水平型・垂直型M&Aとは?違いやそれぞれのメリット・事例を紹介!

2024年11月22日

企業が成長と競争力強化を目指す際、M&A(合併・買収)は有効な戦略です。
しかし、M&Aと一口に言っても、企業がどのように組み合わせを図るかで、その種類や効果が大きく異なります。

この記事では、「水平型M&A」と「垂直型M&A」の違いについて解説し、それぞれのメリットとリスク、そして具体的な事例を紹介します。
どちらのM&A形態を選ぶかは、企業の目的や市場の状況によりますが、選択の基準や成功のポイントについても触れていきます。

水平型・垂直型M&Aとは?それぞれの違いを解説

企業の成長戦略として注目されるM&Aには、「水平型M&A」と「垂直型M&A」の2つの種類があります。
どちらも企業の競争力強化や市場拡大を目的に行われるものですが、それぞれ異なる特徴とメリットがあります。

水平型M&A

水平型M&Aとは、同じ業界や同じ製品・サービスを扱う企業同士が合併または買収を行うM&Aの形態です。
つまり、競合企業や類似したビジネスを展開する企業同士が手を組むことで、市場シェアの拡大や競争力の強化を図る戦略です。

水平型M&Aには競争力強化やシェア拡大といったメリットがある一方、競争法(独占禁止法)に抵触するリスクもあります。
特に、M&A後の企業が市場を独占する恐れがある場合、規制当局からの承認が得られない可能性があります。そのため、市場への影響を慎重に見極める必要があります。

垂直型M&A

垂直型M&Aとは、サプライチェーン上で異なる段階にある企業が合併または買収するM&Aの形態です。
たとえば、製造業者が自社の製品を販売する流通業者を買収する、あるいは原材料を提供する企業を買収するケースが該当します。
このM&Aは、企業のバリューチェーンを強化し、効率性の向上や安定的な供給を目指すために行われます。

垂直型M&Aのリスクとしては、異なる業界やビジネスモデルへの対応が求められることが挙げられます。
異なる業種に進出することで、事業運営の複雑さが増し、管理コストや調整が必要となる場合があります。
また、他企業との取引が制限されることにより、機会損失が生じる可能性もあるため、事業の収益性に悪影響を及ぼすリスクも考慮する必要があります。

水平型M&Aと垂直型M&Aにはそれぞれ異なるメリットとリスクがあります。
水平型M&Aは競争力強化とシェア拡大を目指す戦略であり、垂直型M&Aは供給安定と効率化による競争優位性を高める手段です。
企業が成長戦略としてM&Aを検討する際は、事業の方向性や市場の特性を踏まえ、適切なM&A形態を選択することが重要です。

水平型・垂直型M&Aのメリット

M&Aは企業が成長戦略や競争力強化を図るうえで重要な手段です。
M&Aには同じ業界の企業が手を組む「水平型M&A」と、サプライチェーンの異なる段階にある企業が統合する「垂直型M&A」があります。
それぞれの形態には異なるメリットがあり、企業の目的や状況によって適した戦略が異なります。

水平型M&Aのメリット

市場シェアの拡大

水平型M&Aでは、同じ市場で競争している企業が合併・買収を行うため、直ちに市場シェアを拡大できるのが大きなメリットです。
例えば、競合の2社が一つになることで市場内での影響力が増し、価格交渉力やブランド力が向上します。市場シェアの拡大により、他社との差別化が図れ、競争優位に立つことが可能です。

コスト削減と効率化

水平型M&Aにより、重複するリソースを削減し、業務の効率化が期待できます。
例えば、製造業では生産ラインや物流網を統合することで規模の経済が働き、コスト削減が可能です。
また、管理部門やITインフラを統合することで、固定費を削減できるため、利益率の向上が期待されます。

技術・ノウハウの相乗効果

同じ業界内でのM&Aでは、企業が持つ技術やノウハウを融合させ、新製品開発やサービス品質の向上に役立てることができます。
例えば、異なる強みを持つ企業が統合することで、双方の知見を活かした革新的な製品開発が可能となり、顧客のニーズに迅速に応えることができます。

垂直型M&Aのメリット

供給の安定化とリスク軽減

垂直型M&Aでは、サプライヤーや流通業者との統合によって、供給の安定が図られます。
例えば、製造業者が部品サプライヤーを買収することで、部材の供給リスクが軽減され、予期しない需給変動にも柔軟に対応できます。
また、物流企業の買収によって流通の安定が確保され、製品の安定供給が可能になります。

コスト削減とプロセス効率化

垂直型M&Aでは、サプライチェーン全体でコスト削減が期待できます。
中間業者を排除することで、マージンを削減し、自社内で一貫したプロセスを構築することで、物流や管理コストも最適化されます。
これにより、コストを低減し、競争力を高めることが可能です。

競争力の向上と差別化

垂直統合により、自社で一貫した製造・流通プロセスを管理することで、製品の品質向上や供給の迅速化が可能です。
これにより、他社にはない独自の価値を提供でき、顧客満足度の向上や競争優位性の確立につながります。
さらに、流通や製造段階において独自の改善を行うことで、より顧客に最適なサービスを提供することができます。

水平型M&Aは市場シェアの拡大やリソース効率化が強みであり、垂直型M&Aは供給の安定やサプライチェーン全体の効率化がメリットです。
企業の目的に応じたM&A形態を選択することで、より戦略的な競争優位を築くことが可能になります。

水平型・垂直型M&Aのデメリット

M&Aは企業の成長や競争力強化を目的に行われますが、メリットだけでなくデメリットも存在します。
企業がM&Aを通じて大きな成果を上げるには、こうしたリスクやデメリットを事前に把握し、慎重に進めることが重要です。

水平型M&Aのデメリット

独占禁止法への抵触リスク

水平型M&Aでは同じ市場内での競合企業同士が統合するため、過度に市場シェアが集中すると、独占禁止法に抵触するリスクがあります。
特に、M&A後の企業が市場を独占する恐れがある場合、競争当局から承認を得られない可能性があります。
市場における競争が制限されると判断されれば、取引の停止や事業売却などの措置を求められる可能性もあり、計画通りの成果を上げられないリスクがあります。

文化や組織の統合の難しさ

同業界内のM&Aは、企業文化や業務プロセスの違いが表面化しやすく、統合後の組織がスムーズに機能しないことがあります。
例えば、意思決定のスピードや評価システムの違いから、従業員同士の摩擦が生まれることもあります。
また、優秀な人材がM&Aに伴う組織変革に馴染めず、退職してしまうリスクもあります。
これにより、統合がスムーズに進まず、業績悪化の原因となることもあります。

顧客離れのリスク

競合企業の統合により、商品ラインやサービスの一部が廃止される場合、既存の顧客が他社に流れるリスクがあります。
特に、顧客がM&Aによるサービス品質や価格に不満を抱く場合、他の選択肢に乗り換える可能性が高まります。
また、競合企業の統合によりブランドイメージが変わり、顧客が離れてしまう場合もあるため、顧客維持が課題となります。

垂直型M&Aのデメリット

異業種統合による管理の複雑化

垂直型M&Aでは、サプライチェーンの異なる段階にある企業を統合するため、業種間での業務管理やプロセス調整が複雑になります。
特に、製造業が流通業を買収する場合、流通特有の課題やニーズに対応する必要があり、運営の手間が増加することがあります。
管理コストや調整業務が増加することで、当初の期待した効率化が実現できない場合もあります。

依存関係による機会損失

サプライヤーや流通業者を自社で抱えることで、他企業との取引が制限され、機会損失が発生する場合があります。
垂直統合によってサプライチェーンを自社内に取り込むことは、供給安定にはつながるものの、取引先が限られることで新しいビジネスチャンスを逃してしまう可能性があります。
特に、他社の技術革新や市場動向への柔軟な対応が難しくなることがあります。

経営リソースの分散

異なる業種を統合する垂直型M&Aでは、企業のリソースが広範に分散するため、経営資源が分散し、各部門の効率が低下するリスクがあります。
特に、製造・流通・販売など各部門に異なる専門性が求められるため、全体の経営効率が低下し、利益率が落ち込む可能性もあります。
また、経営者の目が行き届きにくくなり、ガバナンス面での課題が発生することもあります。

水平型M&Aと垂直型M&Aには、それぞれ異なるデメリットがあります。
水平型M&Aは市場独占や文化統合の難しさ、垂直型M&Aは異業種の管理の複雑化や経営資源の分散がリスクです。
企業がM&Aを成功させるためには、これらのデメリットをしっかりと理解し、適切な戦略とリスク管理を行うことが重要です。

水平型M&Aの事例

水平型M&Aは、同じ業界や同様の製品・サービスを提供する企業同士が合併・買収を行う形態で、主に市場シェア拡大や競争力強化を目的としています。
以下は、水平型M&Aの具体例を紹介します。

ソフトバンクとスプリントのM&A

日本の通信大手ソフトバンクは、2013年に米国の通信会社スプリントを買収しました。
両社は通信業界に属する競合同士で、ソフトバンクはこのM&Aを通じてアメリカ市場に進出し、国際的な競争力の向上を目指しました。
スプリントの持つインフラと顧客基盤を活用することで、ソフトバンクは収益基盤を多様化し、米国内でのシェア拡大を図りました。
このM&Aにより、ソフトバンクは通信業界において国際的な影響力を強化しました。

アナハイムとディズニーのM&A

ディズニーは水平型M&Aを積極的に活用し、特に映画スタジオやエンターテイメント企業の買収で知られています。
2006年にはピクサー、2009年にはマーベル、2012年にはルーカスフィルムを買収し、各社の人気コンテンツを自社傘下に収めました。
ディズニーは同じエンターテイメント業界の企業を次々と買収することで、映画やテーマパークのコンテンツを強化し、競争力を高めました。
これにより、映画産業でのシェアを大幅に拡大し、世界的なエンターテイメント企業としての地位を確立しました。

水平型M&Aは、競合企業や同業界の企業を取り込むことで、市場シェアや顧客基盤を拡大し、効率化やコスト削減が期待できる戦略です。
上記のように、ソフトバンクやディズニーは水平型M&Aを通じてさらなる成長を実現しており、他の企業にとっても成功事例として注目されています。

垂直型M&Aの事例

垂直型M&Aは、サプライチェーンの異なる段階にある企業同士が統合することで、供給の安定化やコスト削減、業務効率の向上を図る形態です。
以下に、垂直型M&Aの代表的な事例を紹介します。

Amazonとホールフーズの買収

2017年、Amazonは米国の大手オーガニックスーパーマーケットチェーン、ホールフーズを137億ドルで買収しました。
Amazonはオンライン小売業のリーダーであり、ホールフーズの持つ店舗ネットワークを活用することで、食品部門における流通と販売を強化し、実店舗へのアクセスを確保しました。
このM&Aにより、Amazonは物流と販売網を一体化し、迅速な配送と顧客体験の向上を実現しました。

テスラとソーラ―シティの買収

2016年、電気自動車メーカーのテスラは、太陽光発電設備を提供するソーラーシティを買収しました。
テスラは自動車製造の上流工程であるエネルギー供給源の一環として、ソーラーシティの技術とインフラを取り入れ、車と自宅を含む再生可能エネルギーの統合システムを構築しました。
これにより、テスラはエネルギー供給から利用までの垂直統合を実現し、環境負荷軽減とエネルギー効率の向上を目指しています。

垂直型M&Aは、企業がサプライチェーンを自社内に取り込むことで、供給安定やコスト削減、付加価値の創出につながります。
Amazonやテスラの事例は、異なる業種の統合により、事業モデルに革新をもたらした成功例として注目されています。

垂直型M&A・水平型M&Aを成功させるためのポイント

M&A(合併・買収)は企業が成長し、競争力を高めるための有効な手段です。
垂直型M&Aと水平型M&Aはそれぞれ異なる特徴を持ちますが、成功に導くためには、いずれも戦略的な準備と計画が必要です。

垂直型M&Aを成功させるためのポイント

垂直型M&Aでは、サプライチェーンの異なる段階にある企業を統合するため、プロセスの一貫性やコスト削減、供給の安定化などが期待されます。
そのため、以下のポイントを押さえて進めることが重要です。

明確な統合目的の設定

垂直型M&Aにおいては、なぜサプライチェーンの統合が必要かを明確にすることが成功の鍵です。
例えば、供給コストの削減や品質の安定化、新しいビジネスモデルの構築など、具体的な目標を設定することで、統合後の方向性を定めやすくなります。

プロセスの最適化

統合先が製造・物流・販売などサプライチェーンの異なる段階にある場合、業務プロセスやシステムの統合が重要です。
プロセスの標準化を図り、各部門での業務がスムーズに連携するように調整することで、無駄を省き、生産性を向上させることができます。
また、異なる企業文化や働き方を取り入れつつ、新しい統合プロセスを構築することで、従業員の抵抗感を和らげることも重要です。

コスト管理とリスク対策

サプライチェーンの一部を自社で持つことで、コスト削減が可能ですが、一方で運営コストが予想以上にかさむ場合があります。
そのため、事前に統合にかかるコストを見積もり、リスク管理を徹底することが必要です。
また、環境や規制、取引先からの影響にも備え、柔軟に対応できる仕組みを整えることが成功のポイントです。

水平型M&Aを成功させるためのポイント

水平型M&Aは、同業界内での競合企業同士が合併することで、市場シェア拡大や競争優位の確保を目指します。
成功には、以下のポイントを考慮することが重要です。

市場分析と競争力の強化

水平型M&Aでは、市場シェアの拡大が一つの重要な目的ですが、同時に市場競争の構図が大きく変わることを念頭に置く必要があります。
競合の戦略を分析し、統合後にどのように競争優位を築けるかを考慮することが求められます。
また、独占禁止法の審査にも対応できるよう、競争当局の指導を受けつつ戦略を組み立てることが重要です。

企業文化や組織の融合

水平型M&Aでは、同じ業界内であっても企業文化が異なることが多く、統合後の組織運営に課題が生じる場合があります。
従業員のモチベーション低下や、離職が生じないよう、企業文化や評価制度の調整を図り、円滑な組織統合を目指すことが必要です。
統合前に企業文化の相違を理解し、リーダーシップを発揮して融合を図るための計画を立てることが成功につながります。

ブランド戦略の明確化

水平型M&Aにおいては、ブランドイメージが競争力に直結するため、統合後のブランド戦略を明確にすることが重要です。
買収先のブランドを残すか統一するか、また製品ラインの整合性をどう取るかなど、ブランドに関する意思決定がマーケティングの成否を左右します。
顧客離れを防ぎ、統合によるブランド価値の最大化を図るためには、消費者のニーズや市場動向を調査し、最適なブランド戦略を構築する必要があります。

共通の成功ポイント

垂直型と水平型のM&Aは異なる側面を持ちますが、成功のためには共通する要素もあります。

徹底したデューデリジェンス

M&Aの成功には、事前のデューデリジェンス(企業調査)が不可欠です。
買収先の財務状況や法的リスク、企業文化をしっかりと理解し、問題点を事前に洗い出すことで、統合後の計画を具体的に立てることができます。

統合後の計画とコミュニケーション

M&A後の計画(PMI:ポスト・マージャー・インテグレーション)を明確にし、従業員や取引先との円滑なコミュニケーションを図ることが重要です。
統合プロセスにおいては透明性を保ち、従業員や関係者の理解と協力を得ることが、M&Aの成功につながります。

垂直型・水平型M&Aを成功させるには、それぞれの目的に応じた明確な戦略と、統合後の課題に備えた準備が必要です。
市場や企業文化の違いを理解し、効率的にプロセスを進めることで、M&Aを通じた企業成長と競争力の向上が実現できます。

まとめ

水平型M&Aと垂直型M&Aは、企業の競争力強化や市場拡大に役立つ重要な成長戦略です。
水平型M&Aでは、同業他社との統合により市場シェアを拡大し、リソースの効率化が期待されますが、独占禁止法への配慮が必要です。
一方、垂直型M&Aでは、サプライチェーン上の異なる段階の企業を統合し、供給安定やプロセス効率化を目指すメリットがありますが、異業種間の管理の複雑さやリソース分散のリスクも伴います。
各企業は自社の成長戦略に合わせて適切なM&A形態を選び、計画的に取り組むことが成功の鍵となります。

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