会社を売りたい経営者へ|売却の流れ・価格の決まり方・従業員と税金の基本

2026年08月06日

会社を売りたい|会社を売りたい経営者へ|売却の流れ・価格の決まり方・従業員と税金の基本のアイキャッチ

会社を売るという選択は、思っているより多くの経営者が実際に取っています。
2025年に国内で成立したM&Aは、上場企業の適時開示ベースで1,344件と過去最多でした(M&A Online調べ)。
その一方で、同じ年に休廃業や解散を選んだ会社は67,949件あり、そのうち直前期が黒字だった会社は49.1%を占めます(帝国データバンク調べ)。
単純に計算すると、黒字のまま会社を閉じた経営者は約33,000人。
売るという道を選んだ人の、およそ25倍です。

この差の全部が情報の差だとは言えません。
ただ、いくらで売れるのか、従業員はどうなるのか、税金はいくら引かれるのか。
この3点がわからないまま検討を止めてしまう方には、これまで何度もお会いしてきました。

会社を売りたいと考え始めた経営者が最初に知っておきたいことを、価格の考え方から相談先の選び方まで、一通り並べました。
詳しい論点はそれぞれ専用の記事に分けてありますので、必要なところだけ読み進めていただいて構いません。

>>事業の譲渡・売却について相談する

会社を売るとは(いま何が起きているか)

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会社を売るとは、経営者が持っている株式、または事業そのものを、第三者に引き継いでもらうことです。
M&A(Mergers and Acquisitions)と呼ばれる取引の中でも、中小企業では会社の株式を丸ごと譲る株式譲渡か、一部の事業だけを譲る事業譲渡のどちらかがほとんどを占めます。

かつては会社を売ることに後ろ向きな印象がありました。
身売りという言葉が使われていた時代です。
いまは事情が変わっています。
後継者が見つからない会社にとって、雇用と取引先を残したまま事業を続けてもらえる現実的な方法として選ばれるようになりました。

【表1】数字で見る「会社を売る」の現在地

指標 数値 基準・出典
2025年のM&A件数 1,344件(前年比10.1%増・過去最多) 上場企業の適時開示ベース/M&A Online調べ
2026年1〜3月期のM&A件数 1,295件(四半期として3年連続で最多を更新) 未上場企業を含む集計/レコフデータ
2025年の休廃業・解散件数 67,949件(過去10年で2番目の多さ) 帝国データバンク調べ
休廃業した企業のうち直前期が黒字だった割合 49.1%(黒字廃業は単純計算で約33,000社) 同上
2025年の後継者不在率 50.1%(7年連続で低下・2017年比で16.4ポイント減) 帝国データバンク調べ
2026年上半期の後継者難による倒産 264件(2013年以降で最多) 負債1,000万円以上/東京商工リサーチ調べ

表の最後の2行は、あわせて読むと意味が変わります。
後継者不在率は7年続けて下がっていて、承継の道は広がっています。
ところが後継者難による倒産は過去最多で、その理由の85.6%は経営不振ではなく、代表者の死亡(119件)と体調不良(107件)でした。

つまり、備えができた会社と、間に合わなかった会社の差が開いています。
準備そのものは業績と関係なく、元気なうちにしか進められません。

会社を売るのはどんな経営者か

理由は大きく分けて2つあります。
1つは後継者がいないことです。
親族に継ぐ意思がなく、社内にも任せられる人がいない場合、第三者に引き継いでもらう以外に事業を残す方法がありません。

もう1つは、経営者自身が次の段階へ進みたい場合です。
事業が伸びている時期に大手の傘下に入って成長を加速させる、あるいは複数事業のうち1つを譲って本業に集中する。
こうした前向きな理由で会社を譲る経営者も増えています。
売却額を元手に次の事業を始める方もいます。

どちらの理由であっても、進め方は基本的に同じです。
違うのは売り急ぐ必要があるかどうかで、そこが最終的な価格と条件に効いてきます。

廃業ではなく会社を売る4つのメリット

後継者が見つからない経営者が実際に迷うのは、M&Aと廃業の二択です。
この2つは、手元に残るお金も、従業員の行き先も、かかる手間もまるで違います。

【表2】廃業した場合と売却した場合の違い

比較項目 廃業(解散・清算) 会社を売る(株式譲渡)
従業員 全員を解雇することになる 原則としてそのまま雇用が続く
取引先との関係 取引が終了する 引き継がれる(取引先への説明は必要)
手元に入るお金 資産を処分した残り(負債の返済後) 株式の譲渡代金
出ていくお金 解散と清算の登記費用、官報への公告費用、専門家への報酬、設備の撤去や在庫処分、事務所の原状回復 仲介会社への手数料(成約時が中心)
許認可 消滅する 会社が存続するため原則として維持される
経営者保証 借入を完済しない限り残る 契約で解除を求めるのが一般的(後述)
かかる期間 解散から清算結了まで数か月以上 相手探しを含めて半年から1年以上
会社の名前・屋号 残らない 存続する(変更される場合もある)

従業員の雇用が続く

廃業を選ぶと、従業員は全員が職を失います。
長く働いてくれた社員ほど、次の就職先の条件が下がりやすいのが実情です。

株式譲渡の場合、会社そのものは存続し、従業員との雇用契約もそのまま引き継がれます。
買い手にとっても、その会社の人材と現場のノウハウは買収の目的そのものであることが多く、待遇を維持する前提で話が進みます。
売却の条件として、一定期間は雇用と待遇を維持する旨を契約に盛り込むこともできます。

廃業なら出ていくお金が、売却なら入ってくる

廃業には費用がかかります。
解散の登記に3万円、清算人選任の登記に9,000円、清算結了の登記に2,000円の登録免許税がかかり(2026年8月時点・法務局の登記申請書式より)、これに官報への公告費用と、司法書士や税理士への報酬が乗ります。
加えて、設備の撤去費用、在庫の処分費用、賃借している事務所や工場の原状回復費用が発生します。

会社を売る場合、この方向が逆になります。
仲介会社への手数料は発生しますが、多くは成約時に支払う成功報酬型で、譲渡代金から支払えます。
差し引きで手元に残る金額は、廃業と売却で大きく開くことが少なくありません。

借入金がある状態で会社を閉じるとどうなるかは、会社を解散するとき、借入金はどうなるのかで整理しています。

許認可と取引先が残る

建設業、運送業、産業廃棄物処理業、介護事業、旅館業などは、許認可がなければ事業を続けられません。
株式譲渡なら会社が存続するため、許認可は原則としてそのまま維持されます。
取得までに年単位の時間がかかる許認可を持っている会社ほど、この点が買い手にとっての価値になります。

長年の取引先との関係も同じです。
廃業すれば取引は終わりますが、譲渡なら引き継がれます。
取引先にとっても、仕入先や外注先が突然なくなるのは困る話なので、丁寧に説明すれば理解を得られるケースが多くあります。

経営者保証を外せる可能性がある

中小企業の借入には、経営者個人が連帯保証をつけているケースが多くあります。
会社を売っても、この保証は自動では外れません。
金融機関の同意が必要です。

ただ、M&Aの契約実務では、経営者保証を買い手側の責任で解除することを契約条件に盛り込むのが一般的になっています。
業界団体であるM&A支援機関協会は、2025年1月から、特段の事情がない限り経営者保証の解除条項を最終契約書に盛り込むルールを導入しました。
解除できなかった場合の取り扱いも含めて、契約段階で確認しておく論点です。

「会社売却の相談は誰にするべきか」(無料ガイド)を無料でダウンロードできます。

会社を売るデメリットと注意点

いい面だけを並べても判断はできません。
実際に相談を受けていて、後から効いてくると感じる点を挙げます。

希望どおりの価格や条件で売れるとは限らない

会社の値段は、買い手が払うと言った金額で決まります。
売り手の希望だけでは決まりません。
同じ会社でも、その事業を欲しがる買い手が複数いれば価格は上がり、1社しか見つからなければ買い手の提示額が基準になります。

赤字が続いている、社長個人の人脈だけで売上が成り立っている、特定の1社に売上の大半を依存している。
こうした会社は買い手が慎重になりやすく、価格の交渉で不利になります。
売れないわけではありませんが、時間はかかります。

買い手が見つかるまでの時間が読めない

相手探しの期間は会社によって差が大きく、数か月で決まることもあれば、1年を超えることもあります。
ここは自分でコントロールできない部分です。
体調や年齢の事情で期限が決まっている場合ほど、早めに動き出す価値があります。

社長がすぐには辞められないことが多い

株式を譲った翌日から自由になるわけではありません。
取引先や従業員との関係を引き継ぐため、譲渡後も一定期間、役員や顧問として会社に残ることを求められるのが一般的です。
半年から2年程度が多く、契約書に明記されます。

引き継ぎ期間の長さと報酬は交渉できる項目です。
すぐに引退したいのか、しばらく関わってもいいのか。
ここは早い段階で自分の希望をはっきりさせておくと、条件交渉が進めやすくなります。

情報が漏れると事業に傷がつく

売却を検討していることが従業員や取引先に伝わると、動揺が広がります。
優秀な社員が先に辞めてしまったり、取引先が取引の縮小を検討し始めたりすると、会社の価値そのものが下がります。

M&Aの検討段階では、相手に開示する情報を段階的に絞り、秘密保持契約を結んでから詳細を出します。
社内で情報を知る人も、最小限にとどめるのが基本です。
伝えるタイミングの考え方は第8節で扱います。

相手を選び間違えると、譲った後に事業が壊れる

近年、買収した会社の資金を引き抜いて事業を放置する、いわゆる吸血型M&Aの被害が報道されています。
譲渡代金が分割払いの約束で、後半が支払われないまま会社が傷んでいくケースもあります。

買い手の与信をどこまで調べているか、過去の買収先がその後どうなっているかを教えてもらえるか。
この2点は、手数料の安さより先に確認したほうがよい項目です。
詳しくは吸血型M&Aとは?手口・事例・対策にまとめています。

会社はいくらで売れるのか

最初に知りたいのはここだと思います。
結論から言うと、中小企業の売却価格は「時価純資産+営業利益の数年分」で概算するのが実務上の出発点です。

概算の考え方

時価純資産とは、会社の資産を時価に置き直したうえで負債を引いた金額です。
ここに、将来生み出す利益の見込みとして、営業利益の2年から5年分を上乗せします。
年買法(ねんばいほう)と呼ばれる方法で、中小企業のM&Aで広く使われています。

営業利益の何年分を乗せるかは、事業の安定性で変わります。
ストック型の収益がある、許認可が参入障壁になっている、社長がいなくても現場が回る。
こうした会社ほど年数が伸びます。
逆に、社長個人の営業力に売上が依存している会社は年数が短くなります。

このほか、上場している同業他社の指標と比べる方法(マルチプル法)や、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く方法(DCF法)もあります。
算定方法ごとの違いは企業価値評価の3つの方法で解説しています。

決算書の数字がそのまま評価されるわけではない

中小企業の決算書には、経営者個人の支出が混ざっていることがあります。
役員報酬を多めに取っている、生命保険料が経費に入っている、社用車が実質的に私用になっている。
こうした項目は、買い手側で本来の収益力に引き直して評価されます。

つまり、帳簿上の営業利益が小さくても、調整後の実質的な利益はもっと大きい場合があります。
逆に、本来必要な設備投資を先送りしてきた会社は、その分を差し引いて見られます。
決算書をきれいに見せる工夫よりも、実態を説明できる資料を揃えておくほうが評価につながります。

業種ごとの相場観、価格の計算例、実際の取引でどこが値段の分かれ目になるのかは、会社売却の相場と売却価格の決まり方に詳しくまとめています。
自社の概算を出したい方はそちらをご覧ください。

会社を高く売るための準備

価格を左右するのは、決算の数字だけではありません。
買い手が見て安心できる状態になっているかどうかで、評価も交渉の進み方も変わります。

社長がいなくても回る体制にする

買い手がもっとも警戒するのは、社長個人に事業が依存している状態です。
主要な取引先との関係が社長の人脈だけで成り立っている、価格の決裁も現場の判断も社長がすべて行っている。
この状態だと、社長が抜けた瞬間に売上が落ちるリスクを買い手が負うことになり、その分だけ価格が下がります。

業務の手順を書き出す、取引先の担当を社員に引き継ぐ、決裁の一部を任せる。
すぐに全部は無理でも、着手した実績があるだけで説明の材料になります。

決算書以外の資料を揃える

買い手が見たがるのは、決算書3期分に加えて、取引先ごとの売上構成、従業員の名簿と給与体系、賃貸借契約や許認可の書類、係争や未払いの有無です。
デューデリジェンス(買収監査)の段階で必ず出すことになるため、早めに整理しておくと交渉が止まりません。

資料の不備が後から出てくると、価格の引き下げ交渉の材料になります。
悪い情報も含めて先に出しておくほうが、結果的に条件は守られます。

経営者個人と会社を切り分ける

会社名義で持っている個人的な資産(社長の自宅、私用の車、家族名義の保険)は、売却の対象に含めるかどうかを事前に決めておきます。
含めない場合は、譲渡前に会社から切り離す手続きが必要です。

社長個人からの借入金や、社長への貸付金が残っている場合も同じです。
この整理をしないまま話が進むと、最終契約の直前で条件の見直しが起こります。

売り急がない

もっとも効く準備は、時間の余裕です。
相手が1社しかいない状態で交渉すれば、条件は相手の言い値に近づきます。
複数の買い手候補が並ぶと、価格も条件も動きます。

体調を崩してから、あるいは業績が落ち始めてから動くと、この余裕がなくなります。
後継者難による倒産の85.6%が代表者の死亡と体調不良を理由にしていた事実は、準備の期限が自分では選べないことを示しています。

売る理由を整理しておく

買い手はほとんどの場合「なぜ売るのか」を聞きます。
ここが曖昧だと、隠している問題があるのではないかと受け取られます。

後継者がいない、次の事業に集中したい、体力のあるうちに引き継ぎたい。
理由は何でも構いません。
自分の言葉で説明できる状態にしておくことが、信頼につながります。

会社を売る方法(株式譲渡と事業譲渡)

中小企業のM&Aで使われる方法は、実務上ほぼ2つに絞られます。
会社ごと譲る株式譲渡と、事業の一部または全部を譲る事業譲渡です。
どちらを選ぶかで、お金を受け取る人も、税金も、手続きの重さも変わります。
事業の一部だけを売る「事業売却」の全体像は事業売却とは?会社売却との違い・流れで解説しています。

【表4】株式譲渡と事業譲渡の違い

比較項目 株式譲渡 事業譲渡
譲る対象 会社の株式(会社まるごと) 事業に使う資産、契約、従業員などを個別に選んで譲る
代金を受け取る人 株主である経営者個人 会社(法人)
会社の存続 そのまま存続し、株主が変わる 売り手の会社は残る(事業だけが移る)
許認可 原則として維持される 買い手側で取り直しが必要な場合が多い
従業員の雇用契約 自動的に引き継がれる 従業員ごとに同意を得て契約を結び直す
負債 買い手に引き継がれる 引き継ぐ範囲を契約で選べる
主な税金 個人株主の譲渡所得に20.315% 会社の売却益に法人税、資産の一部に消費税
手続きの重さ 比較的軽い 契約や許認可の移転が個別に必要で重い
向いているケース 会社全体を引き継いでもらいたい 複数事業のうち1つだけ譲りたい、簿外債務(決算書に載っていない負債)の懸念がある

中小企業では株式譲渡が選ばれやすい

手続きが軽く、許認可も従業員の雇用契約も自動的に引き継がれるため、会社全体を譲るなら株式譲渡が基本の選択肢になります。
売り手が受け取る代金も、経営者個人に直接入ります。

一方、買い手側は簿外債務や過去の訴訟リスクまで引き継ぐことになるため、デューデリジェンスを丁寧に行います。
売り手にとっては、この段階で予期しない指摘が出ないよう資料を整えておくことが、条件を守るうえで効きます。

株式譲渡の手続きと注意点は株式譲渡とは?メリットとデメリットにまとめています。

事業譲渡を選ぶ場面

複数の事業を持っていて1つだけ譲りたい場合や、買い手が特定の資産や店舗だけを求めている場合は事業譲渡になります。
譲る範囲を契約で決められるため、買い手にとってはリスクを限定できる方法です。

ただし、取引先との契約を結び直す、従業員1人ずつと雇用契約を締結し直す、許認可を取り直すといった手間がかかります。
代金が会社に入るため、経営者個人が受け取るには配当や役員退職金などの手続きが別途必要になる点も、株式譲渡との大きな違いです。

詳しくは事業譲渡とは?M&Aの手法をわかりやすく解説をご覧ください。

売却の流れと期間

会社を売ると決めてから代金を受け取るまで、どれくらいかかるのか。
当社が運営するM&Aプラットフォームの実績では、案件の掲載から成約に至るまでの期間は平均268日でした(参考値)。
9か月弱です。

これは掲載してからの期間なので、その前の準備や相談の期間を足すと、検討開始から1年前後を見ておくのが現実的です。
もちろん個別の案件差は大きく、数か月で決まるものもあれば、2年近くかかるものもあります。

【表5】売却の流れと各段階でやること

段階 やること 期間の目安
1. 相談・準備 相談先を決める、決算書と資料を揃える、希望条件を整理する 1〜2か月
2. 企業概要書の作成 買い手に提示する資料をつくる、想定価格を決める 2週間〜1か月
3. 買い手探し 匿名の情報で候補を打診し、関心を示した相手と秘密保持契約を結ぶ 1〜6か月(案件差が大きい)
4. トップ面談 経営者同士が直接会い、事業の考え方と譲渡後の方針を確認する 1回〜数回
5. 基本合意 価格と条件の大枠を書面で確認し、独占交渉権を与える 2週間〜1か月
6. デューデリジェンス 買い手が財務や法務を調査する。資料の提出と質問への回答が続く 1〜2か月
7. 最終契約・クロージング 契約を締結し、株式と代金を受け渡す。経営者保証の解除手続きも進める 2週間〜1か月
8. 引き継ぎ 従業員や取引先への説明、業務の移管。経営者が一定期間残ることが多い 半年〜2年

※期間は一般的な実務の目安です。
案件の規模や相手探しの状況により大きく異なります。

期間が延びるのはどこか

止まりやすいのは3番目の買い手探しと、6番目のデューデリジェンスです。

買い手探しは、相手の事情に左右されます。
決算期の関係で判断が先送りになる、社内の稟議に時間がかかるといった理由で数か月動かないこともあります。
ここは待つしかありません。

デューデリジェンスで延びる場合は、たいてい資料の不足が原因です。
契約書が見つからない、過去の議事録が残っていない、在庫の実数が帳簿と合わない。
準備の段階でここを潰しておくと、そのまま期間の短縮になります。

秘密保持は最後まで続く

段階3で候補先に打診するときは、社名を伏せた匿名の概要(ノンネームシート)から始めます。
関心を示した相手と秘密保持契約を結んで初めて、詳細な資料を開示します。

社内で情報を共有するのは、最終契約が見えてからで間に合います。
順序を誤ると、まとまる話もまとまらなくなります。

売った後、従業員と社長はどうなるのか

会社を売ると決めた経営者が最後まで気にするのは、価格よりもここだという場面をよく見ます。

従業員の雇用と待遇

株式譲渡の場合、雇用契約は会社と従業員の間で結ばれているため、株主が変わっても契約はそのまま続きます。
給与や役職が自動的に下がることはありません。

とはいえ、時間が経てば買い手の人事制度に合わせる調整が入ることはあります。
譲渡後の一定期間について、雇用の維持と待遇の据え置きを契約に盛り込むのは、売り手側から出せる条件です。
買い手にとっても従業員の離職は避けたい事態なので、この点で対立することは多くありません。

いつ、どう伝えるか

伝えるタイミングは、原則として最終契約の締結後です。
それより前に伝えると、話がまとまらなかった場合に会社の中に不安だけが残ります。

ただし、幹部社員には早めに相談したほうがよい場合もあります。
デューデリジェンスの資料集めに協力が要る、現場の説明を任せる必要がある、といった事情があるためです。
誰にいつ伝えるかは、事業の状況によって答えが変わります。

伝え方の順序と、実際に社員から出やすい質問への答え方は、会社売却を従業員にどう伝えるかで具体的に扱っています。
ここは会社ごとに事情が違うので、専用の記事を用意しています。

社長自身はどうなるか

譲渡後の立場は、契約で決めます。
多くの案件では、引き継ぎのために半年から2年ほど、役員や顧問として残ります。
報酬も契約で定めます。

その後は完全に離れる方もいれば、そのまま経営に関わり続ける方もいます。
譲渡代金を元手に別の事業を始める方、しばらく休んでから次を考える方もいます。
ここに決まった形はありません。
自分がどうしたいかを先に決めておくと、交渉の材料が1つ増えます。

一方で、株式を譲った時点で会社の意思決定権は買い手に移ります。
以前と同じように自分の判断で動かせるわけではない、という前提は持っておく必要があります。

会社を売ったときにかかる税金

譲渡代金がそのまま手元に残るわけではありません。
誰に、どの税金がかかるかは、株式譲渡か事業譲渡かで変わります。

株式譲渡なら、個人の譲渡所得に20.315%

経営者個人が株式を譲った場合、売却益は譲渡所得として申告分離課税の対象になります。
税率は所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計20.315%です(2026年8月時点)。

売却益は、譲渡代金から取得費と譲渡費用を引いて計算します。
取得費は会社を設立したときの出資額などで、これが小さい会社ほど売却益が大きくなります。
譲渡費用には仲介手数料が含まれます。

給与所得などと合算されない分離課税なので、税率は所得の多寡にかかわらず一定です。
譲渡代金1億円で取得費が1,000万円なら、課税対象は9,000万円、税額はおよそ1,828万円という計算になります。

事業譲渡なら、まず会社に法人税

事業譲渡では代金が会社に入るため、売却益に法人税等がかかります。
実効税率は会社の規模や所得によって変わります。

さらに、譲渡する資産のうち課税対象となるもの(棚卸資産、機械設備、のれんなど)には消費税がかかります。
土地や有価証券は課税されません。

会社に入ったお金を経営者個人が受け取るには、配当や役員退職金といった別の手続きが必要で、そこにもう一度課税されます。
この二段階の負担があるため、手元に残る金額で比べると株式譲渡のほうが有利になるケースが多くあります。

退職金を組み合わせる考え方

譲渡代金の一部を役員退職金として受け取る設計を取ることがあります。
退職所得は勤続年数に応じた控除があり、控除後の金額の2分の1が課税対象になるため、税負担を抑えられる場合があります。

ただし、不相当に高額と判断された部分は会社の損金として認められません。
金額の妥当性は勤続年数や最終報酬月額から検討する必要があり、税理士の関与が前提になります。

税制は改正されます。
実際の手取り額の試算と手続きは、必ず税理士に確認してください。
株式譲渡と事業譲渡それぞれの計算例、退職金の設計、消費税の扱いは会社売却にかかる税金で詳しく扱っています。

相談先の選び方

会社を売ると決めたら、次は誰に相談するかです。
相談先によって、扱える会社の規模も、かかる費用も、進め方も違います。

【表6】相談先の種類と向き不向き

相談先 費用の目安 向いている会社 注意点
M&A仲介会社 成功報酬型が中心。最低報酬を1,000万〜2,500万円に設定する会社が多い 年商数千万円〜30億円規模 売り手と買い手の双方から報酬を受け取る構造がある
FA(M&Aアドバイザリー) 案件規模が大きく、月額報酬が発生する場合もある 譲渡額10億円超、条件交渉が複雑な案件 片側だけにつくため、相手側の負担が増える
M&Aマッチングサイト 無料〜成約時手数料 個人事業、小規模事業者、まず相場観を知りたい会社 資料作成や交渉を自力で進める必要がある
事業承継・引継ぎ支援センター 無料 地域の中小企業全般 案件数と支援体制は地域によって差がある
取引金融機関 案件により異なる 融資取引のある会社 自行のネットワーク内での紹介に限られることがある
顧問税理士 顧問料の範囲または別途 最初に相談する窓口として M&Aの実務経験がない場合もある

公的な窓口として、全国に事業承継・引継ぎ支援センターがあります。
相談は無料で、第三者への承継の成約件数は令和5年度に2,023件と過去最高でした(中小企業基盤整備機構の実績発表より)。
どこから手をつけるかわからない段階では、ここから始めるのも1つの方法です。

手数料の総額は相談先で大きく変わる

同じ会社を同じ金額で売っても、支払う手数料は依頼先によって数百万円から2,000万円以上変わります。
効くのは2点です。

1つは最低報酬額です。
レーマン方式(譲渡額の区分ごとに手数料率をかけて合計する計算方法)で計算した額が最低報酬を下回る場合、最低報酬のほうが適用されます。
最低報酬2,500万円の会社に譲渡額1億円で依頼すれば、譲渡代金の4分の1が手数料になります。

もう1つは成功報酬の計算の土台です。
株式の価値を土台にする会社と、株式の価値に借入金を足した「移動総資産」を土台にする会社があります。
借入が大きい会社では、後者のほうが基準額が膨らみます。

どちらも各社の公式サイトに書かれている情報です。
主要各社の手数料体系の比較と、初回面談で聞くべき質問はM&A仲介会社の選び方と比較一覧M&Aの費用と手数料相場にまとめました。

相談は無料の会社が多い

初回相談を無料としている会社がほとんどです。
いくらで売れそうか、どの方法が合っているかを聞くだけなら費用はかかりません。

複数の会社に話を聞いて比べることもできます。
担当者の説明がわかりやすいか、都合の悪い話も先に出してくれるか。
ここは実際に会わないと判断できない部分です。

M&Aナビは、買い手候補が登録するM&Aプラットフォームと、着手金と中間金のかからない完全成功報酬型の仲介サービスを運営しています。
まずは自社がいくらで売れそうか、どの進め方が合っているかを整理するところからお手伝いします。

>>事業の譲渡・売却について相談する

よくある質問

会社を売ると、手元にいくら残りますか?

株式譲渡なら、譲渡代金から仲介手数料を引き、売却益に20.315%の税金がかかった残りが手元に残ります。
譲渡代金1億円、取得費1,000万円、仲介手数料1,000万円のケースなら、課税対象は8,000万円、税額はおよそ1,625万円で、手取りはおよそ7,375万円という計算になります。
実際の税額は個別事情で変わるため、税理士に確認してください。

赤字でも会社は売れますか?

売れる場合があります。
買い手が見ているのは直近の損益だけではなく、許認可、技術を持つ人材、顧客基盤、立地、設備といった要素です。
赤字の理由が一時的な投資や社長の高額な役員報酬にある場合、実質的な収益力は別に評価されます。

ただし、債務超過が続いている、事業そのものが縮小している場合は、買い手探しに時間がかかります。
早めに動くほど選択肢が残ります。

会社を売るのに、どれくらいの期間がかかりますか?

当社プラットフォームの実績では、案件の掲載から成約まで平均268日でした(参考値)。
準備期間を含めると、検討開始から1年前後を見ておくと現実的です。
買い手探しの期間は案件によって差が大きく、そこが全体の期間を左右します。

従業員に反対されませんか?

株式譲渡なら雇用契約はそのまま続き、給与や役職が自動的に下がることはありません。
とはいえ、伝え方と順序を誤ると動揺が広がります。
原則は最終契約の締結後に伝えることで、幹部社員だけ先に相談する場合もあります。
詳しくは会社売却を従業員にどう伝えるかをご覧ください。

借入金と社長の個人保証はどうなりますか?

株式譲渡では、借入金は会社に残ったまま買い手に引き継がれます。
経営者個人の連帯保証は自動では外れず、金融機関の同意が必要です。
M&Aの実務では、買い手側の責任で解除することを契約条件に盛り込むのが一般的になっています。
解除できなかった場合の取り扱いも含め、契約段階で確認してください。

誰にも知られずに進められますか?

進められます。
買い手候補への打診は、社名を伏せた匿名の概要から始め、関心を示した相手と秘密保持契約を結んでから詳細を開示します。
社内で共有するのも最終契約が見えてからで間に合います。

小さな会社でも売れますか?

売れます。
ただし、譲渡額が数百万円から1,000万円規模の場合、最低報酬が1,000万円を超える仲介会社に依頼すると手数料が譲渡代金に迫ります。
この規模ではM&Aマッチングサイトや小規模案件に対応する支援会社を検討してください。

社長は売却後すぐに引退できますか?

すぐに離れられるケースは多くありません。
引き継ぎのため、半年から2年ほど役員や顧問として残るのが一般的です。
期間と報酬は交渉できる項目なので、いつまでに引退したいかを早い段階で伝えておくと調整しやすくなります。

まとめ

会社を売るかどうかの判断で最初に置きたいのは時間です。
2026年上半期に後継者難で倒産した264社のうち85.6%は、代表者の死亡か体調不良がきっかけでした。
準備そのものは、業績とも年齢とも関係なく、元気なうちにしか進められません。

売却の期間は、当社プラットフォームの実績で掲載から成約まで平均268日(参考値)。
準備を含めれば1年前後です。
この期間を確保できるかどうかが、複数の買い手を並べて条件を選べるか、目の前の1社と交渉するしかないかの分かれ目になります。

価格の概算は、時価純資産に営業利益の2年から5年分を乗せるところから始めます。
手元に残る額は、そこから仲介手数料と20.315%の税金を引いた金額です。
この3つの数字が見えれば、廃業と比べてどちらが自社と従業員にとって良いかは判断できます。

今日できることは、決算書3期分と、取引先ごとの売上構成、許認可と契約書の一覧を揃えておくことです。
それだけで、相談したときに返ってくる答えの精度が変わります。

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