「エクイティファイナンス」にデメリットはないのか?ベンチャー企業の資金調達のリアル
本記事では、エクイティファイナンスファインナンスについて解説します。
スタートアップやベンチャー企業が何億円を調達した、といったニュースを目にすることがあります。
ここ数年スタートアップの資金調達額は飛躍的に増加し、数億円の金額でも驚くことは少なくなりました。
どうやったら設立間もない会社がそんな多額のお金を調達できるのか?
自分の会社でも億単位の資金調達ができるのか?
そこで、今回はベンチャー企業による資金調達の仕組みを解説します。
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目次
エクイティファイナンスの仕組み
ベンチャー企業が多額の資金を調達する手法のほとんどは、「エクイティファイナンス」とよばれる資金調達です。
エクイティとは株式という意味で、新たに株式を発行して、出資を募って資金調達する手法のことです。
新株を発行することによって自分の株式持分が希薄化しますが、金融機関からの借り入れと異なり、返済期限のない資金を得ることができます。
なぜ数億円もの資金調達が可能なのか
大半のベンチャー企業は売上規模も小さく、利益も出ていません。
それにも関わらず、なぜ数億円もの資金調達が可能になっているのでしょうか。
主な理由は下記のとおりです。
リスクを許容できる投資家から資金調達している
ベンチャー企業への投資は、主にエンジェル投資家やベンチャーキャピタルです。
エンジェル投資家は自身の事業成功やIPOなどによって手元に多額の資金を持っている個人投資家のことです。
ベンチャーキャピタルは有望なベンチャー企業に投資し、上場やM&Aをさせることで資金を回収するビジネスを営んでいます。
ベンチャー企業への投資はリスクが大きいものの、成功した場合のリターンは莫大です。
そのため、ある程度のリスクを背負いながらも多額の投資ができるのです。
ベンチャー企業は成長スピードが速い
数億円もの資金調達ができるベンチャー企業は成長スピードが通常の企業と比べて段違いに速いのが特徴です。
普通の中小企業であれば年に110%成長するだけでも大変です。
しかし、ベンチャー企業の場合、逆に110%程度であれば成長は止まってしまったも同然です。
特に創業から間もないうちは年200%、300%のような成長を求められます。
想像のとおり、勢いが非常に大切なのです。
そして、投資家は将来もこの成長角度が続くかどうかをしっかりと見極めたうえで投資判断を行います。
投資家は将来の成長した後の姿をイメージしてベンチャー企業に多額の資金を投資しているのです。
成長できるときに資金を投入するという考え方が主流になった
ベンチャー業界では、成長できるタイミングで一気にアクセルを踏み規模を大きくし、企業評価額を拡大し続けるという手法が主流です。
例えば、海外ですとUberやAirbnb、日本ですとメルカリやFreee、Sansanなどユニコーンと呼ばれる企業はこのような手法で成長の階段を駆け上がってきました。
調達した資金でTVCMをはじめとした大型マーケティングを実施したり、優秀な人材を数多く採用したりしながら、一気にメジャーな存在を勝ち取ってしまうのです。
大手企業にはない独自の強みを持っている
創薬ベンチャーやIT企業など大手企業にはない独自の強みを持っていれば、多額の資金調達ができる可能性が高まります。
独自の強みを持っていれば、すぐに競争環境が激化することもなく、余裕をもって自社の成長にコミットすることができます。
技術系ベンチャーの場合、大手企業がそのノウハウに期待して出資することも珍しくありません。
銀行がブロックチェーン関連のスタートアップに投資するなど、日本でも大手×スタートアップの組み合わせ事例が増えています。
多額の資金調達ができれば幸せなのか
それでは多額の資金調達ができれば幸せなのでしょうか?
実はそう単純な話ではありません。
ベンチャーキャピタルなどから資金調達する際の契約において、創業者はさまざまな権利を相手に渡してしまうケースが一般的です。
また、資金調達の評価額によっては、次回ラウンドで調達するのが難しくなることもしばしばあります。
多額の資金調達の裏側にある注意点をご紹介します。
上場のための努力義務
未上場企業に投資を行う場合のエグジット(投資回収)は2通りしかありません。
上場するか、M&Aするかです。
通常、投資家はベンチャー企業に上場してもらうことを一番に願っています。
投資契約や株主間契約において、経営者は上場のため努力する義務を負うという条項が入るケースが多いです。
場合によっては、「この義務に違反した際に投資した金額で株式を買い取ってください」といった条文も付くことすらあります。
一度、投資家から資金調達してしまえば、成功するか失敗するまで、事業を続けなくてはならないのです。
例え心が折れてしまった場合も走り続けなければならない点は、大きなハードルになります。
高い評価額で調達すると次の資金調達が困難になる
高い評価額で資金調達すると、次回の資金調達ではそれ以上の評価額で資金調達を目指す必要があります。
なぜなら、次回ラウンドで低い評価額で資金調達をされてしまうと、既存の投資家の株式持分がより希薄化してしまい、新しい投資家よりも不利になってしまうのです。
古くからその会社を支援しているのに、新たな投資家の方が有利になってしまうということを避けたいと思うことは当たり前です。
そのため、経営者は常に会社の評価額を上げる努力をしなければならず、心が休まるときはありません。
資金を自由に使うことはできない
オーナー企業であれば、会社のお金の使い道はある程度自由に決めることができます。
交際費や旅費交通費、会議費なども、ルールに沿う範囲内であれば自由に使うことができるでしょう。
一方、投資家から資金調達をした後はそのようなことはできなくなります。
投資家に対して、定期的に試算表を送り財務状況を常に確認されることになります。
どうしても自由を守りたい経営者にとっては、投資家からエクイティによる資金調達は向いていないでしょう。
取締役を派遣されることもある
新株発行による資金調達をする場合、投資の条件として取締役選任権を入れられる場合があります。
この場合、投資家は取締役を派遣することができ、会社の経営を監視しながらともに成長させていくことになります。
投資家はもちろん味方ですので、さまざまな場面でバリューアップのための施策を考えてくれます。
一方で、意見が合わないことも十分に考えられますので、経営の自由度は下がってしまうといえます。
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買収されることで資金を安定させて事業成長することもできる
以上のとおり、億単位の資金調達ができたとしても、さまざまな義務や条件に縛られることになるため、経営者の性格や事業の性質によっては必ずしもハッピーになるとはいえません。
もちろん、少しでも早く会社を成長させるためには、エクイティファイナンスによる資金調達は非常に有効な手段です。
一方で、M&Aという手段を使うことで、安定した資金や基盤を確保しながら企業の成長を求めることもできます。
創業者が持つ株式を企業に買い取ってもらい、自分の会社がその企業の傘下に入るのです。
その場合、どの程度自分の株式を渡すのかによって経営のパターンが変わります。
売却後も一定の株式を保有する場合
売却後も創業者が一定の株式を保有する場合、企業グループの傘下として引き続き、ある程度のオーナーシップをもって事業継続することが一般的です。
M&Aによって一度売却資金を手にした上で、企業グループの中で上場や更なる成長を目指すことができます。
この場合、企業グループの信用力を得て新たに融資を募ることもできますし、親会社からさらなる資金提供を受けることも可能です。
信用力を得ることで事業が格段に安定することができ、創業者も安心して「経営者」として事業に集中することができます。
買収後は一切株式を保有しない場合
買手企業にとって創業者を必要としない場合はそのまま退任を求めることになりますが、中小企業のM&Aにおいては創業者には引き続き経営を任せたいと思っているケースがほとんどです。
しかし、株式をすべて売却すれば持株比率が0%となり、創業者がモチベーションを保ち続けることは容易ではありません。
そこで、経営者にアーンアウトと呼ばれる追加報酬を用意することがあります。
アーンアウトとは、買収の対価を一括ではなく、将来の成長に応じて分割で支払う手法です。
詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
アーンアウト(Earn Out)とは?意味やメリット・...
M&Aによる対価の決め方のひとつにアーンアウト(Earn Out)という条件をつけることがあります。 ITやバイオ系のベンチャー企業やなど高い成長率が期待される会社の売却時に使われることがありますが、多くの経営…
例えば買収後も引き続き経営者の立場として事業を継続し、あらかじめ設定した成長ラインを超えればさらに対価がもらえるという約束です。
買収する企業の立場からすれば、はじめにかかる投資コストを削減してリスクを下げながら、経営者のモチベーションを保つことで成長可能性を高めることができます。
売却する創業者にとっても、大手企業の安定した資金や基盤を得ることで成長可能性を高めることで、一括で売り切るよりも多額のリターンを得られる可能性があります。
M&Aによる売却は必ずしも売って終わりではなく、このように継続して経営をおこなうことは珍しくありません。
資金調達は慎重かつ大胆におこないましょう
ベンチャー企業による新株発行の資金調達、つまりエクイティファイナンスは一度おこなってしまうと後戻りができません。
エクイティファイナンスを行う前に事前にメリット・デメリットを検討すべきでしょう。
万が一誤ったエクイティファイナンスをおこなってしまうことで、いびつな株主構成になり、その後M&Aによる売却ができなくなる恐れもあります。
資金調達に失敗しないようにするためには十分な検討と将来の見立てが必要ですが、いつでもどこでも資金調達できるわけではないですし、M&Aも巡り合わせが悪ければいつまでたっても売却することはできませんので注意しましょう。
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株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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