会社を買う資金の調達方法|公庫融資・銀行融資・補助金の使い分けを解説

2026年08月20日

会社を買う資金の調達方法を、日本政策金融公庫や信用保証協会付き融資、民間銀行、事業承継・M&A補助金の使い分けで解説するコラム記事のアイキャッチ

「会社を買いたいが、自己資金だけでは足りない」。この壁に最初にぶつかる買い手は少なくありません。会社を買う資金は、譲渡対価だけでなく、専門家費用や当面の運転資金まで含めて計画する必要があります。

調達の選択肢は自己資金だけではありません。日本政策金融公庫、信用保証協会付きの融資、民間金融機関のプロパー融資、事業承継・M&A補助金、そして売り手との条件交渉。それぞれ向いている規模や場面が異なり、組み合わせて使うのが実務では一般的です。公庫と信用保証協会付き融資、民間プロパー融資を横並びで比較した情報はまだ少なく、多くの解説は制度ごとに個別に説明されるにとどまります。この記事では、それぞれの制度の位置づけと、どう組み合わせるかの考え方を整理します。制度の固有の金額や締切は変動が速いため、この記事では断定せず、公式情報への確認を前提に進めます。

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会社を買う資金はいくら必要か

会社を買う資金を考えるとき、譲渡対価の金額だけを見てしまいがちですが、実際に用意すべき総額はそれより大きくなります。目安になるのは、次の3つの層です。

  • 買収対価そのもの(株式や事業を取得する対価)
  • デューデリジェンス(DD)費用や仲介手数料などの専門家費用
  • 成約後、事業を軌道に乗せるまでの当面の運転資金

M&Aナビの成約案件では、売り手の希望譲渡価格の中央値は600万円です(業種別の価格相場はこちら)。ただし、この金額を用意すれば買収が完了するわけではありません。専門家費用と当面の運転資金を加えると、実際に必要な総額は希望譲渡価格の1.3〜1.5倍程度を見込んでおくと、資金計画に無理が出にくくなります。買収にかかる費用の内訳は会社を買う完全ガイドで項目ごとに整理しています。

当面の運転資金を軽視すると、成約後に資金繰りが苦しくなることがあります。売り手個人の人脈や信用で取引が続いていた会社では、経営者の交代をきっかけに一部の取引先が離れ、引き継ぎ直後の売上が一時的に落ちる場合があります。譲渡対価を用意することだけに意識が向くと、この落ち込みを吸収する余力がなくなり、事業の立て直しどころではなくなってしまいます。資金の内訳を先に把握しておくと、自己資金だけで足りるのか、融資や補助金を組み合わせる必要があるのかを、早い段階で判断できます。

専門家費用は、買収の規模が大きくなるほど金額も膨らむ傾向があります。デューデリジェンスの調査範囲を広げれば費用は増え、案件が複雑であるほど法務や会計それぞれの専門家に依頼する場面も増えます。予算に余裕がない場合は、DDの範囲をどこまで絞れるか仲介会社と相談しながら決めることも、資金計画を現実的なものにする一つの方法です。

買収資金の調達手段は何があるか

買収資金の調達手段は、大きく5つに分けられます。それぞれの向き不向きを一覧にしました。

調達手段 向いている場面 注意点
自己資金 数百万円規模の小規模な買収。個人の独立目的の買収 全額をまかなうと、成約後の運転資金が手薄になりやすい
日本政策金融公庫の融資 個人の小規模な事業承継。実績のない新規参入業種の買収 事業計画の実現性と本人の経験が審査で確認される
信用保証協会付き融資 法人による買収全般。既存の取引実績がある場合 保証料が別途かかる。保証枠には限りがある
民間金融機関のプロパー融資 財務内容が良好な法人。買収対象に担保になる資産がある場合 保証協会付きより審査基準が厳しくなりやすい
事業承継・M&A補助金 仲介手数料やDD費用など、M&Aにかかる経費の負担を軽くしたい場合 対象は経費の一部で、買収対価そのものには使えない
売り手との分割払い等の条件交渉 売り手が早期の引退より安定した引き継ぎを重視している場合 売り手の同意が前提。交渉の余地があるかは案件による

この5つは排他的な選択肢ではありません。自己資金を頭金にして公庫や保証協会付き融資を組み、経費の一部を補助金で補うというように、複数を組み合わせて総額を積み上げるのが実務での進め方です。

なぜ複数の手段を組み合わせる買い手が多いのか

一つの調達手段だけで総額をまかなおうとすると、審査に通らなかった場合に代わりの案がなくなります。自己資金と融資、融資と補助金というように複数の手段を並行して検討しておくと、どれか一つが計画どおりに進まなかったときでも、別の手段で補える余地が残ります。買収資金の計画は、一本道でなく複線で考えておくほうが安全です。

自己資金だけで足りるか

予算数百万円台の小規模な買収であれば、自己資金だけで完結させる買い手も少なくありません。ただし、譲渡対価をすべて自己資金でまかなうと、専門家費用や運転資金に回せる余力が残らなくなることがあります。自己資金を頭金として位置づけ、残りを融資でカバーする組み立てにしておくと、成約後の資金繰りに余裕が生まれます。

売り手との分割払いは交渉できるか

譲渡対価の一部を分割で支払う形を、売り手との交渉で実現できる場合があります。売り手が早期に一括で受け取ることより、事業と従業員が安定して引き継がれることを重視しているケースでは、分割払いに応じてもらえる余地が生まれます。ただし、これは売り手の同意があって初めて成立する条件であり、すべての案件で使える手段ではありません。仲介会社が入っている場合は、早い段階で相談しておくと、交渉の進め方を整理しやすくなります。

日本政策金融公庫を使う

個人が会社を買う場合、まず検討の対象になりやすいのが日本政策金融公庫です。公庫には、事業承継やM&Aによる第三者への引き継ぎを対象にした事業承継・集約・活性化支援資金という制度があります。会社員から独立して小規模な会社を買う個人でも、この制度を利用できる場合があります。

審査で確認されるのは、一般的に事業計画の実現性と、買い手本人の経験です。買収先の業種で働いた経験がある、あるいは経営に関わった経験があると、計画の実現性を説明しやすくなります。未経験の業種に挑戦する場合は、引き継ぎ後の運営体制をどう組むかを事業計画に具体的に落とし込んでおくことが重要です。自己資金をどの程度用意しているかも、計画の本気度を示す材料として見られることが一般的です。

保証人や担保についての考え方は制度や案件ごとに異なり、必ず必要というわけではありません。買収対象の資産状況や、買い手自身の他の借入状況によっても扱いは変わるため、早い段階で担当窓口に相談し、自分のケースではどう扱われるかを確認しておくと準備が進めやすくなります。

制度の対象となる要件や利用できる範囲は、公庫の支店や公式サイトで確認するのが確実です。融資が受けられるかどうかは案件ごとの審査によるため、この記事では可否や金額を断定しません。

信用保証協会付き融資とプロパー融資はどう違うか

法人が会社を買う場合、一般的な調達手段になるのが金融機関からの融資です。大きく分けて、信用保証協会が保証を付ける融資と、金融機関が自らの判断だけで貸し付けるプロパー融資の2種類があります。

信用保証協会付き融資は、保証協会が一部を保証することで金融機関のリスクが下がるため、実績の浅い法人でも利用できる可能性が広がります。そのぶん保証料が別途発生し、利用できる保証枠にも限りがあります。プロパー融資は、金融機関が全額のリスクを負うため、財務内容や担保の有無によって審査基準は厳しくなりやすくなります。買収対象に不動産や設備などの資産があれば、担保として評価されやすく、融資が組みやすくなる傾向があります。

公庫融資と保証協会付き融資、プロパー融資は、審査でリスクを負う主体が異なります。どこにリスクの重心があるかを整理すると、自社がどの制度を検討すべきかが見えてきます。

制度 審査リスクの主な所在 主に向いている買い手
日本政策金融公庫の融資 公庫が単独で審査・融資を実行する 個人、または実績の浅い小規模な承継
信用保証協会付き融資 保証協会と金融機関でリスクを分担する 取引実績がまだ浅い法人、担保が乏しい法人
民間プロパー融資 金融機関が単独でリスクを負う 財務内容が良好な法人、担保資産がある買収対象

実務では、買収の計画が固まる前の早い段階から、既存の取引金融機関に相談しておくことをおすすめします。融資の実行には審査の期間が必要で、成約直前になって初めて相談すると、スケジュールに間に合わない場合があります。すでに事業融資の実績がある金融機関であれば、自社の財務状況を一から説明する手間も省けます。

相談の場では何を聞かれるか

金融機関に買収の相談を持ちかけると、買収の目的や、買収対象の事業を引き継いだ後の運営体制について質問されるのが一般的です。具体的には、次のような点を聞かれることが多くあります。

  • 買収の目的(新規事業への参入か、既存事業の拡大か、人材確保かなど)
  • 買収対象の事業を誰が運営していくか(自社の既存人材か、売り手側の従業員を引き継ぐか)
  • 買収後、既存事業と買収対象事業をどう連携させるか
  • 返済の原資をどの事業から見込んでいるか

これらは事業計画書の内容と重なる部分が大きい質問です。事前に整理しておくと、面談の場で答えに詰まることが少なくなります。

事業承継・M&A補助金を使う

事業承継・M&A補助金には、専門家活用枠をはじめとした複数の枠が用意されています。専門家活用枠は、M&Aで買い手・売り手それぞれが仲介会社やFA、弁護士などの専門家を活用する際の費用を補助する枠で、買い手側にも利用できる類型があります。

ここで押さえておきたいのは、補助の対象が経費であり、買収対価そのものではないという点です。仲介手数料やデューデリジェンス費用、セカンドオピニオン費用などが対象になり得ますが、譲渡対価に充てる資金を補うものではありません。買収資金の総額を考えるときは、補助金は、専門家費用の負担を軽くする手段として位置づけるのが実務的な考え方です。融資で対価をまかない、補助金で専門家費用の一部を軽くするというように、役割を分けて考えると計画が組みやすくなります。

採択されたとしても、その時点で資金が手元に入るわけではありません。多くの場合、事業を実施した後に実績報告を提出し、内容が確認されてから補助金が支払われる仕組みです。買収の資金繰りを考えるときは、補助金は「経費を支払った後で一部が戻ってくるもの」として位置づけておくと、計画にずれが生じにくくなります。

補助上限額や補助率、対象経費の詳細は、公募回ごとに要領が見直されます。この記事では金額や締切を断定しないため、最新の内容は必ず公式サイトの公募要領で確認してください。制度の4つの枠と申請の流れは、以下の記事で詳しく解説しています。

▶ 資金計画も含めた買収のご相談は、案件を探しながら並行して進められます。M&A案件一覧から気になる案件を見てみてください。

資金調達をどう組み合わせるか

実際にどう組み合わせるのか、規模の異なる2つの仮想例で考えます。数字はあくまで一般化した例で、実在の案件や審査結果を示すものではありません。

個人が1,000万円の会社を買う場合

会社員から独立して、飲食店や小規模なサービス業を買うケースを想定します。自己資金で数百万円を用意し、残りを日本政策金融公庫の融資でまかなう構成が、個人の小規模な承継ではよく見られる型です。これに加えて、買収成立後しばらくの運転資金を別枠で確保しておくと、引き継ぎ直後の資金繰りに余裕が生まれます。DD費用や仲介手数料といった専門家費用も、譲渡対価とは別に見込んでおく必要があります。

資金の内訳 位置づけ
自己資金 頭金にあたる部分。事業計画の本気度を示す材料にもなる
日本政策金融公庫の融資 自己資金で足りない残りの大部分をまかなう
当面の運転資金 引き継ぎ直後の売上変動に備えて別枠で確保しておく

この構成が選ばれやすいのは、公庫の融資が個人の小規模な承継にも門戸を開いている制度だからです。信用保証協会付き融資やプロパー融資は法人取引を前提とした審査になりやすく、個人が独立目的で申し込む場合は、まず公庫の窓口に相談するのが現実的な入り口になります。

法人が5,000万円の会社を買う場合

既存事業を持つ法人が、新規事業への参入や人材確保を目的に会社を買うケースを想定します。自己資金を頭金にしたうえで、信用保証協会付き融資やプロパー融資で残りの大部分をまかなう構成が中心になります。仲介手数料やDD費用については、事業承継・M&A補助金の専門家活用枠が使える場合があり、対象経費に該当すれば自己負担を抑えられる可能性があります。ただし、この場合も補助金が充当できるのは経費部分に限られ、融資と補助金の申請時期がずれることも考慮してスケジュールを組む必要があります。

資金の内訳 位置づけ
自己資金 頭金にあたる部分
信用保証協会付き融資/プロパー融資 買収対価の残りをまかなう中心的な調達手段
事業承継・M&A補助金 仲介手数料やDD費用など、経費部分の負担を軽くする(該当する場合)

この規模になると、買収対価だけでなく専門家費用も金額が大きくなりやすく、経費を補助金でどれだけ軽くできるかが資金計画に与える影響も相対的に大きくなります。融資の審査と補助金の申請は、それぞれ別のスケジュールで進む点に注意が必要です。並行して準備を進めておくと、成約までの期間を圧迫しにくくなります。

融資審査に向けて何を準備するか

金融機関に融資を相談する際、まず求められるのが事業計画書です。買収後にどう事業を運営し、収益を維持・拡大していくのかを、数値を交えて説明できる状態にしておく必要があります。

あわせて、買収対象企業の決算書3期分の提出を求められるのが一般的です。過去の業績の推移から、事業の安定性や成長性が確認されます。デューデリジェンスの結果が出ている段階であれば、その内容も金融機関との相談材料になります。簿外債務や偶発債務の有無が確認できていると、金融機関側も審査を進めやすくなります。

  • 買収後の事業計画書(収益・運営体制の見通しを数値で示したもの)
  • 買収対象企業の決算書3期分
  • デューデリジェンスの結果(実施済みの場合)
  • 資金使途の内訳(対価と専門家費用、運転資金を分けたもの)

相談するタイミングとして目安になるのは、意向表明書(LOI)の提出前後です。この段階であれば、買収の条件がある程度固まっており、金融機関も具体的な検討に入りやすくなります。あまり早い段階では計画の実現性を説明しづらく、逆に成約直前まで相談を先送りすると、審査の時間が確保できなくなります。

デューデリジェンスがまだ終わっていない段階で相談すること自体は問題ありません。その場合は、現時点で分かっている事業の概要と、DDで何を確認する予定かを伝えたうえで、結果が出た段階で改めて詳細を共有する進め方になります。金融機関には、決まっている部分と検討中の部分を分けて説明できるようにしておくと、話が進みやすくなります。

よくある質問

会社を買うときに融資は使えますか?

日本政策金融公庫や信用保証協会付き融資などを使える場合があります。ただし審査は事業計画の実現性や担保・保証人の状況によって判断されるため、必ず借りられるわけではありません。自己資金と組み合わせて計画するのが実務では一般的で、早い段階で金融機関に相談しておくことが実務上のポイントです。

事業承継・M&A補助金で買収資金は賄えますか?

事業承継・M&A補助金は、仲介手数料やデューデリジェンス費用などM&Aにかかる経費の一部を補助する制度です。譲渡対価そのものに充当できる制度ではないため、買収資金の全体を補うものではありません。制度の詳細は事業承継・M&A補助金とはの記事で確認できます。

自己資金はいくら必要ですか?

自己資金の目安は、買収の規模や組み合わせる調達方法によって変わるため一律には言えません。譲渡対価に加えて、DD費用などの専門家費用と当面の運転資金を含めた総額を見込んでおくと、資金計画に無理が出にくくなります。融資や補助金でまかなえる部分と、自己資金で用意すべき部分を分けて考えると整理しやすくなります。

個人でも公庫の融資を受けられますか?

日本政策金融公庫には、個人による小規模な事業承継でも利用できる制度があります。審査では事業計画の実現性や本人の経験が確認されるのが一般的です。詳しい要件は最寄りの支店や公式サイトで確認してください。

資金調達とM&A仲介会社への相談は同時に進める

買収資金の調達と、仲介会社やアドバイザーへの相談は、別々に進めるものではありません。案件が固まる前から資金計画の見通しを持っておくと、意向表明書の提出後、スムーズに金融機関への相談に移れます。逆に、資金の目処が立たないまま条件交渉だけを進めてしまうと、いざ融資が組めずに話が流れてしまうこともあります。

仲介会社やアドバイザーは、過去に扱った案件でどのような資金調達の組み合わせが実現したかを知っていることがあります。自社の状況に近い進め方を聞きながら計画を立てると、金融機関に相談する前の準備がしやすくなります。案件を探す段階から、資金計画について並行して相談しておくことをおすすめします。

資金の目処が立っていない段階でも、まずは希望する予算に近い案件を見ながら、譲渡対価に専門家費用と運転資金を加えた総額感をつかんでおくと、その後の金融機関への相談もスムーズになります。案件の相場観と資金計画は、切り離さずに並行して詰めていくものです。

まとめ

会社を買う資金は、譲渡対価だけでなく専門家費用と当面の運転資金まで含めて計画する必要があります。自己資金だけで足りない場合は、日本政策金融公庫や信用保証協会付き融資、民間プロパー融資、事業承継・M&A補助金を組み合わせるのが実務での進め方です。補助金は経費の一部を補う制度であり、買収対価そのものの調達手段ではない点を押さえておくと、計画にずれが生じにくくなります。

融資や補助金の審査は、事業計画の実現性が土台になります。まずは買いたい会社の規模感をつかむところから、資金計画を具体化していくのも一つの進め方です。

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