ちたい」という理由だけであれば、次に説明するリスクとの比較で新規設立を選んだほうがよいケースもあります。
休眠会社を買い取る際に注意すべきリスク
休眠会社の買取は、法人格や許認可をそのまま引き継げる分、売り手が抱えていた問題も一緒に引き継ぐことになります。
簿外債務を引き継ぐリスク
決算書に載っていない未払金、保証債務、係争中の訴訟などは、休眠会社の買取で最も警戒すべきリスクです。休眠状態が長いほど、当時の担当者が退職して経緯がわからなくなっているケースも多く、書類上のデューデリジェンスだけでは発覚しないことがあります。取引先への聞き取りや、法務局や裁判所の情報も含めた確認が必要です。
税務申告の空白期間
休眠会社の中には、税務署への「異動届出書」を提出せず、申告そのものを止めている会社があります。申告の空白期間がある会社は、買取後に税務調査の対象になり、過去分の申告漏れや加算税を求められる可能性があります。買取前に、法人税や消費税、地方税それぞれの申告状況と納税証明書を確認し、未申告の期間があれば税理士に相談したうえで判断してください。
許認可が失効している可能性
建設業許可や運送業の事業許可など、一定期間ごとに更新や事業報告が必要な許認可は、休眠状態が続くと更新手続きが行われず失効している場合があります。「許認可付きの会社」として紹介されていても、実際には有効期限が切れているケースがあるため、許可証の写しと有効期限を必ず自分の目で確認してください。
銀行口座や信用情報の問題
休眠会社の法人口座は、金融機関のマネー・ローンダリング対策により、一定期間取引がないと凍結されることがあります。買収後にあらためて口座開設審査を受けても、休眠期間の長さや過去の取引実態が理由で審査が通らない場合があります。また、過去に延滞や不渡りの履歴がある会社では、信用情報に記録が残っていることもあるため、事前に金融機関との取引履歴を確認しておく必要があります。
「休眠会社の買取で節税」に潜む危険
繰越欠損金を持つ休眠会社を買い取り、欠損金の消却だけを目的に活用しようとする手法が語られることがあります。しかし、株主構成が大きく変わった欠損会社については、繰越欠損金の使用が制限される制度の対象になる場合があり、想定していた節税効果が得られないことがあります。買取の目的が節税に偏っている場合は、実行前に税理士へ制度の適用可否を確認してください。
「10万円で買える会社」「休眠会社が激安」といった案件が出回るのは、こうしたリスクを織り込んで価格が下がっているためです。安さの理由を確認せずに飛びつくと、簿外債務や許認可の失効といった問題を、価格差以上のコストで引き受けることになります。
安価な案件を検討する場合は、デューデリジェンスの費用を惜しまないことが結果的にコストを抑えます。弁護士や税理士への調査費用は数万円から数十万円程度かかりますが、買取後に発覚した簿外債務や追徴課税に比べれば小さな支出です。契約書に表明保証条項を入れ、事後に問題が発覚した場合の補償を定めておくことも、リスクを抑える手段のひとつです。
休眠会社の買取相場
相場の考え方
休眠会社は事業活動を行っていないため、将来の収益力をもとに価格を決める通常のM&Aとは考え方が異なります。休眠会社の買取価格は、主に純資産(資産から負債を差し引いた金額)と、許認可や繰越欠損金といった残存価値の合計で決まります。事業実体がない分、数十万円から数百万円の範囲に収まる案件が中心です。ただし、保有する許認可の希少性や、簿外債務の有無によって価格は大きく変わるため、個別の事情を無視した相場だけで判断することはできません。
「10万円で買える会社」の実態
検索で目にする「10万円で買える会社」の多くは、資産と負債がほぼ相殺され、純資産部分の評価額がわずかしかない案件です。中には、譲渡側が名義変更や登記の手間を省くために、実質的な対価をほとんど求めていないケースもあります。価格が低いこと自体は問題ではありませんが、その分デューデリジェンスを省略してよい理由にはなりません。安価な案件ほど、簿外債務や許認可の失効といった問題が価格に反映されていない可能性を疑う必要があります。
価格に影響する要因
| 要因 | 買取価格への影響 |
|---|---|
| 純資産(資産超過か債務超過か) | 資産超過であれば純資産額がベースになり価格は上がる。債務超過であれば無償に近い価格や、譲渡側が調整金を負担する場合もある |
| 許認可の保有状況 | 建設業や運送業など取得に時間がかかる許認可を持つ場合、その分価格が上振れしやすい |
| 繰越欠損金の残存額 | 将来の税負担を軽くできる可能性があるため評価要素になり得るが、株主変更による利用制限の対象になる場合は評価に反映されにくい |
| 業歴と登記や納税の整備状況 | 設立からの年数が長く、登記や納税の記録が整っているほど、買収後の口座開設や取引審査が通りやすく評価される |
| 未払税金や簿外債務の有無 | デューデリジェンスで判明すると価格から差し引かれるか、取引自体が見送られる |
建設業許可のような取得に時間のかかる許認可を持つ休眠会社であれば、許可の取得コストと期間を考慮すると、数百万円台の価格でも新規取得よりトータルのコストを抑えられる場合があります。反対に、許認可を持たず債務超過に近い休眠会社であれば、数万円から数十万円程度の対価で取引されることもあります。相場を見るときは、金額そのものより、その価格が何を根拠にしているかを確認してください。
通常の会社売買における価格の決まり方や算定方法は「M&Aの売却価格の決まり方と相場」で解説しています。
休眠会社買取の流れ
休眠会社の買取は、一般的なM&Aと同じく段階を踏んで進みます。休眠会社特有の確認事項は、各ステップの中で確認していきます。
買取までの6ステップ
1. 事前調査と選定
候補となる休眠会社を特定し、登記事項証明書や決算書など、公開されている範囲で初期の情報収集を行います。休眠期間の長さと、直近の申告状況をこの段階で把握します。
2. 意向書(LOI)の提出
買取に対する意思を示すため、想定価格やスケジュールを記載した意向書を提出します。売り手との間で、以降の交渉の前提を共有する段階です。
3. 詳細なデューデリジェンス
財務、法務、税務それぞれの側面から詳細に調査します。休眠会社の場合は、通常の財務DDに加えて、簿外債務の有無、許認可の有効期限、税務申告の空白期間の3点を重点的に確認します。調査は弁護士や税理士に個別依頼する方法と、M&A仲介会社経由でまとめて依頼する方法があり、案件の規模や予算に応じて選びます。
4. 契約条件の交渉と締結
デューデリジェンスの結果を踏まえて、価格、支払条件、表明保証の範囲を交渉し、契約を締結します。休眠会社では、発覚していないリスクに備えて、表明保証の範囲を広めに設定し、違反時の補償条項を具体的に定めておくことが多くなります。
5. クロージング
契約内容に基づき、代金の支払いと株式(または持分)の移転を行います。あわせて、代表者や本店所在地の変更登記を進めます。
6. 事業再開に向けた準備
税務署への異動届出書の提出、法人口座の開設や名義変更、必要に応じた許認可の更新手続きなどを行い、事業を再開できる状態を整えます。
準備しておきたい書類
- 意向書(LOI):交渉開始前の意思を示す書面
- 財務報告書:過去数年分の決算書と税務申告書
- 資産・負債リスト:保有資産と借入や未払金などの負債の明細
- 契約書類:取引先との継続契約や係争中の案件に関する書類
- 許認可証の写し:有効期限と承継可否を確認するための原本コピー
- 納税証明書:法人税や消費税、地方税それぞれの納付状況
休眠会社の買取における相談先
休眠会社の買取は、通常のM&A以上に法務や税務の確認事項が多いため、早い段階から専門家に相談することをおすすめします。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、買い手と売り手のマッチングから価格交渉、契約締結までのプロセスを支援します。休眠会社を含む案件情報を多く扱っているため、条件に合う候補を効率よく探せます。仲介会社によっては、休眠会社特有のリスク確認までは行わないこともあるため、法務や税務の詳細な調査は別途、専門家に依頼する前提で進めるのが安全です。
弁護士(法律顧問)
弁護士は、契約書の作成や、簿外債務や係争案件の有無に関する法的リスクの評価を担います。休眠会社が抱える可能性のある訴訟や保証債務の調査には、法律の専門知識が欠かせません。
税理士(財務・税務顧問)
税理士は、過去の申告状況の確認、繰越欠損金の取り扱い、買取後の税務リスクの見積もりを行います。「節税目的の買取」を検討している場合は特に、制度の適用可否を事前に確認してもらう必要があります。
案件の規模が小さく調査範囲が限られる場合は弁護士や税理士へ個別に依頼し、複数の候補から選びたい場合や交渉を任せたい場合はM&A仲介会社を窓口にする、という使い分けが実務では一般的です。
休眠会社の買取に関するよくある質問
休眠会社の買取相場はいくらですか?
休眠会社は事業活動が止まっているため、通常のM&Aのように将来の収益力で価格を決めるのではなく、純資産の額と、許認可や繰越欠損金といった残存価値の合計で価格が決まります。相場としては数十万円から数百万円の案件が中心ですが、保有する許認可の種類や簿外債務の有無によって大きく変わるため、個別の事情を確認したうえで判断する必要があります。
休眠会社を買取るメリットは何ですか?
メリットは主に4つです。短期間で事業を始められること、設立からの法人歴を引き継げること、建設業や運送業など取得に時間がかかる許認可を承継できる場合があること、そして新規設立にかかる法定費用を抑えられることです。
休眠会社を買取る際のリスクは何ですか?
代表的なリスクは、決算書に載っていない簿外債務の引き継ぎ、税務申告の空白期間による申告漏れ、許認可の失効の3つです。このほか、法人口座の凍結や信用情報の問題、繰越欠損金だけを目的にした買取への税制上の利用制限にも注意が必要です。
休眠会社の買取の流れは?
事前調査と選定、意向書(LOI)の提出、デューデリジェンス(財務・法務・税務)を経て契約条件を交渉・締結します。クロージング後は、税務署への異動届出や口座開設など事業再開に向けた準備を進めます。M&A仲介会社、弁護士、税理士への相談が推奨されます。
休眠会社の買取における相談先はどこがよいですか?
買い手と売り手のマッチングや交渉を支援するM&A仲介会社、簿外債務や係争案件など法的リスクを評価する弁護士、過去の申告状況や繰越欠損金の取り扱いを確認する税理士の3つが主な相談先です。それぞれ役割が異なるため、早い段階から並行して相談することをおすすめします。
【休眠会社を買取するには?】まとめ
休眠会社の買取は、新規設立より短い期間で事業を始められる一方、簿外債務や税務申告の空白期間、許認可の失効といった、休眠期間中に積み重なった問題を引き継ぐ取引でもあります。価格の安さだけで判断せず、純資産の状態と残存価値の中身を確認することが、買収後のトラブルを避ける前提になります。
M&A仲介会社、弁護士、税理士といった専門家への相談は、こうした確認を漏れなく進めるうえで役立ちます。本記事で紹介した価格の考え方と買取の流れを踏まえ、候補となる休眠会社を検討してみてください。
M&Aナビには、買い手として登録している企業が数多くあり、成約までの期間が短いことが特徴です。休眠会社に限らず、幅広い案件から検討したい場合はあわせてご活用ください。

株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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