TOB(株式公開買付け)とは?目的・流れ・株価への影響をわかりやすく解説

TOBとは、Take Over Bid の頭文字をとったものであり、日本語では「株式公開買付」と呼びます。
近年、TOBの件数は高い水準で推移しています。背景には、東京証券取引所による「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請があり、PBR(株価純資産倍率)の低い企業を中心に、経営陣自らが買収するMBO型のTOBや、グループ再編・非公開化を目的としたTOBが相次いでいます。
今後も増えていくと予想されるTOBについて、概要や目的、株価への影響、過去の事例を中心に解説していきます。
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TOBについて
TOBとは Take Over Bid の頭文字をとったもので、日本語では「株式公開買付」と呼びます。
ある会社の経営権を取得するためには株式を買収しなければなりません。
その際に、買収するための期間や価格、株式数などの条件を公開した上で、証券取引所を通さず一定の比率以上買い付ける手法のことをTOBといいます。
有価証券報告書の届出義務がある会社の株式を一定の比率以上買収するときは、届出が法的義務となります。
この場合における買収や届出の手続き全体がTOBとみなされます。
有価証券報告書の届出義務がある会社といえば一般的には上場企業を指しますが、非上場会社でも義務を負っていることがあるため、TOBは非上場企業を対象とすることもありえます。
具体的には、50人以上株主がいる会社を買収する場合は、上場しているかどうかに関係なく有価証券報告書を届出する義務があるのです。
友好的TOBと敵対的TOB
TOBは、対象会社の経営陣が賛同しているかどうかで大きく2つに分けられます。
友好的TOBは、事前に対象会社の経営陣と協議し、賛同を得た上で実施するTOBです。日本で実施されるTOBの大半はこちらで、経営陣が株主に応募を推奨するため、成立の確度が高くなります。
敵対的TOB(同意なき買収提案)は、経営陣の賛同を得ないまま実施するTOBです。かつて日本では成立しにくいとされてきましたが、近年は経済産業省が「企業買収における行動指針」を公表し、真摯な買収提案には取締役会も真摯に検討することが求められるようになったことで、同意なき買収提案からスタートして最終的に経営陣が賛同に転じる事例も出てきています。
TOBの手順

それでは、TOBを実施される手順を解説いたします。
1.公開買付開始の公告と公開買付届出書の提出
買収者はTOBをすることを決めたら、その事実を広く公に知らせるために公開買付開始公告をおこないます。
買付の目的、買付け等の価格、買付予定の株式数、買付けの期間などを公告した上で、公開買付届出書を内閣総理大臣(実務上は財務局)に提出することでTOBは始まります。
2.意見表明報告書の提出
公開買付が始まると、株主にとって最も大きな関心事は、買収されようとしている会社自身がこの買付に対してどう思っているのかという点です。
いわゆる友好的TOBや敵対的TOBなどと呼ばれるとおり、一言でTOBと言ってもさまざまな状況がおこりえます。
TOBをおこなうこと自体、その会社の経営陣の同意は必要ありませんが、現実的なTOBのほとんどは事前に協議を重ねた上で友好的な買付になることが多いです。
しかしながら、経営陣に反対されているにも関わらずどうしても買収したい、というときは意に反してTOBを実施することもあるのです。
経営陣がTOBの事実を知らなかった、または反対している場合、通常はなんらかの防衛策を講じます。
そうなれば、その会社にとっては通常の業務だけではなく余計な業務が増えることになります。
また、もしそのTOBを仕掛ける相手が悪者のように見えれば、その会社を助けたいと思って、より良い条件を提示する対抗者(ホワイトナイト)が現れ、TOB合戦になることもあります。
いずれにしても、経営陣の方針によって会社の業績や株価が左右されることは間違いないため、TOBを仕掛けられた会社は、公開買付公告が行われて10営業日以内に、公開買付に対する意見表明報告書を財務局に提出する義務があります。
3.公開買付報告書の提出
あらかじめ決めた買付期間が終了すると、その結果を報告しなければなりません。これを公開買付報告書と呼び、買付の成否・買付けた株数、買付後の保有割合などの結果を記載した報告書を財務局に提出します。
TOBで株価はどうなる?
TOBが公表されると、対象会社の株価は大きく動きます。検索される方が最も気になるポイントなので、仕組みを整理しておきましょう。
買付価格には「プレミアム」が上乗せされる
TOBの買付価格は、公表前の市場株価に対して一定の上乗せ(プレミアム)をした水準に設定されるのが一般的です。プレミアムの水準は案件によって異なりますが、直近の株価に対して2〜4割程度の上乗せとなるケースが多く見られます。
株主に「市場で売るよりもTOBに応募した方が得だ」と思ってもらわなければ株式が集まらないため、プレミアムはTOBを成立させるための重要な条件です。
公表後の株価は買付価格に近づく
TOBが公表されると、対象会社の株価は買付価格の近辺まで上昇するのが通常です。買付価格より安い価格で売る理由がなくなるためです。
一方で、株価が買付価格を上回って推移する場合は、市場が「より高い対抗TOBや買付価格の引き上げがあるかもしれない」と見ている状態です。逆に、成立が疑問視されると買付価格より低い水準にとどまることもあります。
なお、親会社が完全子会社化する場合などには、市場価格より低い価格で買い付ける「ディスカウントTOB」という例外もあります。
株主はどうすればいい?3つの選択肢
保有する株式がTOBの対象になった場合、株主には大きく3つの選択肢があります。
- TOBに応募する:買付価格で売却します。証券会社経由で応募手続きを行います(応募が買付予定数を超えた場合は按分されることがあります)。
- 市場で売却する:公表後の上昇した株価で市場売却します。応募の手間や成立リスクを避けられる一方、買付価格よりわずかに安くなることが多いです。
- 応募せず保有を続ける:TOB成立後に完全子会社化(スクイーズアウト)が予定されている場合、最終的には金銭が交付され、上場廃止により市場で売却できなくなります。応募しない場合の取り扱いは公開買付届出書で必ず確認しましょう。
TOBという手続きが必要となる理由
TOBによって投資家が不利益を被らないよう公平性を保つため

TOBという制度を使わなければならないということは、不特定多数の株主が存在する会社を買収することを意味します。
上場企業の場合、証券取引所の中で市場が開かれている時間内であれば、原則として誰でも自由にその株式を売買することが可能です。
価格も常に公開されており、非常に透明性の高い取引であるといえます。
しかし、誰かがその会社の株式を大量に取得するために、ある人には1,000円で、別の人には1,500円で、といった感じでコソコソと別の条件を提示しながら買い集めていくとすると、不公平感がありますよね。
さらに、「大量に買う」という行為自体がその会社の業績、ひいては株価を大きく左右する事実であるにも関わらず、その事実を知っている株主とそうでない株主が出ることは望ましくありません
そこで、一部の投資家が不利益を被ることがないよう、大量に株式を買い付ける場合はTOBという手続きによって公正に進める必要があるということです。
別の投資家の立場からすると、非公開で大量の株式が取引されれば、原因不明の株価変動が発生するため、投資判断の公平性がなくなり不利益を被ることがあります。
このような事態を予防する効果がTOBにはあるのです。
買収時にTOBを選択しなければならない条件【2026年5月施行の改正に対応】

どんな場合にTOBによる買付けが義務になるのかは、金融商品取引法で定められています。
この公開買付規制は、2026年5月1日に施行された改正金融商品取引法(令和6年改正)で大きく変わりました。長年「3分の1ルール」と呼ばれてきた基準が「30%ルール」に引き下げられたほか、市場内取引への適用拡大などが行われています。現行のルールを整理しましょう。
5%基準
市場外での買付け等をおこなった後に所有割合が5%を超える場合は、TOBによる手続きが必要となり、5%基準とも呼ばれています。
ただし例外として、60日間で10名以下から買い付けをおこなう場合、公開買付は不要です。
30%ルール(旧・3分の1ルール)
買付け後の所有割合が30%を超える場合は、TOBによる手続きが必要です。
改正前は「3分の1(約33.3%)」が基準だったため「3分の1ルール」と呼ばれてきましたが、2026年5月施行の改正で30%に引き下げられました。
30%という水準は、株主総会の特別決議の帰趨に大きな影響を与えうる「実質的な支配力」の入り口とされており、たとえ少数の株主からの買付けであっても、公開された手続きによることが求められます。
市場内取引(立会内)にも適用が拡大
改正前は、証券取引所の立会内取引(通常の市場内取引)で株式を買い集める場合、公開買付規制の対象外でした。
改正後は、市場内取引(立会内)による買付けでも、所有割合が30%を超える場合には公開買付けが必要になりました。市場内で静かに買い進めて支配権を取得する、という従来の抜け道が塞がれた形です。
なお、ToSTNeT取引などの立会外取引は、改正前から公開買付規制の対象とされています。
「急速な買付け」規制は廃止・一本化
改正前に存在した「3ヶ月以内の急速な買付け」に関する規制は、今回の改正で廃止され、30%ルールを軸とした公開買付規制に一本化されました。
このほか、僅少な買付け(0.5%未満)の適用除外の新設など実務的な見直しも行われています。個別のケースが規制に該当するかどうかは、金融庁の公表資料や専門家にご確認ください。
買収者がTOBをおこなうメリット
メリット1.TOBは大量の株式を一度に入手できる

これまで説明したとおり、TOBは、株式を決まった期間で大量に取得する際に活用する手法です。
もし、株式をマーケットで買収しようとしても、大量に買付注文すればたちまち株価は急騰し、思い通りに買収できなくなる可能性があります。
しかしTOBの場合は、前もって買収する株価・期間・株式数を決めた上で大量の応募を募ることができるため、成功すれば一気に大量の株式を買い付けることが可能となります。
メリット2.TOBは株式取得にかかる金額を決めることができる

TOBは、あらかじめ買付金額を決めてからおこなうため、必要となる株式数を手に入れるために必要な金額をあらかじめ計算することができます。
ただしこれは友好的TOBの場合に限られ、経営陣が賛同していない敵対的TOBの場合、買収防衛策として買付価格を引き上げようとされることもあるため注意が必要です。
最近のTOB事例
ここではTOBの最近の事例についてご紹介します。
KDDIによるローソンへのTOB
2024年、通信大手のKDDIは、コンビニエンスストア大手のローソンに対するTOBを実施し成立させました。
このTOBにより、ローソンは三菱商事とKDDIがそれぞれ約50%を出資する共同経営体制となり、上場廃止となりました。通信とコンビニという異業種の掛け合わせによる新しいサービス創出を目指す、近年を代表する大型TOBです。
ニデックによるTAKISAWAへのTOB
2024年2月、ニデック(旧日本電産)は、工作機械メーカーである株式会社TAKISAWAをTOBによって完全子会社化しました。
ニデックは、2023年9月14日よりTOBを開始。今回のTOBは、被買収側である株式会社TAKISAWAの事前合意なくTOBを提案していましたが、最終的にTAKISAWA経営陣が賛同し株主に応募を推奨しました。「同意なき買収提案」が経営陣の賛同に転じた象徴的な事例として注目されました。
参考:株式会社 TAKISAWA の株式併合の効力発生および、完全子会社化に関するお知らせ
大正製薬ホールディングスのTOB:オーナー家によるMBO
2024年1月、大正製薬ホールディングスは、オーナー家によるTOBが成立したことを発表しました。
本件TOBにより、大正製薬ホールディングスは2024年4月9日をもって上場廃止となっています。日本のMBOとしては過去最大級の案件であり、上場維持コストの増加や東証の市場改革を背景に、MBOによる非公開化という選択肢が広がっていることを示しました。
アークランドサカモトによるLIXILビバへのTOB

2020年7月、ホームセンターを展開するアークランドサカモトは、LIXILグループで同業大手のLIXILビバをTOBによって完全子会社化することとなりました。
このTOBにより両社は、共同仕入れによる原価低減や、利益率の高いプライベートブランド商品の共同開発などの相乗効果を見込んでいます。
対等合併の精神によって実行されたこのTOBは無事に成立し、両社は10年後に売上高5千億円を目指すとしています。
参考:株式会社LIXILビバ株式(証券コード 3564)に対する公開買付けの開始及び資金の借入れに関するお知らせ
三菱ケミカルホールディングスによる田辺三菱製薬株式会社のTOB

三菱ケミカルホールディングスは、化学系のグループ会社を1社に統合しホールディング体制になっています。
グループ内のメジャーな会社として、田辺三菱製薬株式会社や大手ガス会社の大陽日酸株式会社などがあります。
田辺三菱製薬株式会社は、もともと田辺製薬と三菱ウェルファーマが合併した会社で、大陽日酸株式会社は日本酸素株式会社と三菱系の大陽東洋酸素株式会社が合併した会社です。
2020年1月、三菱ケミカルホールディングスは株式を56%持っていた田辺三菱製薬株式会社の非上場化をおこないました。
グループ内で持つ技術力を結集して事業価値を高めるために完全子会社化をおこなった、親子関係におけるTOBです。
参考:支配株主である株式会社三菱ケミカルホールディングスによる当社株式に対する公開買付けに係る意見表明及び応募推奨に関するお知らせ
東芝による3つのグループ会社のTOB

東芝は、上場子会社である東芝プラントシステム、西芝電機、 ニューフレアテクノロジーの3つのグループ会社を非上場化しました。
このTOBは、親子上場の問題を解決するためのものです。
ただしTOBが順調に進んだのは東芝プラントシステムと西芝電機のみで、ニューフレアのTOBに関しては、HOYAが参入を表明したため、当初のTOB期限を延長しました。
対抗馬が現れたのは、それだけニューフレアテクノロジーの資産や商品、技術などに大きな魅力があったからと言われています。
HOYAはこのTOBを成功させるべく、東芝よりも高い買取価格を提示する用意がありましたが、結局、東芝とニューフレアテクノロジーの間でTOBが成立しました。
TOBのまとめ

TOBは、特に大企業におけるM&Aで使われる手法で、一気に経営の流れが変わるダイナミックな戦略です。
東証の市場改革を背景にMBOや非公開化の動きが広がる中、TOBは今後も増えていくと考えられます。株主にとっては、買付価格と市場価格の関係、応募した場合・しなかった場合の取り扱いを正しく理解しておくことが重要です。
今回の記事を参考にして、TOBの基礎知識に関する理解を深めていただければ幸いです。
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株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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