税務デューデリジェンスを受ける前に知っておきたい5つのポイント
「税務デューデリジェンス」と聞いて何をイメージされるでしょうか。
難しそうなイメージを持たれる方が多いかもしれません。
そこで、本編では、会社を売却するときに受けることになる税務デューデリジェンスに関して分かりやすくご説明します。
目次
M&Aにおける税務デューデリジェンスとは何か
税務デューデリジェンスとは、売却する会社がもつ税務上のリスクを認識し、どの程度のリスクなのかを把握するために、買手がおこなう調査のことです。
たとえば、買収した後に税務調査が入り追徴課税を受けてしまう、といったことを避けるために、税務デューデリジェンスであらかじめリスクを明らかにします。
さらに、内容によっては、買収するべきかどうかの判断に影響することもあります。
M&Aにおける税務デューデリジェンスの流れ
税務デューデリジェンスは、下記のとおり5つのステップで実施されます。
1.資料依頼リストをもとに必要な資料を準備する
税務デューデリジェンスは、一般的に買手から依頼を受けた税理士が担当します。
税理士が作成した必要資料リストをもとにして、期限までにもれなく準備します。
売手のオーナー自身だけでは準備できない内容もあるため、通常は顧問税理士に協力していただくことになります。
必要な資料として、法人税確定申告書、消費税確定申告書は必ず依頼されます。
ほかには、財務デューデリジェンスや法務デューデリジェンスとも同様に、決算書、定款、登記簿謄本、会社概要資料、株主名簿、株主総会議事録、取締役会議事録、などは最低限必要となります。
2.マネジメントインタビューを受ける
必要資料リストにある資料をすべて出し終えた後、買手が追加で質問や詳細な状況を確認するために、売手のオーナーや社長との面談を実施することをマネジメントインタビューと呼びます。
税務デューデリジェンスのマネジメントインタビューでは、ビジネスモデルや会社概要などの基本的な内容から、税務申告書の内容まで様々な事を質問されます。
事前に質問リストを貰える場合もあるため、しっかりと回答できるように準備をしておきます。
また、顧問税理士がマネジメントインタビューに同席することもあります。
3.追加の資料依頼リストに対応する
マネジメントインタビュー後に、追加の資料依頼を受ける場合があります。
インタビューの内容や税務デューデリジェンスの分析をもとに出てきた重要な質問内容であることがあります。
そのため、最初の資料依頼リストと同様に指定された期限内までに必ず提出するようにしましょう。
4.税務デューデリジェンスの結果報告
買手からの依頼を受けた税理士が、買手に対して税務デューデリジェンスの結果を報告します。
この税務デューデリジェンスのレポートは売手には開示されることはありません。
5.税務デューデリジェンスの結果を株式譲渡契約書に反映する
税務デューデリジェンスの結果、重要な指摘事項があった場合は、株式譲渡契約書の内容に反映されることが通常です。
内容によっては指摘事項に対応してからでないと譲渡が実行されないといったケースも考えられますので注意してください。
税務デューデリジェンスの結果は直接的には見ることはできませんが、売手から対応を依頼されることがありますので、間接的に把握できるといっても良いでしょう。
M&Aにおける税務デューデリジェンスでチェックする項目
税務デューデリジェンスにてチェックされる項目はさまざまですが、典型的なものを8つご紹介します。
1.課税所得が出ているかどうか
税務デューデリジェンスにてまず確認されることは、課税対象となる利益が出ているかどうかです。
毎期課税所得が出て法人税を支払っているのか、もしくはマイナスで繰越欠損金が出ているのかは非常に重要なポイントです。
繰越欠損金が出ている場合は、将来の税金負担を下げることができるため、株価算定などにも影響を与える事項となります。
2.税務調査を受けているかどうか
直近で税務調査を受けていれば、税務申告書は正しく修正され、直近で再度税務調査が来る可能性が著しく低くなります。
反対に、今まで全く税務調査が来ていない場合は買収後に来る可能性が高まり、税務調査の結果によっては追徴課税などのリスクが生じます。
そのリスクを把握するために税務調査の履歴を確認されることが一般的です。
3.源泉税の処理
源泉税の中でも特に業務委託費に関する源泉税をきちんと徴収しているかは、誤りが多いポイントの一つです。
税務デューデリジェンスにおいてもチェックされることになります。
4.法人税申告書のレビュー
法人税申告書の内容をレビューし、会社概要、ビジネスモデル、会計帳簿等から内容に大きな誤りがないかをチェックします。
利益が大きく出ているのに法人税の支払が少ない場合は、行き過ぎた節税になっていないかどうかのチェックもなされます。
5.消費税申告書のレビュー
消費税に関しては、まず課税事業者に該当しているかどうかのチェックを始めに行います。
課税事業者に該当し消費税申告書がある場合はその内容につきレビューを行います。
消費税の届出関係はミスが発生しやすいポイントでもありますので、「課税事業者選択届出書」といった届出書類も依頼資料に含まれる場合があります。
6.組織再編の有無
税務デューデリジェンスのマネジメントインタビューにて質問されることが多いですが、これまで組織再編を行なったかどうかについて確認されることがあります。
組織再編をした際は税務も同時に論点となることが多く、組織再編に関する税金周りを重点的にチェックする必要が生じます。
7.滞納税金の有無
税金をきちんと支払っているかどうかについても、当然に税務デューデリジェンスのチェック対象です。
仮に税金の未払が生じている状態であれば、それだけで大きな指摘事項となってしまいます。
8.社内の経理体制、顧問税理士の関与度合い
税務申告書がどのようなステップを踏んで作成されているのかという点も重要です。
ほとんど顧問税理士が関与していないのであれば、税務申告書に誤りがある可能性が高く税務デューデリジェンスにおいても高いリスクがあると判定されてしまいます。
社内の経理人材の能力についてもヒアリングされるケースがあります。
M&Aにおける税務デューデリジェンスでよく発生する論点
税務デューデリジェンスにて論点となるポイントは5つあります。
よく発生する論点を把握したうえで税務デューデリジェンス対応を行うと心に余裕が出ますので、しっかりと確認してみてください。
1.法人税の追徴課税リスクの把握
税務デューデリジェンスの結果、追徴課税のリスクがあると判断されるとそのリスクがどの程度なのかを定量的に算出する手続を行います。
過去に遡って数字を積み上げていくので、リスクの程度によっては過去の法人税申告書も追加で依頼されることもあります。
計算の結果、金額が大きければ税務に関する簿外負債と認定され、会社売却の金額にも影響を及ぼす可能性があります。
金額次第では交渉が破談することもあるため、注意が必要です。
2.ソフトウェアの開発費用に関する処理
ソフトウェアの開発費用を費用として全額落としている場合、資産処理をするべきと指摘を受ける場合があります。
ソフトウェアの資産処理を行えばその分費用が減り、利益が増加するので法人税の支払は増加します。
特にITベンチャー企業などでエンジニアの人数が多く、日々ソフトウェアの開発を行っている企業が対象会社の場合に指摘を受ける場合が多いです。
ソフトウェアの資産処理の前提として、各エンジニアがどの程度時間を割いたのかを把握する必要があるため、修正には時間が必要な点には留意してください。
3.外形標準課税に関する指摘
資本金が1億円を超える会社は外形標準課税対象法人となります。
ベンチャー企業など大型の増資が相次いでいますが、上場前はまだまだ利益が計上されないケースがほとんどです。
しかし、外形標準課税は利益に関係なく課税される税金のため、資本金の額によっては無駄に税金を払ってしまっていると指摘を受ける場合があります。
このような指摘を受けた場合は、会社売却後に買手が減資の手続を行い外形標準対象法人から外す手続が必要となります。
4.現金取引が多い場合
現金取引が多ければ多いほど、将来の税務調査で指摘を受ける可能性が高く、税務デューデリジェンスでも指摘を受けることになります。
現金取引は預金取引と違い証憑が残りづらいため、架空取引を疑われやすいのです。
そのため、指摘を避ける場合はなるべく現金取引を減らし、預金で取引をするよう心掛けるようにしましょう。
5.源泉税漏れ
業務委託を多く行っている会社に発生しがちなリスクが源泉税の徴収漏れです。
税務デューデリジェンスの結果、源泉税の漏れが確認されればどの程度の影響額があるのかを算定する必要が生じます。
外注費が多い会社は、税務デューデリジェンスの前にきちんと源泉税を漏れなく徴収しているかどうか一度確認してみると良いでしょう。
M&Aでの税務デューデリジェンスに関するまとめ
税務デューデリジェンスの実務と重要なポイントをご紹介しましたが、まだまだ不安な点もあるかと思います。
デューデリジェンスの結果によっては売却金額の値下げ要求や交渉が滞る恐れもあります。
一方で、内容によっては売却交渉前に対策を取ることで条件変更などのリスクを低減させ、穏便に税務デューデリジェンスを完了させることも可能です。
少しでも気になる点や不安に思っている点があれば、ささいな事でも構いませんので専門家に相談しましょう。
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