【買収者インタビュー】異業種から未成熟産業へ参入を決意したM&A事例
2019年1月にM&Aナビを通じてフクロウカフェを買収されたWKラボ合同会社の廣中克至様に、M&Aを決意したきっかけから、買収後の現在、そして将来の展望までを話していただきました。
目次
収益の多角化、安定化を狙ってM&Aを決意
私はもともと、会社員時代からの経験やネットワークを生かして、半導体の輸出事業を営んでいました。
法人登記はしていましたが、実質個人事業の延長のような形で働いていました。
半導体事業は市況の波が激しいため、どうしても収益が安定せず、将来を見通しづらい業界です。また、海外との取引ならではの商習慣や言語の違いに悩まされるなど、労力の割にはなかなか満足のいく利益を出すことができていませんでした。
そして、このまま輸出事業一本で続けていっていいのだろうかと考えていた矢先に、たまたまM&Aによる中小企業の買収が増えているということを知り興味を持つようになりました。
新たな事業を持つことによって収益の安定化を図りたい。
一方でイチから事業を立ち上げる時間やリスクはできるだけ抑えたい。
そう思っていた私にとってはぴったりの手法だと思い、さっそく買収先を探すことにしました。
M&A案件の探し方
新たな事業を探すにあたって、まずは自分自身が「経営できる業種はなにか」ということを考えました。
私のキャリアはこれまで営業が中心でした。扱うサービスはいろいろありましたが、基本的に、初めてのお客様と話をすることや長く顧客と関係性を築くことは得意といえます。
そこで、「モノ(サービス)は価値があるのに、営業力が足りないことで収益が上がっていない」事業であれば、
私の強みが活かすことができると思い、小さな製造業や小売・飲食店を中心に探すことにしました。
最初はこれまで取引があった銀行に、閉鎖予定の工場やお店などがあれば教えてほしいと依頼しました。
しかしながら、閉じる予定がずっと先だったり立地や事業内容が探しているものと違ったりと、なかなかしっくり来る案件を紹介してもらうことはできませんでした。
なるべく早く新規事業に参入したいと考えていましたので、次にインターネットを使って探し始めたところ、たまたまM&Aナビを見つけすぐに登録することにしました。
まったく知らなかったフクロウカフェを買収することに
M&Aナビを使っていろいろな案件を探している中で、いわゆる一般的なレストランや汎用品を製造している工場などよりも、特異性のあるコンテンツを持つ事業を選ぶべきだという考えが芽生えました。
例えば、飲食店ならできるだけ珍しい業態を探しました。もし料理の「味」というコンテンツを強みにできない飲食店ですと、近隣店舗との価格競争になってしまいます。
私は料理ができないのでお店を立て直そうと思っても、何もアドバイスができない。
それであれば、できるだけ「売り込めるようなコンテンツ」を持った業態の方が強みが活かせると考えたのです。
「フクロウ」というコンテンツとの出会い
そんな中、「フクロウと触れ合うことができるカフェの売却案件」が公開されたのを発見しました。
最初にみたときは、「ん?フクロウ??」という感じで全然ピンと来なかったのですが、それはつまり希少性があるコンテンツかもしれないと思い、分析を始めることに。
その結果、実は将来有望な業態になると考えるようになりました。
もちろん、自分自身はまったく行ったことはなかったですし、私がよく使う駅にはどこもない。
しかし、フクロウは誰でも知ってるし見たこともあるが、触れ合ったことはない。
猫カフェなどと違って、フクロウカフェは実際に行っても何ができるかわからないミステリアスさがある。
つまり、コンテンツとしてのポテンシャルは相当高いはずです。
私の得意分野である営業センスを生かして、フクロウカフェの楽しさをうまく発信することができれば、きっとお客様は来てくれるはず。
そう考えて、買収オファーを出すことに決めました。
はじめてのM&Aならではの気づき
正式に買収オファーを出したあと、細かな財務内容や客層、フクロウの取り扱い方などの情報を売手からいただき精査していきました。
正直に言えば、私は飲食業の経験がなかったため、「飲食業の経営」におけるスタンダードや相場を深く知っているわけではありません。
いくつか疑問に思った点や不明点はどんどん売手に質問しましたが、事前にフクロウというコンテンツを使った成長戦略をかなり綿密に考えていたこともあり、現状がどんな状態であってもきっと成功するはずだ、という思いが高まるようになりました。
そして、2ヶ月ほどの交渉を経て買収することを決断しました。
売手と売買契約を交わし、引き継ぎを受け、いよいよ自分の事業として再スタートさせることに。
さて、やってやるぞと意気込んで始めたのですが、その途端に想定していた実態とは違うことがいろいろと起きました。
いま考えると、交渉を始めたときから「絶対に買って成功させるんだ」という気持ちでいたために、買収を決断する後押しとなるような情報を集めようとしてしまっていたのです。
もっと多角的な視点で想定できていれば、それに対しての回避策を事前に考えられていたかもしれません。
しかし、M&Aは一点ものの買い物です。
中古マンションなどと一緒で、すべての理想だけを追い求めて少しでも条件が満たなかったら買わないと言っていたらいつまでたっても買うことはできません。
ましてや、もともと自分以外の誰かが作り上げてきた事業ですので、そもそも100%思い通りなんてことはありえません。
しかも、一度でも買収チャンスを逃したら同じ案件は二度と巡ってこないし、自分の性格的にも「やらずに後悔する」という選択はありえない。
自分の力を出し切ってより良くしていくことが大切であり、一つずつ課題を洗い出しながら事業成長のため気持ち新たに取り組みを進めることにしました。
買収したことによって自分自身も大きく成長を実感
買収後、慣れない飲食業経営に取り組みながら、フクロウというコンテンツをどんどん売り出し始めました。
「フクロウカフェをやっている」と人に話すと、ほとんどの方が行ってみたいと言ってくれますし、実際に来店してくれたお客様はリピートしたいと言ってくれます。
また、お店の近くでの認知度を上げるために、フクロウカフェのオリジナルTシャツを作りました。
そのTシャツを着ながらフクロウを腕に乗せて外を歩くと、それを見て興味を持たれた多くのお客様にお越しいただけるようになりました。
お客様が楽しそうにお店でフクロウと触れ合っている姿を見ていると、改めてフクロウというコンテンツを買収した決断は間違っていなかったと思いますね。
経営という「仕事」を追求
これまでも既存事業の経営を行ってきましたものの、異業種を経営するということは全然違うスキルや観点が必要だということをひしひしと感じているところです。
特に飲食業は、近隣の飲食店同士でチラシを置きあってお互いに集客を助けたり、知り合いの飲食店経営者のお店を訪れたりすることが多いことが特徴です。
飲食業経営者の方からすると当たり前のことかもしれませんが、異業種から参入した私にとってはすごく新鮮でした。
M&Aとは、会社を成長させていくことが成功のポイントです。
そして、それと同じくらい重要なことは、経営者自身も成長していかなければならないことだと強く実感しており、改めて「経営業」という仕事をイチから学ぶつもりで日々努力しています。
買収後の成長戦略
まずは、インバウンド需要を狙って事業を拡大させたいと思っています。
フクロウカフェは海外にはないので、観光客にとってはとても希少性のあるコンテンツであるといえます。
2020年を追い風にして、集客を強化していきたいと思っています。
また、高齢者や障害を持つ方が気軽にフクロウに触れ合えるような空間を作っていきたいと考えています。
実は過去に、ある車椅子の高齢者の方がヘルパーさんと一緒に来店してくださったことがありました。
いまの店舗は二階にあるため、お店に入っていただくだけでも非常に苦労をかけてしまいました。
そして、その方から、「フクロウをみて癒されたいから一時外出の機会を使って遊びにきました」というお話を聞きました。
年に数回しかない貴重な外出の機会に、当店を選んでいただけたことは非常に嬉しかったですし、同じような方にとって、施設面でも雰囲気でも入りやすい店にしていきたい、と強く思いました。
さらには、当店にお越しいただくだけではなく、老人ホームにフクロウを派遣するなどの取り組みもしていきたいと思っています。
編集後記
以上、廣中様のインタビューをお伝えいたしました。
M&Aはすでにある事業を譲り受けることですので、「0→1」ではなく「1→10」の事業成長をさせることが重要です。
そして、ときにはイチから事業を作るより簡単と思っていらっしゃる方がいるのも事実です。
もちろん、経営者にもいろいろなタイプや強みがあるので一概には言えませんが、やはり「経営して事業成長させる」ためにはさまざまな重責が伴いますし簡単なことは何一つないのだなと感じました。
今回の買収においては想定外のことが起きたり自分の力不足によって立ち上がりでつまづいたりといったことを赤裸々にお答えいただきました。
M&Aナビでは、日々さまざまな案件が公開され、多くの新しいマッチングが生まれておりますが、すべての交渉をサポートしているからこそわかるお作法や実例などのノウハウをたくさん持っています。
会社を売りたい方も買いたい方もお気軽にご登録いただければ、経験豊富なアドバイザーがサポートいたします。
最後になりますが、廣中様の運営する「フクロウカフェ&バー 格闘梟」は吉祥寺駅北口より徒歩約3分の場所にございますので、ぜひお立ち寄りになってください!
【フクロウカフェ&バー 格闘梟】
住所 東京都武蔵野市吉祥寺本町1-26-1 JK吉祥寺ビル201
アクセス 吉祥寺駅北口より徒歩3分
電話番号 0422-27-1913
営業時間 11:30~17:30、18:00~23:30
定休日 年中無休(不定休あり)
URL https://mma-owl.com/
株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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