多角化戦略とは?概要や目的、M&Aとの関係性について解説
多角化戦略は、企業が成長を図るために新たな市場や製品分野に進出する重要な手法です。
リスク分散や競争力強化など多くのメリットがありますが、同時に経営の非効率化などのリスクも伴います。
本記事では、多角化戦略の概要やメリット・デメリット、さらにM&Aとの関係性について詳しく解説し、企業が成長を目指す上での重要なポイントを探ります。
目次
多角化戦略とは
多角化戦略の概要
多角化戦略とは、企業が現在の事業領域から新たな分野や市場に進出し、事業を多様化させる成長戦略の一つです。
既存の製品や市場に依存せず、複数の事業を展開することでリスクを分散させて収益の安定化を図ることを目的としています。
多角化戦略を実行する企業は、既存のリソースやノウハウを活用しながら、異なる分野に進出し、新たな成長機会を見出すことが求められます。
アンゾフの成長マトリクスにおける多角化戦略の位置づけ
多角化戦略は、アンゾフによって提唱された成長戦略を4つに分類したフレームワークであり、その中で多角化戦略は最もリスクが高いとされる戦略です。
このマトリクスは、企業が市場と製品の観点から成長戦略を分析する際に使用され、多角化戦略は「新市場×新製品」という軸で位置づけられます。
市場浸透戦略
市場浸透戦略は、既存の市場において既存の製品をさらに拡販する戦略です。
既存顧客の購買頻度を増やしたり、競合から市場シェアを奪うことで、成長を図ります。
この戦略はリスクが低く、既存の強みを活かせるため、多くの企業が最初に実施する成長手段として選択します。
新製品開発戦略
新製品開発戦略は、既存の市場に対して新しい製品を提供する戦略です。
企業が新たな製品やサービスを開発し、既存の顧客層に対して提供することで、競争力を高めます。
製品の多様化により、既存市場内でのシェア拡大や、新しいニーズに応えることが可能です。
新市場開拓戦略
新市場開拓戦略は、既存の製品を新しい市場に投入する戦略です。
企業は新たな市場を開拓し、成長機会を得ることができます。
海外進出や新たな地域への拡大が典型的な例です。
既存の製品が強みとなるため、比較的リスクが低い一方、新市場の特性に適応するためのマーケティングや流通の調整が必要です。
多角化戦略
多角化戦略は、新しい製品を新しい市場に提供するという、アンゾフの成長マトリクスの中で最もリスクが高い戦略です。
企業は未知の分野に進出するため、成功するには市場調査や事業計画の精緻化が重要です。
しかし、この戦略が成功すれば、企業は新たな収益源を得て事業の安定性を高めることができます。
多角化戦略の分類
多角化戦略には、いくつかの異なるタイプがあり、企業が多角化を進める際に選択する方向性や目的によって分類されます。
これらの分類は、企業がどのような業界や事業に進出するか、どのような目的で多角化を進めるかに基づいています。
代表的な多角化戦略として、水平型、垂直型、集中型、コングロマリット型の4つが挙げられます。
水平型多角化戦略
水平型多角化戦略とは、企業が既存の事業と関連性のある新たな事業に進出する戦略です。
例えば、自動車メーカーが関連する部品製造業に進出する場合などが挙げられます。
この戦略の特徴は、既存の顧客や流通チャネルを活用できる点です。
既存の事業とのシナジー効果が期待できるため、比較的リスクが低く、成功の可能性が高いとされています。
製品の多様化や付加価値の向上により、企業の競争力を高めることが可能です。
垂直型多角化戦略
垂直型多角化戦略は、企業がサプライチェーンの上流や下流に進出する戦略を指します。
上流では、製造に必要な原材料や部品の生産、下流では製品の流通や販売に進出することが考えられます。
例えば、小売業者が自社ブランドの商品を生産する場合や、製造業者が自社製品の販売店舗を展開する場合が垂直型多角化に該当します。
この戦略は、コスト削減や供給の安定化を目的として行われることが多く、サプライチェーン全体を効率化することで利益率を向上させる効果があります。
集中型多角化戦略
集中型多角化戦略は、企業が既存の事業分野に関連する新たな事業に進出することで、既存の強みを活かしながら新たな市場を開拓する戦略です。
この戦略では、既存の技術やノウハウを応用して、関連する新しい製品やサービスを開発します。
例えば、飲料メーカーが健康飲料やサプリメントの製造に進出する場合が挙げられます。
集中型多角化戦略のメリットは、既存の事業との相乗効果を狙えるため、効率的な成長を図りやすい点です。
コングロマリット型多角化戦略
コングロマリット型多角化戦略は、まったく関連性のない異業種に進出する戦略です。
これは、企業が既存の事業とは異なる分野で新たな収益源を確保することを目的としています。
例えば、電力会社が飲食業に進出するようなケースが該当します。
コングロマリット型の特徴は、リスク分散ができる点です。
異なる業界に参入することで、ある事業が不振に陥っても、他の事業がそれを補う可能性があるため、企業全体の安定性が増すとされています。
しかし、一方で異業種に進出することから、新しい分野でのノウハウが不足し、経営の難易度が高くなるリスクもあります。
これらの多角化戦略をうまく活用することで、企業は成長の機会を広げつつ、リスクを分散させ、事業の持続的な発展を目指すことが可能です。
特に、自社の強みをどのように他の事業に応用できるかを検討し、適切な戦略を選ぶことが成功の鍵となります。
多角化戦略のメリット
多角化戦略は、企業にとってリスク分散や収益源の多様化といった重要なメリットを提供します。
特に、経済的な不確実性が高まる中で、多角化戦略を適切に実行することで、企業の競争力を強化し、持続可能な成長を実現することができます。
以下では、多角化戦略による具体的な3つのメリットを解説します。
リスク分散
多角化戦略の最も大きなメリットの一つが、リスク分散です。
企業が異なる市場や製品に進出することで、特定の市場や事業が不振に陥っても、他の事業がそれを補完することができます。
例えば、製造業において、一つの製品の売上が低迷した場合でも、異なる製品ラインが好調であれば、全体の業績が大きく影響を受けない可能性があります。
このように、事業ポートフォリオを多様化させることで、経済環境や市場の変動に対する耐性を高めることができるのです。
シナジー効果の創出
多角化戦略のもう一つのメリットは、シナジー効果の創出です。
特に、関連性のある事業に進出する場合、既存のリソースやノウハウを活用して新たな事業を推進することで、効率化やコスト削減を実現できます。
例えば、既存の物流ネットワークを活用して新しい製品の配送コストを削減したり、既存の顧客基盤を使って新たなサービスを提供することで、マーケティングコストを抑えることができます。
このようなシナジー効果は、企業全体の生産性や収益性を向上させるための重要な要素となります。
競争優位性の獲得
多角化戦略は、競争優位性を獲得するための効果的な手段でもあります。
新しい市場や事業に進出することで、企業は他社との差別化を図り、より幅広い製品やサービスを提供することができます。
これにより、企業は市場での影響力を強化し、顧客の多様なニーズに対応することが可能になります。
さらに、多角化によって得られる資源やスキルの共有は、企業の競争力を高め、長期的な成長を支える力となります。
多角化戦略を通じてリスクを分散し、シナジー効果を創出し、競争優位性を獲得することで、企業は持続的な成長を実現できる可能性が高まります。
ただし、多角化には適切な計画と実行が求められ、無計画な進出は逆に企業の業績に悪影響を与えることもあるため、慎重な意思決定が重要です。
多角化戦略のデメリット
多角化戦略は企業に多くのメリットをもたらす一方でデメリットやリスクも存在します。
新たな市場や事業分野に進出することで、経営資源の分散や効率の低下が生じる可能性があり、慎重な戦略実行が求められます。
ここでは、主なデメリットを3つ紹介します。
経営の非効率
多角化戦略の最大のリスクの一つは、経営の非効率化です。
複数の事業を展開することで、それぞれの事業の管理や運営が複雑化し、経営資源の集中が難しくなる可能性があります。
特に、異なる業界や分野に進出する場合、その業界特有の知識やスキルが不足していると、事業運営が難航することが考えられます。
加えて、新規事業における設備投資やマーケティング費用が増加し、全体的なコスト構造が悪化するリスクもあります。
リソースの分散
多角化に伴い、企業のリソース(資金、人材、時間)が複数の事業に分散されることは、企業全体のパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性があります。
特に、中小企業や限られたリソースを持つ企業にとって、複数の事業にリソースを分散させることは、既存事業の強みを失わせる結果にもなりかねません。
どの事業にどれだけのリソースを投入するかを適切に管理しないと、全ての事業が中途半端に終わり、競争力が低下するリスクが高まります。
企業価値の低下リスク(コングロマリットディスカウント)
コングロマリット型多角化を行う企業は、異なる分野の事業を多数展開することで、全体の企業価値が低下する「コングロマリットディスカウント」のリスクに直面することがあります。
これは、投資家が企業の異業種展開を不透明で理解しづらいと感じ、結果として株価や企業価値が低く評価される現象です。
また、異業種への進出に伴う経営リスクが高いと判断されると、投資家の信頼を失い、資本市場での評価が低くなる可能性もあります。
これらのデメリットを考慮し、多角化戦略を成功させるためには、適切なリソース配分や経営管理が必要です。
特に、事業間のシナジーを最大限に活用し、無駄を削減することが重要です。無計画な多角化は企業にとって大きなリスクを伴うため、慎重な計画と実行が求められます。
多角化戦略とM&Aの関係性
多角化戦略を実行する企業にとって、M&A(合併・買収)は非常に重要な手法の一つです。
M&Aを通じて、新しい事業分野や市場に迅速に進出し、成長の機会を得ることができるため、特に大企業が多角化戦略を実施する際には一般的な選択肢となっています。
ここでは、M&Aと多角化戦略の関係性について解説します。
M&Aは多角化戦略の手法の1つ
M&Aは、企業が他社を買収することで新たな市場や事業に進出する手段です。
特に、多角化戦略を採用している企業にとって、M&Aは迅速に事業ポートフォリオを拡大できるメリットがあります。
既存のリソースを活用しつつ、他社のノウハウや顧客基盤を獲得することで、シナジー効果が生まれ、より効率的に多角化を進めることができます。
特に関連多角化の場合、買収先企業のリソースを活用して、既存事業との統合を図ることで、短期間で成果を上げることが期待されます。
一方で、無関連多角化を行う場合でも、M&Aは効果的です。
新しい分野への進出には、ノウハウの蓄積や市場の理解が不可欠ですが、これを一から構築するには時間とコストがかかります。
既にその分野で確立された企業を買収することで、スムーズに新事業を展開できるのです。
これにより、新規事業の立ち上げリスクを軽減し、より速い成長を実現することができます。
M&A以外の多角化の手法
多角化戦略を実行する際、M&A以外にもいくつかの手法があります。以下では、M&A以外の代表的な多角化手法として、アライアンスと新規事業の立ち上げを紹介します。
アライアンス
アライアンスは、複数の企業が提携することで、それぞれの強みを活かしながら共同で事業を展開する手法です。
これにより、単独では実現が難しい多角化戦略をリスクを抑えながら実行できます。
アライアンスを活用することで、資金やノウハウを共有しつつ、新しい市場や分野への進出が可能になります。
例えば、異業種企業との協力によって技術開発を進めることで、新たな製品やサービスを提供することができます。
新規事業の立ち上げ
多角化戦略のもう一つの手法として、新規事業の立ち上げがあります。
企業が自ら新たな市場に進出し、新しい事業や製品を開発・提供することで、成長を図る方法です。
これは、完全に内製する形で行われるため、企業のリソースやノウハウが十分に活かされますが、同時に高いリスクと長期間の投資が必要となります。
また、新規事業の成功には市場調査や戦略的なプランニングが重要であり、しっかりとした準備が求められます。
このように、M&Aは多角化戦略を迅速かつ効果的に進めるための手法の一つですが、アライアンスや新規事業の立ち上げといった他の手法も有効に活用することで、リスクを分散しながら成長を目指すことができます。
企業の状況や市場環境に応じて、最適な多角化の手段を選択することが成功の鍵となります。
まとめ
多角化戦略は、企業が新たな市場や製品分野に進出することで成長を目指す重要な経営手法です。
リスク分散やシナジー効果の創出、競争優位性の強化といったメリットをもたらす一方で、経営の非効率化やリソースの分散、コングロマリットディスカウントなどのリスクも伴います。
特に、M&Aは多角化戦略を迅速に進めるための効果的な手段として多くの企業に活用されています。
経営環境が急速に変化する現代において、企業の柔軟性と適応力を高めるため、多角化戦略は今後も重要な経営手段として注目され続けるでしょう。
株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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