IM(企業概要書)の読み方|買い手が疑うべき財務・事業のチェックポイント

会社の買収を検討すると、比較的早い段階でIM(企業概要書)を受け取ることがあります。事業内容や財務情報をまとめた資料で、対象企業を詳しく知る手がかりになります。ただし、IMは主に売り手から提供された情報をもとに作成されるため、買い手が判断するためのすべての情報が載っているとは限りません。
IMを読むときは、記載内容だけでなく、その根拠を確かめる資料まで確認します。書かれた数字は、追加で確かめる項目を見つけるための出発点です。
個人や中小企業が買収を検討する場合も、IMの段階で疑問点を整理できれば、売り手への質問や専門家への相談が具体的になります。
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IMとは何か|一般的にはNDA締結後に開示される
IM(企業概要書、Information Memorandumの略)は、譲渡対象企業の詳細情報をまとめた非公開資料です。一般的には、買い手候補が社名を伏せたノンネームシートで概要を確認し、秘密保持契約(NDA)を締結した後に、社名や具体的な財務情報を含むIMが開示されます。この流れは、経済産業省の中小M&Aガイドライン(第3版)でも示されています。ただし、案件や支援機関によって資料の名称、内容、開示の順序は異なります。
IMには機密性の高い情報が含まれます。保存、印刷、社内共有の範囲はNDAや開示元の指示に従ってください。税理士、公認会計士、弁護士などへ共有する場合も、NDAで専門家への開示が認められているか、事前承諾が必要かを確認します。
IMには何が記載されているか
- 事業内容と沿革
- 組織図と従業員構成
- 直近数期分の財務情報(貸借対照表や損益計算書など)
- 主要な取引先や仕入先
- 譲渡の背景と希望条件(価格やスキーム、希望時期)
ページ数や記載の粒度は、支援機関や案件の規模によって異なります。財務情報が複数期分あれば、各期を並べて増減の理由を確認します。単年の数字だけでは、本業の収益力と一時的な要因を切り分けにくいためです。掲載期間が短い場合は、追加資料を依頼するかどうかも検討します。
法人が買い手になる場合、財務は経理担当者、事業は買収後の運営を担う部署というように、IMを読む役割を分けると論点を集めやすくなります。個人が買い手の場合は、NDAの共有条件を確認したうえで、財務部分を税理士や公認会計士に見てもらう方法もあります。
IMは売り手から提供された情報をもとにした資料
IMは、売り手自身が作る場合もあれば、売り手から受け取った資料やヒアリング内容をもとに仲介会社やFAが作る場合もあります。事業の特徴や譲渡条件を買い手候補に伝える資料であり、通常は監査やデューデリジェンス(DD)の報告書ではありません。
そのため、掲載された数値が決算書と一致しているか、一時的な収益や費用が含まれていないか、説明の根拠となる資料があるかは別途確認します。直近期の利益が伸びているなら、売上数量、単価、原価、臨時収益などに分けて増減理由を聞くと、継続性を判断しやすくなります。
資料に記載がないことを、問題がないことの証明とはみなせません。一方で、記載が薄いだけで問題があるとも断定できません。IMでは確認事項を洗い出し、重要な論点は原資料や面談、DDで裏付けます。
IMの財務パートで買い手は何を疑うべきか
IMに載っている貸借対照表と損益計算書は、売り手から提供された資料をもとに掲載されます。数字の大小だけでなく、業種、商流、季節性、決済条件、過去からの推移と照らして見ます。次の7つは、異常を判定する一律の基準ではなく、追加確認のきっかけとなる着眼点です。
現預金と借入金のバランスが取れているか
現預金から有利子負債を差し引いたネットキャッシュまたはネットデットを確認します。ただし、手元資金の必要額は入出金のタイミングや季節性によって変わるため、「月商の何か月分」という比率だけでは判断できません。月次資金繰り、借入金の返済予定、未使用の融資枠、経営者保証の有無をあわせて確認します。株式譲渡では、既存借入の継続条件や経営者保証の解除が交渉論点になります。
売掛金が月商に対して大きくないか
売掛金は、まだ入金されていない売上です。月商1,000万円に対して売掛金3,000万円なら、単純計算では約3か月分に相当します。ただし、締め日、支払サイト、季節変動によって適正な水準は異なります。得意先別の残高、滞留期間、期日後の入金実績、貸倒処理の方針を確認してください。回収可能性に懸念があれば、専門家と相談し、企業価値評価や最終契約の価格調整・補償条項にどう反映するかを検討します。
棚卸資産の回転期間が過去や同業と比べて長くないか
棚卸資産には、商品、製品、原材料、仕掛品などが含まれます。在庫水準は業種や製造期間、季節性によって大きく違うため、「2か月を超えたら問題」とは一律に判断できません。過去の同じ時期や同業の水準と比べて回転期間が伸びている場合は、品目別の在庫年齢、販売・使用実績、評価減の方針、直近の実地棚卸結果を確認します。滞留在庫や陳腐化在庫が見つかった場合は、換金可能性を精査し、企業価値評価や契約条件への反映を検討します。
役員貸付金や役員借入金がないか
役員貸付金は会社から役員への債権、役員借入金は会社が役員に負う債務であり、意味が異なります。役員貸付金は回収可能性、役員借入金は返済条件や債権放棄の有無を確認します。どちらも必ず買収前に清算されるわけではありません。発生経緯、残高、利息、返済実績を確かめ、残す、返済する、債権放棄するなどの扱いを当事者と専門家で整理し、必要に応じて最終契約に明記します。
土地や有価証券の簿価と時価がずれていないか
土地や有価証券は、会計上の簿価と現在の換金価値が一致しないことがあります。有価証券の評価方法は保有目的などによって異なるため、すべてが取得価額のまま計上されるわけではありません。土地は鑑定や取引事例、有価証券は銘柄・保有目的・時価の有無を確認します。売却時の税金や処分費用も含め、企業価値評価へどう反映するかは専門家と検討します。
役員報酬の水準が実態と合っているか
IMに載っている利益は、現在の役員報酬を前提にしています。報酬が同規模・同業の水準より高い場合は減額余地がある一方、低い場合は買収後に代替人材の人件費が増える可能性があります。ただし、報酬額だけでなく、役員の業務内容、退任時期、引継ぎ期間、買収後の体制まで見なければ調整額は決められません。複数の前提で損益を試算し、将来の収益力を検討します。
保険積立金の換金価値と退職給付の未積立額を確認したか
生命保険の帳簿価額と解約返戻金は一致しないことがあります。また、退職金規程がある場合は、将来の要支給額に対してどこまで引当てや積立てが行われているかを確認します。保険証券、解約返戻金証明、退職金規程、従業員別の要支給額を確認し、税務上・会計上の扱いも含めて専門家に評価を依頼します。保険積立金は資産項目であり、それ自体を簿外債務とは扱いません。
財務パート全体を自分だけで読み解くのが難しいと感じたら、税理士や公認会計士に一部だけでもレビューを依頼する方法があります。本格的なデューデリジェンスを依頼する前段階として、IMの財務諸表だけを確認してもらうことも可能です。ここまでの7項目をチェックリストとして整理すると次のとおりです。
| IMの記載 | 買い手が立てる仮説 | 次に確認する資料 |
|---|---|---|
| 手元資金が月次の支払い予定に対して少ない、または借入金が大きい | 買収後に運転資金の手当てが必要になる、既存借入や経営者保証の扱いが論点になる | 月次資金繰り、銀行別の預金・借入残高、返済予定表、経営者保証の有無 |
| 売掛金が月商に対して大きい | 回収できない可能性のある債権が資産に混ざっている | 得意先別の売掛金明細、入金実績と銀行残高の突合 |
| 棚卸資産の回転期間が過去や同業と比べて長い | 滞留在庫や陳腐化在庫が含まれ、帳簿価額どおりに換金できない可能性がある | 品目別の在庫年齢、販売・使用実績、評価減の方針、直近の実地棚卸結果 |
| 役員貸付金または役員借入金がある | 貸付金の回収可能性、借入金の返済条件や買収時の扱いを整理する必要がある | 発生経緯、残高、利息、返済実績、買収時の処理方針 |
| 土地や有価証券の簿価と時価に差がある | 帳簿上の資産価値と、実際に処分した場合の価値がずれている | 固定資産税評価額や近隣の取引事例、保有有価証券の直近時価 |
| 役員報酬の水準が同規模の会社と比べて高い、または低い | IMの利益は今の役員報酬額を前提にした数字であり、買収後に経営体制が変われば実質的な収益力は変わる | 役員報酬の内訳、買収後の経営体制を前提にした損益シミュレーション |
| 保険積立金や退職給付に関する記載が薄い | 保険の帳簿価額と解約返戻金に差がある、または退職給付に未積立額がある可能性がある | 保険証券、解約返戻金証明、退職金規程、従業員別の要支給額 |
いずれの項目も、IMに載っている数字だけで結論は出ません。気になる項目があれば、試算表、勘定科目内訳書、銀行残高証明などの追加開示を依頼し、数字の裏付けを取ります。M&Aナビでは、開示されたIMの確認を支援するIM分析機能を用意しています。まずは案件一覧から検討対象を探せます。
事業パートでは数字に表れないリスクをどう見るか
売上が特定の取引先に偏っていないか
取引先一覧を見ると、売上が特定の相手にどれだけ依存しているかがある程度分かります。例えば売上の40%を1社が占めている会社では、その取引先との関係が価格交渉力や取引条件にそのまま表れます。関係が経営者個人のつながりに支えられている場合、経営者が交代するタイミングで契約が見直される可能性があります。買収後に主要な取引先が離れれば、IMに載っていた財務数値の前提そのものが崩れます。
特定の人にノウハウが偏っていないか
技術や営業のノウハウが特定の従業員や経営者本人に集中している会社は、買収後にその人が離れると事業の実態が変わります。組織図に役職者が並んでいても、実務の判断や顧客対応が誰か一人に偏っていないかはIMの記載だけでは分かりません。買収後もその人材に残ってもらう前提で価格や条件を組んでいるなら、契約や処遇についてトップ面談や現場責任者との面談で具体的に確認します。
許認可はスキームに応じて引き継げるか
建設業や介護、古物商など許認可が必要な事業は、株式譲渡と事業譲渡のどちらを選ぶかによって手続きが変わります。株式譲渡でも、株主や役員の変更に伴う届出、承認、資格要件の再確認が必要になることがあります。事業譲渡では、原則として買い手側で許認可の取得や承継手続きが必要です。許認可ごとに扱いが異なるため、所管官庁や専門家へ確認してください。
従業員の年齢構成に偏りがないか
組織図と年齢構成から、定年退職が集中する時期や、後継者が育っていない職種がないかを確認します。年齢だけでリスクを判断せず、就業規則、本人の継続意向、技能承継の計画、採用の難しさをあわせて見ます。特定の人が退職しても業務を続けられる体制があるかを確認します。
事業パートの4項目は、財務パートのように明確な数字の基準で線を引けるものではありません。IMの記載を出発点にしながら、トップ面談や現場の担当者との面談で実態を確認していく項目だと考えておきます。
ノンネームシートの読み方|匿名段階で何が分かり、何が分からないか
ノンネームシートは社名を伏せた段階の資料で、興味を持った買い手候補がNDAを締結するかどうかを判断するために使います。IMより情報量は少なく、載っている内容にも限りがあります。社名を伏せておくのは、売却を検討している事実が従業員や取引先、競合に知られると、事業の運営そのものに支障が出かねないためです。IMの開示をNDA締結後に限っているのも同じ理由からで、この二段階の開示は、売り手の事業を守るための仕組みです。
匿名段階で分かるのはここまで
- 業種と事業エリア
- 売上や利益のおおまかなレンジ
- 譲渡理由の概要
- 希望価格帯
匿名段階ではここから先が分からない
- 具体的な社名や所在地
- 取引先の名前と取引条件
- 正確な財務諸表の内訳
- 組織体制や従業員の詳細
ノンネームシートの数字はレンジで示されることが多く、幅の中央値をそのまま実態と受け取らないほうが安全です。この段階で判断できるのは、候補として検討を進める価値があるかどうかまでです。関心を持ったらNDAを締結し、IMの開示を受けてから財務パートと事業パートの確認に進みます。
IMを読んだ後、何をすべきか
質問リストはどう作るか
財務パートと事業パートで疑問に感じた項目を、そのまま質問リストにします。抽象的な問いより、IMの特定の数字や記載を指した問いのほうが、相手も答えやすくなります。例えば次のような形にします。
- 売掛金がこの水準になっている理由と、得意先ごとの入金実績
- 棚卸資産の内訳と、直近の実地棚卸の結果
- 役員報酬をこの金額に設定している理由と、買収後の経営体制の想定
- 主要取引先との関係が始まった経緯と、契約更新の時期
その場で回答できない質問は、追加資料の提出期限や次回回答日を決めます。回答の内容だけでなく、根拠資料の有無や回答までの経緯も、情報の信頼性を判断する材料になります。
トップ面談では何を確認するか
トップ面談は、IMの数字だけでは分からない定性面を確認する場です。キーマン依存の実態、主要取引先との関係の背景、譲渡を決めた経緯などは、資料よりも経営者本人の話から見えてくることが多くあります。財務パートで立てた仮説は、経緯や理由を尋ねる形で質問すると事実関係を確認しやすくなります。
デューデリジェンスとはどう役割を分けるか
IMを読んで立てた仮説を、専門家が体系的に検証する段階がデューデリジェンス(DD)です。会計士や税理士が財務DDで数字の裏付けを取り、弁護士が法務DDで契約関係やコンプライアンス上のリスクを確認します。IMの段階で疑問点を絞り込んでおくほど、DDで重点的に調べる範囲がはっきりし、調査にかかる時間と費用を絞り込みやすくなります。DDの調査範囲や期間、費用は会社の規模や事業内容によって変わるため、IMの内容をもとに専門家と事前に相談しておくと見積もりを取りやすくなります。
IMとDDでは、確認の深さが違います。IMで把握できるのは、財務や事業の全体像と、追加確認すべき論点です。契約書や許認可の原本確認、銀行残高との突合、簿外債務の調査などは、通常、追加資料の確認やDDで行います。IMの段階だけで買収可否や最終価格を確定せず、重要な仮説をDDで検証してから最終判断します。
よくある質問
IMとは何ですか?
IM(企業概要書、Information Memorandumの略)は、譲渡対象企業の事業、組織、財務、譲渡条件などをまとめた非公開資料です。売り手が作る場合も、売り手から提供された情報をもとに仲介会社やFAが作る場合もあります。一般的には秘密保持契約(NDA)の締結後に開示されますが、内容や手順は案件によって異なります。
ノンネームシートとIMの違いは?
ノンネームシートは、対象企業を特定しにくい形で業種、地域、売上規模などの概要を示す資料です。IMは社名や詳細な財務・事業情報を含むことが多く、より具体的な検討に使います。一般的にはNDA締結後にIMが開示されますが、掲載項目や開示の順序は案件によって異なります。
IMの情報はどこまで信用できますか?
IMは検討の出発点として有用ですが、通常は監査やDDの報告書ではありません。売り手から提供された情報をもとにしているため、決算書や契約書などの原資料、トップ面談、DDで重要な記載を裏付けます。情報が載っていないだけで問題の有無を判断しないことも大切です。
IMを入手するには何が必要ですか?
一般的には、M&A仲介会社やマッチングプラットフォームを通じて対象企業に関心を示し、NDAを締結したうえで開示を申請します。NDAを締結すれば必ず入手できるわけではなく、売り手側の承諾や買い手候補の確認が必要な場合があります。
まとめ
IMは対象企業の全体像をつかむための資料ですが、主に売り手から提供された情報をもとに作られ、通常は監査済みの報告書ではありません。財務では資金繰り、売掛金、棚卸資産、役員との債権債務、資産の時価、役員報酬、保険・退職給付を確認します。事業では顧客集中、キーマン依存、許認可、人員体制を見ます。疑問点を質問リストにし、原資料、面談、DDで裏付けてから最終判断してください。
M&Aナビでは、会員登録と案件閲覧を無料で利用できます。売り手のプラットフォーム利用料は無料ですが、買い手には成約時に買収対価に応じた成約手数料がかかります。詳しくはM&Aナビの成約手数料をご確認ください。DDや契約などを外部専門家へ依頼する費用は別途必要です。
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株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』




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