書店業界のM&A動向を解説!メリット・デメリットやマッチング方法とは?
書店は、デジタル化の進行や地方の人口減少に伴い市場が縮小傾向にあり、M&Aが活発化するとみられています。
特に、雑誌媒体等の購入金額が減っていることにより地方の中小規模の書店が大きな打撃を受けており、再編が進む可能性があります。
一方で、都市部ではカフェと一体で運営をする新しい書店の形態が生まれており、今後の業界の動向に注目が集まっています。
そこで本記事では、書店業界におけるM&Aのメリット・デメリットや売却価格に関する考え方について解説していきます。
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目次
書店とは?
書店とは、書籍や雑誌などの出版物を販売する小売店のことです。店舗形態としては、
大型書店、専門書店、小型書店などありますが、近年都心部においてはカフェと書店が癒合した「ブックカフェ」が定番化しつつあります。また、デジタル書籍の普及により書籍市場のパイの取り合いが加速する中で、既存のビジネスモデルをどのように転換していくのかが書店ビジネスには求められています。
書店の市場規模
全体的な傾向として、書店が販売を行う書籍の市場は縮小を続けています。
1996年に出版業界の売り上げは26,564億円でピークを迎え、以降着実に市場規模は縮小し、10年たたずに1兆円もの販売金額の減少が見られました。
しかしながら2018年に15,400億円を記録した以降は、電子書籍の市場が拡大し、2022年には16,305億円を記録しています。紙媒体の書籍の売り上げは減少している一方で、書籍自体の市場規模は横ばい/微増しているということが見受けられます。
書店の市場展望
やはり市場規模の展望を考察する際に最も重要な要素は、電子書籍の普及です。
電子書籍の普及は新聞の電子化サービス、コミック本の電子アプリの普及等を通して、皆様も非常にイメージしやすいのではないでしょうか。
事実、2021年から22年において電子書籍の売上は、4,662億円から5,013億円へ増加し、紙媒体の書籍の市場縮小とは対照的に、着実に市場規模を拡大させています。
昨今の「ブックカフェ」といったものにとどまらず、紙媒体の書籍を扱う書店は、実店舗にしかできない戦略の構築をし、抜本的な差別化が急務であるように思われます。
参考:日本の出版販売額
書店の今後の課題
書店ビジネスが直面する課題は、主に以下の3点が考えられます。
デジタル化への対抗
書店業界において最も大きな障壁はやはり書籍の電子化でしょう。
実際、2014年に売り上げシェア6.7%だった電子書籍が、2022年には30.7%と急成長し、紙媒体のシェアを侵食しているのです。書店が販売するのはやはり紙媒体の書籍ですから、書籍の電子化は書店業界全体の課題と断定できると思われます。
しかしながら、前述したように昨今は「ブックカフェ」等が普及しており、書店と他業種がタイアップし、電子書籍の普及に対抗するような姿勢も散見されるようになりました。
参考:日本の出版販売額
店舗の大型化
これは全ての書店に共通して言えるものではありませんが、店舗の大型化は間違いなく中小書店には脅威です。
具体的なデータでみると、2006年から着実に減少する総書点数に対し、1店舗当たりの平均坪数は着実に増加しており、店舗の大型化が進捗していることがデータ上で見受けられます。
*参考:漸減中、直近では8169店舗…書店数とその坪数推移(最新) – ガベージニュース
ここにおいて店舗の大型化、集約化、淘汰が進められていることは明白であり、書籍のリソース量やカフェの併設等において大規模店舗より劣る中小規模店舗にとって、店舗の大型化、集約化は喫緊の課題であることが考えられます。
後継者の不在
店舗数が顕著に減少し続ける中、中小書店は危機に瀕しています。
特に経営者が高齢になり、後継者が不在だと物理的に事業の存続が困難になっている可能性が考えられます。
実際に、書店規模ごとの店舗数減少率を見ると、中小書店は大規模書店よりも減少の幅が広いことが分かります。
書店業界の最新のM&A動向と事例
パイの奪い合いが激化している書店業界では生き残りをかけた競争が行われています。
そのため、M&Aを用いた経営の多角化や、書店を超えたビジネスモデルを構築していくことが喫緊の課題となっています。例えば、雑貨屋、カフェや音楽と書店とが融合するような書店を目指したM&Aであったり、大手書店同士のM&Aで事業規模拡大を狙ったM&A、など多種多様なM&Aが業界全体で見受けられるようになっています。
【事例1】カルチュア・エンタテインメント株式会社による主婦の友社のM&A
2017年12月、カルチュア・エンタテインメント株式会社による主婦の友社のM&Aを実施したことを発表しました。
カルチュア・エンタテインメント株式会社は生活提案に強みを持つ出版社を複数有し、映像・音楽事業との連携による出版のほか、CCCグループが有する会員基盤やTSUTAYAや蔦屋書店をはじめとした店舗プラットフォーム、Tポイントのデータベースなどのグループリソースを活用した立体的なサービス展開を行う多角的な企業戦略を取る企業である。
一方、主婦友の会は創業100年の歴史を通じて積み上げてきた独創性と編集力により、世代やジャンルごとにカテゴライズされたファッションカルチャーの提案や、料理や育児、健康など、生活・実用書籍の刊行の他、ライトノベルのレーベルとしてヒーロー文庫を創刊するなど、幅広い読者層へ向けたライフスタイル提案を行っていました。
ここにおいて、このM&Aにより、様々な分野のコンテンツ制作から販売までを自社のみで手掛けることで、余計な中間コストをなくした新しい出版のシステムを構築し、書店を活性化させることで電子書籍やウェブ書店への対抗が図られました。
参考:株式会社主婦の友社子会社化に関するお知らせ
【事例2】TSUTAYAによる旭屋書店および東京旭屋書店のM&A
2019年4月株式会社TSUTAYAは、株式会社旭屋書店および株式会社東京旭屋書店の両社のM&Aを実施したことを発表しました。
「旭屋書店」は大阪・東京・香港などにも拠点をおき、現在、国内13店舗/海外1店舗を展開しています。
70年以上の歴史を持つ旭屋書店が、TSUTAYAの子会社として、TSUTAYA独自のデータベース・マーケティングや企画力、リソース、知的資本を最大活用することで、既存の書店の概念を超えた、新しいライフスタイル提案型の書店展開を加速させることを明示しました。
参考:株式会社旭屋書店および株式会社東京旭屋書店 子会社化に関するお知らせ
書店業界のM&Aのメリット
書店業界のM&Aのメリットを以下で紹介します。
売り手側のメリット
財務面での不安解消
一店舗当たりのツボ面積が上昇していることから、店舗の大型化・多種多様なサービスの提供が行われてることが分かります。ここにおいて、中小書店のような書店は時代の変化に適応できず、書店の淘汰がより加速していくという懸念があります。
このような経営者の皆様の財務面での不安を解消する1つの手段として、M&Aによる事業売却は有効な解決策であると考えられます。
後継者の不在の解決
書店に限らず社会全体で少子高齢化が加速する中、後継者の不在という問題はおおきな社会課題となっています。
M&Aを通して会社を売却し、大手の書店に事業を統合してもらう/継続してもらうことで、後継者の不在という問題が解決できる可能性が考えられます。
買い手側のメリット
買い手側の一番のメリットは事業の多角化が図れることだといえるでしょう。
昨今、書籍市場の縮小と電子書籍の普及に直面し、書店ビジネスは既存のビジネスモデルを超えた、生活スタイル提案というビジネスモデルへシフトしています。この状況下で、書店事業の多角化という流れは将来必然的なものになってくるでしょう。
M&Aの事例2のように、独立した事業が互いに統合し、新たなビジネスモデルを構築するという流れが社会全体で散見されており、ここにおいてM&Aは主要な選択肢となっています。
書店用品業界のM&Aにおける注意点
書店業界のM&Aには、勿論注意点も存在します。しかしながら、適切に対処し、解決策を準備することで、より良いM&Aを実現することが可能になっています。
承継に時間がかかる
各企業/事業が持つ技術やノウハウの承継は時間を要する長期プロセスです。M&Aによって事業が統合された場合、技術やノウハウの継承には長期間にわたる努力と調整が必要になります。この過程において、双方の従業員間で摩擦が生じる可能性があり、スムーズな運営への移行を妨げることがあります。
買い手が見つからないリスクがある
書店用品業界、とくに小・中規模の書店にはM&Aの実例が豊富ではないことから、買収を検討しても財務的に魅力的な買い手が限られることがあります。また、業界特有のサプライチェーンや倫理性を理解し、継承を望む適切な買い手を見つけることは容易ではありません。このため、適切な買い手が見つからず、事業が存続の危機に瀕することもあります。
書店業界のM&Aの売却価格相場
書店がM&Aにおいてを実施する場合、どのような価格相場があるのでしょうか。この章では、M&Aにおける売却価格の考え方から、書店がM&Aする際の特有の事情まで解説をしていきます。
価格算定方法
M&Aのおいては、以下の3つの手法をもとに売却価格を設定することが一般的です。
- コストアプローチ(純資産に着目)
- インカムアプローチ(収益力やキャッシュフローに着目)
- マーケットアプローチ(市場相場に着目)
詳細な価値算定の手法については、以下の記事で解説していますので気になった方は是非ご確認ください。
考慮すべき特有の事情
書店の考慮すべき特有の事情は、書店ビジネスが直面するビジネスモデルのシフトでしょう。事業の多角化や書店の在り方の変化が求められる中、書店には戦略の抜本的な改革が前提となっています。M&Aを検討される際は、この前提を確認する必要性があるでしょう。
書店業界のM&Aのおすすめ相談先
書店のM&Aを検討する際には、専門的な知識と経験を持つ相談先が非常に重要です。以下に、M&Aプロセスをスムーズに進めるためのおすすめの相談先を挙げます。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、買い手と売り手のマッチングを支援し、取引の各段階で専門的なサービスを提供します。これらの会社は、市場動向の分析、価格交渉、契約締結のサポートなど、M&Aの複雑なプロセスを導く役割を果たします。
M&Aマッチングサイト
オンラインのM&Aプラットフォームは、国内外の多様な事業者との接点を提供します。これにより、書店はより広い範囲の潜在的な買い手や売り手を簡単に見つけることができ、効率的に取引先を選定することが可能です。
おすすめのM&Aマッチングサイトを以下の記事で解説していますので気になった方は是非ご確認ください。
顧問税理士
M&A取引における財務評価や税務処理は、その複雑さから専門的な知識を要します。顧問の会計士や税理士は、これらの面で重要なアドバイスを提供し、適切な財務計画と税務戦略を立てるお手伝いをします。
書店業界のM&Aのまとめ
皆様いかがだったでしょうか?
昨今書籍の電子化など、書店ビジネスは前例のない過渡期に直面しています。
事業の多角化が必然となりつつある中、M&Aの可能性というものを感じていただければ、幸いでございます。
少しでも書店のM&Aに興味・関心を抱いていただけたなら、お気軽に弊社にご連絡ください。
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株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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