スーパーマーケットのM&A動向について解説!メリット・デメリットや成功事例について

2024年09月25日

スーパーマーケット業界では、競争の激化や後継者不足が大きな課題となっています。

店舗をどう成長させるか、または売却して次のステージに進むか、経営者として重要な判断が迫られる場面も増えています。

そんな中、M&Aが、規模拡大や事業承継の有力な手段として注目されています。
大手企業にとっても、素早い出店を実現できる手段として買収を考える会社が増えてきました。

そこで本記事では、スーパーマーケット業界におけるM&Aのメリットやリスク、成功のポイントについて解説します。
スーパーマーケットの経営戦略の一環としてM&Aを検討するための知識をお届けするので、是非ご一読ください。

スーパーマーケットとは?

スーパーマーケットは、食料品や日用品を幅広く取り扱う大型の小売店のことを指します。

スーパーマーケットの特徴は、お客さんが自由に店内を歩き回り、自分で商品を選んで、最後にレジで精算する「セルフサービス方式」にあります。

昔ながらの小さな商店とは違って、スーパーマーケットでは、野菜、果物、肉、魚といった生鮮食品から、調味料、お菓子、飲み物などの加工食品、さらには洗剤や歯磨き粉といった日用品まで、ありとあらゆる商品が一箇所に集まっています。

まさに、「ワンストップショッピング」ができる便利な場所だといえるでしょう。

スーパーマーケットの市場規模

日本のスーパーマーケット業界の市場規模について見ていきましょう。

一般社団法人全国スーパーマーケット協会のスーパーマーケット白書によると、2023年のスーパーマーケットの年間販売額は約25.5兆円にも上ります。

店舗数においても、全国で2万3千店を超えており、大きな市場であることが分かるでしょう。

近年では、人口減少や、コンビニエンスストア、ドラッグストア、ネット通販など、他の小売業態との競争が激化している状況といえるでしょう。

参考:全国スーパーマーケット協会「2024年版 スーパーマーケット白書」

スーパーマーケット業界の課題

スーパーマーケット業界は、人口減少や高齢化、人手不足、競争の激化、食品ロスといった課題に直面しています。

地方では人口減少により売り上げが減少し、高齢者向けの小規模店の需要が増加しています。

また、レジ打ちや品出しのスタッフ確保が難しく、セルフレジや自動化の導入が進んでいますが、初期投資が課題です。

さらに、コンビニやドラッグストア、ネット通販との競争も激化しています。食品ロス問題にも対応が求められており、地域特産品の取り扱いや「中食」への対応が戦略の一つです。

これらの課題解決のため、M&Aも注目されています。

スーパーマーケット業界のM&Aのメリット

M&A(合併・買収)は、スーパーマーケット業界で近年増えている戦略の一つです。なぜ、多くの企業がM&Aに注目しているのでしょうか?

ここでは、M&Aの売り手と買い手、それぞれの立場からメリットを見ていきましょう。

売り手のメリット

店舗売却側のメリットとして、まず後継者不足問題の解決や事業の継続が挙げられます。

経営が苦しい場合も、大手チェーンの傘下に入ることでノウハウや資金力を活用し、倒産を回避できる可能性があります。

また、M&Aによって得た資金を他の事業に投資したり、借金返済に充てることができ、オーナーにとっては努力の成果を現金化する機会でもあります。

さらに、大手のスケールメリットを享受し、新しい成長機会が得られ、事業の発展や競争力の強化につながります。

買い手のメリット

スーパーマーケットのM&Aは、市場シェア拡大やスケールメリット強化、効率的な経営、人材獲得、新顧客層の獲得、イノベーション促進、迅速な成長などのメリットをもたらします。

新しい地域や異なる店舗タイプを買収することで、新たな顧客層へのアクセスが可能になり、取引先との交渉力向上や物流コスト削減も実現できます。

また、M&Aによって異なる企業文化や経営手法を取り入れることで、業界の競争力を強化できます。適切な計画と実行が成功の鍵となり、業界全体の発展に寄与します。

スーパーマーケット業界のM&Aのデメリット

M&A(合併・買収)には多くのメリットがありますが、同時にデメリットも存在します。スーパーマーケット業界でM&Aを考える際は、これらのデメリットもしっかりと理解しておく必要があります。ここでは、M&Aの売り手と買い手、それぞれの立場からデメリットを見ていきましょう。

売り手のデメリット

スーパーマーケットの売却に伴うデメリットとして、まず経営の自由度が失われ、他社の方針に従わざるを得なくなることがあります。

さらに、従業員は雇用や待遇の変更に不安を感じ、退職リスクが高まります。地域に根ざした関係が希薄になり、店舗の個性やブランドアイデンティティが失われる可能性もあります。

また、創業者や長期経営者にとっては、店を手放すことが心理的負担となり、特に家族経営では罪悪感を感じることがあります。

買い手のデメリット

M&Aにおける買い手のデメリットには、高額な買収コスト、異なる企業文化やシステムの統合の難しさ、予期せぬリスク、既存店舗への悪影響、地域ごとの消費者ニーズへの対応、従業員の反発や離職、ブランドイメージの悪化、シナジー効果の見誤りなどが挙げられます。

これらのリスクを軽減するためには、買収前の調査や段階的な統合、従業員とのコミュニケーション、柔軟な運営方針が有効です。M&Aは慎重な判断が必要な経営戦略です。

スーパーマーケット業界のM&Aの目的

スーパーマーケット業界でM&A(合併・買収)が行われる目的は多岐にわたります。ここでは、特に同業者間で行われるM&Aに焦点を当て、その主な目的について詳しく見ていきましょう。

同業によるM&Aの目的

同じスーパーマーケット業界の中でM&Aを行う場合、主に以下のような目的が考えられます。

ドミナント強化

「ドミナント」とは、小売業界において特定の地域で集中的に店舗展開することを指します。

M&Aにおいて特定の地域内での店舗数を急速に増やすことでドミナント戦略を実行することができます。

ドミナント戦略によるメリットとしては以下のようなものがあり、小売店を運営する上で重要な戦略の一つであるといえるでしょう。

  • ブランド認知度の向上
  • 広告効果の最大化
  • 競合他社の参入障壁

配送の効率化

スーパーマーケットにとって、商品の配送は非常に重要な業務の一つです。
特に生鮮食品は鮮度が命なので、効率的な配送システムは競争力に直結します。

M&Aによる配送の効率化は、以下のような形で実現されます。

配送ルートの最適化

複数の会社の店舗網が統合されることで、配送ルートを見直し、より効率的なルートを設計できます。例えば、A社の配送トラックがB社の店舗も一緒に回ることで、1回の配送でカバーできる店舗数が増えます。

配送センターの有効活用

買収した会社の配送センターを活用することで、より広い地域をカバーできるようになります。また、センター同士を連携させることで、在庫の最適化も図れます。

配送頻度の向上

店舗数が増えることで、1回あたりの配送量が増えます。これにより、配送頻度を上げることができ、より新鮮な商品を店頭に並べることが可能になります。

配送コストの削減

規模が大きくなることで、配送業者との交渉力が強くなります。また、自社で配送を行っている場合は、配送車両や人員の効率的な活用が可能になり、1店舗あたりの配送コストを下げることができます。

スケールメリット

スーパーマーケット業界におけるM&Aのスケールメリットには、仕入れ力の強化やプライベートブランド開発、システム投資や間接部門の効率化、リスク分散などがあります。

規模拡大により仕入れコスト削減や独自商品の開発が可能となり、利益率の向上や差別化が期待されます。

また、システム投資や間接部門を分散し、地域リスクも分散可能です。

しかし、これらのメリットを最大限に活かすためには、統合計画や物流システムの整備、地域特性への対応が求められます。

異業種のM&Aの目的

スーパーマーケット業界では、異業種とのM&A(合併・買収)が増えています。これには大きく分けて2つの目的があります。

それは「事業の多角化を図る」ことと「仕入れコストの削減」です。

これらの目的について、詳しく見ていきましょう。

事業の多角化を図る

スーパーマーケットが異業種とM&Aを行う大きな理由の1つが、事業の幅を広げることです。これを「事業の多角化」と呼びます。

例えば、スーパーマーケットが薬局チェーンと合併するケースを考えてみましょう。

スーパーマーケットは主に食品や日用品を扱っていますが、薬局チェーンと合併することで、医薬品や健康食品なども扱えるようになります。

これにより、お客様の「ワンストップショッピング」のニーズに応えられるようになります。

また、異なる業種に進出することで、経済の変動や天候不順などのリスクを分散させることができます。

例えば、食品の値段が上がって食品スーパーの売上が落ちても、薬局部門の売上でカバーできる可能性があります。

さらに、異業種との合併により、新しい顧客層を獲得できる可能性もあります。

例えば、普段スーパーマーケットをあまり利用しない若い世代も、併設された薬局やコスメコーナーに興味を持って来店するかもしれません。

仕入れコストの削減

異業種とのM&Aの大きな目的の一つは、仕入れコストの削減です。

企業規模が大きくなることで、大量仕入れが可能となり、スケールメリットを活かして単価を下げる交渉がしやすくなります。

例えば、スーパーマーケットとドラッグストアが合併すると、日用品や食品の仕入れを一本化し、コストダウンが期待できます。

また、合併により物流面でも配送システムを共有し、輸送コスト削減が可能です。

しかし、企業文化の融合やシステム統合などの課題もあり、慎重な対応が求められます。

スーパーマーケットはいくらで売れるのか

「スーパーマーケットを売却したい」「スーパーマーケットを買収したい」と考えている方にとって、最も気になるのが価格でしょう。

ここでは、スーパーマーケットの売却価格がどのように決まるのか、業界特有の事情も含めて解説します。

中小企業向けの価格算定方法

スーパーマーケット業M&Aにおける売却価格の算定方法には、主に2つのアプローチがあります。

中小企業向け価格算定方法

スーパーマーケット業界におけるM&Aでは、売却価格の算定が重要なプロセスです。価格の算定方法は複数ありますが、一般的には以下の方法が用いられます。

スーパーマーケット業M&Aにおける売却価格の算定方法には、主に2つのアプローチがあります。

年買法

この方法では、まず対象企業の純資産価額を算出します。
次に、その企業の年間利益(通常は税引前利益)を計算し、これに一定の倍率(通常3〜5年分)を乗じます。

そして、純資産価額と年間利益の倍数を合計して企業価値とします。

例えば、純資産が1億円で年間利益が2000万円の場合、3年分を採用すると1億円 + (2000万円 × 3) = 1億6000万円となります。

この手法は、企業の資産価値と収益力の両方を考慮するため、バランスの取れた評価が可能です。ただし、業種や企業の成長性によって適切な倍率は変動するため、個別の状況に応じた調整が必要です。

マルチプル法

この方法では、評価対象企業の財務指標(例:EBITDA、当期純利益、売上高など)に、同業他社や業界平均から導き出された倍率(マルチプル)を乗じて企業価値を算出します。

例えば、EBITDA倍率を用いる場合、対象企業のEBITDAに業界平均のEBITDA倍率を掛けます。

仮に企業のEBITDAが1億円で、業界平均の倍率が7倍なら、企業価値は7億円と算定されます。

マルチプル法の利点は、計算が比較的簡単で、市場の評価を反映しやすい点です。ただし、適切な類似企業の選定や、対象企業の特殊性の反映が課題となります。

また、この手法は現在の市場環境や業界動向に大きく影響されるため、他の評価方法と併用することが一般的です

このように、スーパーマーケット業の売却相場は複数の要因に基づいて算定されるため、正確な価格を算定するには専門家の助言が不可欠です。

スーパーマーケット業界に特有の考慮すべき事情

スーパーマーケットのM&A価格決定には、立地の価値や顧客基盤、ブランド力、商品調達力、オペレーション効率、成長性といった業界特有の要素が影響します。

好立地や固定客の多さ、地域に根付いたブランド力は特に高く評価され、仕入れ先との関係や効率的な運営も価格に反映されます。

具体的には年間売上高の0.5倍から1.5倍程度が目安ですが、これらの要素により価格は大きく変動します。売却価格は最終的に売り手と買い手の交渉で決まり、適切な専門家のサポートが重要です。

スーパーマーケット業界のM&A事例5選

スーパーマーケット業界では、近年多くのM&A(合併・買収)が行われています。ここでは、注目を集めた5つの事例を紹介します。これらの事例を通じて、業界の動向や各社の戦略を理解することができるでしょう。

クスリのアオキホールディングスがフクヤを子会社化

2020年10月、クスリのアオキホールディングス(HD)は、福井県を中心に展開するスーパーマーケットチェーンのフクヤを子会社化しました。

アオキHDは、医薬品と食品を扱う「ドラッグ&フード」業態を強化し、北陸地方での事業基盤を拡大しました。一方、フクヤは経営資源を得て事業継続を図りました。

これにより、両社は医薬品と食品を融合した新たな小売業態を生み出し、顧客の利便性を向上させました。

株式会社フクヤの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ

イオンリテール、アクティアを子会社化へ

2023年9月、イオンリテールは茨城県南部で13店舗を展開するスーパーマーケットチェーン「アクティア」を子会社化すると発表しました。

イオンはこの買収により茨城県での事業基盤を強化し、アクティアは大手の経営資源を活用できるようになりました。イオンのプライベートブランド商品の導入など、アクティアの店舗での品揃えも拡充される見込みです。

アクティア株式会社の株式取得(子会社化)について

株式会社アルビスによる株式会社オレンジマートの子会社化

平成30年10月31日、株式会社アルビスが、株式会社オレンジマートの全株式を取得し子会社化を決議しました。

株式会社オレンジマートは富山県南部で展開する食品スーパーマーケットで、当社の未進出地域で活動しており、同社の地域の健康と食文化を守る姿勢が当社の理念と一致し、グループ化により富山県内のシェア拡大とスケールメリットの向上を目指します。
アルビス株式会社|企業情報|沿革

バローホールディングスによる三幸のM&A

2019年1月、中部地方を中心に展開するバローホールディングス(HD)が、長野県のスーパーマーケットチェーン「三幸」を子会社化しました。

バローHDは、中部地方を拠点に展開する企業グループで、長野県北部に10店舗を展開するスーパーマーケット三幸を買収しました。

三幸は後継者問題に直面しており、バローHDは未進出地域への拡大を目指しました。この買収により、バローHDは店舗網を拡大し、三幸の運営改善が期待されます。

また、この事例は、地方スーパーの後継者問題解決策としてM&Aが有効であることを示しています。

三幸株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ

スーパーマーケット業界のM&Aのおすすめ相談先

スーパーマーケットのM&A(合併・買収)を考えている経営者の方々にとって、適切な相談先を見つけることは非常に重要です。ここでは、スーパーマーケット業界のM&Aにおすすめの相談先を3つ紹介します。それぞれの特徴や利用方法について詳しく解説していきましょう。

M&A仲介会社

M&A仲介会社に相談することで、企業買収や売却のプロセスが円滑に進みます。

専門知識を持つ仲介会社は、適切な買収先や売却先を見つけ、企業価値の適正な評価を行い、交渉や契約のサポートも提供します。

また、法務や税務面でのリスク管理も行い、手続きの複雑さを軽減できます。

特に後継者問題や業界再編に直面している場合、M&A仲介会社は成功に導く重要なパートナーとなります。

M&Aマッチングサイト

M&Aマッチングサイトは、売り手と買い手をオンラインでつなぐプラットフォームで、特に中小企業のM&Aで普及しています。

低コストやスピード、全国規模の多様な選択肢がメリットですが、個人情報管理やサポート不足、信頼性の確認が課題です。利用手順としては、サイト選び、情報登録、コンタクト、交渉を行い、必要に応じて専門家のサポートを受けます。

顧問税理士への相談

顧問税理士は財務状況を熟知しており、税務面での助言や信頼関係を強みにできますが、M&Aの専門性に欠ける場合があり、他の専門家との連携が求められることもあります。各相談先の特徴を理解し、自社の状況に応じて最適な選択をすることが重要です。

顧問税理士や仲介会社を組み合わせて利用し、信頼できる専門家の助言を受けながら慎重に進めることが成功の鍵となります。

スーパーマーケット業界のM&Aのまとめ

近年、スーパーマーケット業界でM&Aが活発化しており、競争力強化、効率化、市場ェア拡大、後継者問題の解決が主な理由です。

大手チェーンは中小スーパーを買収し、地域密着型の店舗網を強化しています。

例えば、イオングループの買収や関西スーパーマーケットとイズミヤの経営統合が挙げられます。

消費者には、低価格やサービスの充実というメリットが期待される一方、地域性の喪失や選択肢の減少といった懸念もあります。

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