M&Aのプロセス完全ガイド:4つの検討ステップと5つのポイントを徹底解説
M&Aが経営戦略の手法として一般化する中で、どのようなプロセスでM&Aのディールが進行するかわからないといった声を耳にすることが増えました。
この記事では、M&Aの基本的な定義とその重要性から始め、全体的な流れを具体的に解説します。
M&A(合併・買収)は、企業の成長戦略の一つとして多くの企業が取り組むビジネス活動です。
しかし、M&Aが成功するためには、取引の完了後も多くの手続きや注意点が存在します。
この記事では、M&A完了後に必要な法的手続きや経営上の課題、そしてそれらの対策について詳しく解説します。
この記事を読み終えることで、M&Aの各プロセスで必要な手続きと注意点が明確になり、スムーズに進行できる自信がつくでしょう。
目次
M&Aプロセス:全体的な流れ
近年、企業の成長戦略としてM&Aが注目されています。M&Aは、企業の競争力を高めるための有効な手段として多くの企業が取り組んでいます。このセクションでは、M&Aの基本的な定義、その全体的な流れ、そしてビジネス戦略としての重要性について詳しく解説します。
M&Aの全体的な流れ:一般的なステップ
M&Aのプロセスは複雑であり、以下のような一般的なステップから成り立っています。
1. 事前検討
M&Aの目的や目標を明確にし、どのような企業を対象とするかを検討します。
この段階では、市場の動向や自社の強み・弱みを分析し、M&Aの方向性を定めます。
2. マッチング
適切なパートナー企業を見つけるためのプロセスです。
この段階では、様々な情報収集や分析が行われます。また、業界の専門家やコンサルタントの意見も取り入れることが多いです。
3. 交渉
価格や条件など、具体的な取引の詳細を決定する段階です。
この段階では、双方の利益を最大化するための戦略的な交渉が行われます。
価格だけでなく、将来的な業績予測やリスク要因も考慮されることが多いです。
4. 契約締結
双方が合意した内容を文書化し、正式な契約を結ぶ段階です。
この段階での契約書の作成は、専門家の協力を得て行われることが一般的です。
5. クロージング
取引が正式に完了し、所有権や経営権が移転する段階です。
この段階では、公的機関への届け出や登記手続きなどの法的手続きが必要となります。
M&Aの重要性:ビジネス戦略としての役割
M&Aは、企業のビジネス戦略としての重要な役割を果たしています。
新しい市場への参入や技術の獲得、経営資源の最適化など、M&Aを通じて得られるメリットは多岐にわたります。
また、M&Aは企業の競争力を高めるための有効な手段として認識されています。
適切なM&A戦略を策定し、実行することで、企業は持続的な成長を達成することができます。
さらに、M&Aによって企業は新しい市場や顧客層にアクセスすることが可能となり、ビジネスの拡大や多角化を図ることができます。
M&Aのプロセス:①検討・準備フェーズ
M&Aを成功させるための最初のステップは、事前の検討と準備です。
この段階での正確な判断と計画は、後のプロセスをスムーズに進めるための基盤となります。
目的と目標の設定
M&Aの事前検討は、その取引の成功を左右する非常に重要なステップです。
まず、M&Aを行う目的を明確に定義する必要があります。市場の拡大、新技術の獲得、業績の向上、コスト削減など、M&Aの目的は多岐にわたります。
この目的に基づき、具体的な目標を設定します。
例えば、市場シェアの拡大を目的とする場合、具体的な目標として「2年以内に市場シェアを10%増加させる」といった数値目標を設定することが考えられます。
リソースと計画の策定
M&Aの準備フェーズでは、取引を進めるためのリソースの確保と計画の策定が行われます。
まず、M&Aに関する専門知識や経験を持つチームを組織し、必要な資金や人材、情報を確保します。
次に、M&Aの全体的なスケジュールや各ステップの詳細な計画を策定します。
この計画には、目的や目標の達成を確認するためのKPI(Key Performance Indicator)も含まれることが多いです。
M&Aのプロセス:②マッチング・交渉フェーズ
M&Aの成功の鍵は、適切なパートナー企業の選択にあります。このフェーズでは、様々な情報収集や分析を行い、最適なパートナーを見つけ出す作業が行われます。
マッチング
マッチングは、M&Aの目的や目標に合致する企業を見つけるプロセスです。
この段階では、様々な情報収集や分析が行われ、最適なパートナー企業を選択します。
市場調査や業界のトレンド分析を行い、将来的なシナジーを最大化できる企業を選定することが重要です。
また、企業文化や経営哲学の適合性も考慮されることが多いです。
M&Aにおける候補先探しに関しては、以下の記事をご確認ください。
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交渉
交渉は、M&Aの取引の詳細を決定する段階です。
価格や条件など、具体的な取引の詳細を双方が合意することが求められます。
この段階では、双方の利益を最大化するための戦略的な交渉が行われます。
価格だけでなく、将来的な業績予測やリスク要因も考慮されることが多いです。
また、交渉の過程で新たな情報が明らかになることもあり、柔軟な対応が求められます。
M&Aのプロセス:③契約締結
M&Aのプロセスにおいて、契約締結は非常に重要な段階となります。
この段階での詳細な検討と正確な文書化は、後のトラブルを防ぐための基盤となります。
M&Aの成功のためには、この段階での専門家との連携が不可欠です。
契約書作成
契約書の作成は、M&Aの交渉内容を正確に反映するための重要なステップです。
この文書は、双方の権利と義務、取引の詳細、将来的なリスクや責任に関する内容を明確に記載するものです。
特に、潜在的なリスクや未来の不確実性を考慮した条項の設定が重要となります。
契約書の作成には、専門家や弁護士の協力を得ることが一般的です。
彼らの専門的な知識は、契約書が法的に適切であり、双方の利益を守るためのものであることを保証します。
また、契約書には、細かな条項や定義、例外事項など、多岐にわたる内容が記載されるため、専門家の意見やアドバイスが不可欠です。
さらに、異なる業界や国際的なM&Aの場合、業界特有の規制や国際法の適用を考慮する必要があります。
契約締結
契約書が作成され、双方が内容に納得した後、正式な合意の締結が行われます。
この契約締結は、公的な場所や第三者の立会いのもとで行われることが多いです。
この段階での正確な合意は、後のトラブルを防ぐための鍵となります。
契約締結の際には、契約書の内容を再度確認し、双方が納得の上で署名・捺印を行います。この時点で、M&Aの取引は法的に有効となります。
M&Aにおける最終契約書に関しては、以下の記事をご確認ください。
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M&Aのプロセス:④クロージング・PMI
M&Aが正式に完了した後も、さまざまな手続きや経営戦略の策定が必要となります。
この段階での適切な対応は、M&Aの成功を確実にするための鍵となります。
クロージング後の手続き
M&Aが完了し、契約が締結された後、所有権や経営権の移転などの手続きが行われます。
このクロージング後の手続きは、公的機関への届け出や登記手続きなど、多岐にわたる法的手続きを含みます。
特に、不動産や特許権などの資産の移転には、専門的な知識や手続きが求められます。これらの手続きは、M&Aの取引が正式に完了し、新たな経営体制が始まるための基盤となります。
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PMI(Post Merger Integration)
M&A完了後、最も重要なステップとしてPMI(Post Merger Integration)があります。
これは、M&Aによって統合された企業の経営戦略や組織文化、業務プロセスを統合・最適化するプロセスを指します。
PMIの目的は、M&Aによって生じるシナジーを最大限に引き出すことです。
この段階では、組織の再編や人事異動、業務プロセスの見直し、ITシステムの統合など、多岐にわたる取り組みが行われます。
PMIの成功は、M&Aの成功を大きく左右するため、十分な計画と実行が求められます。
特に、組織文化の統合や従業員のモチベーション維持は、PMIの成功を左右する重要な要素となります。
M&A完了後に必要な手続きと注意点
M&Aが正式に完了した後も、さまざまな手続きや注意点が存在します。
これらの手続きや注意点を適切に対応することで、M&Aの成功を確実にすることができます。
完了後の法的手続き:報告義務等
M&Aが完了した後、特に大規模な取引の場合、多くの法的手続きが必要となります。
これらの手続きは、取引の正当性を確保し、関連するステークホルダーに対する情報開示を行うためのものです。
報告義務
M&A完了後、取引の詳細や影響に関する報告が必要となる場合があります。
特に上場企業の場合、証券取引所や金融庁への報告が義務付けられています。
これは、投資家や株主に対する情報開示の一環として行われます。
また、国際的なM&Aの場合、関連する国々の規制当局への報告も求められることがあります。
登記手続き
企業の所有権や経営権の移転に伴い、法務局への登記手続きが必要となります。
これには、会社の設立登記、変更登記などが含まれます。
登記手続きは、新たな経営体制や資本構成を公に示すための重要な手続きです。
税務手続き
M&Aに伴う資産の移転や収益の発生により、税務申告が必要となる場合があります。
特に、国際的なM&Aの場合、複数の国の税法に基づく申告が必要となることもあります。
税務専門家との連携を取りながら、適切な税務申告を行うことが重要です。
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M&A完了後の注意点:経営課題と対策
M&Aが完了した後も、経営に関する多くの課題が浮上することがあります。
これらの課題を適切に対応することで、M&Aの成功を確実にすることができます。
組織文化の統合
M&Aにより、異なる組織文化を持つ企業が統合されることが多いです。
この組織文化の違いは、コミュニケーションの障壁や業務の非効率を引き起こす可能性があります。
組織文化の統合を進めることで、これらの問題を解消することができます。
具体的には、共通の価値観やビジョンの策定、トップダウンのコミュニケーション強化などの取り組みが考えられます。
人事異動や配置転換
M&A完了後、組織の再編や人事異動が行われることが多いです。
この際、従業員のモチベーションの維持やスキルの最適化を図ることが重要です。
特に、異なる組織文化や業務内容を持つ従業員同士の連携を強化するための研修やチームビルディングが有効です。
業務プロセスの最適化
M&Aにより、業務プロセスやITシステムが統合されることが多いです。
この統合をスムーズに進めることで、業務の効率化やコスト削減を実現することができます。
具体的には、新たな業務フローやITシステムの導入、既存の業務プロセスの見直しや改善が求められます。
M&Aのプロセスをスムーズに進めるためのポイント
ここまでM&Aのプロセスについて見てきました。
これらのすべてのプロセスを進めると、半年~1年程度の期間を要するといわれています。
かなり長期間を要することから、できるだけスムーズにM&Aのプロセスを進めることが求められるでしょう。
M&Aのプロセスをスムーズに進めるポイントとしては主に以下のようなものがあります。
- 目的を明確に設定すること
- 撤退の基準を事前に設定すること
- 専門人材への相談を行うこと
- (売り手の場合)情報の公開範囲を限定すること
- (買い手の場合)PMIに十分なリソースを投下すること
それぞれについて見ていきましょう。
目的を明確に設定すること
M&Aによって達成したい目的を明確にすることがM&Aのプロセスをスムーズに進める一番のポイントです。
目的が明確になっていれば、M&Aの各プロセスにおいて意思決定の根拠とすることができます。
特に買い手の場合は、経営陣・プロジェクトチーム・外部パートナーなど、関係者が多くなる傾向にあります。
それぞれの役割の人がM&Aの目的に沿って意思決定することでスムーズなM&Aプロセスが可能になります。
売り手・買い手の双方にとってM&Aは経営戦略の一つの手段であるため、最終的に達成したい目的を明確にしましょう。
撤退の基準を事前に設定すること
時にはM&Aの選択肢を辞め、M&Aのプロジェクトから撤退することも重要なポイントです。
その際、事前に撤退する基準を決めておくとスムーズな意思決定の助けになります。
撤退ラインを決めることで、その基準を満たさない場合はM&Aの交渉を継続することができます。
関係者と事前に撤退の基準を合意しておくことで、各役割でスムーズな情報共有と意思決定を進められるでしょう。
専門家への相談を行うこと
M&Aの知識やノウハウを豊富に保有している専門家へ相談することは非常に重要です。
売り手の場合は、M&Aのメリットを最大化するためのスキームの相談や相手探しの助けとなります。
買い手の場合においても、M&Aの案件の持ち込みや業界のM&A動向を知るチャンスを得ることができます。
(売り手の場合)情報の公開範囲を限定すること
売り手の場合はできる限り情報の公開範囲を限定して進めることがM&Aのプロセスをスムーズに進めるポイントです。
株主や最重要の役員など、情報共有が必須と考えられる方に限定してM&Aを進めるべきです。
特に役員や従業員に情報を公開してしまうと、経営陣への不信感が発生することや退職のリスクにつながります。
従業員の状況の変化が大きい場合は、買い手企業の買収の意思決定に影響を与えることが考えられるため、細心の注意を払いましょう。
(買い手の場合)PMIに十分なリソースを投下すること
買い手企業の場合は、PMIに十分なリソースを投下することがM&Aのプロセスをスムーズに進めるポイントです。
PMIはM&Aの最後のプロセスではありますが、手を抜くと目的を果たすことができないため非常に重要です。
統合がうまくいかないと、損失を継続することや再度事業を売却することになるケースもあります。
特に日本企業では海外進出を目的としたM&Aにおいて失敗を重ねてきました。
近年は徐々に成功事例が増えてきていますが、買収後に経営資源を総動員してPMIに取り組む企業が増えてきていることが背景にあるといえるでしょう。
まとめ
M&A完了後の適切な手続きと注意点の対応は、取引の成功を確実にするための鍵となります。
特に、法的手続きの遵守や経営課題への迅速な対応は、新たな経営体制のスムーズな移行や組織の効率的な運営を実現するために不可欠です。
M&Aを成功に導くためには、これらのポイントをしっかりと押さえ、継続的な取り組みが求められます。
株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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