「非上場株式」はM&Aで売却できるのか?譲渡の手続きや注意点について徹底解説
中小企業においてもM&Aの選択肢が一般的になりつつありますが、「非上場企業であっても株式は売却できるのか?」という疑問が浮かびます。
結論、売却はできます。
通常、株式は誰でも自由に売買することができる性質を持っています。
一方で、中小企業では健全な事業運営をはかる目的から株式に譲渡制限がかけられている場合が多くあります。
譲渡制限がかかっている株式は、自由に売買することができません。
そこで、この記事では、非上場会社の株式を売却する方法について解説します。
この記事を読むことで、非上場企業株式の売却手続きに関する不安が解消され、M&Aを成功させるための確かな道筋が見えてくるでしょう。
目次
ほとんどの中小企業は自由に非上場株式を売却できない?
まず覚えておきたいこととして、株式は原則として誰でも自由に売買できるということです。
世界ではじめての株式会社は、17世紀にできたオランダの東インド会社といわれていますが、その時代から、株主の有限責任と株式を自由に売買できるという点は大きく変わっていません。
会社法127条には「株主は、その有する株式を譲渡することができる。」と記載されており、これを株式譲渡自由の原則といいます。
ところが、いまの日本にあるほとんどの中小企業の株式は自由に売買できないことがほとんどです。
一見矛盾に思えるこの実態は、どういうことなのでしょうか。
中小企業の非上場株式を自由に売却できない理由
日本の中小企業のほとんどは、株式を持つオーナーが社長(経営者)であり、いわゆる同族会社です。
その場合、まったく関係ない赤の他人が急に株主となって経営に対して意見されることは必ずしも望ましくありません。
M&Aという買収や合併の視点から見ても、簡単に売買されてオーナーが頻繁に交代すると、ときには経営方針の一環だという理由で従業員の大量解雇などが発生しかねません。
そこで、会社にとっても従業員にとっても不利益をもたらすことがないようにするため、定款で定めた場合は株式の譲渡を制限できることが認められています。
譲渡を制限された株式のことを譲渡制限株式と言います。
譲渡制限がついた非上場株式のメリット
自由に株式を売れなくすることによる最大のメリットは、敵対的買収を防ぐことです。
先ほども説明したとおり、株式を持っている人の一部が会社に不満を持っていたときに、悪意を持って望ましくない人に売却してしまうことを防ぐことができます。
つまり、売却時には必ず会社の承認が必要となるため、常にだれが自社の株式を所有しているのか把握できるということです。
非上場株式に譲渡制限がかかっていてもM&Aは可能
譲渡制限とは、絶対に株式が売れないわけではなく、あくまでも会社の承認を得ずに、自由に売却することができなくなることをいいます。
逆にいえば、株主や代表取締役など定款で指定した承認者が許せば、売却することは可能です。
よって、譲渡制限がかかっている中小企業のM&Aで株式譲渡をおこなう場合は、必ず譲渡承認を得るための手続きが必要となります。
売却検討中の方の疑問をいますぐ解決!よくある質問と回答はこちら
M&Aでよくある質問〜売却検討中の方の不安・...
M&Aで会社や事業の売却を検討する中で、不安や疑問点は多くあるのではないでしょうか。 M&Aナビにおいても「いくらで売れるのか知りたい」「売却後の税金が不安」といったご質問をいただいております。 そこ…
譲渡制限がかかっている非上場株式を売却する手続き
それでは、譲渡制限付きの株式を売却する場合に必要となる譲渡承認の手続きについて紹介します。
非上場株式の譲渡手続き
非上場企業の株式に譲渡制限がかかっている場合は、譲渡の承認を会社に得なければなりません。
その流れについては以下の通りです。
(1)株式を売却したいと考えている株主による譲渡承認請求
いま株式を持っている株主が、いつ誰に自分の株式を売却したいのかを説明した上で承認を得るために会社に株式譲渡承認請求書という文書を提出します。
仮に社長が100%株式を持っている会社を売却する場合、株主としての社長が、代表取締役としての社長に承認請求する、ということになります。
(2)株主総会や取締役会などで承認決議
株主から承認請求を受け取った会社は、定款の定めに応じて株主総会、取締役会、または代表取締役の決定などによって承認するかどうかを決議します。
この決議には2週間という期間が法律で定められており、期間内に承認するか否かの決議を行う必要があります。
また、もし承認しない旨の決議を行ったとしても、その通知を請求者に対して2週間以内に行わなかった場合には、譲渡を承認したものとみなされます。
(ただし、定款にて2週間より短い期間を設定していた場合はそれに準じます)
なお、仮にこの請求を承認しなかった場合には、
- 請求された譲渡制限株式を会社自身が買い取る
- 希望する人とは別の買取者を指定する
という決議を行わなければならないことも、会社法にて定められています。
(3)株式譲渡契約の締結
会社から承認されると、売買当事者間における譲渡契約書を締結します。
なお、譲渡契約書には譲渡制限がかかっている場合は事前に会社の承認を得ておくことと定められているのがほとんどです。
譲渡契約に関しては、以下の記事を見てみると良いでしょう。
中小企業のM&Aにおける「最終譲渡契約」に関...
本記事では、M&Aのステップにおける「最終譲渡契約」について解説します。 M&Aでは、最終譲渡契約・クロージングは成否を決定づける大切なステップですが、理解が浅いまま最終譲渡契約の手続きを進めると、訴…
(4)名義書換請求
株式を譲渡してもよいと承認されて無事に譲渡契約書も締結できた後、最後の作業として、株主名簿に記載されている名義を書き換える請求を会社に対しておこないます。
この書換請求は、旧株主と新株主が連名で会社に対して請求する形となります。
非上場株式の譲渡までに必要な書類とは
譲渡制限がかかっている株式を売却する際に必要な書類は以下の通りです。
売却したい人が準備する書類
- 株式譲渡承認請求書
譲渡する株式の会社が準備する書類
- 取締役決定書または株主総会議事録
売買当事者間で準備する書類
- 株式譲渡契約書
- 株主名簿名義書換請求書
M&Aにおける売却において、非上場株式の譲渡制限に関する心配はない
非上場企業の株式を売却するための手続きについて解説しました。
これまで触れたとおり、こういった制限や手続きは、会社の所有と経営がとても近い中小企業に不当な不利益が発生しないために設けられています。
M&Aにおいては、売却する側と買収する側の合意がとれたうえで手続きをおこなうことが基本的な流れですので、これらの流れのなかでもめたり争ったりすることはほとんどありません。
ただし、やはり法的な手続きが絡んできますので、自分たちだけで進めてしまうと後から思わぬトラブルが発生しないとは限りません。
その点は注意が必要です。
M&Aナビは、売り手・買い手ともにM&Aにかかる手数料などを完全無料でご利用いただけます。買い手となりうる企業が数多く登録されており、成約までの期間が短いのも特徴です。ぜひご活用ください。
株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
関連記事
【2024年最新】M&A・事業承継のおすすめマッチングサイト20選を徹底比較!
今回はM&A・事業承継マッチングサイトの中から、弊社社員が本気でおすすめできるマッチングサイト20選をご紹介いたします! 「どのマッチングサイトを選べ
【2024年最新】M&A業界の特徴と今後の動向!業界に将来性はあるのか
日本では後継者不在による黒字廃業が社会問題のひとつになっていることを背景にM&A業界の今後に注目が集まっています。 2025年までに70歳を超える中小
M&Aはどこに相談するのが良い?相談先の選び方や、選ぶときの3つの注意点を徹底解説!
M&Aを検討しているが、どこに相談すればいいかわからない…。そんな悩みを抱えるは当然です。 家族や従業員に気軽に相談できる内容ではないですし、銀行や税
中小企業の事業承継におけるM&Aのメリットと高く売却できる条件とは?
本記事では、事業承継の手段としてM&Aを活用することのメリットや高く売却できる条件について解説します。 近年、親族や従業員への事業承継ではなく、第三者
新着買収案件の情報を受けとる
M&Aナビによる厳選された買収案件をいち早くお届けいたします。