法務デューデリジェンス(法務DD)とは?流れや注意点、チェック項目を徹底解説
M&Aにおいて、法務デューデリジェンスとは何か、どのような流れ何を行うものなのでしょうか。
会社を売却すると、新しい株主は当然その会社が持つすべての契約や権利に対するリスクを引き受けることになります。
そこで買手は「デューデリジェンス」というプロセスによって、事前にリスクをできるだけ洗い出し認識することが一般的です。
今回の記事では、法務の分野についておこなう「法務デューデリジェンス」について、知っておくべき4つのポイントを解説します。
この記事を読めば、法務デューデリジェンスの流れや注意点を把握し、不安や疑問点を解消することができるでしょう。
記事だけでは解決できない不安や疑問は、経験豊富なアドバイザーがご相談を承っております。
法務デューデリジェンスとは?
はじめに、法務デューデリジェンス(法務DD)について、最低限知っておくべきことを解説します。
法務デューデリジェンスの意味
そもそもデューデリジェンス(due diligence)とは、買手企業が売手企業についてくわしく調査することで、売手企業の価値やかかえているリスクを特定するプロセスです。
デューデリジェンスをおこなう分野は、財務や税務、ITなど多岐にわたり、とくに法律関係の分野に関して調査することを「法務デューデリジェンス(法務DD)」と呼びます。
つまり法務デューデリジェンスとは、会社売却のさいに売手企業がかかえる法的なリスクを調査・分析することを意味するのです。
法務デューデリジェンスの目的
M&Aにおいて法務デューデリジェンスをおこなう主な目的は2つあります。
1つ目は、会社売却後に生じるリスクの回避です。
たとえば、会社売却のあとに取引先や従業員などとの間で訴訟が発生すると、買手企業は大きな損失を受けてしまいます。
想定外の損失を回避するために、法務デューデリジェンスをおこなうことで、買収すべきかどうかの判断をしたり、売手に対して買収前にそのリスクを潰してもらうよう依頼したりします。
2つ目は、実態に即した買収価格の算定です。
たとえば買収前から抱えていたリスクが、買収後に顕在化して訴訟になってしまうと、買手は大きな痛手を被ってしまいます。
一方で、一般的にどんな中小企業でも、法的リスクはまったくないという会社はありませんし、ある程度のリスクや犠牲を許容しながら経営していることが普通です。
そこで、その会社が持つリスクの大きさや危険度などを見極めたうえで、その結果に応じて、買収価格を実態に即した金額に修正する交渉を行うことで、お互いに納得いくM&Aを行うのです。
法務デューデリジェンスの進め方・流れ
法務デューデリジェンスは、一般的に下記の流れで進んでいきます。
法務デューデリジェンスによる調査項目の特定
まずは、法務デューデリジェンスで調査する項目を特定します。
M&Aのプロセスにおいては、法務デューデリジェンス以外に財務や税務など他分野のDDや契約手続きなど、やるべきことがたくさんあります。
そのため、買手はあらかじめスケジュールや予算をふまえて、費用や時間をかけてでも確認したい項目をきめた上で、法務デューデリジェンスで調査すべき項目を設定します。
売手による資料の提出
つぎに、売手は買手が依頼する法務DDで必要となる資料を提出します。
具体的には、株主総会の議事録や取引先との契約書、決算書類などから必要な資料を提出します。
なお法務デューデリジェンスを正確におこなうには、法律の専門知識やスキルが必要となり、買手が準備した弁護士や司法書士などの専門家が資料を分析するケースが一般的です。
専門家による資料の分析
売手から資料を受けとった買手や専門家が、資料のくわしい分析をおこないます。
資料の分析にあたっては、会社売却(M&A)やその後の事業運営で生じるリスクの有無や程度を洗い出すことが目的であり、ただちに買収を中止するといった判断を下すことは稀です。
売手の経営陣に対するインタビュー
資料だけでは認識できない情報もあるため、売手の経営陣に対するインタビューを実施することがあります。
状況に応じて短期間で複数回のインタビューが行われる場合もあるため、会社売却をおこなう経営陣は、ある程度柔軟な対応が求められます。
分析結果をとりまとめた「意向書」の作成
資料の分析やインタビューなどで得られた情報をもとに、専門家が「意向書」を作成します。
意向書には、その会社に存在する潜在的なリスクや、M&A後に生じるかもしれない法的なリスクが記載されます。
また、法的リスクの存在が企業価値にあたえる影響を、数字で具体的に記載するケースもあります。
法務デューデリジェンスの結果を買手企業が検討
最後に、専門家によっておこなわれた法務デューデリジェンスの結果を買手企業が検討します。
買手企業はリスクの程度に応じて、必要であれば買収価格の下方修正や契約内容の調整を試みます。
もちろん許容できないほど大きい法的リスクが存在する場合は、買収そのものが白紙となることもあります。
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法務デューデリジェンスでチェックする主な項目
法務デューデリジェンスを実施する際は、主に下記7つの項目を重点的に確認します。
訴訟や紛争
訴訟や紛争を抱えている企業を買収した場合、買手はその対応に多大な労力や費用を割くこととなります。
そのため、法務デューデリジェンスにより訴訟や紛争の有無、今後発生する可能性などを調査します。
決算書類
貸借対照表や損益計算書などの決算書類が法律に則って作成されているかを調べることで、のちに生じる法的なリスクを確認します。
また、簿外債務や偶発債務の有無や程度を洗い出すことも、法務デューデリジェンスでおこなうケースが大半です。
この部分は財務デューデリジェンスと重なる部分なので、場合によっては買手に調査依頼された税理士や公認会計士が調査することもあります。
許認可
許認可とは、ある特定の事業を運営する上で必要となる許可や認可、届出などを意味します。
必要な許認可をとっていない、となればもちろん大問題ですが、会社売却に注意すべきなのが、かならずしも許認可を買手企業に引き継げるとは限らない点です。
許認可をしっかりと引き継げないと事業を運営できないため、買手企業にとっては大きな損失となります。
知的財産権
特許や商標を持つ企業の会社売却では、知的財産権も法務デューデリジェンスの対象となります。
会社売却により経営権が買手企業に移っても、基本的に買手側は引き続き知的財産権を行使できます。
ただし状況次第では、知的財産権の引き継ぎに手続きを要することもあります。
よって、法務デューデリジェンス時に知的財産権の取り扱いについてしっかり調査する必要があります。
取引先や顧客との契約
売手が取引先や顧客と交わしている契約も、法務デューデリジェンスにおいては大切な調査事項です。
たとえば取引先としっかり契約書を交わしていない場合、買手が新たにオーナーになったあとに思わぬトラブルが発生する可能性があります。
または、契約書の中に「経営の主体が変わった場合、契約は打ち切りとする」といった文言が含まれている場合、買手側は円滑に事業を経営できなくなります。
そうしたリスクを回避するために、法務デューデリジェンスでは、取引先や顧客との契約内容について精査します。
人事労務
会社売却では従業員との雇用契約も引き継ぎとなるため、人事や労務の分野に関しても調査されるケースが大半です。
人事労務の分野については、主に下記の内容が調査対象となります。
– 労働関連法規の遵守体制
– 従業員の労働条件
– パワハラやセクハラなどのハラスメント問題の有無や防止体制
– 休日休暇や退職などに関する規定
– 経営陣を牽制・監視する体制
その他資産や権利の所有権
会社売却では、事業用の資産や株式など、あらゆる資産や権利の所有権が買手企業に移転します。
したがって、所有権の所在や移転の可否なども法務デューデリジェンスにより入念に確認することが求められます。
会社売却の法務デューデリジェンスで注意すべきポイント
最後に、会社売却の法務デューデリジェンスにて、売手が注意すべきポイントを2つご紹介します。
伝えたくない情報も正直に伝える
買手側はリスクの回避を目的におこなう法務デューデリジェンスですが、売手から見ると自社の悪い部分をすべて洗い出されるプロセスに他なりません。
結果次第では会社売却の話が白紙になったり、売却価格が下がる可能性もあるため、正直なところ不利な情報は伝えたくないのが本音です。
しかし、株式売却する際の契約内容においては、「表明保証(開示した情報が事実であることを保証すること)」という項目を設定されるケースが一般的です。
つまり、交渉やデューデリジェンス時に自社にとって不利な情報を隠せたとしても、会社売却後にそのリスクが発覚した場合、損害賠償訴訟を起こされてしまうこともあるのです。
中小企業は、現実的には契約書や労務の管理などになかなか手が回っていないことが実態です。
デューデリジェンスは、警察や税務署のように悪いことを見つけて処罰することが目的ではなく、買手にリスクを確実に認識してもらい、どう対策していくべきかを議論して判断するための、いわば信頼関係を作る作業といえます。
あらかじめ法務デューデリジェンスで必要な情報を認識・分析しておく
法務デューデリジェンスにおいて売手は、普段の業務ではほとんど見返さない資料を提出したり、インタビューに対応する必要があるため、ときに本業に支障をきたすことがあります。
少しでも労力を減らすためにも、会社売却を考え始めた段階からゆくゆく必要となる情報を整理しておくことがオススメです。
あらかじめ必要な情報を認識し、準備しておけばのちのち手間を省けます。
また、あらかじめ訴訟や契約上の問題に対処しておけば、売却価格を減額されるリスクを抑えることができます。
先ほどお伝えしたとおり、どんな会社にでも法的リスクや不完全な契約は存在します。会社売却を少しでもスムーズに進めるためには、そのリスクをまず売手自身がしっかりと認識した上で、誠実に買手に共有することが重要です。
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株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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