TOBとは?その概要とメリット・デメリットを解説します

2024年03月14日

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ニュースをみていると「TOB」という言葉を耳にすることがあるでしょう。
なんとなく聞いたことはあるものの、TOBとはどのようなものか正確に答えることができない方もいらっしゃると思います。
M&Aの手法の一つでもあるTOBについて、内容や目的、メリットやデメリットについてご紹介します。

TOBについて

TOBとは Take Over Bid の頭文字をとったもので、日本語では「株式公開買付」と呼びます。
ある会社の経営権を取得するためには株式を買収しなければなりません。
その際に、買収するための期間や価格、株式数などの条件を公開した上で、証券取引所を通さず一定の比率以上買い付ける手法のことをTOBといいます。

有価証券報告書の届出義務がある会社の株式を一定の比率以上買収するときは、届出が法的義務となります。
この場合における買収や届出の手続き全体がTOBとみなされます。

有価証券報告書の届出義務がある会社といえば一般的には上場企業を指しますが、非上場会社でも義務を負っていることがあるため、TOBは非上場企業を対象とすることもありえます。
具体的には、50人以上株主がいる会社を買収する場合は、上場しているかどうかに関係なく有価証券報告書を届出する義務があるのです。

かんたん1分

TOBの手順

それでは、TOBを実施される手順を解説いたします。

1.公開買付開始の公告と公開買付届出書の提出

買収者はTOBをすることを決めたら、その事実を広く公に知らせるために公開買付開始公告をおこないます。

買付の目的、買付け等の価格、買付予定の株式数、買付けの期間などを公告した上で、公開買付届出書を内閣総理大臣(実務上は財務局)に提出することでTOBは始まります。

2.意見表明報告書の提出

公開買付が始まると、株主にとって最も大きな関心事は、買収されようとしている会社自身がこの買付に対してどう思っているのかという点です。
いわゆる友好的TOBや敵対的TOBなどと呼ばれるとおり、一言でTOBと言ってもさまざまな状況がおこりえます。
TOBをおこなうこと自体、その会社の経営陣の同意は必要ありませんが、現実的なTOBのほとんどは事前に協議を重ねた上で友好的な買付になることが多いです。
しかしながら、経営陣に反対されているにも関わらずどうしても買収したい、というときは意に反してTOBを実施することもあるのです。

経営陣がTOBの事実を知らなかった、または反対している場合、通常はなんらかの防衛策を講じます。
そうなれば、その会社にとっては通常の業務だけではなく余計な業務が増えることになります。
また、もしそのTOBを仕掛ける相手が悪者のように見えれば、その会社を助けたいと思って、より素敵な相手がTOBを重ねてくるかもしれません。

いずれにしても、経営陣の方針によって会社の業績や株価が左右されることは間違いないため、TOBを仕掛けられた会社は、公開買付公告が行われて10営業日以内に、公開買付に対する意見表明報告書を財務局に提出する義務があります。

3.公開買付報告書の提出

あらかじめ決めた買付期間が終了すると、その結果を報告しなければなりません。これを公開買付報告書と呼び、買付の成否・買付けた株数、買付後の保有割合などの結果を記載した報告書を財務局に提出します。

TOBという手続きが必要となる理由

TOBによって投資家が不利益を被らないよう公平性を保つため

TOBという制度を使わなければならないということは、不特定多数の株主が存在する会社を買収することを意味します。
上場企業の場合、証券取引所の中で市場が開かれている時間内であれば、原則として誰でも自由にその株式を売買することが可能です。
価格も常に公開されており、非常に透明性の高い取引であるといえます。
しかし、誰かがその会社の株式を大量に取得するために、ある人には1,000円で、別の人には1,500円で、といった感じでコソコソと別の条件を提示しながら買い集めていくとすると、不公平感がありますよね。
さらに、「大量に買う」という行為自体がその会社の業績、ひいては株価を大きく左右する事実であるにも関わらず、その事実を知っている株主とそうでない株主が出ることは望ましくありません
そこで、一部の投資家が不利益を被ることがないよう、大量に株式を買い付ける場合はTOBという手続きによって公正に進める必要があるということです。

別の投資家の立場からすると、非公開で大量の株式が取引されれば、原因不明の株価変動が発生するため、投資判断の公平性がなくなり不利益を被ることがあります。
このような事態を予防する効果がTOBにはあるのです。

買収時にTOBを選択しなければならない条件

上場企業の株式をマーケット外で一定数以上購入する場合は、原則として公開買付けをおこなう必要があることは説明しました。
それでは、より具体的にどんな場合にTOBをよる買付をおこなう必要があるのか見てみましょう。

5%基準

株券等の買付け等をおこなった後に所有割合が5%を超える場合は、TOBによる手続きが必要となり、5%基準とも呼ばれています。
ただし例外として、60日間で10名以下から買い付けをおこなう場合、公開買付は不要です。

3分の1ルール<取引市場外での売買>

5%基準では例外となっていた60日間で10名以内の株主からマーケット外で買付けた場合でも、買付後の所有割合が3分の1を超える場合は、TOBによる手続きが必要です。
所有割合が3分の1を超えるということは、この株主によって特別決議を否決することが可能になるため、極めて影響力が大きくなります。
よって、たとえ少数からの買付であっても公開しなければならないと定められています。

3分の1ルール<取引所市場内の特定売買等>

取引市場内の取引であっても、いわゆるToSTNeT取引などで買付けて、所有割合が3分の1を超える場合も同様です。
立会外取引は取引市場内という扱いですが、同じく公開買い付けが必要とされています。

3分の1ルール<急速な買い付け>

90日以内に、取引市場内外での買付により「急速な買い付け」を行う場合も、TOBの手続きが必要とされています。
具体的には以下の条件に当てはまる場合に該当します。

  • 3ヶ月以内に買付または新規発行取得によって、10%以上の株式を取得している
  • 5%以上の株式を、取引市場外または特定売買等で取得している。
  • 買付または新規発行取得後に、所有割合が3分の1を超えている。

他者のTOB中のおける大株主の買い増し

3分の1超を保有する大株主が、他者によるTOB期間中に5%を超える買付けをおこなう場合は、TOBが必要となります。

買収者がTOBをおこなうメリット

メリット1.TOBは大量の株式を一度に入手できる

これまで説明したとおり、TOBは、株式を決まった期間で大量に取得する際に活用する手法です。
もし、株式をマーケットで買収しようとしても、大量に買付注文すればたちまち株価は急騰し、思い通りに買収できなくなる可能性があります。
しかしTOBの場合は、前もって買収する株価・期間・株式数を決めた上で大量の応募を募ることができるため、成功すれば一気に大量の株式を買い付けることが可能となります。

メリット2.TOBは株式取得にかかる金額を決めることができる

TOBは、あらかじめ買付金額を決めてからおこなうため、必要となる株式数を手に入れるために必要な金額をあらかじめ計算することができます。
ただしこれは友好的TOBの場合に限られ、経営陣が賛同していない敵対的TOBの場合、買収防衛策として買付価格を引き上げようとされることもあるため注意が必要です。

最近のTOB事例

ここではTOBの最近の事例についてご紹介します。

アークランドサカモトによるLIXILビバへのTOB

2020年7月、ホームセンターを展開するアークランドサカモトは、LIXILグループで同業大手のLIXILビバをTOBによって完全子会社化することとなりました。
このTOBにより両社は、共同仕入れによる原価低減や、利益率の高いプライベートブランド商品の共同開発などの相乗効果を見込んでいます。
対等合併の精神によって実行されたこのTOBは無事に成立し、両社は10年後に売上高5千億円を目指すとしています。

三菱ケミカルホールディングスによる田辺三菱製薬株式会社のTOB

三菱ケミカルホールディングスは、化学系のグループ会社を1社に統合しホールディング体制になっています。
グループ内のメジャーな会社として、田辺三菱製薬株式会社や大手ガス会社の大陽日酸株式会社などがあります。
田辺三菱製薬株式会社は、もともと田辺製薬と三菱ウェルファーマが合併した会社で、大陽日酸株式会社は日本酸素株式会社と三菱系の大陽東洋酸素株式会社が合併した会社です。
2020年1月、三菱ケミカルホールディングスは株式を56%持っていた田辺三菱製薬株式会社の非上場化をおこないました。
グループ内で持つ技術力を結集して事業価値を高めるために完全子会社化をおこなった、親子関係におけるTOBです。

東芝による3つのグループ会社のTOB

東芝は、上場子会社である東芝プラントシステム、西芝電機、 ニューフレアテクノロジーの3つのグループ会社を非上場化しました。
このTOBは、親子上場の問題を解決するためのものです。
ただしTOBが順調に進んだのは東芝プラントシステムと西芝電機のみで、ニューフレアのTOBに関しては、HOYAが参入を表明したため、当初のTOB期限を延長しました。
対抗馬が現れたのは、それだけニューフレアテクノロジーの資産や商品、技術などに大きな魅力があったからと言われています。
HOYAはこのTOBを成功させるべく、東芝よりも高い買取価格を提示する用意がありましたが、結局、東芝とニューフレアテクノロジーの間でTOBが成立しました。

TOBのまとめ

TOBは、特に大企業におけるM&Aで使われる手法で、一気に経営の流れが変わるダイナミックな戦略です。
しかし時に敵対的な買収にも利用されることから、成功までに乗りこえなければならない壁は、決して低くありません。
今回の記事を参考にして、TOBの基礎知識に関する理解を深めていただければ幸いです。

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