垂直型M&Aとは?目的や注意点、過去の成功事例についてご紹介
垂直型M&Aは、サプライチェーン内の異なる段階にある企業同士が統合し、効率化とコスト削減を図るM&Aの一種です。
本記事では、その特徴や目的、水平型M&Aや異業種M&Aとの違い、そして成功のための重要なポイントについて詳しく解説しています。
垂直型M&Aを進める際の注意点も取り上げており、実際のビジネス戦略における活用方法をわかりやすく紹介しています。
企業の競争力を高めるための垂直型M&Aの有効性を、ぜひご確認ください。
目次
垂直型M&Aとは?
垂直型M&A(Vertical M&A)とは、サプライチェーンの異なる段階に位置する企業同士が行うM&Aを指します。
通常、垂直型M&Aでは原材料供給や製造、流通、販売といったバリューチェーン(価値連鎖)の異なるプロセスを担当する企業が統合することを目的としています。
例えば、製造業者がその製品を販売するための小売業者を買収するケースが挙げられます。
これにより、企業は供給の安定化やコスト削減、そして顧客との直接的な接触によるニーズの把握といったメリットを享受することが可能です。
垂直型M&Aの主な目的は、サプライチェーン全体を統合することで、企業が各段階でのリスクを管理し、コストを削減し、効率を向上させることです。
垂直型M&Aを行うことにより、製造から販売までの全過程を統合的に管理できるため、製品の品質向上やマーケティングの最適化、消費者ニーズへの素早い対応が可能となります。
このM&A手法は、特に製造業や流通業において広く用いられており、企業が競争力を高めるための重要な戦略の一つとなっています。
垂直型M&Aの特徴
垂直型M&Aの大きな特徴は、企業が供給や流通の過程を自社でコントロールできるようになる点です。
外部の取引先に依存するリスクを減少させ、サプライチェーン全体の安定性を向上させることが可能です。
また、異なる工程を担う企業同士の統合であるため、水平型M&Aのように同じ市場で競争相手を買収するのではなく、企業は自社の強みを補完するプロセスを取り込むことができます。
結果的に、競争力の強化や成長戦略の実現に直結します。
製造業で取り組まれることが多い
垂直型M&Aは、特に製造業において取り組まれることが多いです。
製造業者は、原材料の供給元や製品を販売する流通網との統合を行うことで、供給の安定化やコスト削減を図ることができます。
例えば、自動車産業では、部品を供給する企業や販売ディーラーを買収することで、部品供給のコストを削減し、製品が市場に出るまでの時間を短縮することができます。
企業は生産と販売の両方を効率的に管理できるようになり、業績を大きく向上させることが可能です。
消費活動の多様化により取り組みが活発化
現代の消費者のニーズは多様化しており、ニーズに迅速かつ柔軟に対応するために、垂直型M&Aの取り組みが活発化しています。
企業は、消費者に近い企業を買収することで、直接的なフィードバックを得ることができ、顧客の嗜好や市場のトレンドに迅速に対応することが可能になります。
例えば、食品業界では、生産者が小売業者や配送会社を統合することで、消費者に素早く商品を届け、彼らのニーズを的確に反映した商品展開を行うことが容易になります。
消費者との距離を縮め、より効率的なビジネス運営を実現するために、垂直型M&Aが進められています。
垂直型M&Aの目的
垂直型M&Aの目的は、サプライチェーン全体を統合し、企業の競争力や利益率を向上させることにあります。
企業がサプライチェーン内の異なる段階で活動する企業を統合することで、供給の安定化やコスト削減、新たな市場の獲得など、多くのメリットを得ることができます。
ここでは、垂直型M&Aの具体的な目的について詳しく見ていきます。
バリューチェーンの統合
垂直型M&Aの最も重要な目的の一つは、バリューチェーン(価値連鎖)の統合です。
企業は、原材料供給から製造、販売までのすべてのプロセスを自社で管理することで、供給の安定化や生産の効率化を図ることができます。
例えば、製造業者が原材料の供給業者を買収することで、価格の変動リスクを抑え、安定した供給を確保することが可能です。
また、流通業者を統合することで、製品の供給ルートを最適化し、消費者までの商品提供プロセスをスムーズにすることもできます。
バリューチェーンの統合により、企業はサプライチェーン全体での効率性を向上させ、競争力を高めることができるのです。
コスト削減による利益率の向上
垂直型M&Aのもう一つの重要な目的は、コスト削減を通じて利益率を向上させることです。
企業が供給元や販売先を統合することで、外部の取引先との交渉にかかるコストや、取引先の利益を削減することができ、結果として自社の利益率が向上します。
たとえば、製品の原材料費を抑えることができれば、製品の価格競争力を維持しつつ、利益率を大幅に向上させることが可能です。
また、販売プロセスを自社で管理することで、流通コストを削減し、消費者に対してより競争力のある価格で製品を提供できるようになります。
消費者に近い顧客ニーズの獲得
垂直型M&Aのもう一つの大きな目的は、消費者に近い企業を統合することで顧客ニーズを直接把握し、それに応じた製品やサービスを提供することです。
消費者との距離が近い企業、たとえば小売業者や配送業者を買収することで、消費者のフィードバックやニーズを素早くキャッチし、それを反映した製品開発やサービス改善を行うことができます。
これにより、企業は市場のトレンドに迅速に対応し、競争力を維持・向上させることができます。
特に、顧客志向のビジネスモデルを採用している企業にとっては、この消費者ニーズの迅速な獲得は大きな競争優位性となります。
垂直型M&Aとその他の類型との違い
垂直型M&Aは、サプライチェーン内で異なる段階にある企業同士が統合するという特異な性質を持っていますが、M&Aには他にもさまざまな類型が存在します。
特に水平型M&Aや異業種M&Aとの違いは、企業戦略の立て方や狙う目的が異なる点で注目されています。
ここでは、垂直型M&Aとその他のM&A類型との違いについて詳しく解説します。
水平型M&Aとの違い
水平型M&Aとは、同じ業界や市場に属する企業同士が行うM&Aのことです。
つまり、競合企業や同一市場の企業を買収・統合することで、事業規模を拡大し、市場での競争力を強化することが主な目的です。
一方、垂直型M&Aは、同じ業界に属していても、サプライチェーンの異なる段階にある企業同士の統合であり、主に供給の安定化やコスト削減、顧客ニーズの把握を目的としています。
水平型M&Aが競争相手を減らし、市場シェアを拡大することを目的とするのに対して、垂直型M&Aはサプライチェーン内で自社がコントロールできる範囲を広げ、効率化と安定化を図ることが目的です。
例えば、自動車メーカーが部品供給会社を買収するのは垂直型M&Aであり、競合する自動車メーカー同士が統合するのは水平型M&Aです。
両者の主な違いは、垂直型が供給や流通の統合を重視するのに対し、水平型は市場でのシェア拡大や競争力強化に重きを置く点にあります。
異業種M&Aとの違い
異業種M&A(コングロマリットM&A)は、異なる業界や分野に属する企業同士の統合を指します。
このタイプのM&Aは、リスク分散や新規事業の立ち上げ、新市場の開拓を目的として行われます。
たとえば、製造業の企業がIT企業を買収することで、新しい技術を取り入れたり、新しい事業分野に進出したりする場合がこれに該当します。
垂直型M&Aは、既存の事業分野における効率化を狙った統合である一方、異業種M&Aは、事業リスクの分散や全く異なる市場での成長を目指した統合です。
異業種M&Aでは、異なる業界に進出することで新たな収益源を得ることができる反面、事業間のシナジーが見えにくいため、統合に際してのリスクも高まる傾向があります。
垂直型M&Aは、事業間の連携や効率化を重視するのに対し、異業種M&Aはリスク分散と新規市場開拓に焦点が置かれているという点が両者の大きな違いです。
垂直型M&Aを進める際のポイント
垂直型M&Aを成功させるためには、事前の準備と戦略が重要です。
サプライチェーン内で異なる段階にある企業同士の統合には、単純なコスト削減だけでなく、さまざまなリスクや課題が伴います。
そのため、統合後の効果を最大化するために、いくつかの重要なポイントに留意する必要があります。
ここでは、垂直型M&Aを進める際に特に注意すべき点について解説します。
コスト削減効果の事前分析
垂直型M&Aの主要な目的の一つがコスト削減であるため、事前にその効果を十分に分析することが重要です。
統合によって本当にコスト削減が実現できるのか、どのプロセスで効率化が図れるのかを具体的に見極める必要があります。
例えば、原材料の供給元を買収することで、材料費や輸送コストが削減できるかどうか、またその削減効果がどの程度の利益増加につながるのかを定量的に把握することが求められます。
正確なコスト削減効果の予測がなされていない場合、統合後の期待されたシナジーが得られないリスクが高まります。
別の取引先への影響を考慮する
垂直型M&Aでは、サプライチェーン内の統合により、既存の取引先との関係が変化することがあります。
例えば、統合によって供給元が自社内に取り込まれる場合、これまで取引していた他の供給業者との関係が疎遠になる可能性があります。
このような場合、競争力を失う可能性があるため、他の取引先や外部パートナーへの影響を事前に考慮し、適切な対策を講じることが必要です。
市場全体での信頼関係を維持しつつ、統合後のビジネス関係をスムーズに運営するためには、事前の調整と透明性のあるコミュニケーションが欠かせません。
独禁法を考慮して進める
垂直型M&Aを進める際には、独占禁止法の遵守が重要です。
特に、供給チェーン全体を統合することで、市場内での競争を制限してしまう可能性があります。
公正取引委員会などの監視機関は、M&Aが市場競争を阻害しないかどうかを厳しくチェックしており、垂直統合が独占的な支配につながる場合、M&Aが承認されないこともあります。
そのため、法務の専門家の助言を早い段階で求め、法的リスクを回避しながら進めることが大切です。
まとめ
垂直型M&Aは、サプライチェーン全体の効率化やコスト削減を目的とし、競争力強化に大きな効果を発揮します。成功には事前の準備と法的リスクの回避が重要です。
株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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