IM(企業概要書)の読み方|買い手が疑うべき財務・事業のチェックポイント

2026年08月20日

IM(企業概要書)の読み方。買い手が疑うべき財務と事業のチェックポイントを解説するコラム記事のアイキャッチ

M&Aの買収を検討すると、早い段階でIM(企業概要書)という資料を受け取ります。事業内容や財務情報がまとまった数十ページの資料で、対象企業を知る最初の手がかりになります。ここで見落としやすいのが、IMを作成するのは売り手側だという点です。買い手にとって確認したい情報が、意図的でなくても薄まって書かれることがあります。

IMの読み方を解説する記事の多くは、売り手や仲介会社の視点でまとめ方を説明しています。買い手がどこを疑い、何を確認すべきかという視点でIMを読み解いた解説は、意外なほど見当たりません。IMに書かれた数字の裏には、良く見える理由と、確認しないと見えてこない理由の両方があります。

個人や中小企業が買収を検討する場合、案件ごとに専門のアドバイザーを毎回入れられるとは限りません。IMを自分の目で読み解く力は、そのまま交渉の土台になります。

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IMとは何か|ノンネームシートを経てIMが開示される

IM(企業概要書、Information Memorandumの略)は、譲渡対象企業の詳細情報をまとめた資料です。買い手候補は、まず社名を伏せたノンネームシートで事業の概要を確認し、興味を持てば秘密保持契約(NDA)を締結します。NDA締結後に開示されるのが、社名や具体的な財務情報を含むIMです。上場企業のように誰でも見られる開示情報とは違い、IMは候補として選ばれた相手にのみ渡される非公開の資料です。

ノンネームシートに関心を示してからIMが開示されるまでの期間は、案件や仲介会社によって差がありますが、NDAの締結手続きが完了してから数日以内に送付されるのが一般的です。IMは電子データで送られることが多く、印刷や共有の範囲について仲介会社から指示がある場合は、その指示に従います。

IMには何が記載されているか

  • 事業内容と沿革
  • 組織図と従業員構成
  • 直近3期分の財務諸表(貸借対照表と損益計算書)
  • 主要な取引先や仕入先
  • 譲渡の背景と希望条件(価格やスキーム、希望時期)

ページ数や記載の粒度は仲介会社や案件の規模によって差がありますが、共通しているのは、財務諸表が複数期分載っている点です。単年の数字だけでは、利益が本業の実力で積み上がったのか、一時的な要因によるものなのかを見分けられません。3期分を並べて増減の理由を確認することが、IMを読む出発点になります。

法人が買い手になる場合、IMを読む担当を最初から決めておくと後の確認がスムーズです。財務パートは経理担当者や顧問税理士、事業パートは実際に統合後の運営を担う部署の責任者が読むというように役割を分けておくと、疑問点を出す段階から具体的な質問が集まりやすくなります。個人が買い手の場合も、財務パートだけでも税理士に目を通してもらう方法があります。

IMは売り手側が作る資料だと踏まえて読む

IMを作成するのは、売り手企業か、売り手から依頼を受けた仲介会社です。仲介会社は成約時に手数料を受け取る立場のため、事業の魅力が伝わるまとめ方になりやすい構造があります。譲渡を成立させるために事業の価値を伝える資料だという性格を持ちます。

数字そのものが虚偽であることは多くありません。ただし、良く見える指標が前面に出て、確認が必要な項目は補足資料に回っている、という書かれ方は珍しくありません。たとえば直近期の利益が一時的な取引で押し上げられていても、本文では継続的な成長として説明され、注記でようやく一時要因に触れられている、という書かれ方が典型です。

これは仲介会社の姿勢に問題があるという意味ではありません。仲介会社は売り手から依頼を受けて資料を作成する立場である以上、自然に売り手寄りの視点が入ります。買い手はその前提を理解したうえで、自分の目で数字を確認する姿勢を持てばよいだけです。

この前提に立つと、IMの読み方は変わります。記載内容は、次に何を確認すべきかの仮説を立てるための材料として使うのが実務的です。次の財務パートのチェックポイントは、その仮説を立てる際の具体的な着眼点です。

IMの財務パートで買い手は何を疑うべきか

IMに載っている貸借対照表と損益計算書は、会社が申告している数字です。数字の大小そのものより、業種や事業規模に対して不自然な水準になっていないかを見ます。次の7つは、財務諸表を読むときに買い手側が確認しておきたい着眼点です。

現預金と借入金のバランスが取れているか

現預金の残高と借入金の残高を差し引きして、実質的にどれだけの資金余力があるかを見ます。現預金が月商の1ヶ月分を下回る会社は、買収後すぐに運転資金の手当てが必要になる可能性があります。借入金が大きい場合は、金融機関ごとの残高と返済条件、経営者保証の有無を確認します。株式譲渡で会社ごと引き継ぐ場合は、借入金の扱いと経営者保証の解除が、そのまま買い手側の交渉論点になります。

売掛金が月商に対して大きくないか

売掛金は、まだ入金されていない売上です。金額が大きいこと自体は必ずしも問題ではありませんが、月商に対して極端に大きい場合は、回収できない債権が混ざっている可能性を疑います。例えば月商1,000万円の会社で売掛金が3,000万円あれば、平均で3ヶ月分の売上が未回収の状態です。業種ごとの一般的な支払いサイトと照らして長すぎないか、得意先ごとの内訳と入金実績を確認します。買収後にこの売掛金の一部が回収不能と判明すれば、その分だけ引き継いだ資産の価値が目減りします。回収不能と判明した分は、譲渡価格から控除するよう求めるのが、価格交渉での一般的な対応です。

棚卸資産が2ヶ月分を超えていないか

棚卸資産は、まだ売れていない商品や原材料です。仕入高や売上原価に対して棚卸資産が大きい場合、売れない在庫が資産としてそのまま残っている可能性があります。例えば仕入高が月500万円の小売業で棚卸資産が2,000万円あれば、4ヶ月分に相当します。在庫の水増しで利益を調整している兆候の一つでもあるため、商品ごとの在庫回転期間と、直近の実地棚卸の結果を確認します。実際に売れる在庫がどれだけあるかを知らずに買収すると、想定していた在庫の価値と実態がずれます。不良在庫と判明した分は、実態純資産の算定から除外して価格交渉に反映させます。

役員貸付金や役員借入金がないか

会社が役員に貸し付けているお金、または役員から会社が借りているお金は、貸借対照表に載っています。役員への貸付金があれば、会社の資産が実質的に役員個人に流出している状態です。役員からの借入金があれば、会社の資金繰りが役員個人に依存している状態です。どちらも買収前に清算するのが一般的で、清算されないまま買収すると、帳簿上の資産価値が実態より目減りしたまま引き継ぐことになります。発生の経緯と返済計画、買収前の清算タイミングを確認します。清算のタイミングが買収の実行日をまたぐ場合は、精算方法をあらかじめ契約書に明記してもらいます。

土地や有価証券の簿価と時価がずれていないか

土地や有価証券は、取得したときの価格である簿価で貸借対照表に載っています。地価が取得時より上がっていれば含み益、下がっていれば含み損があり、帳簿上の評価と実際に処分した場合の評価は一致しません。含み益は実態純資産を押し上げる材料になり、含み損は見落とすと買収後に評価損として表面化します。固定資産税評価額や近隣の取引事例、保有有価証券の直近の時価を確認します。含み損が大きい場合は、実態純資産の算定に反映させたうえで価格交渉に臨みます。

役員報酬の水準が実態と合っているか

IMに載っている利益は、今の役員報酬額を前提にした数字です。例えば年間800万円の役員報酬が同規模同業種の相場より300万円ほど高ければ、報酬を相場水準まで下げるだけで買収後の利益は増える計算になります。逆に役員報酬が相場より低すぎる場合、経営者が十分な対価を取らずに働いて利益を維持している状態です。買収後に同じ働き方をする人を新たに雇えば、その分の費用が増えます。役員報酬の内訳と、買収後の経営体制を前提にした損益シミュレーションを確認します。この調整後の利益こそが、買収後に実際に見込める収益力に近い数字です。

保険積立金や退職給付が簿外債務になっていないか

生命保険の解約返戻金や、従業員の退職金の積立状況は、財務諸表の本体でなく注記や補足資料に分かれて記載されていることがあります。解約返戻金の実額が帳簿価額と違う、あるいは退職金の未積立分があると、買収後に想定していなかった支出として表面化します。保険証券の内容と解約返戻金額、退職給付規程と積立状況を確認します。未積立分に相当する金額は、簿外債務として実態純資産の算定でマイナスに扱います。

財務パート全体を自分だけで読み解くのが難しいと感じたら、税理士や公認会計士に一部だけでもレビューを依頼する方法があります。本格的なデューデリジェンスを依頼する前段階として、IMの財務諸表だけを確認してもらうことも可能です。ここまでの7項目をチェックリストとして整理すると次のとおりです。

IMの記載 買い手が立てる仮説 次に確認する資料
現預金が月商1ヶ月分を下回る、または借入金が大きい 買収後すぐに運転資金の手当てが必要になる、経営者保証の引き継ぎが論点になる 銀行別の預金・借入残高、返済予定表、経営者保証の有無
売掛金が月商に対して大きい 回収できない可能性のある債権が資産に混ざっている 得意先別の売掛金明細、入金実績と銀行残高の突合
棚卸資産が仕入高の2ヶ月分を超えている 売れない在庫が資産として残ったまま、あるいは在庫の水増しで利益を調整している 商品ごとの在庫回転期間、直近の実地棚卸結果
役員への貸付金、または役員からの借入金がある 会社の資産が役員個人に流出している、または会社の資金繰りが役員個人に依存している 発生の経緯、返済計画、買収前の清算タイミング
土地や有価証券の簿価と時価に差がある 帳簿上の資産価値と、実際に処分した場合の価値がずれている 固定資産税評価額や近隣の取引事例、保有有価証券の直近時価
役員報酬の水準が同規模の会社と比べて高い、または低い IMの利益は今の役員報酬額を前提にした数字であり、買収後に経営体制が変われば実質的な収益力は変わる 役員報酬の内訳、買収後の経営体制を前提にした損益シミュレーション
保険積立金や退職給付に関する記載が薄い 解約返戻金の実額や退職金の未積立分が財務諸表に表れていない 保険証券の内容と解約返戻金額、退職給付規程と積立状況

いずれの項目も、IMに載っている数字だけで結論は出ません。気になる項目があれば、試算表や勘定科目内訳書、銀行残高証明といった一段階詳しい資料を仲介会社経由で要求し、数字の裏付けを取ります。M&Aナビでは、案件のIM確認を支援するIM分析機能を用意しており、財務パートの検討に活用できます。気になる案件があれば案件一覧から実際のIMを確認してみてください。

事業パートでは数字に表れないリスクをどう見るか

売上が特定の取引先に偏っていないか

取引先一覧を見ると、売上が特定の相手にどれだけ依存しているかがある程度分かります。例えば売上の40%を1社が占めている会社では、その取引先との関係が価格交渉力や取引条件にそのまま表れます。関係が経営者個人のつながりに支えられている場合、経営者が交代するタイミングで契約が見直される可能性があります。買収後に主要な取引先が離れれば、IMに載っていた財務数値の前提そのものが崩れます。

特定の人にノウハウが偏っていないか

技術や営業のノウハウが特定の従業員や経営者本人に集中している会社は、買収後にその人が離れると事業の実態が変わります。組織図に役職者が並んでいても、実務の判断や顧客対応が誰か一人に偏っていないかはIMの記載だけでは分かりません。買収後もその人材に残ってもらう前提で価格や条件を組んでいるなら、契約や処遇についてトップ面談や現場責任者との面談で具体的に確認します。

許認可はスキームに応じて引き継げるか

建設業や介護、古物商など許認可が必要な事業は、株式譲渡と事業譲渡のどちらのスキームを選ぶかによって、許認可を引き継げるかどうかが変わります。株式譲渡であれば会社ごと引き継ぐため許認可はそのまま残ることが多い一方、事業譲渡では許認可を買い手側で取り直す必要が生じる場合があります。IMに許認可の種類と取得時期が書かれていても、想定している譲渡方法との整合性は別途確認が必要です。

従業員の年齢構成に偏りがないか

組織図とあわせて年齢構成が分かれば、数年内に定年退職が集中する時期があるかを見積もれます。例えば現場の中心を担う従業員の平均年齢が60歳に近い会社では、数年のうちに人員体制を組み直す必要が出てきます。ベテラン従業員への依存度が高い会社ほど、退職のタイミングが事業継続に直結します。

事業パートの4項目は、財務パートのように明確な数字の基準で線を引けるものではありません。IMの記載を出発点にしながら、トップ面談や現場の担当者との面談で実態を確認していく項目だと考えておきます。

ノンネームシートの読み方|匿名段階で何が分かり、何が分からないか

ノンネームシートは社名を伏せた段階の資料で、興味を持った買い手候補がNDAを締結するかどうかを判断するために使います。IMより情報量は少なく、載っている内容にも限りがあります。社名を伏せておくのは、売却を検討している事実が従業員や取引先、競合に知られると、事業の運営そのものに支障が出かねないためです。IMの開示をNDA締結後に限っているのも同じ理由からで、この二段階の開示は、売り手の事業を守るための仕組みです。

匿名段階で分かるのはここまで

  • 業種と事業エリア
  • 売上や利益のおおまかなレンジ
  • 譲渡理由の概要
  • 希望価格帯

匿名段階ではここから先が分からない

  • 具体的な社名や所在地
  • 取引先の名前と取引条件
  • 正確な財務諸表の内訳
  • 組織体制や従業員の詳細

ノンネームシートの数字はレンジで示されることが多く、幅の中央値をそのまま実態と受け取らないほうが安全です。この段階で判断できるのは、候補として検討を進める価値があるかどうかまでです。関心を持ったらNDAを締結し、IMの開示を受けてから財務パートと事業パートの確認に進みます。

IMを読んだ後、何をすべきか

質問リストはどう作るか

財務パートと事業パートで疑問に感じた項目を、そのまま質問リストにします。抽象的な問いより、IMの特定の数字や記載を指した問いのほうが、相手も答えやすくなります。例えば次のような形にします。

  • 売掛金がこの水準になっている理由と、得意先ごとの入金実績
  • 棚卸資産の内訳と、直近の実地棚卸の結果
  • 役員報酬をこの金額に設定している理由と、買収後の経営体制の想定
  • 主要取引先との関係が始まった経緯と、契約更新の時期

質問がすべてその場で解消しなくても構いません。仲介会社や売り手の回答ぶりそのものが、その後の交渉における相手の姿勢を判断する材料になります。

トップ面談では何を確認するか

トップ面談は、IMの数字だけでは分からない定性面を確認する場です。キーマン依存の実態、主要取引先との関係の背景、譲渡を決めた経緯などは、資料よりも経営者本人の話から見えてくることが多くあります。財務パートで立てた仮説は、経緯や理由を尋ねる形で質問すると事実関係を確認しやすくなります。

デューデリジェンスとはどう役割を分けるか

IMを読んで立てた仮説を、専門家が体系的に検証する段階がデューデリジェンス(DD)です。会計士や税理士が財務DDで数字の裏付けを取り、弁護士が法務DDで契約関係やコンプライアンス上のリスクを確認します。IMの段階で疑問点を絞り込んでおくほど、DDで重点的に調べる範囲がはっきりし、調査にかかる時間と費用を絞り込みやすくなります。DDの調査範囲や期間、費用は会社の規模や事業内容によって変わるため、IMの内容をもとに専門家と事前に相談しておくと見積もりを取りやすくなります。

IMとDDでは、分かることの深さが違います。IMの段階で分かるのは、財務諸表や組織図から読み取れる数字の全体感と、確認すべき仮説の候補です。契約書や許認可の原本の確認、銀行残高との突合、簿外債務の網羅的な洗い出しといった裏付けの作業は、DDに入って初めて行えます。IMで立てた仮説をDDで検証してから最終的な判断をする、という順序を守ります。

よくある質問

IMとは何ですか?

IM(企業概要書、Information Memorandumの略)は、M&A仲介会社や売り手企業が買い手候補向けに作成する、譲渡対象企業の詳細情報をまとめた資料です。事業内容、組織体制、直近3期程度の財務情報、譲渡希望条件などが記載されており、通常は秘密保持契約(NDA)を締結した後に開示されます。

ノンネームシートとIMの違いは?

ノンネームシートは、社名を伏せた状態で事業の概要(業種やエリア、売上規模など)だけを示す資料です。売上規模は「1億円〜3億円」のようにレンジで示されるのが一般的です。買い手候補が興味を持ってNDAを締結した後に、社名や詳細な財務情報を含むIMが開示されます。ノンネームシートは候補に挙げるかどうかを判断する材料、IMは具体的に検討を進めるかどうかを判断する材料という役割の違いがあります。

IMの情報はどこまで信用できますか?

IMは売り手側が作成する資料のため、事業の魅力を伝える方向にまとめられている面があります。記載内容そのものを否定する必要はありませんが、鵜呑みにせず、確認したい点の仮説を立てながら読み、トップ面談やデューデリジェンスで裏付けを取ることが必要です。財務パートであれば、売掛金や棚卸資産の水準、役員との金銭のやり取りなどが、仮説を立てやすい着眼点になります。

IMを入手するには何が必要ですか?

一般的には、M&A仲介会社やマッチングプラットフォームを通じて対象企業に関心を示し、秘密保持契約(NDA)を締結することでIMの開示を受けられます。上場企業の開示情報とは異なり、IMは限られた候補者にのみ提供される非公開の資料です。

まとめ

IMは買い手が最初に手にする詳細資料ですが、作成するのは売り手側です。財務パートでは、資金余力や売掛金・棚卸資産の水準、役員との金銭のやり取り、資産の含み損益、役員報酬、簿外債務という7つの着眼点で仮説を立てます。事業パートでは、顧客集中度やキーマン依存など数字に表れないリスクを見ます。IMを質問リストの出発点として使うことが、その後のトップ面談とデューデリジェンスを効率よく進める近道です。

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