M&Aにおける銀行の役割とは?相談の際の注意や特徴について解説
M&A(合併・買収)において、銀行は買い手側への資金融資や売り手側の債権者、また銀行がアドバイザリー業務を行う立場としての役割を担います。
特に資金調達の面で欠かせない存在ですが、アドバイザリー業務に関する注意点や他の相談先も把握しておくことが重要です。
本記事では、銀行がM&Aにどのように関わるのか、そしてその利点や注意点について解説します。
目次
M&Aにおける銀行の役割
銀行は、M&Aにおいて非常に重要な役割を果たします。
買収側や売却側、そしてアドバイザーとしても、多岐にわたる業務を担います。
特に、資金融資、債権者としての立場、アドバイザリー業務の提供が主な役割となります。
銀行が関わることで、M&Aの資金調達やリスク管理がスムーズに進むため、多くの企業が銀行をパートナーとして選ぶ傾向があります。
買収側への資金融資
M&Aにおいて買収側が銀行から資金融資を受けることは一般的です。
買収の際は、大きな資金の全額を自己資金で賄うことは少なく、銀行からの融資がその主要な手段となります。
銀行は、買収対象企業の価値や買収後の事業計画に基づいて融資の審査を行い、適切な融資額を決定します。
買収側にとって銀行からの融資は、資金繰りを円滑にし、事業の拡大や競争力強化をサポートする重要な要素です。
売り手への債権者
売り手にとって銀行は、重要な債権者としての役割も担います。
特に、売却側が銀行から借り入れをしている場合、M&Aの成立後もその債務は継続されるため、銀行との調整が欠かせません。
債権者としての銀行は、M&Aの過程で売却側の財務状況を確認し、債務返済のリスクを評価します。
また、銀行は債務の再編やリスケジュールを検討し、M&Aが成功するようにサポートすることがあります。
売り手が債務超過や大きな借入がある場合、銀行の協力がなければM&Aが成立しない場合もあります。
そのため、銀行と良好な協力関係を構築してM&Aに取り組むことが求められるでしょう。
銀行としてのアドバイザリー業務の提供
銀行はM&Aの専門的なアドバイザリー業務も提供しています。
銀行の持つ金融知識や市場に関する情報を活用して、買収側や売り手に対して戦略的な助言を行います。
特に都市銀行や一部地方銀行では、以前から企業間のM&Aを円滑に進めるためのサポートを行ってきました。
一方、近年は地域の中小企業の事業承継問題の解決の手法としてM&Aが注目されていることから、ほとんどの地方銀行がアドバイザリー業務を提供しています。
このように、銀行はM&Aにおいて資金提供や債権者としての役割を果たすだけでなく、アドバイザーとしても活躍しています。
企業は銀行をパートナーに選ぶことで、M&Aのプロセスをスムーズに進めることができ、成功の可能性を高めることができます。
M&Aの融資において銀行が重視する点
M&Aにおいて、銀行からの融資は買収側にとって重要な資金調達手段です。
しかし、銀行は融資を行う際に多くのリスクを伴うため、慎重に審査を行います。
銀行が融資を決定する際に重視する主な要素には、借り手の信用力、買収後の事業計画の見通し、買収金額の合理性、そして担保能力が挙げられます。
これらの要素は、銀行にとって融資のリスクを最小限に抑え、確実な返済を見込むための重要な判断基準です。
借り手の信用力
銀行が融資を行う際に最も重視するのは、借り手の信用力です。
これは、買い手企業の財務の健全性や過去の借入履歴、支払い履歴などをもとに判断されます。
信用力が高い企業であれば、銀行にとっても融資のリスクが低いため、比較的スムーズに融資が進むことが期待されます。
逆に、信用力が低い企業に対しては、融資条件が厳しくなったり、場合によっては融資が見送られることもあります。
買収後の事業計画の見通し
銀行は、買収後の事業計画がどのように実行され、成功するかを非常に重視します。
買収後の事業計画が現実的であり、収益を見込めるものでなければ、融資リスクが高くなります。
特に、新たに買収する企業が市場での競争力を維持し、売上や利益を確保できるかどうかが銀行の判断材料となります。
そのため、買収の目的や買収後のシナジー効果といった具体的な成長戦略が示されていることが望まれます。
金額の合理性
買収金額が適切かどうかも、銀行が重視するポイントです。
過大な買収金額は、融資に伴うリスクを高める要因となるため、銀行は買収先企業の価値が適正に評価されているかを慎重に確認します。
特に、買収先企業の財務状況や市場での地位、将来的な収益見込みなどが精査され、合理的な金額設定がなされていることが重要です。
過剰な買収は、企業のキャッシュフローに負担をかける可能性があるため、慎重な判断が求められます。
担保能力
銀行は、融資のリスクを軽減するために担保能力を重視します。
借り手企業が提供できる担保や保証が十分であれば、銀行は融資のリスクを抑えることができ、融資の実行が容易になります。
通常、担保には不動産や株式、その他の資産が含まれますが、これらの価値が融資額をカバーできるかどうかが重要な判断基準となります。
また、担保の価値が変動しない安定した資産であることも、銀行にとっては安心材料となります。
これらの要素を総合的に判断し、銀行はM&Aにおける融資を実行します。
企業にとっては、これらのポイントを事前に準備し、銀行との協議を円滑に進めることがM&A成功の鍵となります。
M&Aにおける債権者としての銀行の役割
M&Aにおいて、銀行は売り手企業に対して債権者としての役割も果たします。
特に、売り手企業が銀行からの借入を抱えている場合、M&Aのプロセスにおいて銀行との調整が不可欠です。
債権者としての銀行は、売り手企業の債務が買収後どのように処理されるか、または再編されるかに大きな影響を与えます。
このため、銀行は売却プロセスにおいて財務状況を慎重に確認し、債務がどのように処理されるかを見極めます。
債権者保護の規定
M&Aにおいて、銀行は債権者として、売り手企業が持つ債務の保護に関する規定に従って行動します。
債権者保護の規定は、買収後に売り手企業の債務が適切に引き継がれることを確保するための法的なフレームワークです。
銀行は、この規定に基づき、売り手企業の財務状況を評価し、買収後の債務の履行可能性を確認します。これにより、銀行は自社の貸し出しリスクを最小限に抑えることができます。
債務超過企業のM&Aにおける役割
売り手企業が債務超過に陥っている場合、銀行の役割はさらに重要になります。
債務超過企業のM&Aでは、銀行は債権者としての立場から、売却プロセスを通じて債務の再編や削減を図るための調整を行います。
銀行は、買収側や売却側と協力し、適切な財務再編計画を立てることで、債務超過からの回復をサポートします。
このプロセスでは、銀行が提供するリスケジュールやデットエクイティスワップ(債務を株式に転換する方法)などの再編手法が活用されることが多いです。
銀行が債権者としてM&Aプロセスに関与することで、売り手企業が抱える債務問題が円滑に処理され、M&Aが成功裏に進められるようサポートが提供されます。
特に債務超過企業の場合、銀行との協議がM&A成功の鍵となるため、売却側は銀行との連携を強化することが重要です。
銀行のM&Aアドバイザリー業務の特徴
銀行は、M&Aにおけるアドバイザリー業務を提供することが多く、その役割は買収側や売却側にとって非常に重要です。
銀行が持つ広範なネットワークや財務知識、業界に対する洞察力は、M&Aプロセス全体を円滑に進めるうえで大きな力となります。
ここでは、銀行のM&Aアドバイザリー業務の主な特徴を解説します。
M&Aの事前相談としての活用できる
銀行のM&Aアドバイザリー業務は、企業がM&Aを検討する初期段階から役立ちます。
企業がM&Aを考える際には、まず市場の状況や買収・売却のメリット・デメリットを把握する必要があります。
銀行はこうした初期段階での事前相談を受け付け、企業の財務状況や業界動向を踏まえた戦略的な助言を提供します。
また、M&A以外の選択肢も保有していることが大きな特徴です。
M&Aによって達成したい目的や現状の課題を伝えれば、M&A以外の方法を使って達成するための有効な手段を提示してもらえるでしょう。
銀行では、本部に企業支援の専門部隊が編成されているため、最適な担当者と相談することができます。
地域内での強力なネットワークを保有
銀行は地域に密着した強力なネットワークを保有しており、特に地方銀行や信用金庫は地元企業との深い関係を築いています。
地域内でのM&A案件においては、銀行が仲介役となり、適切な買収先や売却先を紹介することが可能です。
金融機関の担当者は、中小企業オーナーとの接点が多く、本質的な課題を理解しているため、世の中には出回らない貴重な情報を持っていると考えられます。
地域特有の商習慣や市場状況を深く理解しているため、地元企業にとっては頼りになる存在です。
買収側へのスムーズな資金提供が可能
銀行は、M&Aにおける資金融資をスムーズに行える立場にあります。
特に、アドバイザリー業務を通じて企業の財務状況を十分に把握している場合、買収資金の融資についても迅速な対応が可能です。
M&Aが成功するためには、資金調達が円滑に進むことが重要であり、銀行がこの点で強力な支援を提供できるのは大きなメリットです。
また、銀行は資金提供だけでなく、最適な資金調達方法(例えば、融資や株式発行など)についても助言し、企業のキャッシュフローに負担をかけない形での資金調達を提案します。
銀行のM&Aアドバイザリー業務は、企業がM&Aを成功させるための重要なサポート役として機能します。
特に、地域に強いネットワークを持つ銀行は、地元企業のM&Aを円滑に進めるために貢献しており、スムーズな資金提供や戦略的助言を通じて、企業の成長を後押ししています。
銀行のM&Aアドバイザリーの注意点
銀行のM&Aアドバイザリー業務は非常に役立つ一方で、いくつかの注意点もあります。
銀行をM&Aのアドバイザーとして選ぶ際には、これらの点を理解し、適切に対応することが重要です。
ここでは、銀行アドバイザリー業務に関する注意すべきポイントを解説します。
手数料水準が高い場合がある
銀行のM&Aアドバイザリー業務における手数料は、一般的に高額になることがあります。
特に、都市銀行や大手金融機関が提供するアドバイザリーサービスでは、そのサービス内容や規模に応じて手数料が高額になることが少なくありません。
銀行が提供するサービスは非常に専門的で質が高い反面、手数料水準が他の仲介会社や専門家に比べて高くなる可能性があります。
事前にしっかりと手数料の内容を確認し、予算に見合ったサービスを選ぶことが重要です。
利益相反が起こる可能性がある
銀行がM&Aアドバイザリー業務を行う場合、利益相反が生じる可能性がある点も注意が必要です。
銀行は、買収側と売り手側の双方に関わることがあり、どちらか一方に有利な条件を提示してしまうリスクがあります。
また、銀行が提供する融資とアドバイザリー業務が絡み合うことで、銀行の利益を優先する形で取引が進められる可能性もあります。
こうした利益相反を避けるために、銀行の利益構造や取引の透明性を確認し、必要に応じて他のアドバイザーや専門家の意見を取り入れることが重要です。
日頃の担当者と別の方が担当になる場合がある
銀行のM&Aアドバイザリー業務を利用する際には、普段の取引担当者と異なるアドバイザリーチームが担当になる場合があります。
ほとんどの銀行が営業店ではなく本部の機能としてM&Aアドバイザリー業務を担う部門を設置しているためです。
日頃から取引している担当者がM&A業務に関与していない場合、新たにアサインされた担当者との関係構築が必要です。
場合によっては、銀行内での連携不足により情報の伝達がスムーズに行われないこともあり、アドバイザリー業務が滞る可能性があります。
そのため、事前に担当者が誰になるのか、そしてその担当者が自社の業務や背景をどの程度理解しているかを確認しておくことが重要です。
これらの注意点を理解し、銀行とのコミュニケーションをしっかりと図ることで、M&Aプロセスを円滑に進めることができます。
銀行アドバイザリーのメリットを最大限に活かすためにも、手数料や利益相反のリスクに注意し、適切な選択を行うことが成功の鍵となります。
銀行の他にM&Aの相談ができる先
M&Aを検討する際、銀行以外にもさまざまな相談先があります。
銀行は資金調達やアドバイザリー業務で重要な役割を果たしますが、他の専門機関やサービスを活用することで、M&Aプロセスをより効果的に進めることが可能です。
ここでは、銀行以外のM&A相談先として代表的な4つの選択肢を紹介します。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、企業間のM&Aを専門に仲介する機関です。
仲介会社は、売り手と買い手のマッチングを行い、両者の交渉をサポートします。
M&A仲介会社の強みは、豊富な経験と実績に基づいた専門的な知識を提供できる点です。
また、多くの案件に精通しているため、企業ごとのニーズに合った適切なアプローチを提案することが可能です。
特に中小企業のM&Aにおいては、仲介会社が売り手や買い手を見つけやすくするため、スムーズに取引を進められることがメリットです。
M&Aマッチングサイト
M&Aマッチングサイトは、オンライン上でM&Aの取引相手を見つけることができるプラットフォームです。
企業が自社の情報を登録することで、興味を持った買い手や売り手が直接コンタクトを取れる仕組みになっています。
マッチングサイトの利点は、迅速に取引相手を見つけることができる点と、手数料が比較的低いことです。
また、匿名でのやり取りが可能なため、慎重に進めたい企業にも適しています。
自社である程度の交渉や条件設定ができる場合、マッチングサイトはコストを抑えた効率的な選択肢となります。
信用金庫
信用金庫もM&Aにおける相談先の一つとして利用できます。
信用金庫は地域に密着した金融機関であり、地元企業との強い信頼関係を築いています。
そのため、地域内の企業同士でのM&Aを検討する際には、信用金庫が仲介役を担うことがあります。
信用金庫は、地元企業の経営状況や市場動向に精通しているため、特に地域密着型のM&Aにおいては重要なパートナーとなります。
また、信用金庫は資金調達の面でもサポートを提供し、地域企業の成長を支える役割を果たしています。
顧問税理士
顧問税理士も、M&Aにおける信頼できる相談先です。
税理士は、企業の財務や税務に関する知識を持っており、M&Aの税務面での影響を的確に判断できます。
特に、事業承継や株式譲渡を伴うM&Aでは、税務上の問題が大きな課題となるため、税理士の助言が欠かせません。
また、長年企業の経営に携わってきた税理士であれば、経営者の意向や事業の背景を深く理解しているため、M&Aの全体像を把握した上で適切な助言を提供できる点が大きな強みです。
このように、銀行以外にも多くのM&A相談先が存在します。
それぞれの機関やサービスには独自の強みがあるため、自社のニーズや状況に応じて最適な相談先を選ぶことが重要です。
複数の選択肢を組み合わせて活用することで、M&Aの成功率を高めることができます。
まとめ
銀行はM&Aプロセスにおいて、資金融資、債権者としての役割、そしてアドバイザリー業務といった重要な役割を果たしています。
特に、買収側への資金提供や売却側の財務問題の解決において、銀行の専門知識や強力なネットワークはM&Aを円滑に進めるための大きなサポートとなります。
また、地域に根ざした金融機関として、地元企業同士のM&Aをサポートする銀行も多く、企業が成長するための強力なパートナーです。
しかし、銀行のM&Aアドバイザリー業務には手数料が高い場合や利益相反のリスクがある点にも注意が必要です。
そのため、企業は銀行を選ぶ際には、これらの注意点を理解した上で、最適なパートナーを選定することが重要です。
銀行以外にも、M&A仲介会社やマッチングサイト、信用金庫、顧問税理士といった様々な選択肢があり、企業のニーズに応じた適切な相談先を見つけることが、M&A成功の鍵となります。
株式会社M&Aナビ 代表取締役社長。
大手ソフトウェアベンダー、M&Aナビの前身となるM&A仲介会社を経て2021年2月より現職。後継者不在による黒字廃業ゼロを目指し、全国の金融機関 を中心にM&A支援機関と提携しながら後継者不在問題の解決に取り組む。著書に『中小企業向け 会社を守る事業承継(アルク)』
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