【M&A成約インタビュー】PMIに携わった経験がある人材領域のプロが、自社の譲渡を決めた理由 ――「失敗しない譲渡先選び」3つの基準と、本音の交渉術に迫る

2026年02月20日

Matka_インタビュー_アイキャッチ

兵庫県宝塚市で、人材紹介企業様向けの支援サービスを提供する株式会社Matka(兵庫県宝塚市)。
リンクアンドモチベーションやリクルートでのキャリアを経て、創業者である代表の中野様が人材領域の専門性を活かして立ち上げた企業です。

株式会社Matkaは、事業の拡大に伴うリソースの限界や業界全体の課題への挑戦、そして2児の育児と経営の両立を理由に、株式会社ガイアックス(東京都千代田区)にM&Aされました。

今回は、株式会社Matkaの代表である中野様株式会社ガイアックスのHR事業責任者である管様にお話をうかがいました。

双方の概況

起業までの経緯と複数社のM&Aを内側から見てきた原体験

株式会社Matkaの代表・中野様は、新卒で株式会社リンクアンドモチベーションに入社し社長室に在籍した経歴を持ちます。

当時、リンクアンドモチベーション社は組織が約200人から約2,000人規模へと急成長を遂げる過程であり、その中で中野様は、複数社のM&A買収後の組織に関与した経験を持ちます。

M&A後の現場に携わることで、その難しさを体感した彼女は、M&Aが「成約(ゴール)」ではなく、その後に始まる組織の融合こそが真の成否を分ける本番であることを理解していました。

中野様は、当時の経験を次のように振り返ります。

中野様:
「リンクアンドモチベーションに新卒で入社し、その後リクルートに転職してキャリアを作ってきました。

リンクアンドモチベーションでは、新卒2年目でM&Aを経てジョインいただいた企業様のメンバーのみなさまと働かせていただく経験もしました。

PMIの現場では、ソフト面ハード面両面でのすり合わせがとても大切であることを感じました」

M&Aの現場では、異なる背景を持つ組織同士がぶつかり合う摩擦が避けられません。
彼女は、単なる条件面だけでなく、現場レベルでは組織面のフィットも大切であることを感じていました。

中野様:
「大事なのはPMI。

単に表面上の事業的な親和性が高いという理屈だけでなく、経営陣との相性や仕事のスピード感、信頼関係といった『ソフト面のマッチング』が大切だと当時から感じていました。」

この会社員時代の経験が、後に彼女自身が自社の譲渡を決断する際の指針となります。

人材領域の専門性を活かして起業、その後に直面した”成長の壁”

リンクアンドモチベーション社やリクルート社において、人材領域でキャリア支援や採用コンサルティングを経験された中野様は、2020年12月に株式会社Matkaを創業されます。

中野様のこれまでのご経験を活かし、Matka社の創業以来、人材領域のサービスを提供しており、主に人材斡旋企業様向け支援サービスを主力事業として運営されてきました。

そんな中野様ですが、経営者としての顔は「1人目の子供を出産してわずか6ヶ月で起業した」という驚くべきバイタリティから始まります。

その後、会社運営を行いながら創業から3年後には2人目を出産し、2児を育てながら経営を続けるという多忙な日々を送りながら、株式会社Matkaを成長させてきました。

中野様は、当時の状況を何も考えず走り出してしまった感じはありました、と振り返りますが、事業が拡大するにつれて前向きな”壁”に突き当たります。

中野様:
「現状維持であれば一人でも問題なかったのですが、お客様の悩みを聞き、事業が成長していく中で、一社一社にお答えしているだけでは叶えられない『業界全体の課題』があると感じるようになりました。」

志が大きくなる一方で、現実的なリソースの限界が彼女を悩ませていました。

中野様:
「自分一人でやっていくことや、Matkaの今のチーム体制でやっていくことには限界がある。

でも、今の家庭と仕事の両立状況では、これ以上の大きなチャレンジをするための踏ん切りがつききらない。

そんな閉塞感やもどかしさを感じていました。」

大変だから誰かに頼りたいという消極的な理由ではなく、より大きな価値を世の中に提供したいけれど今のままではそれが叶えられないという経営者としての純粋な欲求が、M&Aを検討するきっかけになりました。

そんな中、当時クライアントの一人であった株式会社ガイアックスの管様との対話の中で、M&Aが現実的な選択肢として考えられるようになっていきます。

中野様:
「管さんとお話をしていく中で、M&Aという選択肢が現実的にあるんだな、と認識したんです。

お互いにとってウィンウィンな関係になれるのではないか、という兆しを感じたことが具体的に考え始めたきっかけでした。」

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譲渡先選びで実践した、失敗しないための3つの評価基準

譲渡を検討する際、中野様が最も強く意識したのは自分をいかに高く売るかではなくPMI(成約後の組織統合)で破綻しないことでした。

多くのM&Aの現場を見てきた彼女にとって、買い手候補との面談は自分をよく見せるための”お見合い”ではなく、共に生活を営めるかを確認する”結婚前の本音の話し合い”だったのです。

中野様:
「結婚相手を選ぶようなものかなと思ったんですね。

緊張して自分をよく見せることで『買いたい』と思っていただく側面も大事ですが、そこでよく見せすぎたとしても、ミスマッチが起きてしまえばM&Aの成立後にドロドロするだけです。

だからこそ、最初から自分の弱いところや本音ベースで喋ることを大事にしていました。」

中野様は買い手候補を見極めるために、以下の3つの絶対的な基準を設けていたといいます。

中野様:
「まず大事にしたのは、『相手の期待値の確認』ですね。

先方の期待と私の思いがズレていないかを確認します。例えば、結婚でも”奥さんに家事をしてほしい夫”と”家事をしたくない妻”では致命的なミスマッチになります。
このM&Aというものに、そもそも何を期待しているのかは絶対に確認していました。

次に大切にしたのは、『具体的な現場レベルのシナジー』です。

表面上の”一緒になれば良さそう”というのは誰でも分かります。そこで終わるのではなく、具体的にどの顧客にどう価値を届け、どう売上が上がるのかまで細かく確認しました。
オペレーションレベルまで含めてシナジーが出るイメージが持てるかを重視しました。

最後は、『組織のカルチャー』です。

例えば、どんな人が評価される組織であり、またどういった時に叱責を受けるのかをヒアリングしました。
組織として大事にしている核となる部分を聞くことでカルチャーが分かります。組織のカルチャーに共感できるかどうかは、M&Aの後に共に歩みを進めていくうえで譲れないポイントでした。」

中野様は、会社員時代にM&A後の統合に関わった経験からソフト面(仕事のスピード感や信頼関係、基準感)の擦り合いが成否を分けることを痛感していたのです。

中野様:
「1回や2回会っただけの『お見合い』では、表面的なことしか分かりません。だからこそ、高い確信を持ってPMIを成功させるために、3つの基準で徹底的に本音の対話を繰り返しました。」

決断の直前に訪れた葛藤と、吹き飛ばした買い手からの本音

最終的に、譲渡の候補先は3社に絞られました。
しかし、決断の直前に中野様は「マリッジブルー」とも言える激しい葛藤に襲われます。

PMIに携わってきた経験から現場の「ドロドロ」を見てきたからこそ、上場企業の傘下に入ることで、自身が守ってきた自由なカルチャーや、5歳と2歳の子どもたちとの大切な時間が失われるのではないかという恐怖が芽生えたといいます。

中野様:
「もうM&A自体を全部やめようとしていました。

やはり数字のプレッシャーですね。期待されたら頑張ってしまうタイプなので、それによって家庭や自分が大事にしたいものにシワ寄せがいくんじゃないかと、すごく不安でした。
もはや誰にも期待されない場所にいたほうがいいんじゃないかとさえ思っていました。」

実際、どの候補先も事業的な親和性が高く提案も魅力的だったといいます。

”マリッジブルー”に陥っていた中野様の心を最後に動かしたのは、2年前からのクライアントであり、信頼を寄せていた株式会社ガイアックスの管様の放ったビジネスの枠を超えた「本音」でした。

中野様:
「他の会社さんからも期待を寄せていただく中で、管さんから『中野さんと一緒に頑張りたい』や『Matkaさんと働きたい』というお気持ちをお伝えいただいたんです。

私が大事にしたいものも尊重した上で、一緒に大きくしていきたいと言ってくれた。もう涙が出るなと思って、本当に感動しました。」

一方、買い手である管様も、当時の心境を「恋心」に例えて振り返ります。

管様:
「『他にも2社検討しているところがある』と聞いた時は、告白した相手に『他にも相手がいるんだ』と打ち明けられたような気持ちで、僕のほうがドキドキしていました(笑)。

当然我々も上場会社なので、細かな事業シナジーや財務に関する分析を行い社内向けの報告書も作りました。

ただ、内心の本音では『中野さんと一緒に働きたい』や『中野さんと一緒に働けたらうちのメンバーも幸せだろうな』とワクワクしていたんです。

その気持ちを中野様にそのままお伝えしました。」

他の候補先もある中で、ガイアックス社だけは中野様という人間そのものに全幅の信頼を寄せ、共に歩む未来を熱望しました。その熱意が、中野様にとって決定打となったのです。

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「言いづらい交渉」と「感情の整理」のためのM&Aナビの価値

しかし、いざ自らが当事者(売り手)となってプロセスを進める中では、M&Aナビという第三者の専門家が横にいることの価値を痛感したといいます。

まず直面したのは、実務上の複雑さでした。

中野様:
「ロックアップや黄金株といった専門用語が出てきて、『えっ、それは何?』という感じで、もうわけが分からない状態になりました。

人生においても会社にとっても極めて大事なことなのに、分からないことが多い中で進めるのは、将来の自分たちの首を絞める可能性があると感じたんです。」

知識として知っていることと、自社の命運を左右する契約書を読み込むことは別物です。

中野様は、分からないことや大事なことを見過ごすリスクを避けるため、専門家のノウハウを借りるという決断をしました。

また、経営者として本業を止めることができない状況において、仲介という外部リソースの活用は戦略的な意味を持っていました。

中野様:
「本業は絶対に止められない中で、M&Aは自分の中ではある意味『サブ』のものという感覚でした。

だからこそ、言いづらい交渉を代理していただけたり、本業以外の部分をすごく丁寧に対応していただける安心感があることで、自分は本業に集中し続けることができたんです。」

そして何より、中野様が感謝の言葉を重ねたのは、M&Aナビの担当者である瀧田の感情への寄り添いだったと言います。

中野様:
「私がマリッジブルーで悩んでいた時も、瀧田さんは『中野さんの気持ちが一番大事です』と、急かすことなくじっと待ってくださいました。

待つというのはすごい忍耐がいることだと思いますが、その寄り添っていただいた時間があったからこそ、納得して決断ができ、今こうして目の前の仕事に向き合えているんだと思います。」

あえてM&Aナビをパートナーに選んだのは、単なるマッチングや知識の提供だけではなく、言いづらい交渉の代理と揺れ動く感情の支えとして冷静な判断力を維持するためだったのです。

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終わりに|M&Aは「身売り」ではなく、理想を叶えるための手段

成約の日、中野様にとってその瞬間は「終わりの出口」ではなく、新たな挑戦への「通過点」に過ぎませんでした。

彼女は契約を終えた直後の心境を、こう語ります。
中野様:
「候補先3社の中からガイアックス社に譲渡すると決断をした時点で、どうやってガイアックスの事業を良くしようかしか考えていませんでした。

契約は、あくまでも1つの事務処理が終わった、という感覚でしたね。」

多くの経営者にとって、自社を譲渡することは「身売り」のような寂しさを伴うものだと思われがちです。
しかし、中野様は今回のM&Aのプロセスを前向きに捉えています。

中野様:
「もしタイムスリップしたとしても、私は絶対に同じ決断をします。

比較したからこそ、自分が何を大事にしていきたいのかが本当に深く分かりました。

ご縁があった他社様との対話があったからこそ思考が深まり、今の最高の結果に辿り着けたのだと思います。」

中野様にとって、M&Aを成立させることをゴールとせず、その後の事業成長まで見据えて選択肢を検討できたことが今回のポイントでした。

買い手の管様は、中野様への期待をこう語ります。

管様:
「中野さんがお一人で経営されていた時は、やりたいことがあってもリソースの調達が難しかったと思います。

でも、ガイアックスには優秀なメンバーもリソースもたくさんあります。

中野さんのやりたいことと、うちのメンバーを『がっちゃんこ』させて、めちゃくちゃ面白い未来を作っていきたいですね。」

中野様もまた、新天地での展望に目を輝かせます。

中野様:
「2030年に掲げた大きな目標を達成するために、それだけ大きな価値を世の中に提供していきたい。
そして、一緒に関わってくれる仲間やお客様と喜び合える瞬間を、たくさん味わっていきたいです。」

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