後継者のいない会社を買う方法は?個人でも買う方法やメリットなどを解説
後継者不足に悩む中小企業は数多く存在し、この問題は深刻化しています。そんな状況で、「後継者のいない会社を買う方法」を知りたい方も多いのではないでしょうか。
この記事では、まず日本の後継者不足の現状を解説し、さらに後継者のいない会社の価格相場や、個人が会社を買う際の具体的な方法について詳しく説明します。
また、専門家の活用法や買収後のメリット、注意点についても触れ、皆さんが安心して会社買収に挑戦できるようサポートします。
目次
日本の後継者不在問題の現状
中小企業における後継者不足の現状とは?
日本の中小企業は、全国で約350万社ありますが、そのうち多くの企業が後継者不在問題に直面しています。経済産業省の調査によれば、中小企業経営者の平均年齢は60歳を超えており、今後10年間で約半数の経営者が引退を予定しています。
しかし、後継者が決まっている企業はわずか30%程度にとどまっており、多くの企業が後継者問題を抱えています。
後継者不在の背景
日本の多くの中小企業で後継者不在問題を抱えている状況ですが、その背景にはどのような要因があるのでしょうか。
- 晩婚化・少子化による子供の減少
- 中小企業経営の厳しさ
- 若年層の就労意識の変化
- 親族以外への事業承継のハードルの高さ
- 経営者の事業承継意識の低さ
それぞれについて見ていきましょう。
晩婚化・少子化による子供の減少
近年の晩婚化や少子化の影響で、経営者に子供がいない、または子供の数が少ない場合が増えています。
これが後継者不足の大きな原因となっています。
日本の中小企業では、親族内での承継が最も多い事業承継の手段です。
承継する子供・親族の数が減っていることで、親族内承継という最も有効な選択肢に大きな影響を与えているといえるでしょう。
中小企業経営の厳しさ
中小企業経営は必ずしも良い条件であるとは言えない場合もあります。
現在、後継者不在問題を抱えるオーナー経営者は、高度経済成長期やバブル経済の中で事業を立ち上げた方が多くいます。
その後は、「失われた30年」といわれるような長い経済低迷期が続き、中小企業経営の厳しい面が表層化している状況だといえるでしょう。
そのため、後継者候補となる子供がいてもオーナー経営者自身が事業を継がせる気になれないケースがあります。
若年層の就労意識の変化
事業承継問題の背景要因として、若年層の就労意識の変化も挙げられるでしょう。
将来が不透明な中小企業ではなく、大手企業に就職することを選ぶ傾向が顕著になっています。
大手企業は大都市圏に集まっているため、地方では若年層人口そのものが減少しており空洞化しています。
そもそも親族や社内に後継者候補となるような若手の人材がいない、という状況が起きています。
親族以外への事業承継のハードルの高さ
親族内での事業承継が主な選択肢だった日本においては、親族以外の人間に事業承継を行う際のハードルがあります。
特に、資金面や税制面でのハードルがあり、政策としての改善が求められる部分です。
M&Aによる第三者への承継が比較的取り組み易い手段として、活発化してきました。
今後も有効な選択肢として活用されることが見込まれるでしょう。
経営者の事業承継意識の低さ
経営者自身が事業承継の重要性を認識しておらず、後継者育成や承継対策が遅れがちになっています。
従業員の就労環境への配慮や地域経済のインパクトなど、様々な影響を考えてもらうような意識醸成が必要です。
このように、後継者不足は中小企業はもちろん、地域経済や社会生活まで影響を及ぼすため、喫緊の課題となっています。
中小企業経営者、行政、金融機関、地域住民などあらゆる関係者が連携し、対策を講じていく必要があります。
政府や自治体の取り組みと後継者支援策
後継者不在問題に関しては、政府や自治体も社会課題として捉えており、支援策や取り組みを活発に行っています。
主な例を見ていきましょう。
経営者に対する税制優遇
政府は、後継者不足対策の一環として、中小企業の経営者に対する税制優遇措置を講じています。事業承継への課税負担を軽減することで、後継者の確保を後押ししています。
事業承継に関するセミナー開催
国や自治体は、中小企業の経営者を対象とした事業承継セミナーを開催しています。
事業承継の重要性や具体的な手続き方法について解説し、経営者の意識啓発を図っています。
人材紹介・マッチングサポート
後継者不在の企業に対して、国や自治体が後継者候補者の人材を紹介したり、マッチングのサポートを行うケースもあります。
事業承継を円滑に進めるための支援です。
このように様々な支援策が講じられていますが、一過性のものにとどまらず、個別企業の実情に合わせた継続的な支援体制の整備が求められています。
後継者のいない会社の価格相場
後継者不在の中小企業を買収する際、適正な価格を知ることが重要です。企業の価値を正しく評価し、過度に高値で買わないよう注意が必要です。
後継者のいない会社の価値評価ポイント
後継者不在企業の価値を評価する際のポイントは、以下の通りです。
- 収益力 – 直近の売上高や利益などの収支状況を確認する
- 成長性 – 業績推移や今後の見通しなどから企業の将来性を判断する
- 資産内容 – 土地・建物などの有形固定資産や特許権などの知的財産の有無
- 人材力 – 従業員の専門性や経験値、企業文化や技術の承継体制など
業種別に見る後継者不在企業の相場
製造業
製造業は工場や機械設備など実物資産が多いため、後継者不在企業の買収価格は比較的高値となる傾向にあります。特に一定の地位と実績のある企業では、ブランド価値や技術力なども評価され、高値がつく傾向にあります。
建設業
建設業も製造業同様、重機や建設現場などの実物資産が多いことから、後継者不在企業の買収価格は平均的に高めです。さらに、建設業許可などの有資格者の確保が重要視されるため、人材の質や技術力なども買収価格に影響を与えます。
小売・卸売業
小売・卸売業の場合、店舗や在庫品が主な資産となります。立地条件や商品特性によって価格は変動しますが、全体としては実物資産が比較的少ないため、製造業や建設業ほど高額にはならない傾向にあります。
サービス業
サービス業は人的資産が主な価値を占めるため、後継者不在企業の買収価格は比較的低めとなります。ただし、優秀な人材や技術力、ブランド力があれば一定の価値は認められます。業種によっても価格は変動します。
IT・ソフトウェア業
IT・ソフトウェア業では無形資産である特許権や技術力が重視されます。優れた技術を持つ企業であれば高値となる可能性がありますが、技術の陳腐化リスクも考慮する必要があります。
市場の動向
M&A市場の活況と価格高止まり
企業買収(M&A)市場が活発な時期には、後継者不在企業の買収需要が高まります。買収企業間での競争が発生することで、売り手市場が生まれ、売買価格が高止まりする傾向にあります。良い条件で売却できるチャンスでもあります。
景気後退期の価格下落
景気後退期には企業収益が悪化し、M&A意欲は低下します。買収需要が減少すれば、売り手が不利な状況に陥ります。そのため、後継者不在企業の売買価格は相対的に下がる可能性が高くなります。
業種や企業特性による価格変動
景気動向に加えて業種特性や企業の収益力なども売買価格に影響を与えます。例えば、景気後退でも一定の収益が見込める優良企業であれば、価格下落は緩やかになる傾向にあります。逆に業績不振企業は大幅な価格下落に見舞われるリスクがあります。
このように、後継者不在企業の売買価格は市場の需給動向によって大きく変動します。売り手サイドとしては、企業価値を正しく評価した上で、市場動向を注視し、適切なタイミングで売買を行うことが重要です。
個人でも後継者のいない会社を買うことは可能
中小企業の後継者不足が深刻な問題となる中、会社買収は個人が検討できる選択肢の一つです。企業経営の経験がない個人でも、一定の条件さえ整えば、後継者のいない会社を買収することは可能です。
個人が後継者のいない会社を買う際の流れ
個人が後継者不在の会社を買収する具体的な手順は以下の通りです。
- 買収目的や条件を明確化する
- M&A仲介業者や専門家に相談し、案件を探す
- 売買価格の交渉と資金調達を行う
- デューデリジェンス(詳細調査)を実施する
- 株式や事業譲渡契約の締結
- 事業承継後の経営体制を構築する
詳しくは次の章で解説しています。
成功事例から学ぶ個人による会社買収のポイント
実際に個人が後継者不在の会社を買収し、成功した事例から学べるポイントは以下の通りです。
- 買収企業との相性と将来ビジョンの共有が重要
- 専門家に適切なアドバイスを受けること
- 買収後の経営に着実に取り組むこと
- 従業員とのコミュニケーションを密に取ること
後継者のいない会社を買う方法
ステップ1: 買収目的と条件を明確化
まず自分が会社を買収する目的や条件を明確にすることが重要です。事業継続を目指すのか、新規事業を立ち上げるのか。業種、業界、規模、立地条件など、求める要件をはっきりさせましょう。
ステップ2: M&A仲介業者や専門家に相談
適切な案件を見つけるため、M&A仲介業者や専門家に相談しましょう。自分の条件にマッチした後継者不在企業の情報を得られます。事業の将来性や価値などの評価も専門家に依頼できます。
ステップ3: 売買価格の交渉と資金調達
売主と売買価格について交渉を行います。企業の正確な価値評価をもとに適正価格を提示し、合意に至ります。資金調達についても、自己資金以外に金融機関の融資や各種支援制度の活用などを検討します。
ステップ4: デューデリジェンス(詳細調査)の実施
買収を決める前に、対象企業の財務状況、法的リスク、債務状況など、あらゆる側面から徹底した調査(デューデリジェンス)を実施します。企業の実態を隈なく把握することが重要です。
ステップ5: 株式・事業譲渡契約の締結
デューデリジェンスで問題がなければ、株式や事業の譲渡契約を締結します。契約内容をしっかりと確認し、将来のトラブルを未然に防ぐ対策が必要です。
ステップ6: 事業承継後の経営体制の構築
無事に事業を引き継げば、新たな経営体制を構築する段階に入ります。従業員への説明や業務の引き継ぎ、新規事業の立ち上げなど、着実に作業を進める必要があります。
専門家の活用方法とメリット
M&A仲介業者の活用
M&A(企業買収)の専門家であるM&A仲介業者を活用することで、適切な買収候補企業の情報を効率的に入手できます。企業の売買実績が豊富なM&A仲介業者であれば、条件に合った案件をスムーズに探すことができます。
M&A専門コンサルタントの助言
M&Aの専門家であるコンサルタントからは、買収価格の算定や最適なスキームの立案などの助言が受けられます。企業の実態把握が重要なデューデリジェンスの段階でも、専門家の的確な指導を仰ぐことができます。
税理士や公認会計士のサポート
税理士や公認会計士の専門家は、買収に伴う税務面や会計処理面でのサポートに活躍します。節税対策や企業評価の妥当性確認など、適切なアドバイスが受けられます。
このように専門家を上手く活用することで、企業買収に伴うさまざまなリスクを回避し、スムーズな買収を実現できます。専門知識が不足する個人にとって、専門家の力は非常に大きな助けとなります。
会社の価値評価と交渉の進め方
適正価格の算定が重要
後継者不在企業の買収を検討する際、まず対象企業の適正な価値を評価することが不可欠です。過大な買収価格では投資が回収できず、赤字に陥るリスクがあります。一方、過小評価では売主が納得せず、交渉が難航する可能性もあります。
企業価値評価の方法
企業価値を評価する方法は複数あります。代表的なものとして、以下が挙げられます。
- ディスカウンテッドキャッシュフローモデル(DCF)
- 比較売上倍率法
- 純資産価値法
このような複数の評価方式を用いて企業の業種特性や成長可能性などを勘案するのが一般的です。
詳しくはこちらの記事で解説しています。
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交渉の準備と価格提示
企業価値評価後は、売主との価格交渉の準備に入ります。自社の算定価格だけでなく、売主の期待価格を慎重に確認することが大切です。売主の要求価格が高すぎる場合は、根拠を示して適正価格の水準を主張し、交渉に臨みます。
実務的な価格交渉のポイント
価格交渉では以下のようなポイントに留意しましょう。
- 感情的にならず、冷静に議論すること
- 企業価値の論拠を明確に示すこと
- 最後は双方が折り合える線を見出すこと
専門家の助言を求めながら、慎重に交渉を重ね、合意に至ることが賢明です。
後継者のいない会社を買う3つのメリット
後継者のいない会社を買収することには、さまざまなメリットがあります。新規事業を立ち上げるよりも、既存の経営資源を活用できることが大きな利点となります。ここでは主な3つのメリットを解説します。
既存事業を活用してのスムーズなスタート
後継者のいない会社を買収すれば、既に軌道に乗った事業を引き継ぐことができます。
売上や利益を生み出す基盤が整っているため、新規事業の立ち上げよりもスムーズに事業をスタートできます。
更に既存の営業拠点や生産設備なども引き継げるため、初期投資が最小限で済む可能性があります。
経験豊富な従業員の引き継ぎ
後継者不在の企業は人材面でも大きなメリットがあります。
長年勤務している優秀な従業員や技術者、ノウハウを持った職人などを引き継げるからです。
彼らの経験や技能は会社の財産であり、スムーズな事業継続に欠かせない存在です。
新たに従業員を採用・育成するよりも、企業に馴染んだベテラン従業員を確保できることは大きな強みとなります。
既存の顧客基盤とブランド力の継承
後継者のいない企業には、すでに一定の顧客基盤があります。
地域に根ざした営業網やブランド力があれば、それらを引き継ぐことができます。
新規事業の場合、顧客を1人ずつ開拓する必要がありますが、既存顧客は即戦力となり、事業の早期軌道乗せに大いに貢献します。
場合によっては有力な取引先や優良顧客を引き継げる可能性もあります。
後継者のいない会社を買う際の3つの注意点
後継者不在の会社を買収する際には、さまざまなメリットがある反面、しっかりと注意すべき点もあります。
検討が不十分だと思わぬリスクに見舞われる可能性があるためです。
ここでは買収時の主な3つの注意点について解説します。
買収前のデューデリジェンスの重要性
会社を買収する前に、対象企業の実態を徹底的に調査する「デューデリジェンス」を行うことが不可欠です。
財務状況、債務の有無、法的リスクなど、隠れたリスクがないか精査しなければなりません。
この作業を怠ると、買収後に予期せぬ負債や問題が発覚し、多額の損失を被る恐れがあります。
デューデリジェンスは外部の専門家に依頼するのが賢明です。
契約時のリスク管理と重要なポイント
買収契約を締結する際も、細心の注意を払う必要があります。
まずは契約内容を綿密に確認し、責任範囲や債務引き継ぎ条件、知的財産の取り扱いなどに不利な点がないかをチェックしましょう。
また、買収後のトラブルを未然に防ぐため、対策条項を入れることも重要です。
契約締結には法務の専門家に相談し、リスク回避に努めることが賢明です。
買収後の経営課題とその対策
無事に会社を買収できても、そこから本格的な経営が始まります。
事業の立て直しが必要な場合もあれば、新規事業の立ち上げなど新たな課題に直面するかもしれません。
この局面で重要なのは、従業員とのコミュニケーションを密に取り、一丸となって課題解決に取り組むことです。
場合によっては外部の専門家の支援を求めることも有効な対策です。
買収後の準備と着実な実行が成否を分けます。
まとめ
この記事では、まず日本の後継者不足の現状を解説し、さらに後継者のいない会社の価格相場や、個人が会社を買う際の具体的な方法について詳しく解説しました。
後継者のいない会社を買うことの具体的なステップやメリットが理解し、自信を持って次の一歩を踏み出せる手助けとなれば幸いです。
M&Aナビは、売り手・買い手ともにM&Aにかかる手数料などを完全無料でご利用いただけます。買い手となりうる企業が数多く登録されており、成約までの期間が短いのも特徴です。
株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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