【2023年最新版】調剤薬局業界のM&Aについて徹底解説!

2023年01月19日

調剤薬局業界のM&Aは、実はM&Aの業界において非常に注目されており、それだけで本が一冊書けるほど多くのトピックスがあるテーマです。
特にここ数年活発にM&Aが行われ、もっとも再編や統合が進んだ業界の一つとなりました。

この記事では、いわゆる業界再編の教科書ともいえる調剤薬局業界のM&Aについて解説します。
いま調剤薬局を経営している方はもちろん、すべての経営者にとって知っておいて損はない内容ですので、ぜひ自社の業界と比較しながら読み進めてください。

これから求められる調剤薬局とは

ご存知のとおり、日本はこれから超高齢化社会に突入します。
2014年を境に日本の総人口は減少している一方で、65歳以上の高齢者の割合は増加し続けており、2025年ごろには総人口の30%を超えるとされています。
さらに、財政は逼迫しており、果たして現在の社会保障制度を持続できるのかわかりません。
一見、医療・介護業界にとっては患者や利用者が増えるようにみえますが、収益の大半を国の医療費で賄っている以上、日本のマクロ環境がおよぼす影響は大きく、調剤薬局も安心ではありません。
それでは、これからはどういった薬局が求められるのでしょうか。

薬局はセルフメディテーションの拠点としての存在を確立

日本薬剤師会は、セルフメディケーションを「国民が自己の健康管理のため、医薬品等を 自分の意思で使用することである。薬剤師は生活者に対し、医薬品等について情報提供し、 アドバイスする役割を担う」と定義しています。

地域の住民にとってに最も身近な医療提供施設である薬局は、日常的な医療品や栄養補助食品等のみならず、医薬品以外の保健・健康関連商品の供給を通して、 日常的な健康管理や健康増進に関わることができる立場といえます。
これまで処方箋を受け取って薬を渡すことを役割としておいてきた薬局が、今後「かかりつけ薬局」として支持され継続して事業を続けていくためには、地域におけるセルフメディテーション推進の拠点になることが重要となるでしょう。

薬局と在宅医療や地域ケアサービスとの連携

超高齢化社会が進むことに伴って、在宅医療の推進を進めていくことは喫緊の課題です。
これまでは窓口に利用者が薬を取りに来ることが当たり前でしたが、今後は日常業務の一環として在宅医療に参加する体制を整えることが求められています。

地域によっては、看護師やケアワーカーが在宅患者の薬剤管理を担っている場合もあります。
実際に訪問薬剤管理指導を実施している薬局は2割以下と言われており、まだまだ薬局の価値を活かしてきれていない状況です。

今後は在宅医療推進の体制を整えていくために、病院や行政、介護サービスとの連携を図ることが重要といえます。

薬剤師の成長を支える体制整備

今後、地域住民の方たちに信頼され続けるためには、薬剤師一人ひとりがこれまでとは違うスキルや知識を身につける必要があります。

健康維持や病気の予防などに関するさまざまなコミュニケーションは、サービス業や接客業などと共通するスキルが重要視されるのかもしれませんが、いまの薬局経営者の中にどれだけそういった視点を持って教育をしてきた方がいらっしゃるでしょうか。

また、薬剤師の方に選んでもらえる薬局であり続けるためにも、今後は専門的な教育支援はもちろん、地域貢献できる一員となるためのサポート体制は重要になってきます。
これまで当たり前と思っていた教育だけでなく、新たな体制を整えていくことが薬局を継続させていく鍵となるでしょう。

薬局のICT化

国民の人口動態が薬局業界全体に影響を与えることは言うまでもありませんが、薬局の経営という観点においては薬剤師を含む労働力をどう確保するのかという問題にこれから直面することになります。

薬局に限らずすべての業界における大きな問題ですが、労働人口が減り続けることは変えられない事実ですので、どうやってその環境に順応していくべきかを考える必要があります。

そこで、薬局業界においてもデジタルシフト、ICT化に取り組んでいくことが重要になってきます。少ない人数で高い品質の仕事をするためにはアプリやオンラインサービスの導入が欠かせないでしょう。

高齢化社会になればなるほど健康相談や服薬指導など住民とのつながりが必要になります。

それらを推進するためにITの力を活用できるかどうかは、薬局の経営者にとって大事なテーマといえます。

調剤薬局業界をとりまくM&Aの現状

薬局業界では、近年M&Aによる再編の動きが進んでいます。

高齢化が進み寿命は長くなる一方で、高齢者を支える若者の数は増えず税収は減っていきます。

社会保障制度を持続させるための財政健全化対策として、政府は年々医療費の抑制を強化しています。これからの薬局は地域医療の担い手としての役割を果たすべく、抜本的に考え方を改めていかなければなりません。

そして、2020年に実施された調剤報酬改定の際に打ち出された基本方針は以下のとおりです。

  • かかりつけ機能の評価
  • 対物業務から対人業務への構造的な転換
  • 在宅業務の推進

かかりつけ機能を強化して病気の重症化をできるだけ防ぎ、地域の住民に対する医療貢献をすることで、国民全員が安心して医療サービスを受けられるようにする、という内容になっています。

かかりつけ薬剤師・薬局として地域医療に貢献できるよう各種報酬や点数の見直しが行われ、同一薬局の利用を推進するための施策も打ち出されたため、今後はより一層、サービス力が求められるようになるでしょう。

そして、こういった環境変化に対応するため、大手薬局は資金力を背景に地域や個人経営の薬局をM&Aによってグループに取り込む動きをおこなっています。

2020年に入り、新型コロナウイルス感染症の蔓延により医療崩壊の危険性が指摘されています。この猛威が収まったとしても、医療制度や体制が抜本的に変わらない限り、そのリスクは今後も続くことになります。そうなれば、数年前から始まった薬局業界の再編が、さらに加速する一因となることは間違いありません。

増え続ける調剤薬局

薬価引き下げによる収益性の悪化に加えて薬剤師の採用難や後継者問題に直面している調剤薬局は少なくありません。

2020年4月28日に発表された、医師・薬剤師における同年3月の求人倍率は4.4倍でした。全職種の倍率が1.25倍であることを考えると非常に高い数値となっており、新たに薬剤師を採用することは簡単なことではありません。

また、薬局の数は年々増え続けており、令和2年度末には60,951ヶ所と6万件をついに超えました。
同年度末の全国のコンビニエンスストアの数が57,956店となっており、はじめてコンビニの数を超えるまでとなりました。

増え続ける薬局増は競争激化を招いており、いよいよ薬局は選ばれる時代に突入したといえます。

友好的なM&Aが特徴の調剤薬局業界

一方で、個人の調剤薬局の多くは地域の住民にとって欠かせない存在であり、地域医療の存続と発展に長年貢献してきました。

そのため顧客、つまりその薬局を必要としている地域住民の方への配慮を第一に考えたM&Aが多く、ほとんどのM&Aは友好的におこなわれており、売却後も継続して経営しているケースばかりです。

2023年は薬局のM&A最適なタイミング

医療費抑制の流れが続くことによって薬価引き下げは今後も止まらず。「かかりつけ薬局」として生まれ変わっていくことが必至であるという状況において、薬局の経営者は「かかりつけ薬局」としての変化を自力で行うか、安定した経営基盤を持ったグループの元で行うかを、経営判断として下していく必要があります。

また、大手調剤薬局グループ各社によるM&Aの動きは引き続き活発です。
いわゆる業界再編の波がきている調剤薬局マーケットですが、こうした状況においては一般的に良い条件で売却交渉をすることが可能です。

その理由をみていきましょう。

調剤薬局大手グループによるM&A合戦が激化

調剤薬局業界ではM&Aが活発な状態が続き、大手薬局による買収がますます進むと考えられています。
大手薬局グループは傘下の店舗数を増やしたいものの、全国の薬局数は飽和状態にあるため新規出店ができるエリアはそう多くありません。
さらに、すでに薬局があるエリアに出店してしまうと顧客の奪い合いとなり、地域医療への貢献という観点ではマイナスに作用するリスクもあります。
そこで、大手薬局グループは地域で昔から愛されている薬局をM&Aによって招き入れて店舗数を増やすという戦略を推進しています。

例えば、調剤薬局最大手のアインホールディングスは「新規出店とM&Aにより、毎期100店舗の出店を目指す」としており、同様の戦略を取っている企業が多くなっています。
つまり、現状は買手のM&A意欲が高いため、売手としても満足できる有利な条件で売却しやすい環境となっているのです。

薬局経営の経営効率化と変化への対応

ここ数年の調剤報酬改定によって徐々に是正されているものの、調剤薬局業界は大手が有利なコスト構造になっています。
薬局が利用者に販売する薬の価格は決まっている一方で、製薬会社や卸業者から仕入れる価格は自由です。
そのため、大手薬局は、大量購入による仕入れ価格の低減ができる上、全店舗でシステム導入や管理部門を一元化することで、低コスト化・効率化を進めることができます。
規模が小さい調剤薬局が効率的な経営を行うには限界がある一方で、今後生き残っていくためには大手企業に引けをとらない効率化をおこなう必要があります。
もちろんうまく変化することができれば問題ないですが、時間が経てばたつほど小規模な調剤薬局は不利になり、経営が厳しくなるおそれがあります。
いくら買手の意欲が高い業界とはいえ、経営が苦しくなってからの売却ですと好条件も引き出しづらいですし、なにより経営の立て直しが難しくなります。
長い目でみて地域にとってどういった存在であるべきかを考えたとき、いまのうちに安定したグループ入りを決断することも選択肢の一つとなるでしょう。

コロナショック後に急速に加速したIT化

各地で医療崩壊が叫ばれる中、以前より議論が交わされてきたオンライン診療がいよいよ動き出しました。
また、医療のみならず、フードのデリバリーやオンライン教育の開始など、これまでマイナーだったサービスがどんどん主流になり、世の中は大きく変わってきました。
激変する環境の中、薬局業界においてもITを活用したサービス提供が求められることは間違いありません。

その波にしっかりと乗り、自身の薬局にITシステムを取り込むことができるのであればチャンスですし、そうでなければ地域住民の期待に応えられなくなるでしょう。

自身の薬局の価値を把握することが重要

もし売却を検討し始めるならば、まずはご自身の薬局の価値を把握することが大切です。

経営が順調な薬局であっても、

  • 自分の調剤薬局の価値はどれくらいなのか
  • 調剤薬局を取り巻く現状はどのようなものであるか
  • 後継者問題も含め、どのような方針で経営を行っていくか

をしっかり把握し考えておくことで、さまざまな経営方針や対策を立てることができます。

日々の仕事で忙しく、「帰宅するのはいつも遅い時間で考える余裕がない」という経営者の方も多いでしょう。
しかし、後になって後悔しないよう、今のうちに考えておくことは非常に重要です。

薬局の企業価値の査定は改善点の洗い出しにも役立つ

企業業価値を査定すると、その過程で「自分の薬局に足りないもの」や「改善すべき点」が見えてくるというメリットもあります。
問題点を把握できれば、薬局の価値をより高めるためにいろいろな改善策を考えることができます。
薬局の経営をしっかりと続けていきたい方こそ、客観的な評価を知ることに意味があります。
今すぐ売却を考えていないという方も、一度企業価値を査定してみることはおすすめです。

薬局M&Aのメリットとデメリット

薬局をM&Aで売却するメリット

薬局を売却するメリットをまとめると、以下のようなことが挙げられます。

  • これからも地域医療へ貢献できる
  • 創業者として利益を獲得できる
  • 従業員の雇用を継続できる
  • 経営者個人の担保や保証が解消される
  • 事業承継の不安から解放される
  • 体力的・精神的な負担から解放される

M&Aとは創業者が持つ株式をすべて売却することですので、その対価としてのお金が入ってきます。
創業以来、休みなく働いたり贅沢を惜しんだりした苦労が報われることは大きなメリットといえます。

また、これまで述べたとおり、今後調剤薬局は大きく変化が必要となるため、地域医療の貢献を第一に考えたときに資金力のあるグループの仲間に入ることは有効な選択肢です。
安定した経営基盤の元、さらに地域住民に寄り添うことができることができるため、これからもずっと愛される薬局であり続けることが可能となります。

薬局をM&Aで売却するデメリット

一方で、薬局を売却するにあたってのデメリットもご紹介します。
実は、調剤薬局業界におけるデメリットはほとんどないと言われているのですが、あえて挙げると以下のとおりです。

  • 条件が合う相手が見つからない
  • 既存スタッフがやめてしまう

薬局業界は買手の意欲が強いため、適切な売却条件であれば相手が見つからないということはまずありません。
しかしながら、創業者の方にとっては我が子のような存在である薬局ですから、もちろんいろいろな想いやゆずれない条件があることも。
そうした場合、条件によってはなかなか相手が見つからないこともありえます。
M&Aは準備や交渉など多くの作業が発生するため、あまり探している期間が長引くと精神的にも体力的にも疲れてしまう可能性があります。

次に、既存スタッフがやめてしまう点についてですが、一般的にはM&Aによって売却してもスタッフがやめてしまうケースは稀です。
むしろ、売却する前に現オーナーが買手の見極めをおこなうため、やめてしまうようなところに売却はしないでしょう。
しかしながら、やはりどうしても新しいオーナーや薬局グループに馴染めないといった理由で退職するスタッフが出る可能性はゼロではありません。

薬局業界におけるM&Aのまとめ

これまで述べたとおり、薬局業界は人口動態の推移や国の政策などによって、確実にこれから大きな再編の波が訪れます。
さらに、積極的なIT化や、医療・介護などの地域サービスとの連携強化など、これまでとは違う筋肉を使って経営に取り組んで行く必要があります。
ある意味、非常にエキサイティングな経営ができるといえますが、リスクも高くなるでしょう。

そのため、薬局の経営者が売却を考えるにはとても良いタイミングです。
今後、薬局業界の再編が進めば進むほど、大手薬局グループはおなかいっぱいになり買収意欲は下がります。
そうなれば、当然売却のハードルは上がり、なかなか良い相手に巡り合えないということも起こりえます。

今すぐにM&Aを考えていない方も、いつでもすぐに動き出せるように準備を進めておくことは大切です。

またM&Aナビは、売り手・買い手ともにM&Aにかかる手数料などを完全無料でご利用いただけます。買い手となりうる企業が数多く登録されており、成約までの期間が短いのも特徴です。ぜひご活用ください。

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