行政書士事務所をM&Aするには?手続きやメリット・デメリットについて解説
行政書士事務所の事業承継を考える際、M&Aは重要な選択肢の一つです。
しかし、M&Aには特有のリスクや成功要因があり、適切な準備と戦略が求められます。
本記事では、行政書士事務所をM&Aで事業承継する際のメリットや手続き、そしてリスクについて詳しく解説します。
さらに、M&A後の事務所運営や成功するためのポイント、おすすめの相談先についても触れていきます。
事務所の将来を見据えた意思決定をサポートするための内容が詰まっています。
目次
行政書士事務所とは
行政書士事務所とは、行政書士が設立し、運営する専門事務所です。
主に官公庁に提出する書類の作成や手続きの代理、コンサルティング業務を行っています。
行政書士は、企業や個人の代わりに法律に基づいた書類を作成し、その手続きが適正に進むよう支援するプロフェッショナルです。
行政書士事務所は、多岐にわたる行政手続きに関する相談や、ビザの取得、契約書の作成、遺言書の作成支援など、さまざまな法的サービスを提供しています。
行政書士資格とは
行政書士資格は、国家資格であり、行政手続に関する書類作成や相談業務を行うために必要です。
行政書士になるためには、法律に基づく試験に合格し、一定の要件を満たすことで登録が認められます。
この資格を持つことで、行政書士は法律の専門知識を駆使し、クライアントのニーズに応じた書類作成や手続きを行うことができ、企業や個人の法務支援において重要な役割を果たします。
行政書士事務所と行政書士法人
行政書士事務所は、通常、個人が独立して運営することが多いですが、一定の条件を満たすことで法人化し、行政書士法人として運営することも可能です。
以前は、行政書士の有資格者複数名により設立されるものでしたが、20219年の法改正により有資格者1名での法人設立も可能になりました。
ただし、支店展開を行う場合は複数名の社員が必要となるため注意が必要です。
法人化することで、組織としての信頼性が向上し、クライアントに対するサービス提供の幅が広がることが期待されます。
行政書士事務所をM&Aするメリット
行政書士事務所のM&Aには、事業承継や経営の効率化を実現するための多くのメリットがあります。
特に、事業承継問題の解決や従業員の雇用継続、経済的メリットの確保、さらには事務所のさらなる発展といった点で、M&Aは重要な選択肢となり得ます。
以下に、行政書士事務所をM&Aする際の主なメリットについて詳しく解説します。
事業承継問題の解決
多くの行政書士事務所が直面する最大の課題の一つは、事業承継問題です。
経営者の高齢化に伴い、後継者が見つからないケースが増加しています。
このような場合、M&Aを通じて事務所を第三者に譲渡することで、事業を円滑に引き継ぐことができます。
これにより、事務所のノウハウや顧客基盤が次世代に受け継がれ、事業の継続性が確保されます。
従業員の雇用継続
M&Aによる事務所の譲渡は、従業員の雇用を守るための有効な手段でもあります。
事務所の閉鎖や経営者交代により、従業員が職を失うリスクが高まりますが、M&Aを通じて新しい経営者に引き継がれることで、従業員の雇用が継続されます。
これにより、従業員の安心感が保たれ、事務所の運営がスムーズに行われます。
経済的なメリット
M&Aを実施することで、売却益を得ることができ、経営者にとっては退職後の生活資金を確保する一助となります。
また、買い手にとっても、既存の顧客基盤や運営ノウハウを引き継ぐことで、新規事業をゼロから立ち上げるよりもリスクを低減し、迅速に事業を軌道に乗せることが可能となります。
事務所の更なる発展
新しい経営者の下で事務所が運営されることで、新たなサービスの提供や業務の拡充が期待できます。
特に、法人化や他の士業との連携を通じて、より包括的な法務サービスを提供できるようになる可能性があります。
これにより、既存顧客の満足度向上や新規顧客の開拓が進み、事務所のさらなる発展が見込まれます。
行政書士のM&Aの成功要因
行政書士事務所のM&Aを成功させるためには、いくつかの重要な要因を押さえる必要があります。
特に、早期の準備や適切な譲渡先の選定、専門家の協力、そして段階的な引継ぎの実施が成功を左右する重要なポイントとなります。
以下に、それぞれの要因について詳しく解説します。
早期の準備
行政書士事務所のM&Aを成功させるためには、事前の準備が非常に重要です。
事務所の財務状況や業務内容を詳細に整理し、事務所の強みと弱みを明確にすることで、買い手が事務所の価値を正確に評価できるようになります。
また、M&Aを視野に入れた経営を早期から意識することで、事務所の魅力を高め、買い手にとって魅力的な投資先となることができます。
適切な譲渡先の選定
M&Aにおいては、譲渡先の選定が成功の鍵を握ります。
買い手が事務所の経営方針や文化に適応できるかどうかは、M&A後の事務所運営に大きな影響を与えます。
適切な譲渡先を見つけるためには、信頼できる仲介会社や専門家の協力を得ることが重要です。
これにより、事務所の価値が正当に評価され、譲渡後のトラブルを回避することができます。
最適な専門家をパートナーとして迎える
M&Aのプロセスは複雑であり、法務や財務、税務など、さまざまな専門知識が求められます。
したがって、経験豊富な専門家をパートナーとして迎えることが、M&Aを成功させるためには不可欠です。
行政書士事務所に詳しい専門家を選ぶことで、交渉や契約の締結、手続きの全般において適切な助言を受けることができ、M&Aプロセスが円滑に進みます。
段階的な引継ぎの実施
行政書士事務所のM&Aにおいて、段階的な引継ぎは特に重要です。
突然の経営者交代は、顧客や従業員に不安を与え、事務所の運営に支障をきたす可能性があります。
これを防ぐためには、旧経営者と新経営者が一定期間共に業務を行い、徐々に引継ぎを進めることが効果的です。
このプロセスにより、新経営者が事務所の業務や顧客関係を円滑に引き継ぎ、M&A後の事務所運営がスムーズに行われることが期待できます。
行政書士事務所に特有のM&Aリスク
行政書士事務所をM&Aする際には、特有のリスクが伴います。
これらのリスクを適切に理解し、事前に対策を講じることが、M&Aの成功に大きく寄与します。
以下に、行政書士事務所に特有の主なM&Aリスクを解説します。
価値算定が難しい
行政書士事務所の価値を正確に算定することは難しい課題です。
多くの場合、事務所の価値は、顧客との信頼関係や積み重ねたノウハウといった無形資産に大きく依存しています。
これらの無形資産の評価は主観的な要素が強く、買い手と売り手の間で価値の見解が異なることがあります。
適切な価値算定を行うためには、経験豊富な専門家の助けが不可欠です。
顧問先との関係性の希薄化
M&Aによる経営者交代に伴い、顧問先との関係性が希薄化するリスクがあります。
行政書士事務所は、顧客との信頼関係を基盤に業務を行っているため、新しい経営者がその関係を引き継ぐのは簡単ではありません。
このリスクを軽減するためには、M&A後の顧客とのコミュニケーションを重視し、信頼関係を保つための努力が必要です。
また、引継ぎ期間を設けることで、顧問先との関係性をスムーズに移行させることが重要です。
ノウハウ・ナレッジの断絶
行政書士事務所のM&Aにおいて、事務所が長年培ってきたノウハウやナレッジの断絶は大きなリスクとなります。
これらの知識は、業務の効率化や顧客満足度の向上に不可欠であり、失われることは事務所の競争力に直結します。
このリスクを避けるためには、引継ぎ期間中にノウハウの文書化や従業員への教育を徹底し、知識の継承を確実に行うことが重要です。
サービス品質の低下
新しい経営者が事務所を引き継ぐ際、サービスの品質が低下するリスクがあります。
特に、従業員や顧客が新しい体制に慣れるまでには時間がかかることが多く、その間にサービスの質が低下する可能性があります。
サービス品質の低下は顧客離れを招く可能性があるため、引継ぎ期間中に従業員の教育やサポートを強化し、品質維持に努めることが求められます。
M&A後の事務所運営
M&Aを通じて行政書士事務所を引き継いだ後、新たな運営体制の構築と顧客との関係維持が成功の鍵となります。
M&A後の運営には、新体制の確立や従業員の採用・教育、顧客との関係強化など、多くの要素をバランス良く管理することが求められます。
以下に、M&A後の事務所運営において重要なポイントを解説します。
新体制の構築と運営の見直し
M&A後には、新しい運営体制の構築が不可欠です。
新経営者のビジョンに基づき、事務所の組織再編や業務フローの見直しが行われることが一般的です。
この過程では、既存の業務を尊重しつつ、改善の余地を見つけ、より効率的な運営体制を確立することが重要です。
従業員が新体制にスムーズに適応できるよう、十分な説明とサポートを提供することが求められます。
職員の採用・教育プラン
事務所運営において、適切な人材の採用と教育は不可欠です。
M&A後、新しいサービスの提供や事務所の拡大に伴い、新たな人材の採用が必要となる場合があります。
採用に際しては、事務所の文化や方針に合致する人材を選定することが重要です。
また、新たに採用された職員だけでなく、既存の職員に対する継続的な教育プランを策定し、全員が一丸となって事務所の目標に向かって進むことができるよう支援することが求められます。
顧客との関係の維持と発展
M&A後、既存の顧客との関係を維持し、さらには発展させることが、事務所の成功にとって極めて重要です。
顧客は経営者の交代によるサービスの変化に敏感ですので、事務所がこれまで通りのサービスを提供できるかどうかが問われます。
顧客との定期的なコミュニケーションを通じて信頼関係を維持し、新たなサービスの提供や提案を行うことで、顧客との関係をさらに深めることが可能です。
行政書士のM&Aのおすすめ相談先
行政書士事務所のM&Aを成功させるためには、信頼できる相談先を選ぶことが重要です。適切な専門家や機関をパートナーとして選ぶことで、M&Aプロセスがスムーズに進み、リスクを最小限に抑えることができます。
以下に、行政書士事務所のM&Aにおすすめの相談先を解説します。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、売り手と買い手のマッチングを専門に行う企業であり、行政書士事務所のM&Aにおいても重要な役割を果たします。
仲介会社は、事務所の価値評価、交渉、契約締結に至るまで、M&Aの全プロセスを専門的にサポートします。
特に、行政書士事務所の特性に精通した仲介会社を選ぶことで、事務所の価値を最大限に引き出し、円滑なM&Aを実現することができます。
M&Aマッチングサイト
M&Aマッチングサイトは、オンラインで売り手と買い手を結びつけるプラットフォームです。
これらのサイトを利用することで、広範な買い手候補との接点を持つことができ、行政書士事務所のM&Aにおいても有効な手段となります。
マッチングサイトは、仲介会社に比べて手数料が低く、自分のペースでM&Aプロセスを進めたい場合に適しています。
ただし、M&Aに関する専門知識が求められることが多いため、利用に際しては他の専門家との連携を図ることが推奨されます。
行政書士事務所のM&Aのまとめ
行政書士事務所のM&Aは、事業承継や事務所のさらなる発展を実現する有効な手段です。
しかし、その成功には、事前準備や適切な譲渡先の選定、専門家の助力が不可欠です。
また、M&A後の運営においては、新体制の構築や従業員の適応、顧客との関係維持が重要な課題となります。
M&Aを検討する際には、まず事務所の価値を正確に評価し、リスクを適切に管理することが求められます。
さらに、信頼できる仲介会社やマッチングサイトを利用し、適切な買い手と出会うことが成功への第一歩となります。
最後に、M&Aは事務所の将来を左右する重大な決断であるため、慎重に計画を進め、専門家のアドバイスを受けながら、事務所の発展を目指しましょう。
株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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