クロスボーダーM&Aの概要とリスク・注意点と成功要因を徹底解説
日本でも増えてきているM&Aの一つに「クロスボーダーM&A」があります。
通常のM&Aとは特徴も方法も異なる点が多い「クロスボーダーM&A」について、事例や注意点などを詳しくご紹介します。
この記事を読むことで、クロスボーダーM&Aのリスクを最小限に抑え、成功への道筋を具体的に描くことができるようになります。これにより、グローバル市場での事業拡大が実現します。
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目次
クロスボーダーM&Aの概要
クロスボーダーM&Aとは、Cross Border(Cross:越える、Border:国境)という名前通り、「国境を越えて行うM&A」のことです。
クロスボーダーM&Aの種類
M&Aには、以下3パターンがあります。
M&Aの種類
- 国内企業(In)が国内企業(In)を買収する「In-in型」
- 国内企業(In)が海外企業(Out)を買収する「In-out型」
- 海外企業(Out)が国内企業(In)を買収する「Out-in型」
このうち、クロスボーダーM&Aにあたるのは(2)「In-out型」のM&Aと(3)「Out-in型」のM&Aの2種類です。
これら2種類のクロスボーダーM&Aには、どのような傾向や実例があるのでしょうか。
クロスボーダーM&Aの現状(件数や推移、事例)
In-outは増加、Out-inは減少
国内企業による海外企業の買収(In-out型買収)は、近年増加傾向にあると言われています。
目立って活発になっているのは、スタートアップやベンチャー企業によるIn-out型M&Aです。
国内市場は少子高齢化や人口減少などにより縮小傾向にあります。
そのため、海外市場に参入することで規模の拡大を目指す、In-out型M&Aが増加しています。
反対に、Out-in型のM&A件数は、日本市場の縮小の影響からわずかに減少傾向にあります。
一方で、成約金額は高まったと言われています。
大規模なOut-in型のM&A事例として、中国鴻海(ホンハイ)社によるシャープ買収などがありました。
In-out型買収による大規模なクロスオーバーM&A事例
大規模なクロスオーバーM&Aの有名事例はやはり、2018年に発表された、「武田薬品工業」によるアイルランド製薬大手「シャイアー」買収でしょう。
この事例が有名になった理由、それは、買収額の高さです。
武田薬品工業はこのM&Aにより、日本企業によるM&A(合併・買収)としての最高買収額を記録したのです。
買収金額は総額約460億ポンド。
日本円に換算すると、なんと約6兆8千億円です。
M&Aの成立と同時に、売上高3.3兆円、当時世界7位となる日本初のメガファーマーが誕生することになりました。
この超大型In-out型M&Aにより、武田薬品工業は、大手製薬会社がマーケットシェアの多くを占有している(市場が寡占化している)国内市場から足を広げ、海外市場におけるプレゼンスを圧倒的に高めました。
新興国でのM&A
インドやベトナムなどを始めとした新興国におけるM&Aも近年増加傾向にあります。
海外の情報収集が難しいことから、まずは小規模なM&Aからスタートさせ、徐々に規模の大きなM&Aに挑戦していく日本企業も多く存在します。
新興国には、成長が早く、まだ成熟しきっていない市場が多くあるため、早い段階で参入することで、大きな利益を得られる可能性があります。
とはいえ、経済が不安定な新興国におけるM&Aにはリスクもつきものです。
あらゆる問題発生のリスクを考え、慎重な戦略を練ることが必要です。
参考:インドやベトナムなどを始めとした新興国におけるM&Aも近年増加傾向にある。
クロスボーダーM&Aの目的
日本企業のグローバル化戦略
国内市場縮小の影響から、活路を求め海外市場に出ていく日本企業が増加しています。
クロスボーダーM&Aを活用すれば、海外への進出や市場開拓にかかる時間を一気に短縮することができます。
先に紹介した武田薬品工業によるシャイアー買収もこれにあたります。
その他にも、幅広い業界でグローバル化を目的としたクロスオーバーM&Aが行われています。
新市場開拓
グローバル化することにより、新市場の開拓ができます。
海外にしか存在しない商品を日本国内に持ち込む、海外にはまだ存在しない商品を日本から持ち込むなどをすることで、競合の少ないブルーオーシャンで効率のよい事業成長と多大な利益獲得ができます。
新製品の開発
クロスボーダーM&Aにより効率的に海外企業のノウハウを取り入れることで、日本に無い新製品開発を行うことができます。
国を跨いで複雑な工程から製造された新製品は希少性も高く、より高い利益獲得に繋がることがあります。
海外投資ファンドによる買収戦略
海外投資ファンドによる日本企業の買収も、件数が増加しています。
海外投資ファンドとは、海外に拠点を置き、様々な投資家から資金を集めて企業経営を行う投資信託のことです。
バブル崩壊以降、経営難に陥る日本企業の増加に伴って、海外ファンドが日本企業をM&Aする事例が増加しました。
経営難企業を買収し、経営回復をさせることで、莫大な株式売却益を獲得できるためです。
クロスボーダーM&Aの方法と注意すべきリスク
クロスボーダーM&Aの実際の手法
クロスボーダーM&A案件で用いられることの多い、2つの手法をご紹介します。
三角合併
主に 海外企業の日本企業に対するM&Aの手段として用いられます。
「子会社を介して」行う「株式交換による」吸収合併のことです。
親会社・子会社・買収対象会社の3社により実行されることから、このような名称が付けられました。
従来のM&Aでは、海外企業が日本企業と合併しようと思っても、法律上、日本企業との直接合併が不可能でした。
この障壁を乗り越えるために、日本で子会社を設立し、その子会社がM&Aを実行するという方法が「三角合併」です。
実際の流れは、以下のようになります。
- 海外企業が日本国内に100%子会社を設置、子会社に自社株を渡す
- 買収先である日本企業の株主総会で合併の承認を得る
- 買収先である日本企業の株主が有する株式と子会社が有する親会社株式を交換比率に基づいて交換する
結果的に、買手である海外企業は、既存の日本企業を自社の100%子会社として保有することができます。
三角合併のメリットは、買手側が現金を用意することなく、自社株の価値によって買収を行うことができる点です。
現金の用意が必要ない分、大規模案件でも比較的容易に実行することができます。
しかしながら、三角合併には両株主の同意が大前提です。
国内企業の株主は、海外企業の株式をM&Aの対価として受け取ります。
株主がこれに納得しない限り、三角合併の成立は叶いません。
LBO(レバレッジドバイアウト)
海外における大型のM&Aでよく用いられる手法です。
買手側が、売手企業の財産(資産価値や将来のキャッシュフロー)を担保として、銀行借り入れや負債性証券等のデットを行うことで資金を調達する買収手法をいいます。
LBOの最大の特徴は、自己資産を抑えて買収ができる点です。
投資資金を少なくできる一方、利益を大きくすることもできるので、ローリスクハイリターンな手法であると言われています。
てこの原理をイメージすると理解がしやすいかと思います。
実際、「LBO(Leveraged Buyout)」という名称にも「てこ(レバー:Lever)の作用」を意味する“Leverage”が含まれています。
加えて、節税効果が期待できる点も特徴の一つです。
LBOは多くの借り入れを行った上での買収です。
買収後は利息の返済を行う必要があります。
利息の返済は、損金として算入することができるため、所得からその額を差し引くことにより節税効果が得られます。
クロスボーダーM&A実行にあたって懸念される主なリスク
非常に魅力を感じるクロスボーダーM&Aですが、実行にあたってどのようなリスクが存在するのでしょうか。
カントリーリスク
クロスボーダーM&Aは、相手国内の政治・経済などの社会情勢による影響を強く受けます。
情勢の変化により証券市場や為替市場に混乱が生じると、投資した資産の価値が変動するため、場合によっては外貨債務の返済や投資回収が困難になってしまいます。
また、外貨送金が停止されると、売買代金、貸付債権、配当金などの支払いが受けられなくなってしまいます。
訴訟リスク
国によって、訴訟に対する考え方が異なることもリスクとして考えられます。
米国を例に挙げると、度々「訴訟大国」と揶揄されるように、実際、日本と比較して遥かに頻繁に訴訟が発生しています。
賠償請求も認められやすく、万が一問題を起こしてしまえば、多額の賠償金を請求される可能性があります。
環境リスク
環境に対する基準や規制も、国によって大きく異なります。
日本より環境汚染に厳しい国も多くあり、そうした国では、土壌汚染や水質汚染などに対し、数億円もの賠償金支払いが命じられます。
環境デューデリジェンスを行うことで、事前に対象国における環境リスクを把握し、対策することができます。
時間がかかる作業ですので、早い段階から調査を開始しましょう。
労働問題・人的問題リスク
クロスボーダーM&Aの失敗原因として多いのが、雇用・処遇に対する考え方の相違などから、労働組合が中心となって外国企業との統合に反対し、契約締結後の統合が上手くいかずに終わるケースです。
そのため、相手国のルールや概念を理解することは大変重要です。
また、海外企業が日本企業を買収し、経営戦略の一環として思い切ったリストラを行おうとした時に、
- 人員整理の必要性
- 解雇回避努力
- 解雇者選定の妥当性
- 手続きの妥当性
などの厳しい条件を満たすことができず、実行できなかったという問題も発生しています。
クロスボーダーM&A成功への近道
クロスボーダーM&Aは国を跨いで行うため、一般的なM&Aとは異なる知識やノウハウが必要になります。
また、統合後のシナジーを望むのであれば、ただ知識を深めるだけでなく、文化や思想についてお互いに理解し合うことも重要です。
国内M&Aに慣れていると見落としがちな小さな事柄が大きな問題に繋がる可能性もあります。
どの段階においても、気を抜かず細心の注意を払った実行を心掛けましょう。
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株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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