事業承継に必要な期間は?承継する際の3つの注意点とともに解説!
本記事では、事業承継に必要な期間について解説します。
M&Aは、売る側にとっては従業員の雇用の継続や後継者不在の解決などのメリットがあり、買う側には、事業拡大やリソースの拡大などのメリットがあり、多くの企業から注目されています。
特に、日本では2025年問題と言われる経営者の後継者不在の問題が深刻になっており、事業承継の有効な手段としてM&Aが注目を集めています。
事業承継は単にビジネスを後継者に渡して「はい、終わり」というものではありません。その後安定して経営を続けていくには、現経営者が行ってきた「経営資源」を承継する必要があります。そのため、事業承継を行うにはその前後に十分な準備が必要です。
そこで本記事では、事業承継を行うにあたって必要な期間と、承継をする際の3つの注意点を解説していきます。
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目次
事業承継に必要な期間
事業承継は、どれくらいの時間をかけて進めるべきでしょうか。
中小企業基盤整備機構の調べによると、後継者の育成に必要な期間を「約5年」「5年~10年」と回答した経営者は全体の半数を超えています。
親族内承継や社内承継の場合、経営の実務だけではなく企業理念・経営方針や従業員・取引先とのコミュニケーションについても学ぶ必要があり、一朝一夕にはいかないからです。将来を見据えて選定・育成しないといけません。
ところが、現実的には「子どもが継いでくれるに違いない」と思い込み、相談をしないまま時間は過ぎ、いざとなって承継の意向がないとわかるなど、コミュニケーション不足が目立つように思います。
社外承継やM&Aも同様で、短期決戦で話をまとめようとすると足元を見られ、自社や現経営者にとって不利な条件をのまざるを得ないケースになりがちです。
時間をかけ、会社の価値を高めたうえで実行することが肝心だと思います。
会社の業績がよいときに交渉に入る準備をしておくと、株価が高い状態で売却できる可能性は高く、反対に高齢になり後継者不在が喫緊の課題になったタイミングでは時間的な猶予はあまりなく、買い手優位の交渉になりがちです。
少なくとも5年、余裕をもって10年は考えておくべきでしょう。
仮に10年あるとすれば、最初の1~2年で親族内や社内に後継者候補はいるのか、資質はどうなのかを確かめることができ、いないのであれば社外に活路を見出すことができます。
急ぐことなくじっくりと相手を探すことができるので、条件面で焦ることは少なくなるに違いありません。
時間に余裕があると、現経営者の身の振り方もじっくり考えることができます。
社長交代後は会長職になり会社の面倒を見ながら過ごすのか、それとも完全に引退して悠々自適に暮らすのかなど、後継者候補と相談しながら決めていけばいいでしょう。
なお、実家が会社を営む私の知り合いは、大学を卒業後、都内にある同業の会社で5年ほど修行してから、地方にある実家に戻って数年働いたのちに社長交代というプロセスを踏んでいました。
さまざまな経験を積んでから承継したので、本人や周りからしても安心です。
現経営者のためではなく、後継者が安心して承継後に経営に取り組むためにも、時間をかけて行いたいものです。
事業承継で引き継ぐもの
ここまで、事業承継には5~10年かけて行っていくべきであるという、事業承継にかかる期間について見てきました。
では、実際に承継では、具体的に何を引き継ぐのでしょうか。3つの例を挙げて解説します。
人(経営)の承継
法人であれば代表取締役の交代というように、人(経営)の承継とは、後継者へ経営権を引き継ぐことを指します。
現経営者が育ててきた事業を誰にたすきをつなぐかで事業承継の成否は決まりますから、時間をかけ慎重に決める必要があります。
いままでは次期経営者としての資質に関係なく、経営者の長男に継がせるというケースが多かったのですが、その結果、事業が破綻してしまうと従業員は路頭に迷い本末転倒です。
経営ビジョンや本人の覚悟・意欲、実務能力といった観点など、変わりゆく経営環境に対して柔軟に対応することができ、事業を継続・成長させていくことができる人物を選定しないといけません。
親族内承継や社内承継の場合は、経営ノウハウや取引先など必要な能力を身に付けるのに、ある程度の時間がかかるので、後継者候補をなるべく早く選び、育成に取り組む必要があります。
一方、これまで述べてきたように、近年は社外人材やM&Aが事業承継の選択肢の一つとして認識されるようになりました。
親族内・社内承継だけではなく、外部の第三者への承継を視野に入れて、「誰に」事業を引き継ぐのか検討を進めたいところです。
資産の承継
資産の承継とは、株式や事業用資産(設備・不動産など)、資金(運転資金・借入など)といった、事業継続のために必要な資産の承継を指します。
法人の場合は会社が保有する資産の価値は株式に包括されるので、株式の承継=資産の承継と考えて構わないでしょう。
一方、個人事業主は自社株を持たずに、不動産や機械設備を経営者本人が個人所有していることがほとんどですから、それぞれを計上して承継しないといけません。
資産の承継で押さえるべきことは、自社株・事業用資産を贈与・相続の形で引き継ぐ場合は、資産の規模や状況により多額の贈与税・相続税が発生する可能性があるということです。
後継者に税負担ができるほどの資金力がないと、承継自体を考え直さないといけなかったり、何らかの対策を練ったりする必要があります。
税負担を回避するために、複数の人物に株式・事業用資産を分散して承継すると、その後の人間関係で揉めて経営に悪影響を与える可能性があり、お勧めはできません。
資産の承継は後継者一人に集中させるのが賢明であり、そのためには税負担を考慮した手段を検討する必要があります。
一方、承継するのはプラスの資産とは限りません。
法人や現経営者個人の負債や保証も整理して承継することになり、個人財産に関しては他の相続人との関係も考えないといけません。
これについては専門的な知識が求められるので、税理士をはじめとする専門家のサポートも必須になります。
時間を要することもありますから、やはり早めに取り組んだ方がよさそうです。
知的資産の承継
知的資産とは経営理念や従業員の技術・技能、ノウハウ、経理者の信用、取引先との人脈など、貸借対照表に記載されている資産以外の無形資産を指します。
財務諸表には表れませんが、どれもが事業を支える重要な要素であり、事業継続のために必要なものばかりだからこそ、これら知的資産も承継しないといけません。
とりわけ、中小企業の場合は現経営者が持つノウハウや信用、人脈が経営の屋台骨になっていて、社長が変わった途端に評判を落とし業績が悪化することがあります。
時間をかけて後継者を育て、信用や人脈を受け継ぐなど、戦略的な視点は求められるでしょう。
もしくは、経営者と従業員の信頼関係が、円滑な経営の秘訣になっていた場合、代替わりして信頼関係を失うと、離職の引き金になることもあります。
後継者はこういった点も理解して、信頼関係構築に早くから取り掛かる必要があるでしょう。
中小企業にとって知的資産が競争力の源泉であることは非常に多く、次代にうまく承継することができないと、事業の継続性は危うくなります。
知的資産の承継もしっかりと押さえておきたい点です。
事業承継に長い期間を必要とする理由
事業承継には5~10年の期間が必要であることを解説してきました。
なぜそのような長い期間をかけて事業承継を進めていく必要があるのでしょうか。
具体的には、以下のような理由があるからです。
- 後継者の十分な育成期間を確保するため
- 経済的なメリットを最大化するため
- 従業員・取引先からの信頼を獲得するため
- 後継者の心構えの醸成
それぞれについて解説します。
後継者の十分な育成期間を確保するため
後継者が、経営者として十分な力をもって経営を円滑に進めていくには、実務経験を通した経営ノウハウや業界への深い理解、人脈など多くの経験と知識が必要です。
これらを習得するためには、一朝一夕で身に着けられるものではなく、長い実務を通した訓練が必要です。
後継者が十分な経営能力をつけるまで、伴走型で訓練をしてく必要があります。
経済的なメリットを最大化するため
事業承継では、多額の相続税や贈与税が発生する可能性があります。
十分な準備期間を設け、税理士などの専門家に相談することで、資金計画を立て節税対策を講じることができます。
特に、企業規模が大きくなればなるほど、節税対策による経済的なメリットが大きくなるため、早め早めの検討が必要だといえるでしょう。
従業員・取引先からの信頼を獲得するため
経営は、経営者一人の力で行うものではなく、そこで働く従業員や取引先の協力が必須です。
事業承継は経営体制の大きな変化を伴うため、従業員や取引先からの反発や不安が発生する可能性があります。
長い期間をかけて徐々に経営体制を移行を進めることで、ステークホルダーの理解を得やすくなります。
心構えの醸成
後継者の経営者としての心構えを醸成することで、スムーズな経営体制の移行を実現できます。
多くの場合、後継者は親族や従業員など経営者としての経験が少ない方が多いです。
長い準備期間をかけて後継者が経営者としての心構えを身に着けることができれば、スムーズな事業承継を実現できるでしょう。
また、現経営者側の心構えを整えることも重要です。
長年築き上げてきた会社を承継する際は、心残りやさみしさを感じることでしょう。
経営にかかわる時間を少しずつ減らしていくことで、後継者との衝突を避けながらスムーズな移行を実現していくことが求められるでしょう。
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事業承継に必要な事前準備
長い時間をかけて事業承継を進めることはわかりました。
では円滑な事業承継を実現するにあたって、どのような事前準備が必要でしょうか。
一般的には、以下のような事前準備を行うことで円滑な事業承継を実現できるといわれています。
- 後継者候補の育成計画の策定
- 資金計画の立案
- 理念や強みの言語化
- 専門家への相談
- 株式の移転計画の検討
後継者候補の育成計画の策定
事業承継を進めるにあたり、まずは後継者候補を選定し、育成の計画を立てる必要があります。
後継者候補には、経営能力の適正や事業への熱意、社内での信頼などを総合的に評価して選定します。
もし親族・従業員の中で有望な後継者候補がいない場合は、第三者承継や外部からの招聘といった選択肢を検討する必要があります。
後継者候補が定まったら、OJTでのトレーニングを始め、研修会の実施など様々な育成方法を実施します。
また、社内の様々な業務を経験させ会社への理解を深めてもらいます。
資金計画の立案
後継者候補の育成と同時並行で、事業承継時の資金計画についても検討を開始する必要があります。
相続する際の企業価値の算定を理解し、将来必要になる資金を理解する必要があります。
資金面が障壁となり、後継者候補への承継を断念するケースは多くあります。
後継者候補を交えて、スムーズな移行を実現できるような資金計画を立てるようにしましょう。
理念や強みの言語化
会社の永続的な発展を実現するために、創業の経緯や思い、企業理念を言語化することが大切です。
事業の強みやノウハウなど、目に見えない資産を体系的に整理することで、後継者の経営の助けにもなります。
専門家への相談
事業承継の専門家に相談することでスムーズな事業承継の助けとなるでしょう。
親族や従業員への承継の場合は、税理士や会計士に相談します。
節税対策や企業価値算定を依頼することで、資金面や経済面で大きなメリットがあるでしょう。
第三者承継を選択したい場合は、M&Aを専門的に実施している会社に相談することも検討するべきです。
第三者から見た際の自社の価値や自社にマッチする相手探しの面で大きな力になってくれます。
株式の移転計画の検討
承継のパターンとして、贈与や売買などを検討します。
また、いつどの程度の株式を移転するかに関するタイミングの協議も進めておく必要があります。
もし株主が分散している場合は、事業承継に向けて集約する必要が出てくる場合もあります。
各ステップごとの株式の保有割合を含めて綿密な移行計画を進めましょう。
事業承継に必要な期間と注意点 まとめ
ここまで、事業承継に必要な期間と、承継する際の3つの注意点を解説してきました。
事業承継を行う際には、5~10年という長い期間が必要なことや、人・資産・知的資産の承継が必要です。また、事業承継のスキームによってかかる期間や注意すべき点が異なることもあります。
事業承継を考えるべきタイミングが来た際には本記事を参考にしてください。
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株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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