水平型M&Aとは?目的や注意点、過去の成功事例についてご紹介
水平型M&Aとは、同業他社との統合を通じて市場シェアや競争力を強化するM&Aの一種です。
本記事では、水平型M&Aの特徴や目的、他のM&A類型との違い、成功のために注意すべきポイントについて詳しく解説します。
実際の成功事例やリスク対策にも触れながら、水平型M&Aの有効性を紹介しますので、ぜひご一読ください。
目次
水平型M&Aとは?
水平型M&A(Horizontal M&A)とは、同じ業界内で同じまたは類似する製品やサービスを提供する企業同士が行うM&Aのことです。
水平型M&Aは、競争企業や同じ市場に属する企業を買収や合併することで、事業規模を拡大し、より大きなシェアを獲得することを目的としています。
水平型M&Aは、特定の業界での競争力強化や市場支配力の向上を図るために重要な手段として活用されています。
水平型M&Aの特徴
水平型M&Aの大きな特徴の一つは、同じ業界や同一市場で活動している企業同士が統合することで、事業の重複を最小化し、コスト削減やスケールメリットを追求できる点です。
これにより、企業は競争相手を減らし、市場での競争優位を確立することが可能になります。
また、水平型M&Aは、新たな顧客層の獲得や地域市場への進出といった成長戦略の一環としても活用されることが多くあります。
人手不足を背景にした取り組みが活発化
近年、日本国内でも多くの企業が人手不足に直面しており、それが水平型M&Aの一つの推進要因となっています。
特に中小企業においては、事業継続や成長に必要な労働力を確保することが難しくなっているため、同業他社との統合によってこの課題を解決しようとする動きが活発化しています。
このような背景から、水平型M&Aは人材不足に対する有効な解決策として注目されています。
業界再編の中で用いられるM&Aの類型
水平型M&Aは、業界再編が進む中で多くの企業にとって選ばれる戦略です。
特に競争が激化している市場では、規模の経済を追求し、コスト競争力を高めるためにM&Aを実行する企業が増えています。
業界再編によって、競合企業同士が統合することで市場の集中度が高まり、競争が減少する一方で、効率化が図られ、業界全体の健全な発展につながる場合もあります。
協業や業務提携のような緩い連携から始まる場合も多い
水平型M&Aは、いきなり買収や合併という形ではなく、まずは協業や業務提携といった形で緩やかに関係を深める場合が多く見られます。
特に中小企業においては、完全な統合に対するリスクや不安があるため、まずは共同プロジェクトやリソースの共有といった形で段階的に連携を進め、その後正式なM&Aに発展するケースがよく見られます。
これにより、双方が相互理解を深め、スムーズな統合が図られることが期待されます。
水平型M&Aの目的
水平型M&Aの主な目的は、企業が同じ業界内での競争力を強化し、事業の成長を図ることにあります。
同業他社を買収・合併することで、市場での影響力を高め、競争に対する防御力を向上させることができます。
特に市場シェアの拡大や事業規模の拡大、地域戦略の実施といった具体的な目標を掲げる企業にとっては、水平型M&Aは非常に有効な手段です。
ここでは、その具体的な目的について詳しく解説します。
事業規模の拡大
水平型M&Aの代表的な目的の一つは、事業規模を拡大することです。
同じ業界内で活動する企業同士が統合することで、経営リソースを集約し、生産能力やサービス提供能力を向上させることができます。
例えば、製造業では工場の統合による生産効率の向上、サービス業では従業員や店舗のリソース共有などにより、事業運営の効率化が図られます。
また、規模が拡大することで、サプライヤーや取引先との交渉力も強まり、より有利な条件での取引が可能になることもあります。
市場シェアの拡大
水平型M&Aを通じて、企業は市場シェアを拡大することが可能です。
特に、競争が激しい市場においては、競合企業を買収することでその市場内でのシェアを大きく伸ばすことができ、業界内での優位性を高めることができます。
市場シェアの拡大は、企業のブランド力や顧客基盤の拡大にも直結し、新規顧客の獲得や既存顧客との関係強化にも寄与します。
このように、水平型M&Aは市場での競争力を強化し、業界リーダーとしてのポジションを確立するための手段といえます。
競争力の向上
水平型M&Aによって競争力を向上させることも大きな目的の一つです。
業界内で同じ製品やサービスを提供している企業同士が統合することで、コスト削減やスケールメリットが得られ、競争力が飛躍的に高まります。
また、同じ顧客層に対して複数の製品やサービスを提供することで、企業全体のサービスの幅が広がり、他社との差別化を図ることが可能です。
特に国際的な市場で競争する企業にとって、水平型M&Aはグローバル競争においても重要な武器となります。
地域戦略
水平型M&Aは、企業が新しい地域市場に進出するための手段としても活用されます。
地域戦略としてのM&Aでは、現地企業を買収することで、その地域に既存のネットワークや顧客基盤を持つ企業のリソースを活用し、新規参入時のリスクを軽減することができます。
特に海外市場への進出においては、現地の規制や文化に詳しいパートナー企業との統合が、スムーズな市場開拓につながることが多く見られます。
このように、水平型M&Aは、企業の成長戦略において地域展開を支える重要なツールとなります。
水平型M&Aとその他の類型との違い
水平型M&Aは、同じ業界内での企業統合を指す一方、M&Aには他にもいくつかの類型が存在します。
それぞれのM&Aには異なる目的やメリットがあり、企業戦略に応じて最適な選択肢が決まります。
ここでは、水平型M&Aと代表的な他の類型である垂直型M&Aや異業種M&Aとの違いについて解説し、どのような場面でそれぞれが適しているかを考察します。
垂直型M&Aとの違い
垂直型M&Aとは、サプライチェーン内で異なる段階に位置する企業同士のM&Aを指します。
例えば、製造業においては、原材料を供給する企業とその原材料を使って製品を作る企業が統合するケースがこれに該当します。
水平型M&Aが同じ市場内の競合企業同士で行われるのに対して、垂直型M&Aはサプライチェーンの上流や下流に位置する企業との統合であり、サプライチェーン全体の効率化やコスト削減を目的としています。
垂直型M&Aの利点は、原材料の安定供給や生産コストの削減など、サプライチェーン全体での効率性を強化できる点にあります。
一方で、水平型M&Aは市場シェアの拡大や競争相手を減らすことが主な目的です。
そのため、垂直型M&Aは業務の連携強化や供給の安定化・効率化に重点が置かれ、水平型M&Aは競争優位性の確保や市場支配力の向上に焦点が当てられる点で大きく異なります。
異業種M&Aとの違い
異業種M&A(コングロマリットM&A)は、異なる業界や分野で活動する企業同士のM&Aを指します。
異業種M&Aは、企業が新しい事業分野に進出するための手段として用いられ、リスク分散や新しい市場への参入が目的となることが一般的です。
例えば、製造業の企業がIT企業を買収して新しい技術を取り入れるケースなどがこれに該当します。
異業種M&Aのメリットは、新規事業や異なる分野の技術・ノウハウを迅速に獲得できる点にあります。
一方で、水平型M&Aは同じ業界内でのシェア拡大や競争力強化を目的としており、業界外への進出を意図するものではありません。
そのため、異業種M&Aはリスク分散や技術革新を図る場面で適しているのに対し、水平型M&Aは業界内の競争優位を追求する企業にとって最適な選択肢となります。
水平型M&Aを進める際のポイント
水平型M&Aは、同業他社との統合を通じて市場での競争力を強化する有効な手段ですが、成功させるためにはいくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。
M&Aの実行過程での失敗は、人材の流出や組織の混乱、法的問題の発生など、深刻なリスクを伴うことも少なくありません。
ここでは、水平型M&Aを進める際に特に留意すべきポイントを詳しく解説します。
人材流出の最小化に努める
水平型M&Aにおいて、最も重要な課題の一つが「人材の流出」を防ぐことです。
特に中小企業においては、従業員のスキルやノウハウが事業の競争力を支える重要な要素となっているため、M&A後の統合過程で人材が流出することは企業の成長に大きな影響を与える可能性があります。
従業員の不安や不満を軽減するために、透明性のあるコミュニケーションや、将来のキャリアパスを明確に示すことが重要です。
また、統合初期段階での柔軟な対応や、文化的な調整も欠かせない要素となります。
買収後の慎重な統合プロセスを実行する
水平型M&Aでは、買収後の統合プロセスが成功のカギを握ります。
特に事業規模が大きい場合や企業文化が異なる場合、慎重な統合プロセスが不可欠です。
統合がスムーズに進まないと、事業運営に支障をきたし、最終的にはM&Aによるシナジー効果を発揮できなくなる恐れがあります。
統合プロセスにおいては、経営陣がリーダーシップを発揮し、明確な目標と計画をもって統合を進めることが必要です。
また、従業員や取引先に対しても統合の目的や進行状況を随時説明し、信頼関係を築くことが成功の秘訣です。
独禁法を考慮して進める
水平型M&Aを実行する際には、独占禁止法(競争法)の遵守が不可欠です。
特に同じ業界内でのM&Aでは、市場の競争が大幅に制限される恐れがあるため、法的な問題に直面することがあります。
日本においても、公正取引委員会が市場の競争状況を監視しており、企業統合が市場の独占につながる場合にはM&Aが承認されないケースもあります。
したがって、M&Aの計画段階から法務専門家の助言を得て、独禁法に抵触しないかどうかを慎重に検討することが必要です。
法的リスクを最小限に抑えるためにも、早い段階での法的な確認が求められます。
水平型M&Aについてのまとめ
水平型M&Aは、同業他社との統合によって競争力や市場シェアを拡大する有効な手段です。
しかし、人材流出や法的リスクに注意し、慎重な統合プロセスが成功の鍵となります。
株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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