ビルメンテナンス業界のM&A動向について解説!メリット・デメリットや成功事例について

2024年09月25日

ビルメンテナンス業界は、M&Aによる再編の動きが活発な業界と言えるでしょう。

背景には、人口減少による労働者の減少や中小企業のオーナーの高齢化が進行していることがあげられます。

ビルメンテナンス業は、労働集約型のビジネスモデルであり、労働者の減少による影響が非常に大きいといえるでしょう。

そこで今回の記事では、ビルメンテナンス業界のM&Aにおけるメリットやリスク、過去の成功事例について解説し、ビルメンテナンス業界のM&A動向について最新の知見を提供します。

将来の事業成長に向けて、有意義な内容になっていますので是非ご確認下さい。

ビルメンテナンス業界とは

皆さんは、日々利用しているオフィスビルやショッピングモール、学校、病院などの建物が、いつもきれいで快適に保たれていることに気づいたことはありますか?

これらの建物の裏側で、縁の下の力持ちとして働いているのが、ビルメンテナンス業界の人々です。

ビルメンテナンス業界とは、建物の清掃や設備の保守、警備などを行う業界のことを指します。簡単に言えば、建物を安全で快適な状態に保つお仕事をする人たちの集まりです。

具体的には、以下のようなサービスを提供しています:

  • 清掃:床や窓の掃除、ゴミの回収など
  • 設備管理:エレベーター、空調、電気設備などの点検や修理
  • 警備:建物の入退室管理や巡回警備
  • 植栽管理:庭や緑地の手入れ
  • 害虫駆除:ネズミや害虫の防除

これらのサービスは、建物を利用する人々の安全と快適さを確保するために欠かせません。例えば、オフィスビルで働く人々が気持ちよく仕事ができるのも、ショッピングモールで楽しく買い物ができるのも、ビルメンテナンス業界の方々の努力があってこそなのです。

ビルメンテナンス業界の特徴

皆さんの日常生活を支えるビルメンテナンス業界の特徴には、以下のようなものがあげられます。

  1. 労働集約型の産業:多くの作業が人の手によって行われるため、人材の確保と育成が重要です。
  2. 継続的なサービス提供:建物が存在する限り、メンテナンスは必要不可欠です。そのため、長期的な契約が多いのが特徴です。
  3. 専門性が必要:清掃から設備管理まで、幅広い知識と技術が求められます。
  4. 法規制との関わり:建築基準法や消防法など、様々な法律や規制を遵守する必要があります。

近年、ビルメンテナンス業界では、技術革新やサステナビリティへの対応など、新たな課題にも直面しています。例えば、IoT技術を活用した遠隔監視システムの導入や、環境に配慮した清掃方法の採用などが進んでいます。

また、高齢化社会の進展に伴い、ビルメンテナンス業界の役割はさらに重要になっています。バリアフリー化への対応や、高齢者が安心して利用できる施設づくりなど、新たなニーズに応えることが求められています。

このように、ビルメンテナンス業界は、私たちの日常生活や社会インフラを支える重要な役割を担っています。建物を長く、安全に、快適に使い続けるためには、この業界の存在が不可欠なのです。

ビルメンテナンス業界の市場規模推移

今後のビルメンテナンス業界の市場規模は、約4兆6,494億円とされており、今後も成長することが予想されています。

この成長の背景には、既存建築物の高齢化による大規模修繕や設備更新の需要増加があり、高度経済成長期に建てられた建物が更新時期を迎えています。

また、AIやロボット技術の進化に伴う自動化や予防保全の高度化が、新たな付加価値サービスを生み出すと期待されています。

さらに、SDGsへの対応として、省エネ化や廃棄物削減などの取り組みが強化され、ビルメンテナンス業界の役割が拡大する可能性があります。

しかし、これらの予測は経済情勢や法規制、技術革新のスピードによって変動する可能性があり、業界は柔軟に対応しつつ成長を目指す必要があります。

参考:ビル管理市場に関する調査を実施(2023年) | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所

ビルメンテナンス業界の業界構造

ビルメンテナンス業界は、多様な企業によって構成されています。

全国規模で幅広いサービスを提供する大手総合ビルメンテナンス会社を頂点として、地域密着型や特定サービスに特化した中堅ビルメンテナンス会社が続きます。

さらに、清掃や設備管理など特定の分野に特化した専門サービス会社も存在します。これらの企業から業務を受注する協力会社や下請け会社も、業界の重要な一角を占めています。

この構造の中で、大手企業は総合的なサービスと全国展開を強みとしています。

一方、中小企業は地域に根差したきめ細かなサービスや、特定分野における高度な専門性を活かした事業展開を行っています。こうした多様な企業の存在により、業界全体で幅広いニーズに対応できる体制が整っています。

ビルメンテナンス業の課題

ビルメンテナンス業界は現在、複数の重要な課題に直面しています。最も深刻なのは人手不足と労働力の高齢化で、特に清掃や警備などの労働集約型業務で顕著です。

若年層の確保が難しく、ベテランスタッフの知識継承も課題となっています。

給与水準や労働条件の改善も急務です。比較的低い給与と厳しい労働環境が、若い人材の確保を妨げています。

技術革新への対応も重要課題です。ICT、AI、IoTの進展に伴うデジタル化や自動化に、特に中小企業が追いつけていない状況です。

さらに、激しい価格競争による利益率の低下や、建物・設備の老朽化に伴うメンテナンスコストの増加も問題です。企業はコスト削減とサービス品質維持のバランスに苦慮しています。

環境問題への対応も求められており、エネルギー効率の改善や廃棄物削減、リサイクルなどの取り組みが必要です。

これらの課題に適切に対応することで、業界のさらなる成長と発展が期待されています。特に労働力確保、技術革新、環境対応が今後の重要なテーマとなるでしょう。

ビルメンテナンス業のM&A動向

ビルメンテナンス業界のM&Aは、企業の成長戦略として重要な役割を果たしています。背景には、業界の競争激化、技術革新、市場拡大の需要、後継者問題があります。

競争激化に対しては、M&Aによる規模の経済を活かしたコスト削減と競争力強化が有効です。

技術革新では、ICT、AI、IoTなどの新技術を持つ企業との統合で、業務効率化とサービス向上が図れます。

場拡大においては、地域密着型企業の買収による事業拡大や、海外市場進出の手段としてM&Aが活用されています。また、後継者不在の中小企業にとっては、事業存続と雇用維持の方策となっています。

このように、ビルメンテナンス業界のM&Aは、単なる事業売買を超えた重要な経営戦略として位置づけられています。

ビルメンテナンス業のM&A事例

ビルメンテナンス業界では、企業が市場拡大や競争力強化を目指してM&Aを積極的に行うケースが増えています。以下では、ビルメンテナンス業界における代表的なM&A事例を紹介します。

日本ハウズイングによるMESファシリティーズの子会社化

日本ハウズイングは2022年、産業施設の設備管理を手掛けるMESファシリティーズを子会社化しました。

ビル・マンション管理企業である日本ハウズイングは、この買収で事業多角化と産業分野進出を図る目的でのM&Aでした。

M&A後は、両社の強みを活かし、サービス領域を拡大し、全国ネットワークを通じたより幅広い施設管理サービスの提供を目指しています。

2023年3月期決算説明資料|日本ハウズイング株式会社

穴吹ハウジングサービスによる建衛工業の子会社化

穴吹ハウジングサービスは2020年、四国の清掃会社・建衛工業を子会社化しました。

マンション管理が主力の穴吹は、この買収でビル清掃サービスを内製化し、両社の強みを活かし、包括的なビルメンテナンスサービスの提供を目指すとしています。

建衛工業株式会社 の 株式取得(子会社化) 契約締結 に 関するお知らせ | あなぶきハウジングサービス

イオンディライトの海外連結子会社に対する浙江万才物流の売却

イオンディライトは2024年、中国子会社の浙江万才物流を売却しました。

激化する中国市場での戦略見直しを目的とした売却であり、経営資源の最適化と他地域での成長を優先することとしています。

当社海外連結子会社による孫会社の異動(持分買取・増資引受)に関するお知らせ|イオンディライト株式会社

ビルメンテナンス業のM&Aのメリット

売り手側のメリット

ビルメンテナンス業界でのM&Aは、売り手側に多くのメリットをもたらします。

まず、経営リスクの軽減が挙げられます。競争激化や厳しい法規制下での安定経営が可能になります。

次に、資金調達の機会を得られます。これは設備投資や人材育成に活用できます。

また、経営資源の最適化により、業務の効率化や専門化が進められます。激しい市場競争からの退出も、企業価値を最大化する選択肢となります。特に中小企業にとっては、事業承継の課題解決にもつながります。

このように、M&Aは企業の成長と安定に寄与し、経営戦略上重要な選択肢となっています。リスク軽減や資金調達、経営効率化など、多面的なメリットがビルメンテナンス業界のM&Aを後押ししています。

買い手側のメリット

ビルメンテナンス業界におけるM&Aは、買い手側に多くのメリットをもたらします。

まず、事業拡張と市場シェアの拡大が可能となり、競争力強化や収益性向上につながります。

次に、規模の経済によるスケールメリットを実現し、運営コストの低減と利益率の向上が見込めます。

さらに、買収企業の独自技術やノウハウを吸収することで、自社の技術力向上が図れます。

また、専門知識を持つ優秀な人材の一括獲得も可能となります。

最後に、事業統合によるシナジー効果で、全体の効率が上がり収益性が向上します。これらのメリットにより、M&Aは買い手企業の成長戦略において重要な選択肢となっています。

ビルメンテナンス業のM&Aのデメリット

買い手側のデメリット

ビルメンテナンス業界のM&Aには、買い手側にとっていくつかの重要なデメリットがあります。

まず、高額な買収コストが発生し、投資回収に時間がかかる可能性があります。

次に、異なる組織文化の統合が難しく、従業員のモチベーション低下や業務混乱を招く恐れがあります。

また、買収企業の負債を引き継ぐことで財務リスクが増大する可能性もあります。短期的には業務統合やシステム切り替えによる混乱も予想されます。

さらに、期待したシナジー効果が得られず、投資に見合ったリターンを得られないケースもあります。これらのデメリットを十分に理解し、事前に対策を講じることが、M&Aの成功には不可欠です。慎重な検討と準備が求められます。

ビルメンテナンス業のM&Aの売却相場

中小企業向け価格算定方法

ビルメンテナンス業界におけるM&Aでは、売却価格の算定が重要なプロセスです。価格の算定方法は複数ありますが、一般的には以下の方法が用いられます。
警備業M&Aにおける売却価格の算定方法には、主に2つのアプローチがあります。

年買法

この方法では、まず対象企業の純資産価額を算出します。
次に、その企業の年間利益(通常は税引前利益)を計算し、これに一定の倍率(通常3〜5年分)を乗じます。
そして、純資産価額と年間利益の倍数を合計して企業価値とします。
例えば、純資産が1億円で年間利益が2000万円の場合、3年分を採用すると1億円 + (2000万円 × 3) = 1億6000万円となります。

この手法は、企業の資産価値と収益力の両方を考慮するため、バランスの取れた評価が可能です。ただし、業種や企業の成長性によって適切な倍率は変動するため、個別の状況に応じた調整が必要です。

マルチプル法

この方法では、評価対象企業の財務指標(例:EBITDA、当期純利益、売上高など)に、同業他社や業界平均から導き出された倍率(マルチプル)を乗じて企業価値を算出します。
例えば、EBITDA倍率を用いる場合、対象企業のEBITDAに業界平均のEBITDA倍率を掛けます。仮に企業のEBITDAが1億円で、業界平均の倍率が7倍なら、企業価値は7億円と算定されます。
マルチプル法の利点は、計算が比較的簡単で、市場の評価を反映しやすい点です。ただし、適切な類似企業の選定や、対象企業の特殊性の反映が課題となります。
また、この手法は現在の市場環境や業界動向に大きく影響されるため、他の評価方法と併用することが一般的です。

このように、警備業の売却相場は複数の要因に基づいて算定されるため、正確な価格を算定するには専門家の助言が不可欠です。
年買法とマルチプル法を組み合わせて、最適な売却価格を決定することが重要です。ビルメンテナンス業界の特性や市場動向を踏まえた適切な価格算定が、M&Aの成功を左右する要因となります。

売却価格に影響する業界特有の事情

ビルメンテナンス業界のM&Aにおける売却価格は、業界特有の事情に大きく影響されます。

まず、長期契約の存在や契約の安定性が重要で、これらは将来の収益予測を容易にし、価格にプラスの影響を与えます。次に、顧客基盤の多様性と強固さも高評価につながります。

競争環境と市場の成熟度も価格形成に関わり、競争が少ない成熟市場では高評価となる傾向があります。また、最新技術や高性能設備の導入状況も、効率性と将来性の観点から価格に反映されます。

さらに、厳しい法規制への適応状況も考慮されます。これらの要素を適切に評価し、業界特性を理解した上で価格算定を行うことが、M&Aの成功には不可欠です。

ビルメンテナンス業のM&Aの進め方

ビルメンテナンス業界でM&A(合併・買収)を進めるには、いくつかの重要なステップがあります。これらのステップを順番に見ていきましょう。

戦略の策定・準備

M&Aを成功させるための第一歩は、しっかりとした戦略を立てることです。自社の現状を正確に把握し、将来の目標を明確にすることから始めましょう。

例えば、「警備員の人手不足を解消したい」「新しい地域に進出したい」「最新のセキュリティ技術を導入したい」といった具体的な目標を設定します。これらの目標に基づいて、M&Aが本当に必要かどうかを判断します。

準備段階では、自社の財務状況や業務内容を整理することも大切です。「うちの会社の強みは何か?」「改善が必要な点はどこか?」といったことを明らかにしておくと、後の交渉で役立ちます。

マッチング

M&Aのプロセスにおいて、マッチングと交渉は重要な段階です。マッチングでは、自社の目標に合った相手企業を探します。

例えば、地域や専門性の異なる企業と組むことで、互いの強みを生かせる可能性があります。マッチング方法には、業界のつながりの活用、M&A仲介会社の利用、マッチングサイトの使用などがあります。

良い相手が見つかれば交渉に入ります。ここでは買収価格、経営権の配分、従業員の処遇、ブランドの扱いなどを決めていきます。

例えば、大手企業が専門企業を買収する場合、買収価格やブランドの維持期間、従業員の雇用継続などを具体的に決定します。交渉は難しい過程ですが、双方にとって有益な結果を目指すことが重要です。

契約・クロージング

M&Aの交渉がまとまると、契約締結の段階に入ります。この過程では、弁護士や公認会計士などの専門家の助言を得るのが一般的です。契約書には買収の対価、支払い方法、経営権の移行スケジュール、従業員の処遇、秘密保持義務などの交渉で合意した内容を詳細に記載します。

双方が契約書に署名すると、M&Aが正式に成立し、これを「クロージング」と呼びます。

その後、実際の統合作業が始まります。警備業の場合、システムの統一や従業員への説明会、顧客への通知など多くの課題に取り組む必要があります。

M&Aの成功には、各段階で専門家の助言を受けながら、慎重かつ前向きに進めることが重要です。

ビルメンテナンス業のM&Aのおすすめ相談先

ビルメンテナンス業界でM&A(合併・買収)を考えている方にとって、適切な相談先を見つけることは非常に重要です。ここでは、主に二つの相談先について詳しく見ていきましょう。

M&A仲介会社

M&A仲介会社は、M&Aの全プロセスをサポートする専門家集団です。利用のメリットとして、豊富な経験と専門知識による多角的なアドバイス、幅広いネットワークを活かした相手探し、プロによる交渉力の強化、時間の節約などが挙げられます。

一方で、成功報酬型の手数料(通常取引額の1~5%程度)が発生することや、担当者との相性が重要になる点に注意が必要です。

ビルメンテナンス業界のM&Aでは、業界に強い仲介会社を選ぶことで、労働集約型産業や地域密着型サービスといった特性を踏まえた適切なアドバイスを得られる可能性が高まります。

M&Aマッチングサイト

M&Aマッチングサイトは、ビルメンテナンス業界でも活用されている新しいサービスです。低コスト、迅速な情報交換、多様な選択肢、初期段階での匿名性といったメリットがある一方で、自己責任での交渉、情報の正確性確認、専門的サポートの限界といった課題もあります。

業界特有の条件で検索できるサイトを選ぶことが効果的です。M&A成功のためには、自社状況の正確な把握、明確な目的設定、専門家への相談、十分な検討時間の確保が重要です。

ビルメンテナンス業界のM&Aは労働力確保、サービス地域拡大、新技術導入など様々な目的で行われており、自社の状況と目的に適した相談先を選ぶことが成功への第一歩となります。

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